恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い』(きょうりゅう たい ほにゅうるい いちおくごせんまんねんのたたかい)は、2006年7月16日と17日にNHKスペシャル枠で連続放送されたドキュメンタリー番組。全2回。中生代に共存した恐竜ほ乳類の生存競争や進化史を解説する。

恐竜vsほ乳類
ジャンル ドキュメンタリー
ディレクター 植田和貴
ナレーター 高橋美鈴
音楽 佐藤直紀
国・地域 日本
言語 日本語
話数 2
製作
制作統括 高間大介
制作 NHK「恐竜」プロジェクト
放送
放送局NHK
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間2006年7月16日7月17日
放送時間49分(第1回)
73分(第2回)
NHK放送史
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同年9月に『地球大進化〜46億年・人類への旅』第4集の内容を混ぜ込んだハイビジョン版が放送された。放送と時期をあわせて同題の図書やマンガ版が複数出版されており、取材の様子や番組の内容のより細かい説明が掲載されている。また制作に際してテーマ曲やBGMが制作され、それらはオリジナル・サウンドトラックに収録されている。

2010年には本作で扱われたその後の時代を題材とする『恐竜絶滅 ほ乳類の戦い』が同じくNHKスペシャル枠で放送された。

内容 編集

「恐竜」が「ヒト」をデザインした!?

かつて、この地球は巨大な恐竜たちによって支配され、彼らの死闘が絶えず繰り広げられていた。しかし実はこの恐竜時代には、これまで語られることの無かったもう一つの戦いがあった。それは恐竜vsほ乳類。実は哺乳類は恐竜とほぼ同じ時に誕生し、その生存を賭けて恐竜を争ってきたのだ。戦いの歴史は実に1億5千万年。哺乳類は、恐竜との長い戦いの中で生きなければならなかった。

巨大な身体で哺乳類を圧倒する恐竜たち。そんな宿敵を前にした哺乳類が、いったいどうやって恐竜に立ち向かってきたのか。これは恐竜の時代を生き抜いた、私たち哺乳類の物語である。 — 番組冒頭より引用
第1回 巨大恐竜 繁栄のかげで
今から2億2千万前に我々哺乳類は誕生したが、時を同じくして宿命のライバル恐竜も登場していた。それは哺乳類にとって暗黒の時代の訪れを告げるものでありながら、皮肉にも現代の成功には必要不可欠な能力を獲得する原動力にもなっていた事を、両者の進化を紐解きながら追いかけていく[1]
番組では哺乳類が恐竜に脅かされていたことが強調されている。哺乳類は三畳紀からジュラ紀に至るまで矮小なままであった一方、恐竜には全長30メートルを超えるような大型のものが出現していた。恐竜の巨体を可能にしたのは内部に空洞のある含気骨であると考えられ、さらに含気骨の存在は鳥類の持つ呼吸器官である気嚢の存在証拠にもなっている[2]
哺乳類は顎の骨から耳小骨大脳新皮質が進化して聴力とその処理能力が発達したことにより、夜行性へ適応する。また、寿命が短かったことで世代交代のペースも加速し、後の適応放散に繋がることとなる[2]
第2回 迫りくる羽毛恐竜の脅威
恐竜と哺乳類の共存した時代の後半に入ると、羽毛を纏って恒温性を獲得した機敏な恐竜が出現する。一方で哺乳類は胎生を獲得し、恐竜と異なる繁殖戦略を採用する。今の世界へと繋がる大切な命のレースを6500万年前の運命の日まで見届ける[3]
第2回では恐竜を襲っていた可能性のあるレペノマムスが紹介され、陰で恐竜に怯えていた哺乳類という従来のイメージが払拭されたとしている。また、数多くの羽毛恐竜も紹介され、獣脚類恐竜が活発に行動できる内温性を持っていた可能性が指摘される。幼体と成体で役割分担をして狩りを行うという推測もあるティラノサウルスや、胎盤を獲得して胎内で次世代を育てることを選んでいたキモレステス目など、恐竜と哺乳類が次世代との繋がりを強めていたことを説明し、K-Pg境界の後は恐竜の子孫である鳥類と哺乳類が共に多様化・繁栄していったと述べて番組は幕を下ろす[2]

登場した古生物 編集

※各タイトルは書籍版による。またハイビジョン版の生物は『地球大進化〜46億年・人類への旅』の第4集を参照。

なお書籍版ではフィトサウルス類ヴァンクレビアなども紹介されている[4]

出演者 編集

研究者

NHKアーカイブスの情報に基づく[2]

声の出演

展開 編集

放送・配信 編集

2006年6月18日にNHKプレマップ枠で製作開始が告知された[6]。6月27日には『ようこそ“恐竜VSほ乳類”の世界へ』という題で15分の特別番組が放送され、声優の玄田哲章がナレーションを担当した[7]。7月16日・17日に初放送された後、7月30日の深夜帯に第1回と第2回が纏めて再放送された[8]ハイビジョン特集枠での拡張版『大冒険! 恐竜特集』は前編後編各90分に拡大され、8月13日・14日、8月29日・30日、9月3日、12月28日、2007年1月8日・9日に放送された[9]

DVDは2006年8月25日[10]に第1回、第2回、および同梱版がNHKエンタープライズより発売された。特典映像として恐竜CGデータ集と前述の『ようこそ"恐竜VSほ乳類"の世界へ』が収録されている[11]

放送終了後は2020年8月現在もNHKオンデマンドで配信されている[12]。第1回は2008年12月1日から2009年8月31日までのPCでの視聴回数で第35位、NHKスペシャル枠の番組では第13位を記録した。これは『地球大進化〜46億年・人類への旅』第7集に次ぐ記録であった。2008年12月1日から2009年9月30日までのタイトル別PC視聴数では、NHKスペシャル『ドキュメント太平洋戦争』第1集に次ぐ第15位、NHKスペシャル枠の番組では第6位を記録した[13]

書籍 編集

NHK制作局科学環境番組チーフ・プロデューサー高間大介とNHK制作局科学環境番組プロデューサー植田和貴を主軸としたNHK「恐竜」プロジェクトにより、本作の内容の他に取材やCG製作の様子を掲載した書籍版がダイヤモンド社から2つ出版されている。両書籍は北海道大学総合博物館小林快次が監修した[14][15]。また、小林たつよしによるコミック版が小学館から出版されている。こちらにもNHK「恐竜」プロジェクトが編集として携わった。

  • 『恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い』[16]
ダイヤモンド社、2006年7月、ISBN 978-4-478-86054-0
編集:NHK「恐竜」プロジェクト、監修:小林快次
  • 『恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い ビジュアル版』[17]
ダイヤモンド社、2006年8月、ISBN 978-4-478-86053-3
編集:NHK「恐竜」プロジェクト、監修:小林快次
  • 『まんが 死闘!! 恐竜王国 NHKスペシャル 恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い』[18]
小学館、2006年8月、ISBN 4-09-296311-4
著:小林たつよし、編集:NHK「恐竜」プロジェクト

サウンドトラック 編集

佐藤直紀が作曲を担当したオリジナル・サウンドトラックは、2006年7月26日にビクターエンタテインメントからリリースされた[19]

#タイトル作詞作曲・編曲
1.「超克の歴史」  
2.「進化の道〜ほ乳類〜」  
3.「大地の覇者〜恐竜のテーマ〜」  
4.「悠久の舞台〜大地のテーマ〜」  
5.「小さな生命〜ほ乳類のテーマ〜」  
6.「生き抜く為に」  
7.「生命の周期」  
8.「進化の道〜恐竜〜」  
9.「進化の鍵」  
10.「弱者の困難」  
11.「未来の希求〜ほ乳類〜」  
12.「覇者の君臨」  
13.「咆哮」  
14.「未来の希求〜恐竜〜」  
15.「全ての宿命」  
16.「生命の定め」  

恐竜博2006 編集

本作の連動企画として[16]、世界の大恐竜博2006が幕張メッセで2006年7月15日から9月10日まで開催された。この恐竜博では番組で取り上げられたスーパーサウルスが産出したモリソン累層とレペノマムスが産出した熱河層群が特集され、240点以上の標本が展示された。主催には日本経済新聞社日本放送協会(NHK)、NHKプロモーション、日経ナショナルジオグラフィック社が就き、後援には外務省文部科学省および環境省、アメリカ・中国・ポルトガル大使館、関東地方の地方自治体と教育委員会が就いた[20]

評価・問題 編集

本作の主題「恐竜と哺乳類の競争」に関しては複数の証拠・議論がある。例えばロバート・T・バッカーは、両者に競争があった (特に恐竜が哺乳類を抑圧し、結果として哺乳類が夜行性となったこと等) と主張している[21]。化石証拠からも恐竜を捕食した哺乳類の存在や[22]、哺乳類を捕食した恐竜の存在[23][24]、小型獣脚類と捕食活動と哺乳類の自衛手段の進化の関係が示されるなど[25]、ある程度の競争はあったとみる考えが強い。

一方、中生代における哺乳類の抑圧には恐竜や環境だけでなく、哺乳類にごく近縁な(非哺乳類型の)哺乳形類との競争があったとの仮説も提唱されている[26]

劇中での解説は、「可能性がある」など断言を避ける傾向にある。ただし撮影の舞台として草原を使っている点[注 1]は妥当性を欠いている。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 2004年時点では、イネ科草本は白亜紀よりも後の古第三紀暁新世から始新世にかけて出現し、漸新世にかけて数を増していったと花粉の痕跡に基づいて考えられていた[27]。2017年には中華人民共和国甘粛省で産出した基盤的なハドロサウルス上科の恐竜の歯列からイネ科草本の微細な表皮とプラント・オパールが報告され、確認された最古のイネ科草本が前期白亜紀アルビアン(約1億1300万年 - 1億50万年前)まで遡ることになった[28]。しかし、それでもジュラ紀三畳紀まで遡るには至っていない。

出典 編集

  1. ^ NHKスペシャル 恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い 第1回 巨大恐竜 繁栄のかげで”. NHKオンデマンド. NHK. 2020年7月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e 刷新される恐竜像と私たち~21世紀の恐竜番組~”. NHKアーカイブス. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  3. ^ NHKスペシャル 恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い 第1回 巨大恐竜 繁栄のかげで”. NHKオンデマンド. NHK. 2020年7月20日閲覧。
  4. ^ NHK「恐竜」プロジェクト『恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い』小林快次(監修)、ダイヤモンド社、2006年7月13日。ISBN 9784478860540 
  5. ^ NHKスペシャル 恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い”. NHKアーカイブス. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  6. ^ 番組表検索結果”. NHKクロニクル. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  7. ^ 番組表検索結果詳細”. NHKクロニクル. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  8. ^ 番組表検索結果”. NHKクロニクル. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  9. ^ 番組表検索結果”. NHKクロニクル. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  10. ^ 「恐竜VSほ乳類」を含むDVD&Blu-ray”. ORICON NEWS. オリコン. 2020年8月7日閲覧。
  11. ^ NHKスペシャル 恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い DVD-BOX 全2枚”. NHKスクエア. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  12. ^ Nスペ 恐竜VSほ乳類”. NHKオンデマンド. NHK. 2020年8月7日閲覧。
  13. ^ 関本好則 (2009年). “契約面から見たNHKオンデマンドの現状と課題”. 文化庁. pp. 11-12. 2020年8月7日閲覧。
  14. ^ 恐竜VSほ乳類”. ダイヤモンド社. 2020年8月7日閲覧。
  15. ^ 恐竜VSほ乳類”. ダイヤモンド社. 2020年8月7日閲覧。
  16. ^ a b 恐竜VSほ乳類”. ダイヤモンド社. 2020年8月7日閲覧。
  17. ^ 恐竜VSほ乳類”. ダイヤモンド社. 2020年8月7日閲覧。
  18. ^ まんが死闘!!恐竜王国 NHKスペシャル恐竜VSほ乳類1億5千万年の戦い”. honto. 2020年8月7日閲覧。
  19. ^ NHKスペシャル「恐竜VSほ乳類 1億5千万年の戦い」オリジナル・サウンドトラック”. ORICON NEWS. オリコン. 2020年8月7日閲覧。
  20. ^ 世界の大恐竜博2006<終了しました>”. NHKプロモーション. 2020年8月7日閲覧。
  21. ^ Bakker, Robert T. (1971). “Dinosaur Physiology and the Origin of Mammals”. Evolution 25 (4): 636–658. doi:10.2307/2406945. ISSN 0014-3820. https://www.jstor.org/stable/2406945. 
  22. ^ Hu, Yaoming; Meng, Jin; Wang, Yuanqing; Li, Chuankui (2005-01). “Large Mesozoic mammals fed on young dinosaurs” (英語). Nature 433 (7022): 149–152. doi:10.1038/nature03102. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/nature03102. 
  23. ^ Freimuth, William J.; Varricchio, David J.; Brannick, Alexandria L.; Weaver, Lucas N.; Wilson Mantilla, Gregory P. (2021-09). Lautenschlager, Stephan. ed. “Mammal‐bearing gastric pellets potentially attributable to Troodon formosus at the Cretaceous Egg Mountain locality, Two Medicine Formation, Montana, USA” (英語). Palaeontology 64 (5): 699–725. doi:10.1111/pala.12546. ISSN 0031-0239. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pala.12546. 
  24. ^ (英語) Generalist diet of Microraptor zhaoianus included mammals. doi:10.1080/02724634.2022.2144337. https://zenodo.org/records/7477141. 
  25. ^ Were mammals originally venomous? - Acta Palaeontologica Polonica”. www.app.pan.pl. 2023年12月4日閲覧。
  26. ^ Brocklehurst, Neil; Panciroli, Elsa; Benevento, Gemma Louise; Benson, Roger B. J. (2021-07-12). “Mammaliaform extinctions as a driver of the morphological radiation of Cenozoic mammals”. Current Biology 31 (13): 2955–2963.e4. doi:10.1016/j.cub.2021.04.044. ISSN 0960-9822. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982221005911. 
  27. ^ 高橋正道「白亜紀~古第三紀の陸上植物の変遷過程 ―白亜紀に多様化した被子植物群と古第三紀の植物相の地理的分布―」『石油技術協会誌』第70巻第1号、石油技術協会、39-43頁、doi:10.3720/japt.70.37  
  28. ^ “Dinosaur-associated Poaceae epidermis and phytoliths from the Early Cretaceous of China”. National Science Review 5 (5): 721. (2017-12-21). doi:10.1093/nsr/nwx145. https://doi.org/10.1093/nsr/nwx145.  

関連項目 編集