フェラーリ (映画)
『フェラーリ』(英: Ferrari)は、2023年のアメリカ合衆国の伝記映画。監督はマイケル・マン、主演はアダム・ドライバーが務め、自動車メーカー「フェラーリ」の創業者エンツォ・フェラーリの人生を描く[6]。
フェラーリ | |
---|---|
Ferrari | |
監督 | マイケル・マン |
脚本 |
マイケル・マン トロイ・ケネディ・マーティン[1] |
原作 | ブロック・イエーツ『Enzo Ferrari: The Man and the Machine』 |
製作 |
マイケル・マン ジョン・レッシャー ガレス・ウェスト アンドレア・イェルヴォリーノ トーマス・ヘイスリップ トルステン・シューマッハー ローラ・リスター ラース・シルヴェスト モニカ・バカルディ P・J・ファン・サンドヴァイク |
出演者 |
アダム・ドライバー ペネロペ・クルス シェイリーン・ウッドリー サラ・ガドン ジャック・オコンネル パトリック・デンプシー |
音楽 | ダニエル・ペンバートン[2] |
撮影 | エリック・メッサーシュミット |
編集 | ピエトロ・スカリア |
製作会社 |
STXフィルムズ Moto Productions Forward Pass Le Grisbi Iervolino & Lady Bacardi Entertainment |
配給 |
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公開 |
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上映時間 | 132分[3] |
製作国 |
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言語 | 英語 |
製作費 | $90,000,000[4] - $110,000,000[5](推定) |
あらすじ
編集1947年にフェラーリ社を設立してから10年、彼のマシーンがローマ・グランプリで優勝して以来、世界のレーサーがシートを争う名チームを育成し、地元の名士になっていたエンツォ・フェラーリだが、会社は倒産の危機にあった。前年に息子ディーノを難病で失うという不幸もあって、妻で会社の共同経営社ラウラとの関係も冷え切っており、彼の心を癒すのは密かに愛する女性リナと12歳の息子ピエロとのひと時だった。だがそんなエンツォの秘密もラウラの知るところとなる。
資産豊富なフィアットやフォードからの買収工作、私生活のトラブルによってエンツォは全てを失ってしまうという危機感を持つ。そんな時、彼は社運を賭けて、イタリア全土を縦断する公道レース"ミッレミリア"に参戦することを決める。ポルターゴ、コリンズ、タルッフィと行った情熱的なレーサーたちによってチームが編成され、ついにレースがスタート。だが思いもかけない事態がチームを待ち受けていた。
登場人物
編集- エンツォ・フェラーリ
- 59歳となったイタリア自動車界のレジェンド。破産寸前のフェラーリ社の起死回生を狙う。
- ラウラ・フェラーリ
- 長男ディーノの死で悲嘆に暮れるエンツォの妻。冷え切った関係になった夫の秘密を知る。
- リナ・ラルディ
- エンツォが愛する女性。12歳の息子ピエロはエンツォの子として認知されず悩んでいる。
- アルフォンソ・デ・ポルターゴ
- 公道レース"ミッレミリア"にエンツォのチームで参加する若手ドライバー。
- ピエロ・タルッフィ
- コリンズ、ポルターゴと共にフェラーリ・チームに参加するベテランレーサー。
- リンダ・クリスチャン
- ポルターゴと交際している女優。俳優タイロン・パワーの元妻。
キャスト
編集役名 | 俳優 |
---|---|
エンツォ・フェラーリ | アダム・ドライバー |
ラウラ・フェラーリ | ペネロペ・クルス |
リナ・ラルディ | シェイリーン・ウッドリー |
リンダ・クリスチャン | サラ・ガドン |
ピーター・コリンズ | ジャック・オコンネル |
ピエロ・タルッフィ | パトリック・デンプシー |
アルフォンソ・デ・ポルターゴ | ガブリエル・レオーネ |
カルロ・キティ | ミケーレ・サヴォイア |
セルジオ・スカリエッティ | リノ・ムゼッラ |
セシリア・マンツィーニ | ヴァレンティーナ・ベル |
ジャンニ・アニェッリ | トンマーゾ・バシリ |
エドモンド・ネルソン | エリック・ハウゲン |
ジノ・ランカーティ | アンドレア・ドレンテ |
ジャコモ・クォギ | ジュゼッペ・ボニファーティ |
製作
編集この映画はフェラーリ愛好家であるマイケル・マンが長年にわたって製作を検討していた企画で、2000年頃にはシドニー・ポラックと内容について話し合っていた[7]。2015年8月、クリスチャン・ベールがエンツォ役で出演交渉に入った。撮影は2016年夏にイタリアで開始される予定だった。 2015年10月、パラマウント・ピクチャーズがこの映画の世界配給権を購入した[8][9]。ベールは2016年1月、製作開始前に役柄として必要な体重を満たせないことを理由に、出演を辞退した[10]。プロジェクトは2017年4月まで停滞し、パラマウントが配給権を手放し、ヒュー・ジャックマンがエンツォを演じるために交渉に入り、ノオミ・ラパスが彼の妻を演じることになった[11]。プロジェクトは再び2020年6月まで休止した。マンとジャックマンは交渉を続け、ラパスは関与しなくなり、STXエンターテインメントが国際配給を引き継いだ。撮影は2021年4月に開始される予定だった[12]。
2022年2月、ジャックマンはこの映画から辞退し、アダム・ドライバーがエンツォ役で出演することになった。ペネロペ・クルスとシェイリーン・ウッドリーもキャストに加わった。同時にSTXは国内配給権も獲得し、劇場公開が予定されていた[13]。7月には、ガブリエル・レオーネ、サラ・ガドン、ジャック・オコンネル、パトリック・デンプシーがキャストに追加された[14][15]。2022年4月にプリプロダクションが開始され、当初は7月にモデナで撮影が開始される予定だった[16][17][14][18]。2022年8月17日、マンは自身のTwitterに撮影現場での彼の画像を添えて、イタリア語で「Pronti, via」(よーい、始め)というシンプルなキャプションを投稿し、主要撮影が始まったことを明らかにした[19]。モデナを中心に[20]、マラネッロ[21]、ブレシア[22]、レッジョ・エミリア[23]、フィオラーノ・モデネーゼ[23]、ノヴェッラーラ[23]などで撮影が行われ、2022年10月下旬にモデナ[24]で撮影を終了した[4][25]。
登場する車
編集レプリカ車の製作
編集映画に登場するレースカーたちは現代の相場で数億〜数十億円を超える希少車のため、映画のために9台のレプリカ車を製作した。製作したのはフェラーリ801が2台、フェラーリ355Sが3台、フェラーリ315Sが2台、マセラティ250Sが2台で、うち5台がFRPボディ、4台はアルミボディだった[26]。
ベースとなったのはケーターハム620で、イギリスのニール・レイトン[27]がチューブラーフレームと駆動系を設計し改造を施した[28]。これらは310馬力のスーパーチャージャー付き2リッターエンジンで、5速マニュアルまたは6速シーケンシャルを搭載する。
マイケル・マン監督は演出ではなく実際に時速160キロ(100マイル)で走行できる車を要求したため、安全性を考慮して5点式シートベルトとロールバー、ケーターハムのディスクブレーキを装備している。ブレーキにはドラムブレーキに似せたカバーを被せ、ロールバーはCGIで処理した[29]。
ボディの設計はフェラーリ社から提供された資料のほか、コレクターが所有する実車を3Dスキャニングさせてもらい設計図を起こした。ただ801はフェラーリ博物館にある1台しか現存しておらず、フェラーリ社はその801の使用を渋ったため、1/18のミニチュア模型をネットオークションで購入し3Dスキャンして原寸大に拡大した。すると801のボディはスーパーチャージャーユニットに干渉することが判明し、直ちに自然吸気のケーターハム420Rの中古車をインターネットで探して購入してFRPとアルミの2台を15日間で完成させた。
FRPボディは「バットマン」シリーズのタンブラーや近年の「007」シリーズのアストンマーティンなどを手掛けたイギリスの「オートアクションデベロップメント[30]」が担当。12人のスタッフが5ヶ月間をかけて製作した。
アルミボディの成形はモデナで最も古い70年の歴史を持つ「カンパーナ[31]」に依頼し、職人が昔ながらの技法でアルミ板を叩いて作り上げた[32]。わざわざアルミを採用したのは、衝突したりボディが擦れたりしたときの本物のダメージを見せるためのマン監督のこだわりであった。カンパーナ社が映画関連で仕事を依頼されたのはこれが初めてだという[33]。
全ての車をイタリアンレッドで塗装したが、マンはボディの反射が強いとカメラや俳優の演技に支障が出るかもしれないと考え、塗装の光沢をあえて20パーセントほど鈍くしている[34]。途中で315Sを一時的に黄色にする必要があり(ヨルダンのフセイン国王が購入する車体)、雨のシーンの撮影のあと数時間後には再び赤に戻さなくてはならないため、塗装ではなく黄色のラッピングフィルムで対応した。
音響効果
編集マイケル・マンは音響効果スタッフにリー・オルロフ、トニー・ランベルティ、バーナード・ワイザー、アンディ・ネルソンなどのベテラン技術者を招き入れた。
本物の走行音を収録するため、まずはインターネットでコレクターを探した。1957年型フェラーリを所有するロサンゼルスの不動産投資家に相談すると一時は興味を示したのだが、用途を説明すると録音のためだけに2千万ドルの車を使う必要はないだろうと断られた[35]。
続いてフロリダ州ネイプルズにある自動車博物館の「レヴス[36]」が所蔵する1955年型フェラーリ・ランチアD50を使用できることになったが、車を調べると1953年製のエンジンに載せ替えられていることが判明。同じV型12気筒でも2年前のとではエンジン音が異なるため断念した。だが博物館はイギリスに住む実業家で有名なコレクターでもあるアンソニー・バンフォード氏に連絡を取り、フェラーリ250GTOを使用する承諾が得られた。[37]。
また、マセラティ250Fを貸し出してくれたピンクフロイドのドラマー、ニック・メイソンは非常に協力的で、採寸と撮影だけでなくV8サウンドの収録にも快く応じてくれた[38]。
録音はエンジンルームやテールパイプ、ギアシフト付近などに8〜9本のマイクを取り付けて収録した[39]。またランベルティは過去にジョージア(州ではなくグルジア共和国)で録音しておいた古い航空機のドアのラッチ音をギアチェンジなどにミックスし、本物の古い機械音を再現したという[40]。
クラッシュシーン
編集カステロッティのフェラーリ801がテストコースでコースアウトするシーンは、「ヘリコプター」と呼ばれる巨大なカタパルトを使用し、空中を回転しながら40メートルも弾き飛ばした[41]。テストコースはトリノから東50キロのポンテストゥーラにあるモラーノポー・レース場。1977年に閉鎖されたあと廃墟となっていたが、何度か復旧の試みがあり2022年に民間企業が買収したばかりだった。
多数の見物人を巻き込んだデ・ポルターゴのクラッシュシーンは綿密な調査と解析を行い、惨事を忠実に再現した。無人のフェラーリ335Sをコンピューター制御でリモートコントロールし、時速100キロで走行させながら車台の下に設けられた射出装置を開放すると、宙を舞った車は回転しながら200メートル先の溝に転がり落ちた。車は道路の反対側の電柱に当たって見物人の方向に跳ね返されたという当時の証言があり[42]、そのシーンはVFXしている。
ドライバー
編集俳優でプロのレーシングドライバーでもあるパトリック・デンプシーはピエロ・タルッフィに似せて髪を白く染めた。このメイクとヘルメットのせいで後頭部の髪の毛が抜け落ちてしまい、かつらにしておけば良かったと後悔したという[43]。彼はフェラーリ315S(レプリカ)を操縦したが、本物さながらのクラシックカーレースを満喫し、撮影が終わってもなかなか車を降りようとしなかった。「彼を車から引きずり降ろすために缶切りが必要だったよ」とマイケル・マンはインタビューで周囲を笑わせた[44]。
ベン・コリンズ(スターリング・モス役)はBBC「トップギア」の覆面ドライバー、初代スティグとして知られる。フォーミュラドリフトチャンピオンのサミュエル・ヒュビネット(オリヴィエ・ジャンドビアン役)、ル・マンなどで活躍するマリーノ・フランキッティ(エウジェニオ・カステロッティ役)、ゴーカートの元チャンピオンのブレット・スムルツ(マイク・ホーソーン役)、1960年代にF1とル・マンで活躍したロニー・バックナムの孫で新人レーサーのスペンサー・バックナムなどが参加した。
工場のシーンではフェラーリ・クラシケ部門から借りた本物のエンジンブロックが使われており、それらを調整するメカニックはかつてニキ・ラウダやミハエル・シューマッハのチームにいた元フェラーリF1チーフメカニックが招待された[45]。
本物の車
編集レースシーン以外に登場する2台のマセラティ250Fは実物が使われている。うち1台はピンクフロイドのドラマーのニック・メイソンが所有する車両である。
背景に写る大衆車やトラック、オートバイなども博物館やコレクターから集めたもので、その台数は393台にのぼった。撮影現場まで自走するのを保険会社が認めなかったため、333台のキャリアカーを調達して輸送した[46]。
公開
編集2022年10月にファーストルックが公開され、2枚の写真が掲載された[47]。2023年8月30日には初映像となるティザー予告編が公開された[48]。翌日の8月31日、劇場公開に先駆け、第80回ヴェネツィア国際映画祭でコンペティション部門出品作品としてプレミア上映された[1][3]。また、同年10月15日に第61回ニューヨーク映画祭で閉幕作品として上映された[6]。当初、アメリカではSTXフィルムズによって公開される予定だったが、A24やその他スタジオ、配信会社と争奪戦の末、2023年7月、ネオンが北米配給権を獲得した[1]。2023年12月25日にアメリカで劇場公開された[1]。
脚注
編集- ^ a b c d e “マイケル・マン監督「フェラーリ」、クリスマス全米公開”. 映画.com (2023年7月18日). 2023年7月19日閲覧。
- ^ “Daniel Pemberton Scoring Michael Mann's 'Ferrari'”. Film Music Reporter (2023年6月13日). 2023年7月19日閲覧。
- ^ a b “Biennale Cinema 2023 | Venezia 80 Competition | Ferrari” (英語). La Biennale di Venezia (2023年6月26日). 2023年7月25日閲覧。
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- ^ “Ferrari”. IMDb. 2023年7月19日閲覧。
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- ^ D'Alessandro, Anthony; Fleming Jr, Mike (2017年3月8日). “Michael Mann Revs 'Ferrari' With Hugh Jackman & Noomi Rapace”. Deadline Hollywood. オリジナルの2020年11月30日時点におけるアーカイブ。 2020年6月20日閲覧。
- ^ Wiseman, Andreas (2020年6月20日). “Michael Mann & Hugh Jackman Movie 'Ferrari' Zooms Onto Cannes Virtual Market Grid With STX & Amazon”. Deadline Hollywood. オリジナルの2020年6月20日時点におけるアーカイブ。 2020年6月20日閲覧。
- ^ “Adam Driver, Penélope Cruz & Shailene Woodley Set To Star In Michael Mann's Passion Project Ferrari; STX Inks Big Domestic Deal & Handles Int'l — EFM”. Deadline Hollywood (2022年2月9日). 2022年2月9日閲覧。
- ^ a b “Michael Mann Taps Gabriel Leone For Hearthrob Racer Alfonso De Portago In Ferrari; Brazilian Actor Signs With CAA”. Deadline Hollywood (2022年7月14日). 2022年7月18日閲覧。
- ^ “Sarah Gadon, Jack O'Connell and Patrick Dempsey Join Michael Mann's Ferrari, O'Connell And Dempsey To Play Race Drivers Peter Collins And Piero Taruffi”. Deadline Hollywood (2022年7月28日). 2022年7月28日閲覧。
- ^ “Michael Mann Prepping Ferrari In Italy Ahead Of Planned Summer Shoot”. Deadline Hollywood (2022年4月25日). 2022年4月25日閲覧。
- ^ “Films shoots In Europe Brace For Heat Wave: Temperatures Forecast To Rise As High As 116F (47C) In Spain”. Deadline Hollywood (2022年7月11日). 2022年7月11日閲覧。
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- ^ Rodrick, Stephen (2023年8月23日). “Michael Mann Fulfills a 30-Year Journey Directing the Operatic, Thrilling ‘Ferrari’ — And Teases ‘Heat 2’: ‘I Don’t Think About Mortality. I’m Busy’”. Variety. 2023年8月31日閲覧。
- ^ Calais, Mathilda (2022年8月22日). “F1 : le film "Ferrari" est actuellement en tournage à Maranello”. L’Automobile Magazine. 2023年7月19日閲覧。
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- ^ “巨匠マイケル・マン最新作『フェラーリ』初映像公開 アダム・ドライヴァーがフェラーリ創設者に”. シネマトゥデイ (2023年8月31日). 2023年8月31日閲覧。