ミヤイリガイまたはカタヤマガイ (Oncomelania hupensis nosophora) は[3]、腹足綱・タマキビ型新生腹足類(Littorinimorpha目)イツマデガイ科[1]に分類される貝類。日本住血吸虫中間宿主として知られる[3]

ミヤイリガイ
ミヤイリガイ
ミヤイリガイ
Oncomelania hupensis nosophora
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
上目 : 新生腹足上目 Caenogastropoda[1]
: タマキビ型新生腹足類 Littorinimorpha[1]
: イツマデガイ科 Pomatiopsidae[1]
: ミゾヒダニナ属 Oncomelania[2]
亜属 : カタヤマガイ亜属 Katayama[2]
: O. hupensis
亜種 : ミヤイリガイ O. h. nosophora
学名
Oncomelania hupensis nosophora
(Robson, 1915)[3][4]
シノニム[4]

Katayama nosophora Robson, 1915
Katayama nosophora yoshidai
Bartsch, 1936

和名
カタヤマガイ[3]

和名に付けられたカタヤマガイの「カタヤマ」は、日本住血吸虫による感染症の呼称のひとつである「片山病」に由来する[3]。もう一つの和名であるミヤイリガイの「ミヤイリ」は、本亜種が日本住血吸虫の中間宿主であることを発見した宮入慶之助に由来する[5]

ミヤイリガイの名は発見者の宮入慶之助に、カタヤマガイの名は日本住血吸虫症の症状を書き記した19世紀中ごろの書物『片山記』[6]に由来する。

分布編集

日本千葉県山梨県固有亜種[3]

模式標本の産地(基準産地・タイプ産地・模式産地)は、福山市神辺町片山[5]。以前は関東地方から九州北部にかけて、局所的に分布していた[3][5]。具体的には、茨城県[7]群馬県および埼玉県東京都利根川水系、千葉県の小櫃川下流域[5](中流域とする文献もある)[8]、山梨県の甲府盆地[5]静岡県富士川下流域および浮島沼周辺[9]、広島県の高屋川佐賀県および福岡県筑後川下流域で、これらは日本住血吸虫症の流行地域と一致する[5]

形態編集

殻長6 - 8ミリメートル[3]。殻径2.8 - 3ミリメートル[3]。螺層が膨らみ、縫合が深い[3][5]。殻の表面は滑らか[3][5]

殻は栗褐色ないし[3]、黄褐色 - 赤褐色で厚く、光沢がある[7]。巻きは8階[10]

コモチカワツボ外来種)に酷似するが、本種のほうが大きくて細長く、殻口外唇が肥厚する点で区別できる[7]

分類編集

Oncomelania hupensisの亜種とされるが、独立種とする説もある[5]。原名亜種 O. h. hupensis中国長江流域に分布する[3]

生態編集

水田地帯にある水路の止水域の泥底に生息する[3]

親貝は6月ごろ、常に湿潤な柔らかい泥土に産卵し、孵化した個体は秋までに大きくなるのが一般的。冬は叢の根元や窪みで越冬する[11]。寿命は約2年かそれ以上と推測される[12]

ミヤイリガイの体内には多くの原虫線虫、各種吸虫セルカリアが寄生し、日本住血吸虫のセルカリアだけでも平均2,000 - 3,000匹が寄生している[12]

人間との関係編集

 
宮入貝供養碑(久留米市宮ノ陣)

岡山県井原市の高屋川流域)での方言名として、「ナナマキガイ」がある[5]

日本住血吸虫の中間宿主となり、ヒトがこの吸虫に侵入されると肝硬変などを引き起こし高い確率で死亡する[5]。日本では後述する日本住血吸虫を撲滅させるための活動として本種の駆除(殺貝剤の散布・火炎放射器による焼却・水路の三面コンクリート舗装など)が進められたことにより、1980年代までに日本住血吸虫症の発症例はなくなった[5]

本種の駆除活動の一つである水路のコンクリート舗装により、ミヤイリガイが駆除されたが、一方で、水田などに生息する他の貝類の生息数も減少したという弊害もある[5]

1920 - 1960年代にかけて行われた日本住血吸虫を撲滅させるための活動により、多くの生息地では絶滅した[3]。また、日本住血吸虫症の撲滅後も[9]、生息地の破壊(河川改修[3]、水田の乾田化・宅地などへの開発)[9]農薬汚染の影響を受けて減少していると考えられている[3]

広島県では近年は記録がなく、絶滅したと考えられている[3]。福岡県では1980年代以降は発見例がなく絶滅したと考えられ、最後の生息地であった久留米市宮ノ陣町宮瀬には宮入貝供養碑が建てられている[5]。千葉県では小櫃川流域[8][5]木更津市牛袋)を除き、絶滅した可能性があり[3][13]、唯一の生息地でも2014年以降は確認が困難となっている[14]。岡山県では1955年以降は記録がなく絶滅したとされ、2020年の時点で岡山県レッドリストでも絶滅と判定されている[5]。静岡県では2010年ごろに最後の生息地(富士川西岸)が改修・暗渠化され、2019年版のレッドデータブックでは絶滅種とされている[9]。茨城県では1950年代の干拓事業によって生息地が破壊され、絶滅したと考えられている[7]

絶滅危惧I類 (CR+EN)環境省レッドリスト[3]

山梨県立富士湧水の里水族館(山梨県南都留郡忍野村)では、2020年令和2年)2月3日から本種の生体が常設展示されている[15]

出典編集

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d 佐々木猛智 (2010年). “『貝類学』 > 1.6 腹足綱の系統と分類” (日本語). 東京大学. 2021年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月21日閲覧。 - 佐々木の著書『貝類学』(東京大学出版会:2010年、ISBN 978-4130601900)より。
  2. ^ a b 兵庫県立人と自然の博物館 1999, p. 10.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 湊宏 著「カタヤマガイ」、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編(PDF) 『レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 6 貝類』株式会社ぎょうせい、2014年9月、66頁。ISBN 978-4324099001オリジナルの2021年5月21日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20210521132112/https://ikilog.biodic.go.jp/rdbdata/files/envpdf/%E8%B2%9D%E9%A1%9E_064.pdf2021年5月21日閲覧 
  4. ^ a b MolluscaBase eds. (2021). MolluscaBase. Oncomelania hupensis nosophora (G. C. Robson, 1915). Accessed at: https://www.molluscabase.org/aphia.php?p=taxdetails&id=1446824 on 2021-05-14
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 福田宏 著「ミヤイリガイ」、岡山県野生動植物調査検討会 編(PDF) 『岡山県版レッドデータブック 2020 動物編』岡山県環境文化部自然環境課、2020年3月、391頁。 NCID BA6178133Xオリジナルの2021年5月21日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20210521124800/https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/656841_5703464_misc.pdf 
  6. ^ 小林照幸、1998年7月20日発行、『死の貝』、文藝春秋 ISBN 4-16-354220-5
  7. ^ a b c d 芳賀拓真、池澤広美「カタヤマガイ(ミヤイリガイ)」 『茨城における絶滅のおそれのある野生生物 茨城県版レッドデータブック 動物編』(2016年改訂版)(編集・発行)茨城県生活環境部環境政策課、2016年3月、281頁。 NCID BB21828016オリジナルの2021年5月21日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20210521132629/https://www.pref.ibaraki.jp/seikatsukankyo/shizen/tayousei/redbook/documents/ibaraki_rdb2016_4web.pdf#page=2922021年5月21日閲覧 
  8. ^ a b 二瓶直子 2012, p. 253.
  9. ^ a b c d 加藤徹「カタヤマガイ」(PDF) 『まもりたい静岡県の野生生物2019 ―静岡県レッドデータブック― <動物編>』企画・編集:静岡県くらし・環境部環境局自然保護課、2019年3月31日、437頁。 NCID BB28510172オリジナルの2021年5月21日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20210521130456/http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/documents/2-7_shell01_rdbshiz2019ani.pdf2021年5月21日閲覧 
  10. ^ 種の解説 カタヤマガイ” (日本語). 福岡県レッドデータブック. 福岡県 (2001年3月). 2020年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月21日閲覧。
  11. ^ ミヤイリガイの生態” (日本語). 宮入慶之助記念館. 2021年1月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月21日閲覧。
  12. ^ a b 飯島利彦 『ミヤイリガイ』山梨県寄生虫予防会、1965年8月。 NCID BA86354077  - 山梨県立図書館に蔵書あり。
  13. ^ 黒住耐二 著「カタヤマガイ」、千葉県レッドデータブック改訂委員会 編(PDF) 『千葉県の保護上重要な野生生物-千葉県レッドデータブック- 動物編』(2011年改訂版)千葉県環境生活部自然保護課、2011年3月、434頁。 NCID BB05867979オリジナルの2020年11月14日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20201114130910/http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb-2011re/rdb-201112kai.pdf2021年5月21日閲覧 
  14. ^ 二瓶直子 2018, p. 28.
  15. ^ 2020年2月3日(月)〜常設展示「ミヤイリガイと地方病」” (日本語). 森の中の水族館。公式サイト. 山梨県立富士湧水の里水族館 (2020年2月3日). 2021年5月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月21日閲覧。

参考文献編集

外部リンク編集