奨学金
奨学金(しょうがくきん)とは、奨学制度に基づき学生を援助するために貸与または給付されるお金、またはその制度[1][2]。
概説編集
貸与または給付の目的として以下があげられるが、一般的には後者を指すことが多い[1]。ここでは後者について記述する。
- 優れた学術研究の援助
- 優秀ではあるが経済的理由で就学困難なものに対して教育機会を保障するため
奨学金には次のようなものがある。
- メリット・ベース(Merit-based):学生の学術、芸術、体育などの評価に基づいて支給。課外活動、コミュニティサービスなども考慮する場合がある[3]。
- ニーズ・ベース(Need-based):学生個人の家庭的状況(たとえば公的扶助受給)に基づいて支給。
- 学生指定型(Student-specific):応募者の性別、人種、宗教、家族構成、保健状態など、学生の個人的状況に基づいて支給(アファーマティブアクション)。
- キャリア指定型(Career-specific);特定の分野・研究領域に進むことを計画している者を対象として、教育機関側が支給。
- 教育機関指定型 (College-specific):教育機関側が、成績優秀な自分の学生に対して支給。
- スポーツ奨学金
日本の奨学金編集
給付奨学金編集
企業や自治体の主宰する奨学金に多い。日本学生支援機構でも少額ながら取り扱いがある。平成16年(2004年)4月からの国立大学法人化に伴い、護送船団でなくなった国立大学でも個別に給付奨学金制度の整備が行われている(例:「一橋大学学業優秀学生奨学金制度」、「金沢大学アカンサス・スカラシップ制度」)ほか、国公立大学では授業料免除枠が大幅増加している。
教育訓練給付制度編集
入学以前に一定期間(原則は3年以上)雇用保険に加入したことのある者が、教育訓練給付制度上の教育訓練として厚生労働大臣の指定を受けた大学院の課程などに所定の要件を満たした上で入学した場合は、入学金や学費の一部を受給できる。さらに、2022年3月31日までの時限措置であるが、受講開始時に45歳未満であるなどの要件を満たす場合、教育訓練支援給付金を受給できる。
貸与奨学金編集
奨学金を無利子ないし低金利を伴う貸与とすることで、給付型の場合に比べて幅広い層を奨学金事業の対象者とすることができる。低利子の奨学金における教育ローンとの違いは、在学期間中の利息と返済開始の有無[注釈 1]、最も利息が低い国の教育ローンの利息[4]の1/5~1/100以下[注釈 2]で借りることが出来る[5]。2017年に日本学生支援機構が発表した大学別の奨学金延滞率平均は1.3%である。大学別延滞率の最高は13.9%の大学で、延滞率5%超の大学が20校ある[注釈 3][6]。逆に「返済力」が強い医療系大学を中心に2017年時点で延滞率0の大学も41校ある[7]。
日本学生支援機構編集
2004年4月1日より、奨学事業、留学生支援事業、学生相談等の事業を統合して行う独立行政法人として、それまでの日本育英会、文部科学省・国立大学の業務の一部、財団法人日本国際教育協会、財団法人内外学生センター、財団法人国際学友会、財団法人関西国際学友会の一部の業務を引き継いで、独立行政法人日本学生支援機構として誕生。奨学事業に関しては利用者の最も多い奨学金制度の一つ。
高等専門学校、専修学校専門課程、大学、大学院(放送大学などの通信制大学・大学院を含む)に在籍する学生に対して、奨学金を貸与する。奨学金には第一種(無利子)、第二種(有利子)などの区分が設けられており、第一種の方が採用基準が厳しく(学力等)、第二種は条件(保護者の年収等)を満たせば採用される。返済が難しい時には、申請することで月々の返済額の減額や、返済猶予を受けることができる[8]。返済猶予は原則最長10年間であるが、災害・病気・生活保護受給中の場合はその状態が継続中は猶予される[9]。また、返済期間中に大学等に在学する場合は、申請することで返還期限が猶予される[10]。
奨学金の滞納者は、1960年代の時点で既に問題視されており、1965年(昭和40年)3月には、初の強制執行による差押が行われた。当時の新聞では、長期滞納者を「札付き」と表現している[11]。 2009年(平成21年)からは、3ヶ月以上の滞納者は全国銀行個人信用情報センターに「多重債務化への移行防止は、教育的観点から極めて有意義[12]」として、信用情報として登録されることとなった[13]。
2015年(平成27年)3月には、日本学生支援機構理事長による見解が、日経ビジネスの取材を介して公開され[14]、さらに、2016年(平成28年)1月には、より詳細なインタビューが東洋経済新報社のウェブサイトで公開された[15]。
返還の免除の規定が以下の内容がある。
1.心身障害による免除
2.第一種奨学金の大学院の優秀者による教授の推薦による免除
3.昔はあったが研究者や教職員の意思がある方へ免除
技能者育成資金制度編集
文部科学省が所管しない職業能力開発総合大学校及び公共職業能力開発施設に在籍する学生や訓練生は日本学生支援機構の奨学金貸与の対象とならない。これに代わるものとして、独立行政法人雇用・能力開発機構が設けていた技能者育成資金制度があったが、2010年度末で終了となった。
2009年4月以前の入校者対象編集
日本学生支援機構の奨学金制度と同様に、第一種(無利子)、第二種(有利子、年3%)の区分がある。第二種の対象者は都道府県立では職業能力開発校の日本版デュアルシステム、職業能力開発短期大学校の専門課程、雇用・能力開発機構立では都道府県センター(職業能力開発促進センターを含む)の日本版デュアルシステム、職業能力開発総合大学校(研究課程及び応用研究課程を除く)、職業能力開発大学校の専門課程及び応用課程、職業能力開発短期大学校の専門課程に在籍する学生及び訓練生である。
第一種の対象者は都道府県立では職業能力開発校(日本版デュアルシステムを除く)、職業能力開発短期大学校、雇用・能力開発機構立では、都道府県センター(職業能力開発促進センターを含む)(日本版デュアルシステムを除く)、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校に在籍する学生及び訓練生である。
融資条件には経済的理由と成績基準があるが、第一種では特に優れた学生及び訓練生が対象となり、第二種では成績基準が緩くなっている。融資月額は、条件に応じて18,200円〜85,000円(第一種)、40,000円〜47,600円(第二種)である。
技能者育成資金の返還期間は最長16年以内である。以前は特定の職業(専修学校、職業能力開発総合大学校の教職員など)に指定された期間以上勤務すれば、返還が猶予及び免除される制度があったが、現在は廃止されている。
2009年4月以降の入校者対象編集
2009年4月の入校生からは、第一種、第二種の区分を廃止し、すべて有利子(年3%、ただし在校中は無利息)の貸付制度になった。対象者は、都道府県立では職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、雇用・能力開発機構立では、都道府県センター(職業能力開発促進センターを含む)、職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校、職業能力開発短期大学校に在籍する学生及び訓練生である。融資月額は、条件に応じて18,200円〜85,000円である。
技能者育成資金制度の拡充編集
技能者育成資金制度による職業訓練期間中の生活保障給付(2009年1月から施行)については、職業訓練期間中の生活保障給付を参照のこと。
技能者育成資金融資制度編集
技能者育成資金制度の終了に伴い、2011年より厚生労働省により創設された。労働金庫から有利子、無担保で一定限度額まで融資を受けることができる。2011年度の融資対象者と要件は、2011年4月時点において、職業能力開発総合大学校又は公共職業能力開発施設に在学し、満18歳以上で施設長の推薦があり、父母の直近1年間の所得が基準額以下であること等である。融資上限額は、普通課程の訓練生は1年あたり260,000円(自宅生)、310,000円(自宅外)、専門課程、応用課程、長期課程の訓練生、学生は500,000円(自宅)、590,000円(自宅外)、研究課程の学生は1,020,000円である。融資利率は年利3%、返済は10年間を限度とする。
あしなが育英会編集
病気や事故、災害、自殺などにより親を亡くした子供に対し、高校、大学、専門学校に通うための奨学金を貸与する。
留学のための奨学金編集
日本国外への留学には多額の費用が必要となることが多く、奨学金を利用する学生も多い。「海外留学奨学金パンフレット」で概要がわかる。給付と貸与とある[16]。
公費による奨学金編集
1964年より大学生を対象とするサンケイスカラシップ(産経新聞社、フジテレビジョンなどが主唱)があったが、1989年に事業は終了された。また、かつてのコンクール・ド・フランセ(朝日新聞社主催)は、2015年現在は財団法人日仏会館主催(後援:朝日新聞社他)の「日仏会館フランス語コンクール」となり、対象は学生に限らないが、応募資格に制限がある。2014年よりトビタテ!留学JAPANがスタートした。
これらの他に、ライオンズクラブ、ロータリークラブ、AFS(高校生対象)などがある。
国費で実施されている奨学金制度編集
特定の目的のために国費によって運営されている奨学金制度である。いずれも管轄省庁の指定する職に一定期間勤務すれば返還免除となる。各省庁が管轄している場合でも、実施機関は都道府県である場合が多いが、以下の制度は国費によって運営されている。いずれも日本学生支援機構の奨学金との重複を認めている。
防衛省による貸費学生制度編集
自衛隊法第98条に基づく制度である。技術貸費学生と衛生貸費学生があり、技術は理・工学系、衛生は医・歯学系の学生を対象としている。採用は例年十数名程度である。
奨学金ではないが防衛医科大学校では卒業後に任官拒否もしくは9年以内に自衛隊を退官する場合は、大学校卒業までの経費(最高5,021万円)を国庫に返還する必要があり、無利子での貸し付けとも捉えられる。
矯正医官修学資金貸与法による修学資金貸与制度編集
法務省所轄の奨学金制度である。医学専攻の学生のうち、卒業後各種矯正施設に勤務しようとする者を対象とする。貸与額は月15万円である。対象は医学部3学年以降で矯正医官として一定期間勤務しなければ返還する必要がある[17]。
地方自治体による奨学金制度編集
都道府県レベルや市町村単位など、その募集内容や奨学金の額、そして、返済の有無など制度内容は千差万別ではあるものの、多くの地方自治体に制度がある。
民間企業による奨学金制度編集
民間企業が独自に実施する奨学金制度。通年募集されているものもあれば、小額を突発的に募集を行うもの、特定の学校限定の奨学制度など多岐に渡る (例: 戸田育英財団奨学金など)。
トヨタ工業学園のように自社の職業能力開発校の学費を無料、社員として給与を支給している例もある。
新聞社による奨学金制度編集
新聞社による新聞奨学生と呼ばれる奨学金貸与/支給制度である。学生は就学期間中販売店で新聞配達に従事する事で奨学金の支給を受ける事ができる。主に都市部の新聞社が実施している。奨学金という名目ではあるが、実質的には労働契約における報酬を奨学金と名称しているだけである。
奨学金とインセンティブ編集
日本においては、偏差値上位の大学にした場合のみ等は全額貸与、中間の大学には在籍時の学業成績に比例して奨学金を貸与、偏差値が低い大学等への進学者には奨学金を出さないといったインセンティブ奨学金にすべしとの意見がある[18]。
アメリカ合衆国の奨学金編集
全米優等生協会編集
全米優等生協会(en:National Honor Society)は、学業成績、指導性、奉仕活動、人物などを選考基準とする奨学金制度を設けている[19]。
全米功労大学奨学金受給試験編集
全米功労大学奨学金受給試験(ナショナル・メリット、en:National Merit Scholarship)では、合格者(finalists)、準資格者(semifinalists)、推奨者(commended students)などが選考され、成績優秀者に奨学金制度を設けている[19]。
フルブライト奨学金編集
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ a b 日本大百科全書(ニッポニカ)「奨学金」
- ^ 大辞林 第三版「奨学金」
- ^ “College Scholarship”. School Grants Guide. 2012年5月28日閲覧。
- ^ 約1.6%
- ^ 奨学金のポイント「奨学金の利息を正しく理解する!」
- ^ 奨学金延滞率ランキング~影響するのは、やっぱり就職だった?
- ^ 奨学金延滞率ゼロ 異彩を放つ仙台白百合女子大の取り組み
- ^ 返還が難しいとき
- ^ 減額返還・返還期限猶予リーフレット
- ^ 在学猶予
- ^ 「札付きに第二弾 二十人を強制執行」『日本経済新聞』昭和40年7月18日 15面
- ^ 日本学生支援機構ホームページ 奨学金 > よくある質問 > 奨学金Q&A~個人信用情報機関>日本学生支援機構が奨学金制度において個人信用情報機関を利用するに至った理由は何ですか[1]
- ^ 「信用情報機関に登録されない(いわゆるブラックリストに登録されない)。」日本弁護士連合会 HOME> 日弁連の活動 > 人権擁護活動 > 震災復興支援 | 原発事故 > 会員向け情報 > 会員向け情報 - 詳細 被災ローン減免制度(個人債務者の私的整理に関するガイドライン)について[2]
- ^ 奨学金理事長「大学にさえ行けばいいなんて、イリュージョン」“学生の借金1兆円”が映すこの国の歪み(上)2015年3月26日(木)[3]
- ^ 「日本は努力次第で上に行ける平等社会だ」学生支援機構トップが奨学金制度批判に苦言 2016年01月28日[4]
- ^ “海外留学のための奨学金”. 海外留学支援サイト. 日本学生支援機構. 2015年11月2日閲覧。
- ^ 医学部生へ - 矯正医官募集サイト
- ^ [5]大学無償化より「インセンティブ奨学金」を
- ^ a b “諸外国の教育評価”. 新興出版社啓林館. 2020年11月29日閲覧。
参考文献編集
- 笠木恵司『学費免除・奨学金で行く大学・大学院進学・休学・留学ガイド―学費ゼロでも大学で勉強できる道』(2007年、ダイヤモンド社) ISBN 9784478970737
- アジア学生文化協会『外国人留学生のための奨学金案内(2005-2006年版)』(2005年、同文舘出版) ISBN 9784495974497