ケイ酸塩鉱物
ケイ酸塩鉱物(けいさんえんこうぶつ、英:Silicate minerals)はケイ酸塩で構成された造岩鉱物の総称である。鉱物の中で最大かつ最も重要なグループで、地球の地殻の約90%を占めている[1][2][3]。
鉱物学では、シリカ(二酸化ケイ素、SiO
2)もケイ酸塩鉱物と見なされる。シリカは自然界において鉱物の石英やその多形として存在している。
地球上では、数十億年間にわたり地殻が形成・再活動をしてきた過程の結果、多種多様なケイ酸塩鉱物が幅広い範囲と組み合わせで形成されてきた。こうした過程には部分融解、結晶化、変成作用、風化、続成作用などが含まれる。

このサイクルには生物も貢献しており、珪藻と呼ばれるプランクトンは自らの外骨格を海水から抽出したシリカから作っている。この珪藻が死んだ後の殻は、深海堆積物・珪藻土の主成分となっている[4]。
一般構造編集
ケイ酸塩鉱物は一般的に、化学式[SiO2+n]2n-のサブユニットからなる無機化合物である。このように記述されているものの、陰イオンとしてのケイ酸塩イオンの記述は簡略化されている。ケイ酸塩アニオンの負の電荷とバランスをとっているのは、金属の陽イオンMx+である。こうしたカチオンの例としてMg2+やFe2+、Na+などがある。ケイ酸塩と金属間のSi-O-Mの結合は極性を持つ強力な共有結合である。ケイ酸塩アニオン[SiO2+n]2n-は無色透明で、細かく砕いた粉末にしても白色である。ケイ酸塩鉱物の色は、ケイ酸塩ではなく鉄などの金属に由来する[5]。
ほとんどのケイ酸塩鉱物でケイ素は四面体構造をとり、4個の酸素原子に囲まれている。酸素の配位数は、酸素が2つのケイ素中心の橋渡し役になるときに配位数が2で固定される以外は自在に変化する[6]。
ケイ素中心の中には、四隅を酸素原子と結合したままで他元素の原子に置き換わっている場合もある。四価ではない原子に置き換わった場合はアニオンはさらに負の電荷をもつため、相殺するためのカチオンを追加で要する。例えば、正長石[KAlSi3O8]nの場合、酸素と共有結合をとる四面体の3次元ネットワークからなるアニオンを持つ。もし四面体がすべてケイ素中心を持っていれば、アニオンは中性ケイ酸塩[SiO2]nとなる。4個に1個の割合でケイ素がアルミニウムに置き換わった場合は[AlSi3O−
8]nのアニオンができ、カリウムのカチオンK+によって中性化される[7]。
主要グループ編集
鉱物学において、ケイ酸塩鉱物はそのケイ酸塩アニオンの構造によって以下の7つの主要グループに分類される[8][9]。
分類名 | 構造 | 化学式 | 鉱物例 |
---|---|---|---|
ネソケイ酸塩鉱物 | 四面体単体 | [SiO4]4− | かんらん石、柘榴石、ジルコンなど |
ソロケイ酸塩鉱物 | 四面体二量体 | [Si2O7]6− | 緑簾石、黄長石類など |
サイクロケイ酸塩鉱物 | 環状 | [SinO3n]2n− | 緑柱石類、トルマリン類など |
単鎖イノケイ酸塩鉱物 | 単鎖 | [SinO3n]2n− | 輝石類など |
2本鎖イノケイ酸塩鉱物 | 2本鎖 | [Si4nO11n]6n− | 角閃石類など |
フィロケイ酸塩鉱物 | 層状 | [Si2nO5n]2n− | 雲母類、粘土鉱物など |
テクトケイ酸塩鉱物 | 3次元網状 | [AlxSiyO(2x+2y)]x− | 石英、長石、沸石など |
なお、テクトケイ酸塩鉱物が追加の陽イオンを持つのは、ケイ素がアルミニウムなどのより価数の低い原子に置き換わったときに限られる。
ネソケイ酸塩鉱物・オルソケイ酸塩鉱物編集
ネソケイ酸塩鉱物(ギリシャ語で島を意味するνῆσος nēsosに由来する)、またはオルソケイ酸塩鉱物は、格子間のカチオンのみに結合した孤立した[SiO
4]4−の四面体であるオルソケイ酸塩を持つ[10]。シュツルンツ分類では09.Aに分類されている。例として以下が挙げられる。
ソロケイ酸塩鉱物編集
ソロケイ酸塩鉱物(ギリシャ語で山・塚を意味するσωρός sōrosに由来する)は、共有された酸素原子の頂点を持つ二重四面体である、独立したピロケイ酸塩Si2O6−
7で構成されており[11]、ケイ素と酸素の存在比は2:7である。シュツルンツ分類では09.Bに分類されている。例として以下が挙げられる。
サイクロケイ酸塩鉱物編集
サイクロケイ酸塩鉱物(ギリシャ語で円を意味するκύκλος kýklosに由来する)、またはシクロケイ酸塩鉱物・リングケイ酸塩鉱物は、3つ以上の四面体が環状に繋がった構造を持つ。一般式は(SixO3x)2x−で、1個かそれ以上のケイ素原子を他の4配位原子に置換できる。ケイ素と酸素の存在比は1:3である。二重リングの場合は一般式は(Si2xO5x)2x−となり、ケイ素と酸素の存在比は2:5となる。シュツルンツ分類では09.Cに分類されている。例として以下が挙げられる[12]。
6量体[Si
6O
18]の緑柱石(赤がケイ素原子、青が酸素原子)3量体[Si
3O
9]のベニト石4量体[Si
4O
12]のパパゴ石9量体[Si
9O
27]のユージアル石6量体で二重環[Si
6O
15]のミラー石
- 3員単環
- ベニト石 – BaTi(Si
3O
9)
- ベニト石 – BaTi(Si
- 4員単環
- パパゴ石 – CaCuAlSi2O6(OH)3.
- 6員単環
- 9員単環
- ユージアル石 – Na15Ca6(Fe,Mn)3Zr3SiO(O,OH,H2O)3(Si3O9)2(Si9O27)2(OH,Cl)2
- 3員二重環
- ミラー石 – K
2Ca
4Al
2Be
4(Si
24O
60)H
2O
- ミラー石 – K
なお、斧石のリングには4つのケイ素四面体に加え2つのホウ素原子の四面体が含まれているため、同じ6員環でも他のケイ素のみの鉱物より大きく歪んだ環状構造をしている。
イノケイ酸塩鉱物編集
イノケイ酸塩鉱物(ギリシャ語で繊維を意味するἴς, is に由来する)または鎖状ケイ酸塩鉱物は連結された鎖状のケイ酸塩四面体を持つ。単鎖の場合は一般式はSiO
3、ケイ素と酸素の比は1:3だが、2本鎖の場合は一般式がSi
4O
11、ケイ素と酸素の存在比が4:11となる[13]。シュツルンツ分類では09.Dに分類されている。例として以下が挙げられる。
単鎖イノケイ酸塩鉱物編集
- 輝石類
- 準輝石類
2本鎖イノケイ酸塩鉱物編集
フィロケイ酸塩鉱物編集
フィロケイ酸塩鉱物(ギリシャ語で葉を意味するφύλλον, phýllonに由来する)、または層状ケイ酸塩鉱物は、ケイ酸塩四面体の層が平行に積み重なった構造をとり、一般式はSi
2O
5でケイ素と酸素が2:5の割合で存在している。シュツルンツ分類では09.Eに分類されている[14]。フィロケイ酸塩鉱物は全て、水またはヒドロキシ基で水和されている。
例として以下が挙げられる。
テクトケイ酸塩鉱物編集
テクトケイ酸塩鉱物、またはフレームワークケイ酸塩鉱物は、ケイ酸塩四面体が3次元フレームワーク構造をとっている。一般式はSiO
2でケイ素と酸素が1:2で存在する。このグループは地球の地殻の75%を占めている[15]。石英類以外のテクトケイ酸塩鉱物は、すべてアルミニウムを含んだアルミノケイ酸塩である[16]。シュツルンツ分類では09.Fと09.Gに分類されているほか、石英は04.DAに分類されている。例として以下が挙げられる。
関連項目編集
脚注編集
- ^ “Mineral - Silicates”. britannica.com. 2017年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月8日閲覧。
- ^ Deer, W.A.; Howie, R.A.; Zussman, J. (1992). An introduction to the rock-forming minerals (2nd ed.). London: Longman. ISBN 0-582-30094-0
- ^ Hurlbut, Cornelius S.; Klein, Cornelis (1985). Manual of Mineralogy (20th ed.). Wiley. ISBN 0-47180580-7
- ^ “珪藻土とは”. 2022年8月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “他色を示すことが多い鉱物”. 2023年1月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “地球深部の岩石中に中性水素原子が存在する可能性”. 2022年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “層状ケイ酸塩鉱物にみられる混合層構造”. 2018年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ Deer, W.A.; Howie, R.A., & Zussman, J. (1992). An introduction to the rock forming minerals (2nd edition ed.). London: Longman ISBN 0-582-30094-0
- ^ Hurlbut, Cornelius S.; Klein, Cornelis ||1985). Manual of Mineralogy, Wiley, (20th edition ed.). ISBN 0-471-80580-7
- ^ “ケイ酸塩鉱物の構造による分類”. 2023年3月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “2.ピロケイ酸塩鉱物(Hemimorphite)のシリル化”. 2022年3月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “サイクロ珪酸塩鉱物(シクロ珪酸塩鉱物)”. 2022年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “鎖状ケイ酸塩鉱物 (F霍nferketten) の結晶構造”. 2022年3月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ “PURABYK-P 5540”. 2022年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。
- ^ Deer, W.A.; Howie, R.A.; Wise, W.S.; Zussman, J. (2004). Rock-forming minerals. Volume 4B. Framework silicates: silica minerals. Feldspathoids and the zeolites (2nd ed.). London: Geological Society of London. p. 982 pp
- ^ “テクトケイ酸塩フレームワーク構造のトポロジー, 数量化”. 2019年5月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月1日閲覧。