カニ
カニ(蟹)は、十脚目短尾下目(たんびかもく、Brachyura、別名:カニ下目)に属する甲殻類の総称。世界中の海、淡水、陸上に生息する。腹部は短く、通常は胸部の下に隠れている。体は厚い外骨格で覆われている。5対の胸脚を持ち、第一脚はハサミとなっている。約1.8億年前のジュラ紀に初めて出現した。
カニ | |||||||||||||||||||||
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![]() 様々な種類のカニ[注 1]
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Brachyura Linnaeus, 1758 | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
カニ(蟹) | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Crab | |||||||||||||||||||||
群 | |||||||||||||||||||||
概要
編集熱帯から極地まで、世界中の海に様々な種類が生息し、一部は沿岸域の陸上や淡水域にも生息する。主に熱帯域に多くの種が分布しており、淡水ガニは1300種ほどが知られている[2]。成体の大きさは数mmしかないものから、脚の両端まで3mを超すタカアシガニまで変化に富む[3]。
箱形にまとまった頭胸部に5対の歩脚(胸脚)があり、このうち最も前端の1対が鉗脚(かんきゃく:はさみ)となる。触角は2対あるが、どちらもごく短い。腹部は筋肉が発達せず、頭胸部の腹面に折り畳まれる。ただしそれぞれ例外もある。
甲殻類にはカニ下目以外にも同様の体制を持つ種がいる。例えば、異尾下目のタラバガニ科やカニダマシ科、ヤシガニはカニ下目によく似ている。これは収斂進化によるものと考えられ、カーシニゼーションと呼ばれている[4][5][6][7]。これらの種はカニ下目ではないにもかかわらず「〜カニ」という名前がつけられていることがある。また、タラバガニやヤシガニは水産業や飲食業においては、カニ下目と合わせて「カニ」として扱われる[8][9]。
特徴
編集大部分が頭胸部からなる体は、背面全体が堅いキチン質の頭胸甲(甲羅)で覆われている[10][11]。頭胸甲の前縁から一対の柄の付いた複眼が突き出し、通常はすぐ外側の溝(眼窩)に倒して収納できる。触角は2対あるがいずれも短い。第一触角は前に突き出して上に折れ、先端は小さく二叉する。第二触角は単純な毛髪状である。口部は第三顎脚が扉のように変化して大顎をはじめとした口の諸器官を覆うが、ベンケイガニ科やモクズガニ科の一部等では第三顎脚が小さく、大顎が露出する[8][9][12][13]。
5対10本の胸脚の内、第1歩脚は鉗脚(はさみ)に変化していて、餌を掴んだり敵を威嚇したりするのに用いる。雄では片方の鋏が巨大化する傾向にあり[14]、特にシオマネキ類では顕著である。大きな鋏は求愛行動のみに使い、採食にはもう片方の小さな鋏を用いる[15]。他4対の胸脚は鉗脚ではなく、歩くための「歩脚」となる。ただし例外もあり、ムツアシガニ科は名の通り歩脚が3対6本しかない。カイカムリやヘイケガニ等では第5脚あるいは第4・第5脚が小さな鉗脚、あるいは鉤状に変化し、これで海綿や貝殻を背負って身を隠す。ワタリガニ科では第5脚、キンセンガニ科では4対の脚全てが鰭状に変化している為、歩きより泳ぎの方が得意である[8][9][13][16][17]:96。このような鰭状の遊泳に向く脚を遊泳脚と呼ぶ[18][19]。
エビやヤドカリと異なり、腹部の筋肉は発達せず、尾部先端の尾扇も無い。腹部はアサヒガニ等一部の分類群を除いて、頭胸甲の下側に折り畳まれる。その形状から俗に「ふんどし」とも呼ばれる。オスの腹部は幅が狭く、1対の交尾器があるが、メスの腹部は抱卵する為に幅が広く、卵を保持する為の腹脚が発達する[8][9][20]。
食用のカニは茹でると殻が赤くなるものが多い。これは、甲羅の中で通常蛋白質と結び付いているアスタキサンチンという色素が、加熱により蛋白質と分離するからである。
生態と行動
編集多くのカニが横方向に歩き、カニの特徴として広く知られている[21]。脚の関節構造により、横歩きが効率的となっている[22]。一部のカニは前や後ろに歩き、アサヒガニ科[23]、Libinia emarginata[24]、Mictyris platycheles[21]などが知られている。またミナミコメツキガニは前歩き、カラッパ科のカニは後ろ歩きをする。クモガニ科とコブシガニ科のカニは七個の節からできている脚の各節が管状で、前後左右へ自由自在に動くことができる[25]。
雄は雌を巡って争うこともある[26]。岩の多い海岸では、ほとんどの洞窟や割れ目が占有されており、隠れ場所を巡って戦うこともある[27]。シオマネキ類は砂や泥の中に巣穴を掘り、休息、繁殖、防御に使用する[17]:28–29, 99。
雑食性であり、主に藻類を食べるが[28]、軟体動物、虫、その他の甲殻類、菌類、細菌、デトリタスなど、様々な獲物を捕食する。植物と動物を合わせて食べることで、最も成長が早まり、適応度も高まる場合が多い[29][30]。一部の種は、プランクトン、貝類、魚類をベースに、より特化した食性を持つ[17]:85。家族に食料や保護を提供するために協力し、交尾期には雌が卵を産むために快適な場所を探すことが知られている[31]。
呼吸は頭胸甲の両側にある鰓で行うため、生存には水が不可欠である。水揚げされ、水分が不足したカニは鰓から泡を吹く。これは水分が蒸発したり鰓の粘膜成分が混じることで、鰓の上の水分に粘着性が出るためである。陸生種もたまに水分を補給する必要があるが、長時間の乾燥に耐えうるので泡を吹くことは少ない。
繁殖と成長
編集フェロモン、視覚、聴覚、振動によって雌を引き付ける。完全水生のカニはフェロモンを使用するが、陸生および半陸生のカニは、大きなハサミを振るシオマネキの雄など、視覚的な信号を使用することがある。多くの種は体内受精を行い、腹を合わせて交尾する。多くの水生の種では、雌が脱皮した直後でまだ殻が柔らかいときに交尾が行われる。雌は卵を受精させる前に、精子を長期間貯蔵することができる。受精が行われると、受精卵は雌の腹部に放出され、粘着性のある物質で固定される。卵は雌の腹部で保護されながら発生が進む。
発育が完了すると、雌は孵化したばかりの幼生を水中に放出し、幼生はプランクトンとなる。放出は潮汐や日周に合わせて行われることが多い[32][33]。陸上生活に適応したアカテガニやオカガニ類であっても、初夏の新月の夜など特定の時期に一斉に海岸に集まり、水中で幼生を放出し、再び内陸へと戻ってゆく行動が見られる。ただしサワガニなどは幼生期を卵の中で過ごす為、一生を淡水中で過ごす[8][9]。ゾエア幼生は浮遊しながら自由に移動し、水流を利用することができる。幼生には棘があり、天敵からの捕食率を低下させている。ほとんどの種のゾエアは餌を見つけなければならないが、卵の中に十分な卵黄を持っている種もおり、幼生段階ではその卵黄だけで生き続けることができる。
ゾエア幼生は複数回の脱皮を経て、腹部が後ろに突き出ていることを除いて成体のカニに似たメガロパ幼生になる。さらに1回脱皮すると稚ガニとなり、底で生活するようになる。メガロパから稚ガニへの脱皮は重要であり、稚ガニの生存に適した生息地で行われる[17]:63–77。
ほとんどの陸生ガニは、幼生を放出するために海まで移動する必要がある。場合によっては、非常に広範囲にわたる移動を伴う。幼生として海で短期間生活した後、陸上に移動する。多くの熱帯地域では、海へ移動中のカニが轢死することがよくある[17]:113–114。例えばクリスマスアカガニは11月ごろに海へ向かって大移動をする。
稚ガニは成熟するまで何度も脱皮を繰り返す。硬い外骨格で覆われているため、成長するためには脱皮が不可欠である。脱皮周期はホルモンによって調整されている。脱皮の準備として、古い殻は柔らかくなり、部分的に侵食され、その下で新しい殻の基礎的な部分が形成される。脱皮の際、カニは大量の水を吸い込んで膨張し、甲羅の後端に沿った弱い線から古い殻を割る。次に脚、口器、眼柄、消化管の前後の内壁を含むすべての部分を古い殻から引き抜かなければならない。これには何時間もかかり、失敗すると死んでしまう。脱皮殻から抜け出したカニは非常に柔らかく、新しい殻が固まるまで隠れている。新しい殻がまだ柔らかいうちに、成長のために殻を広げる[17]:78–79。
生息環境
編集淡水・汽水・沿岸域から深海や洞窟まで、様々な水域に色々なカニが生息する。陸上、純淡水に生息する種は少なく、汽水域、海岸線から海中に大部分が集中する。マングローブ林では木に登っているものもある。干潟では小動物として数が多く、もっともよく目立つものである。巣穴を深く掘るものが多く、底質の構造に大きな影響を持ち、水鳥の餌としても重要である[8][9][12][13]。河川に生息するカニでは、海へと下る種もいる[34]。
他の動物の体を生息場所にするものもあり、サンゴやウニ、ウミシダなどに生息するものも知られるが、寄生か共生かは判別し難い。カキやアサリなど貝類の体内に生息する物もおり、それらを使った料理から出てくることもある[8][9]。
進化と系統
編集最も古いカニの化石はジュラ紀前期のもので、イギリスのプリンスバッキアンの地層から得られたエオカルシヌスである。これは現代のカニを特徴付けるいくつかの重要な形態学的特徴を欠いているため、ステムグループである[35][36]。ジュラ紀のカニの化石は背甲のみが得られている場合が多く、系統的な関係を決定することは困難である[37]。ジュラ紀後期にはサンゴ礁の増加によって拡散したが、ジュラ紀末にはサンゴ礁の衰退の結果減少した。白亜紀を通じて多様性を増し、白亜紀末までに十脚類の支配的なグループとなった[38]。
短尾下目は歩行類に属し、歩行・匍匐性の十脚類から構成される。短尾下目はヤドカリ下目の姉妹群である。以下の系統図は、Wolfe et al.(2019)の分析による、十脚目内での短尾下目の位置を示している[39]。
十脚目 |
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いくつかの群に分かれており、基部系統であるカイカムリ群は後期三畳紀または前期ジュラ紀に分岐した。ジュラ紀にはアサヒガニ群とマメヘイケガニ群が分岐した。真短尾群は白亜紀にヘテロトレマータ亜群とトラコトレマータ亜群に分かれた。短尾下目内の大まかな内部系統の概要は、以下の系統図に示される[39][40]。
短尾下目 |
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上科や科の分類については議論がある。以下の系統樹は、Tsang et al. (2014)による[40]。
短尾下目 |
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分類
編集98科に約7,000種が含まれており[16][40]、十脚類の残りの種と同数である[41]。進化の過程で体は頑丈になり、腹部が縮小している。他の多くのグループも同様の過程を経ているが、カニでは最も進んでいる。尾節は機能せず、尾肢は存在しない。縮小した腹部を腹板に固定するための小さな装置に進化したと考えられる。
ほとんどの十脚類では、生殖孔は関節肢にある。カニは精子の輸送に腹肢を使用するため、雄の腹部がよりスリムな形に進化するにつれて、生殖孔は腹板に移動した[42]。同様の変化が雌の生殖孔にも起こった。真短尾群では雌の生殖孔が腹板に移動しており、トラコトレマータ亜群では雄も同様の位置にある。雌のみが腹板に生殖孔を持つ分類群の単系統性については議論がある[41]。
下位分類
編集分類と種数は主にDe Grave et al.(2009)を参考にした[43]。和名は佐々木(2023)を参考[44]。
- †Callichimaeroida
- カイカムリ群 Dromiacea - 現生240種、化石1265種
- アサヒガニ群 Raninoida - 現生39種、化石196種
- マメヘイケガニ群 Cyclodorippoida - 現生89種、化石27種
- 真短尾群 Eubrachyura - 現生6191種、化石125種
- ヘテロトレマータ亜群 Heterotremata - 現生5066種、化石1209種
- メンコヒシガニ上科 Aethroidea
- Bellioidea
- ユノハナガニ上科 Bythograeoidea
- カラッパ上科 Calappoidea
- イチョウガニ上科 Cancroidea
- アカモンガニ上科 Carpilioidea
- クリガニ上科 Cheiragonoidea
- †Componocancroidea
- ヒゲガニ上科 Corystoidea
- カノコオウギガニ上科 Dairoidea
- ヘイケガニ上科 Dorippoidea
- イワオウギガニ上科 Eriphioidea
- Gecarcinucoidea
- エンコウガニ上科 Goneplacoidea
- ムツアシガニ上科 Hexapodoidea
- コブシガニ上科 Leucosioidea
- クモガニ上科 Majoidea
- Orithyioidea
- イトアシガニ上科 Palicoidea
- ヒシガニ上科 Parthenopoidea
- ケブカガニ上科 Pilumnoidea
- ワタリガニ上科 Portunoidea
- サワガニ上科 Potamoidea
- Pseudothelphusoidea
- ヒメイソオウギガニ上科 Pseudozioidea
- ユウレイガニ上科 Retroplumoidea
- サンゴガニ上科 Trapezioidea
- ツノクリガニ上科 Trichodactyloidea
- オウギガニ上科 Xanthoidea
- トラコトレマータ亜群 Thoracotremata - 現生1125種、化石55種
- サンゴヤドリガニ上科 Cryptochiroidea
- イワガニ上科 Grapsoidea
- スナガニ上科 Ocypodoidea
- カクレガニ上科 Pinnotheroidea
- ヘテロトレマータ亜群 Heterotremata - 現生5066種、化石1209種
- 亜群未定 - 現生0種、化石1種
最近の研究では、以下の上科と科は単系統群ではなく、側系統群または多系統群であることが判明した[40][39][46][47]。
- イワガニ上科 - 多系統
- スナガニ上科 - 多系統
- カラッパ上科 - 多系統
- イワオウギガニ上科 - 多系統
- エンコウガニ上科 - 多系統
- Gecarcinucoideaはサワガニ上科に含まれる
- モガニ科、Mithracidae、ケアシガニ科は互いに側系統
- トゲカイカムリ科はカイカムリ科に含まれる可能性がある
- ミズヒキガニ科はホモラ科に含まれる
- Panopeidaeはオウギガニ科に含まれる
人間との関わり
編集漁業
編集カニは世界中で捕獲、養殖、消費される海洋甲殻類全体の20%を占め、その量は年間150万トンに達する。そのうちの5分の1をガザミが占めている。その他にもタイワンガザミ、ズワイガニ属、アオガニ、イシガニ属、ヨーロッパイチョウガニ、アメリカイチョウガニ、アミメノコギリガザミなどは商業的に重要な種であり、年間2万トン以上生産されている[48]。種類によっては再生するハサミのみを採取し、生きたまま水に戻す場合もある[49][50][51]。
利用
編集ズワイガニ、ケガニ、ガザミ等、多くの種類が食用に漁獲される。肉の他、カニミソ(中腸腺などの内蔵)が食べられる。
料理法はしゃぶしゃぶ、刺身、焼き物、カニ汁、鍋料理等多様である。鍋料理や刺し身では料理の主な食材として扱われる他、ほぐした身をサラダ、チャーハン等の具材にもする。
身をほぐさずに殻に入ったままの状態や、半むき身(ハーフポーション)の状態で供されることがある。殻を割るためクラブクラッカー[注 2]や、身を取り出すためのカニスプーン・カニフォーク[注 3]などの専用の道具がある。
流通形態には、生のほか、冷凍品(まるごとのもの、脚、爪など部位を分けたものなど)、缶詰などがある。缶詰ではカニ肉の変色を防ぐため肉を硫酸紙に包んで缶詰にする[54]。また、雑炊や出汁・濃縮スープなどの加工食品としても流通する。
中国では上海蟹が珍重される。上海蟹は生きたまま藁で足を縛って流通する。「九雌十雄」という俚諺があり、旧暦の9月はメスの上海蟹(チュウゴクモクズガニ)が、10月はオスの上海蟹が美味とされる。これは産卵時期が近づき、ミソや肉が蓄えられるためである。同時期には、日本のモクズガニも漁の時期となる。
カニカマはカニ肉の代用品である。
食用以外にもカニやエビの殻からはキチン、キトサン、グルコサミンなどが製造される。
民間療法ではカニを潰した血液が漆などの「かぶれ」に効くとされるが、医学的には証明されていない。
また、観賞用に飼育されることがある。
食品としての害
編集- 食物アレルギーを起こしやすい食品とされる。日本では「食品衛生法第十九条第一項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令 別表第四」により特定原材料に指定されており、食品衛生法第19条の適用を受けるため、カニを原材料として含む製品を販売する場合にはカニを原材料に使用している旨を表示する義務がある。エビも同様に特定原材料に指定されている[55]。
- スベスベマンジュウガニなど、毒を持つカニもいる。
- 人の寄生虫の中間宿主となるものがる。日本では淡水産のカニを十分な加熱処理をせず食べると肺臓ジストマに感染するおそれがある。
- 食い合せとして、飲用水と交互に食すと軽い腹痛を起こしやすいとされている。
文化
編集- 癌のことを英語で cancer と言うが、この呼び名は腫瘍とその周辺の血管その他の組織が作り出す形状がカニに似る事からラテン語の「カニ」から引用されて付けられた。潰瘍を意味する canker も同源だが、ギリシャ語の karkinos(カニ)と共に、これらの語はサンスクリット語 karkataḥ(カニ)などと同じく、古い印欧語起源の言葉であるとされる。
- 西洋星座の名称はラテン語なので、黄道星座の一つである「かに座」も Cancer である。「かに星雲」は潰れたカニの様に見えるという理由からこの名が付いたが、かに星雲があるのはかに座ではなくおうし座である[56]。
- カニと言えば横歩きが有名なので、横に進むものに「カニ」の名が付けられる場合がある。
- フランシスコ・ザビエルには、インドネシア諸島アンボイナから舟でモルッカ諸島セラム島を目指す途中海に落とした十字架をカニが拾い届けてくれた、舟底に空いた穴をカニが塞いでくれた、カニの背中に十字架が刻まれる様になった、という逸話が有る。これに因み、フランシスコ・ザビエルの日傘や鹿児島カテドラル・ザビエル記念聖堂の鐘には十字架を持ったカニが描かれている。
- 2019年、イギリス労働党は、動物愛護の観点から公約の一つに「カニを生きたままゆでる調理法の禁止」を掲げた[57]。
慣用句
編集- 蟹の念仏
- 蟹の念仏(かにのねんぶつ) 蟹が口の中でぶつぶつ泡を立てるように、くどくどと呟(つぶや)く様子。
- 蟹は甲羅に似せて穴を掘る
- 蟹は自分の甲羅の大きさに合わせて穴を掘るものだということから、人は自分の力量や身分に応じた言動をするものだということ。また、人はそれ相応の願望を持つものだ。
- 蟹の爪がもがれたよう
- 爪はカニにとって武器であり、餌を採る大切な手だが、それをもがれたという状態から、頼りを失い呆然自失の様をいう。
- うろたえる蟹穴に入らず
- 穴もぐりの名人といわれるカニも、慌てふためくと、自分の穴がどこにあるのかわからなくなる。という意で、冷静に物事に対処しないと、適切な判断や行動が出来ず失敗するという意。→パニック
- 蟹の穴入り
- カニが慌てて穴に逃げ込む様子から、慌てふためく状態をいう。
- 蟹の死にばさみ
- カニがいったん物を挟むと、爪がもげても放さないことから、欲深さや執念の深さを例えていう。
- 後這う蟹が餅を拾う
- いつも「鵜の目鷹の目」でせかせかしていなくても、思わぬ幸運に行き当たることもある。という意で、人の運、不運を例える。
- 蟹の横這い
- 単に横に移動するという意味にも使うが、貴人に顔を向けたままで横に移動する様子をその様に言う場合もある。この言葉が諺として使われる時は「人目には奇妙に見えても、自分には適したやり方」と「物事が奇妙に横にずれていくこと」という二通りの意味がある。
- 登山では、断崖絶壁の中腹にあって足を交互に出せないほど細いルートをこのように呼ぶことがある(例:剱岳)
脚注
編集注釈
編集- ^ 左上から右下に向かってDromia personata、アメリカイチョウガニ、タスマニアオオガニ、Corystes cassivelaunus、Polybius vernalis、アカモンガニ、Gecarcinus quadratus、ガラパゴスベニイワガニ、ツノメガニ
- ^ やっとこ型くるみ割りに似た道具。
- ^ 俗に正式名称は「蟹甲殻類大腿部歩脚身取出器具」と紹介されることがある[52]が、根拠に乏しい[53]。
出典
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関連項目
編集外部リンク
編集- カニ化石の世界 ‐ 瑞浪市化石博物館 第71回特別展資料。