ヒメマス
ヒメマス(姫鱒、Oncorhynchus nerka)は、サケ目サケ科の淡水魚の一種で、湖沼残留型(陸封型)のものを指す(降海型のものはベニザケという)。1904年(明治37年)、北海道庁水産課の職員により命名された。アイヌ語での名称は、「薄い魚」を意味するカパチェㇷ゚ (kapar‐cep)。北海道では本種をチップとも呼ぶが、語源はアイヌ語で「魚」を意味するチェㇷ゚ (cep) が訛ったものである。
ヒメマス | |||||||||||||||||||||||||||
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十和田湖のヒメマス
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保全状況評価 | |||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Oncorhynchus nerka Walbaum, 1792 | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ヒメマス(姫鱒) | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Kokanee |
分布
編集自然分布はアメリカ合衆国、カナダ、カムチャツカ半島、北海道の阿寒湖とチミケップ湖を原産とする[1]。ニュージーランドには、移植により定着した。
移植と放流
編集日本での養殖は、1893年(明治26年)に北海道職員の村信吉が阿寒湖に注ぎ込む河川のひとつ・シリコマベツ(シュリコマベツ)川で採集した発眼卵を千歳の孵化場へ輸送し行ったのが最初とされている[2]。日本での移植は1894年(明治27年)の阿寒湖から支笏湖への移植が最初の例で[3][4][5]、移植成功後には支笏湖が種卵供給湖として重要な位置を占めたが、稚魚期の耐酸性が低いため[6]、pH4程度の酸性の強い(pHの低い)水域への移植には失敗している[5][6]。
また、十和田湖(1902年[7])への本種の移植には和井内貞行が尽力した。1906年支笏湖から栃木県の中禅寺湖(1906年[8])、神奈川県の芦ノ湖、山梨県の西湖と本栖湖、長野県の青木湖などに移入され生息している[1]。
形態と生態
編集貧栄養状態の10℃から13℃程度の低温を好む[5]。全長は栄養状態と水温で変わるが1年目に16cm程度まで[9]、性成熟する頃には最大で50cm前後まで成長する。餌は動物プランクトンのボスミナ類、ミジンコ類やユスリカ幼虫、ワカサギなどの小魚。ただし、ヒメマスが棲息する湖へワカサギを放流した場合には餌の競合を起こし、ヒメマス資源が減少する傾向があるほか、他のサケ科魚類を放流した場合にはサケ科魚類に食害され、ヒメマス増殖が妨げられることもある[5]。
ベニザケと同様に孵化後3年から5年程度で成熟し、9月下旬から11月上旬にかけて湖岸や流入河川の砂礫に産卵する。中禅寺湖[2]、洞爺湖のヒメマス1年魚は降海型ベニザケと同様にスモルト化し、海水適応能は5月に最も高まる[10]が、実際に降海するのは6月から7月に最も活発で、降海個体の平均体長は15cmから18cm程度[4]。ただし、成熟までの期間は栄養状態により変動し[11]、9年の例もある。
利用
編集魚肉は紅色で美味。マス・サケ類で一番美味とも言われているが[誰によって?]、食味の低下が早いとされる[誰によって?]。他のサケ科魚類と同様に塩焼きや刺身、フライにして食べられる。また、甘露煮や燻製にもされる。
漁業
編集生息する各湖で餌釣りを行うことができる。エサはサシ(ハエの幼虫)等。また、ヒメマス独特の仕掛けを使ったヒメトロなどのレイクトローリングで狙うこともできる。生息する各湖では漁業協同組合による遊漁期間や捕獲上限が設定されていることが多く、それ以外の期間に漁を行うことや産卵のために遡上した個体の採取・漁獲を禁じている。ルアーやフライでも釣ることができる。
自治体の魚
編集保全状態評価
編集- LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))
- 絶滅危惧IA類 (CR)(環境省レッドリスト)
近縁種
編集近縁種として、西湖に生息しているクニマス (Onchorhynchus nerka kawamurae) がいる。本来の原産地であった秋田県の田沢湖では太平洋戦争の開戦前、発電所建造のために強酸性の玉川の水を引き込んだことで絶滅したが、それ以前に西湖に移入された受精卵から孵化した稚魚の末裔が西湖に生息している。ただし、西湖で生存している種は長らく「ヒメマスの黒い変種」程度にしか認識されていなかったため、西湖での生存が公式に確認されたのは2010年(平成22年)のことで、それまでの約70年間、クニマスは地球上から絶滅したものと考えられていた。
ギャラリー
編集脚注
編集- ^ a b ヒメマス 国立環境研究所 侵入生物DB
- ^ a b 伴真俊、東照雄、「支笏湖と中禅寺湖に分布するヒメマスのスモルト化」『さけ・ます資源管理センター技術情報』 No.170, 2004-03。国立国会図書館デジタルコレクションにて公開
- ^ 北海道内のヒメマスの移殖 日本水産資源保護協会 (PDF)
- ^ a b 徳井利信、支笏湖におけるヒメマスの年齢と成長 水産増殖 1988年 36巻 2号 p.137-143, doi:10.11233/aquaculturesci1953.36.137
- ^ a b c d 徳井利信、「ヒメマスの研究(V)日本におけるヒメマスの移殖」『北海道さけ・ますふ化場研究報告』 18号,1964,p.73-90
- ^ a b 生田和正, 鹿間俊夫, 織田三郎, 奥本直人「サケ科魚類の発眼卵と稚魚の耐酸性評価」『養殖研究所研究報告』第21号、南勢町 (三重県) : 水産庁養殖研究所、1992年3月、39-45頁、CRID 1050282813612453120、ISSN 0389-5858。
- ^ 徳井利信、十和田湖の湖水型サクラマス(Oncorhynchus masou)について 水産増殖 Vol.10(1962) No.2 P.133-136, doi:10.11233/aquaculturesci1953.10.133
- ^ 吉原喜好、北村章二、生田和正 ほか、中禅寺湖産ヒメマスの再生産関係 水産増殖 Vol.47(1999) No.2 P.229-234, doi:10.11233/aquaculturesci1953.47.229
- ^ 徳井利信、倶多楽湖のヒメマスについて二, 三の知見 水産増殖 1985年 33巻 2号 p.100-102, doi:10.11233/aquaculturesci1953.33.100
- ^ 伴真俊, 春名寛幸, 上田宏「洞爺湖産ベニザケの海水適応能」『さけ・ます資源管理センター研究報告』第2号、水産庁さけ・ます資源管理センター、1999年、15-20頁、ISSN 13447556。
- ^ 徳井利信、カナダ, ニコラ湖のヒメマスについて一知見 陸水学雑誌 1975年 36巻 4号 p.157-159, doi:10.3739/rikusui.36.157
- ^ “シンボル - 北海道千歳市公式ホームページ - City of Chitose”. www.city.chitose.lg.jp. 2021年1月11日閲覧。
- ^ 日光市. “市章・市の花・市の木・市の鳥・市の魚”. 日光市. 2021年1月11日閲覧。
参考文献
編集- 「Ⅵ章 我が国におけるヒメマスの増養殖」『湖沼環境の基盤情報整備事業報告書 -豊かな自然環境を次世代に引き継ぐために- 「支笏湖」』、日本水産資源保護協会、2005年4月、2022年11月10日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- 研究のうごき ヒメマスが食べる餌生物の生産量を推定する - 水産総合研究センター 中央水産研究所
- 坂野博之, 帰山雅秀, 上田宏, 桜井泰憲, 島崎健二「洞爺湖におけるヒメマスOncorhynchus nerkaの年齢と成長」『北海道さけ・ますふ化場研究報告』第50巻、北海道さけ・ますふ化場、1996年11月、125-138頁、ISSN 04410769。
- 静岡県/水産技術研究所/水技研らいぶらりぃ/水技研デジタルアーカイブス:さかなあれこれ/ヒメマス