漢検協会事件
漢検協会事件(かんけんきょうかいじけん)は、2009年(平成21年)に京都府京都市で発生した日本漢字能力検定協会を巡る事件である。
私的流用問題
編集2009年(平成21年)2月、日本漢字能力協会設立者で理事長(当時)の大久保昇らが、法人の会計を以下のように不適切かつ私的に利用して問題となる。
- 京都市右京区の宝厳院にある大久保家の墓と同じ区画に、亡くなった幹部のための供養塔を350万円をかけて建立。
- 京都市左京区の6億7,000万円の邸宅[1]を漢字資料館のためと称して購入したが、5年以上も用途を宅地から変更していない。
- 大久保昇理事長および長男である大久保浩副理事長が、それぞれ社長を務めるファミリー企業[2]4社と総額66億円の取引をしていたが、文部科学省への報告をしなかった[3]。
大久保理事長は、同年2月6日の評議員会では「記者の態度が悪い」とマスコミを批判[1]。さらに「色々な記者会見を見てきたが、どれも最後には必ず謝っている。私は謝りたくないので会見はしない」と話した[1]。また、副理事長が好きなプロ野球チームのユニホームに、協会が「漢検」のロゴマークを入れる計画を披露した[1]。
文科省による立ち入り調査
編集2009年2月9日、文部科学省は、協会に対し立ち入り調査を行った[4]。同協会は、内部に調査委員会を設置したが[5]、検査を受けた後も、記者会見をはじめ肉声での説明は一切なく、協会のホームページには「調査に協力する」などのコメントだけが残っている[1]。また、漢検協会の取引先の「日本統計事務センター」がレーシングチーム(SUPER GTのJIM GAINERチーム)へ資金投入していることが判明し、代表の副理事長は協会内の数人にメールで「辞めたい」と漏らしたが、これを聞いた大久保理事長が激怒して止めたこともあったとされている[1]。
国会議員への献金
編集2009年3月2日、ファミリー企業や大久保理事長、副理事長から、京都府内の自民・民主の国会議員5人[6]の後援会や関連団体などに計942万円の献金が行われていたことが赤旗の報道により発覚[7]。また、大久保浩副理事長が文科省に「国の指定機関にしてほしい」と要望に訪れた際、民主党の福山哲郎議員が同席していた事も明らかになった[8]。
指導監督基準違反
編集同協会はこれ以前にも、1999年から2007年までに、指導監督基準違反があるとして、文部科学省から13回の指導を以下のように受けていた。
ファミリー企業の実態
編集内部調査委員会の報告によると、ファミリー企業4社の実態は以下のようなもので、これまでの17年間で総額250億円にも及ぶ業務委託は、協会の利益を不当に流出させているといわれても仕方のないものであった[10][11]。
- 株式会社オーク[12][13]
- 1971年に大久保昇理事長が代表として設立した会社。協会からは書籍等製作を受託していたほか、協会に対し所有するビルを賃貸している。同社の売り上げ(2007年度は約12億1300万円)のうち、約78%が協会との取引によるものであった。しかも、書籍製作は、協会の職員が実質的に行っていた。
- 株式会社日本統計事務センター
- 旧商号は株式会社オーク・フード[14]。副理事長が代表者であった。協会からは、システム開発と採点業務を受託。同社の売り上げ(2007年度は約13億8100万円)のうち、約82%が協会との取引によるものであった。
- 株式会社メディアボックス
- 旧商号は株式会社大久保商事。大久保理事長が代表者であった。協会からは、広報・広告の企画・製作を受託。同社の売り上げ(2007年度は約3億2300万円)は、ほぼ100%が協会との取引によるものであった。しかも、協会から委託された業務のうち、機関誌編集・印刷や広告印刷など業務は第三者に再委託し、他の広報企画・進行管理業務は大久保理事長と副理事長自身が担当していたので、同社に委託させる意味はほとんどなかった。さらに、業務を担当している従業員は2人だけであった。
- 株式会社文章工学研究所
- オークが全株式を保有する子会社。大久保理事長が代表者であった。協会からは、調査研究支援業務を受託。同社の売り上げ(2007年度は約700万円)のうち、約83%が協会との取引によるものであった。しかも、従業員は1人だけであった。
新たな問題発覚
編集改善報告書提出の際の記者会見で、大久保理事長は、私的流用はない旨を明言したが、1週間も経たずに、下記の私的流用の疑いがマスメディアで報道された[15][16]。
- 協会名義の法人クレジットカード を、大久保理事長が、個人的な飲食費や交遊費の支払に使用していた。協会のファミリー企業であり、自身が代表者を務める株式会社オークに弁済させ、大久保個人への貸付金として処理した。2008年12月時点で、オークの大久保への貸付金は、4億8,000万円にのぼる。
- 2007年9月、大久保が理事長の職に在任中で、かつ退任の意向がないにもかかわらず、理事会や評議員会の承認を経ることなく、退職金名義で約5,300万円を受け取っていた。これは、2008年6月から2009年1月に返還されている。
- 大久保の自宅警備費を、2002年11月9日から2009年4月15日(退任日)まで協会に負担させた。
- 更に大久保の娘を親族企業「文章工学研究所」の役員にあてがい、勤務実態が無いのにもかかわらず、年間約600万の役員報酬を不正に受け取っていた。漢字能力検定協会は、2006年(平成18年)4月から2008年(平成20年)12月末の間に、同研究所に調査研究費1,500万円を支払っており、これを着服し個人的な収入にし、遊興費に使っていた(2009年5月25日)。
大久保側との紛争
編集上記の経緯より、協会は大久保との間で、以下の紛争を抱えている。
刑事訴追・裁判
編集- 2009年6月に京都地方検察庁は、広告の発注に際してメディアボックスが仲介したように偽装した2億5,980万円の損害、および文章工学研究所への架空の業務委託で2,700万円の損害を、日本漢字能力検定協会に与えたとして、大久保と前副理事長の両名を、背任罪で京都地方裁判所に起訴した[22][23]。
- 2012年(平成24年)2月29日、京都地方裁判所は大久保と前副理事長の両名に、懲役2年6月の実刑判決を言い渡した[24]。2014年(平成26年)12月9日、最高裁判所で実刑判決が確定した[25]。
- 2015年(平成27年)8月、大久保昇元理事長と浩元副理事長は収監された[26]。昇元理事長はアルツハイマーの症状が進行していたという。
- 2022年(令和4年)現在、両名とも出所している。出所後大久保浩元副理事長は会社役員を務めていたが、2022年8月18日、兵庫県西宮市西宮浜にある新西宮ヨットハーバーの海中に沈んでいるところを発見され、その場で死亡が確認された[27]。58歳歿。
脚注
編集
- ^ a b c d e f 漢字検定協会:理事長「謝るのいや」 会見なく1カ月 毎日新聞 2009年3月9日 閲覧(記事はWeb魚拓)
- ^ * 株式会社オーク
- ^ 漢検協会、ファミリー企業に66億円業務委託 3年間で asahi.com 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ]、
漢検協会:広告取引、文科省に報告せず 理事長の関連会社分 毎日jp 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ] - ^ 漢検協会に立ち入り調査開始 文科省「利益水準大きすぎる」 NIKKEI NET 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ]、
受検者急増、清水寺で「今年の漢字」…成長の影で“専制”進む YOMIURI ONLINE 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ]、
もうけすぎ公益法人、漢検協会を文科省が立ち入り調査へ MSN産経ニュース 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ]、
漢検協会理事長系4社に66億円 業務委託名目で支出 47NEWS 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ] - ^ 調査委員会を設置=漢検協会 時事ドットコム 2009年2月9日(同日閲覧)[リンク切れ]
- ^ [1] 自民党は伊吹文明と谷垣禎一、民主党は前原誠司と福山哲郎と松井孝治
- ^ 漢検フアミリー 自・民に献金 しんぶん赤旗 2009年3月2日
- ^ [2] 漢検フアミリー自・民に献金 谷垣氏100万 福山氏670万 前原氏122万 松井氏50万 ボロもうけ 受検料原資
- ^ 文科省が漢検協に指導、9年で13件…検定料値下げなど 読売新聞 2009年2月8日[リンク切れ]
- ^ 漢検協の関連4社、売上高の8割から全額を協会に依存 YOMIURI ONLINE・2009年4月14日[リンク切れ]
- ^ 漢検協会に「抜本改善」求める 文科省 MSN産経ニュース・2009年3月10日[リンク切れ]
- ^ 株式会社オークの企業概要(京都市西京区川島有栖川町、法人番号:1130001007939)
- ^ “会社案内 | 大久保アリサ Official Website”. www.okubo-arisa.com. 2023年3月19日閲覧。
- ^ * オークフード
- ^ 漢検協、前理事長がクレジットカードを私的使用 Yomiuri Online・2009年4月19日[リンク切れ]
- ^ 漢検協会:前理事長在職時に5300万円退職金 全額返却 毎日.jp・2009年4月21日[リンク切れ]
- ^ 前理事長側が争う姿勢 漢検協会の損害賠償訴訟 京都地裁 MSN産経ニュース・2009年11月27日[リンク切れ]
- ^ “漢検背任、元理事長らに24億円賠償命令 京都地裁判決”. 日本経済新聞. (2017年1月13日) 2023年5月22日閲覧。
- ^ “漢検不正取引訴訟、解決金3億6千万円、元理事長側と協会が高裁で和解”. THE SANKEI NEWS. (2018年5月14日) 2020年8月13日閲覧。
- ^ 漢検、問題集などの著作権確認求め提訴 大阪地裁 MSN産経ニュース・2009年12月4日[リンク切れ]
- ^ a b 漢検本部ビルの賃貸借契約を解除 前理事長側が賃料不払いを理由に MSN産経ニュース・2009年12月8日[リンク切れ]
- ^ “漢検前理事長父子を起訴 京都地検、背任容疑で9日再逮捕”. 共同通信. (2009年6月8日) 2012年3月1日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “漢検前正副理事長を追起訴 京都地検2700万円背任罪、捜査終結”. 京都新聞. (2009年6月29日) 2012年3月1日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “漢検元理事長らに実刑 背任事件で京都地裁”. 共同通信. (2012年2月29日). オリジナルの2014年12月11日時点におけるアーカイブ。 2021年9月17日閲覧。
- ^ “元漢検理事長らの実刑確定へ 架空取引で協会に損害与えた背任罪”. 産経新聞. (2014年12月11日). オリジナルの2014年12月15日時点におけるアーカイブ。 2021年9月17日閲覧。
- ^ “漢字検定で背任罪の大久保浩被告が収監前に本紙に明かした本音”. 東京スポーツ(東スポWEB). (2015年8月7日) 2023年5月22日閲覧。
- ^ “漢検元副理事長が死亡、兵庫の海中で”. 産経新聞. (2022年8月19日) 2023年5月22日閲覧。