ヒューマンエラー

人的過誤

ヒューマンエラー: human error)とは、人為的過誤や失敗(ミス)のこと。 JIS Z8115:2000[1]では、「意図しない結果を生じる人間の行為」と規定する。

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概要編集

ジェームズ・リーズンフランス語版はヒューマンエラーを「計画された一連の精神的または身体的活動が、意図した結果に至らなかったものであり、これらの失敗には、他の偶発的事象の介在が原因となるものを除く」と定義している[2]。ヒューマンエラーとは、人間と機械やシステムとの関係の中で、機械側ではなく人間側のエラーをクローズアップしたものである。

直接的には、設備機械の操作や乗り物操縦において、不本意な結果(事故災害など)を生み出しうる行為や、不本意な結果を防ぐことに失敗することである。その場合、「人災」と呼ばれることもある。安全工学人間工学においては、事故原因となる作業員や操縦者の故意過失を指している。

最近では、直接の操作者・操縦者はもちろんのこと、チーム全体、そして管理職の意識も含めてヒューマンエラー防止の対象と考えるようになってきた[3]。 なお、機械設計者・製作者の過誤(ミス)は、通常ヒューマンエラーに含まないが、これらも、ヒューマンエラーを引き起こす原因にはなりうる。

ヒューマンエラーは様々な職種において、経験を重ねたベテランやルーチンワークでも起こりえる事である。経験で学んだ事により、スムーズに業務を全うする為に、業務に支障をきたさない範囲での基本的な確認・操作を省略し、積み重ねてきた事により「問題ない」という自己確信 (思い込み) が生じる。そのような状態下で、確認・操作を怠ったまま業務を進行させると、非常時に結びついた場合、重大な問題・被害に発展する可能性がある。

原理編集

ドナルド・ノーマンは、ヒューマンエラーとなる一連の行動を「計画(意図の形成)の段階」と「実行の段階」の2つに分け、計画段階の間違いをミステイク(mistake)、実行段階の間違いをスリップ(slip)と呼んだ。ミステイクはルールに従って実行しても発生する、計画自体に原因があるエラーであり、スリップはボタンの押し間違いなど「うっかりミス」と呼ばれるもので、実施者の注意減少・混乱が原因とされる[2]

ノーマンは、人間はある意図を形成させると脳内に知識や経験によって準備的なスキーマを形成するが、作業には関係無いが部分的に共通する周辺スキーマも同時に活性化してしまい、注意力が減少した時に何かのきっかけで本来のスキーマではなく周辺スキーマに飛びついてしまうという、ATS(Activation Trigger-Schema)モデルを提唱した[2]。他にノーマンは、意図した内容の保持に失敗する(例:何をしていたのか忘れた)など、記憶に関するエラーをラプス(laps)、雑な扱いによるエラーをハンブル(humble)と呼んだ。

リーズンは、事故につながりうる不安全行動を意図的なものと意図しないものに分け、スリップとラプスを意図しないもの、ミステイクと違反行為を意図したものに配置し、ヒューマンエラーと、ルールから逸脱すると知りながら敢えて行われる違反行為の関係を整理した[2]

対策編集

対策とは言え、人間である以上必ず失敗 (エラー) は起こりうる、人間に任せる完璧な対応策はないといった観点に基づいた対策を講じる必要がある。

予防策編集

予防策としては下記のものなどがある。啓発や注意喚起するもの、注意力や意識が散漫になることを防ぐもののほか、「人間は間違える」ことを前提とした対策が考案されてきた。

  • 危険予知トレーニング (KYT)
  • 指差喚呼
  • メモチェックリストによる記憶エラー対策
  • 疲労を起させないための勤務時間管理、適度な休息
  • ガムコーヒーなど眠気覚ましになるものを喫食する。
  • ダブルチェック
    • 絶対にミスが許されない重要な業務については、1人の人間に任せるのではなく、必ず、2人以上の人間を配置し、二次チェックあるいは三次チェックといった厳重なチェック体制を設けている場合がある。

また、航空事故では乗員の連携ミスによる事故や、機長副操縦士航空機関士との人間関係に起因する事故 (副操縦士や航空機関士が、上職者である機長に遠慮してしまい、機長の誤りを指摘しないまま事故になってしまったケースなど) が多く起きたことから、航空業界ではクルーリソースマネジメント英語版 (CRM) と呼ばれる、緊急時の乗員の役割分担や連携に関する考え方を導入し、乗員の教育を行なっている。

対応策編集

主に物理的なものや機械的バックアップによるものとなる。

過去にあったヒューマンエラーの例編集

日本国内だけでも、過去には様々なヒューマンエラーがあったのだが、ここでは、航空機鉄道で起きた2つの事例を取り上げる。

日本航空機駿河湾上空ニアミス事故編集

2001年1月31日に静岡県焼津市沖の駿河湾上空で起こったニアミスに起因した事故は、航空局の管制官が2機の航空機を同時に管制しようとした際、誤って互いの便名を逆に読み上げたことから混乱が発生した。安全距離が保たれるべき2機の当該機が約10メートルの距離まで異常接近し、あわや衝突という事態に陥ったものである。

この事故を起こした管制官は、レーダー画面上に表示された「907」および「958」という便番号をずっと目で追っていたにも関わらず、ある瞬間、突然この2つの番号を逆に読み始め、事故が起こるまでの数分間、言い間違いにまったく気づかなかった。

当該機のコンピュータは、他機の異常接近を知らせる警報装置 (空中衝突防止装置 通称: TCAS) が正常に働いていたが、当時の航空運用マニュアルは「コンピュータと人間の指示に矛盾がある場合、後者に従う」と規定されていたこともあり、機長はそのマニュアルに正しく従うことで、結果として航空機を危険な状態へと導いてしまった。

原因編集

事故の原因は、管制職という仕事がただでさえ激務であるのに加え、その日はたまたまOJT中の職員を従えていたことから疲労が蓄積したためとされた。そしてそれは、安全運行上許されないものであるにも関わらず、ある程度以上の社会経験を積んでいれば誰もが経験する、あまりにも人間臭いミスであったため、のちに「事故の原因はヒューマンエラーであった」との説明が補足されるようになった。

この事件は、「コンピュータは日常的に故障するものであり、人間の判断こそが正しい」という社会通念がもはや過去のものであることを明示した。その後、各航空会社は、運用マニュアルを「コンピュータと人間の指示に矛盾がある場合、前者に従う」と書き換えた。

JR九州管内での信号無視編集

2007年 (平成19年) 3月26日 () にJR九州指宿枕崎線の下り普通列車2両編成ワンマン車枕崎行き (鹿児島中央駅16:55発~枕崎駅19:26着) において起こった。

18時52分頃、指宿枕崎線の 「西頴娃 (にしえい) 駅」構内で下り普通列車が停止信号であるにもかかわらず、運転士のミスでそのまま進入してしまった。幸い、ATS (自動列車停止装置) が作動し、列車が緊急停止したが、もし、ATSが設置されていなければ大事故に至る恐れがあったという。

日本国外での事例編集

脚注編集

  1. ^ このJIS Z8115:2000は、「ディペンダビリティ (信頼性) 用語」を規定する。
  2. ^ a b c d 申 2013, pp. 151-159.
  3. ^ 小松原明哲『ヒューマンエラー』pp.89~100
  4. ^ 外部リンク

参考文献編集

  • 海保博之・田辺文也 『ヒューマン・エラー 誤りからみる人と社会の深層』 新曜社、1996年、ISBN 4-7885-0575-4
  • 小松原明哲『ヒューマンエラー』初版、丸善、2003年、ISBN 4-621-07196-3
  • 小松原明哲『ヒューマンエラー』第2版、丸善、2008年、ISBN 978-4-621-08057-3
  • 申紅仙、伊東昌子(編)、2013、「エラーと認知」、『コミュニケーションの認知心理学』、ナカニシヤ出版 ISBN 9784779507359

関連項目編集

外部リンク編集