分 (数)
数の単位としての分(ぶ)は、十進法で、十分の一を表す単位である。そもそも「分」は、「八」+「刀」の会意であり、刀で左右に(八)に切りわける意味を表す漢字である[1][2]。小数の単位としては最大のものである。
概説編集
十進法の文脈では「十個に切り分ける」ということから、様々な計量単位や割合の1/10を表すために使われる[3][4]。このように、「分」は、文脈によって様々な物理量を表すことになる。
「割」と共に使われることに起因して、「分」が百分の一を意味すると誤解されることがある(後述)。なお、厘は、基準単位の百分の一である[5]。
計量単位など編集
何の1⁄10になるかの基準となる単位(「基準単位」)は、量ごとに決まっており、以下のとおりである。
このように固定されているので、「分」は単に1⁄10を意味するだけでなく、様々な計量単位又は通貨単位として使われる。したがって、一分が0.1寸なのか、0.1匁なのか、0.1度なのか、それとも0.1割なのかは文脈による。
実際に桁を連ねるときは、「二寸三分四厘」、「二匁四分六厘」、「三十六度五分」、「三割二分六厘」のように複名数となる。現代的な表現が「2.34寸」のような単名数であるのとは異なる[注 1]。
以下、「分」がよく使われる個別の単位について述べる。なお、現在の日本の計量法体系では、計量単位としての分は、特殊の計量の場合[6]であっても、使用が一切禁止されている。
分(長さの単位)編集
長さの単位としての「分」は、寸の1⁄10 である[7]。寸が約30.303 mmであるので、分は、約3.0303 mm である。
「寸」とともに使う場合、「一寸二分」(= 1.2寸)のように表す。1の位が0の場合は、単に「二分」(= 0.2寸)のように表す。一分は常に基準単位である寸の1/10(すなわち0.1寸)を表すのであって、0.1尺を意味することはない。したがって、一尺三分は、1.3尺ではなく、1尺+0.3寸 = 1.03尺 である。
ことわざの「一寸の虫にも五分の魂」は、1寸(約3cm)ほどの小さい虫にも、0.5寸ぐらいの意地や思いはあるという意味である。
文(もん)は、主として足袋や靴など履物の大きさを表すのに用いられた長さの単位で、約2.4センチメートルであるが、この「文」の1⁄10も、「分」という。
なお、ワイヤやボルトなどの鋼材の直径を示す場合、ヤード・ポンド法における1⁄8インチ(十進表記で 0.125 インチ;十二進表記で 0.16 インチ = 1ライン6ポイント)が基本単位として用いられることがある。1⁄8インチ は 正確に3.175 mm であり、尺貫法の分の長さに近いことから、便宜的にこれを「分」と呼ぶ場合がある[8]。例えば、3⁄8インチ(十二進表記で 0.46インチ = 4ライン6ポイント)を 3 分、1⁄2インチ(十二進表記で0.6インチ = 6ライン)を 4 分と呼ぶ。
分(質量の単位)編集
質量の単位としての「分」(読みは、「ふん」。後述。)は、匁の1⁄10である[9]。匁は正確に 3.75 g であるので、分は、正確に 0.375 g である。匁は、「もんめ」(単位記号は、mom)と表記されて「真珠の質量の計量」の場合に限って認められるが、分は使用が禁止されている(前述)。
分(温度の単位)編集
温度の単位としての「分」は、度の1⁄10 である。例えば 36.5度を「三十六度五分」と呼ぶ。ただし、この呼び方は、国際単位系でも日本の計量法体系でも認められていない。
割合編集
割合で用いる「分」は、割の1⁄10である[3]。歩合(割合)の基準単位は 1⁄10 を表す「割」である。従って、十進法の小数0.326を、「三割二分六厘」と表現する。
百分の一を意味するとの誤解編集
割合を言うときには、「三割二分六厘」というように表現する。「割」そのものが1/10 を意味する数詞であるために、「割」とともに「分」を使った場合には、まるで分が1/100 を意味するかのように誤解されがちである。この誤解はかなり広範に信じられている[10][11]。
しかし、上記の「三割二分六厘」は、3.26割の意味である。したがって、「分」は、基準単位である1「割」(0.1) の 1⁄10を表しており、その結果として、全体の1⁄100すなわち、全体の0.01 を表わすことになる[12]。
- 三割二分六厘 = 3.26 割
- = 3 割+0.2 割+0.06 割
- = 3 割+2/10 割+6/100 割
- = 3 割+2 分+6 厘
以上により、分が割の1⁄10であり、厘が割の1⁄100であることが明確である。
その他の表現・使用編集
「七分咲き」、「五分五分」、「九分九厘」、「腹八分(腹八分目)」、「盗人にも三分の理」、「七分袖」の表現の中での使われ方は、全体である「十分(じゅうぶ) = 1」に対する割合を表している。つまりそれぞれ「1」を全部として、「0.7咲き」、「0.5 対 0.5」、「0.99」、「満腹の0.8」、「盗人にも0.3(30%)の理屈」、「長袖の70%の長さの袖」ということであり、ここでも「分」は 1⁄10という本来の意味を保っている。
中国と台湾における国際単位系のSI接頭語でも、1⁄10を表すデシ(deci、記号は d )の漢字として「分」を使用している(zh:国际单位制#詞頭)。なお、1⁄100のセンチ(centi、記号は c)には「厘」を、1⁄1000のミリ(milli、記号は m)には「毫」を使用している(zh:国际单位制词头)。
人民元やニュー台湾ドル、満州国圓などの通貨単位においても、分は元や圓から見れば1⁄100とはなるが、その場合でも分の意味としてはあくまで(元や圓の1⁄10である)角の1⁄10であり、分自体が1⁄100を表しているわけではない。例えば「3角5分」は「3.5角」の意味である。
六十進法における「分」編集
漢字の旁編集
分は、メートル法(現在では国際単位系)におけるデシ (d)(= 1⁄10)と同等である。 したがってデシを接頭語とする単位の漢字の旁(つくり)となっている。ただし、これらの漢字は計量法では認められておらず、使用することはできない。
読み編集
質量の1⁄10匁を表す「分」の場合は「ふん」と読む。これは、「匁」や「分」は貴金属(特に銀)を量るにも使われるため、一分(ぶ)金( = 1/4両)と混同されうるからである。
その他の「分」編集
次の場合は、元来の「分」とは由来が異なり、1⁄10や1⁄60を意味しない。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ 岩波新漢和辞典、p.146、岩波書店、第2刷、1995年4月13日発行、ISBN 4-00-080080-9
- ^ 白川静:常用字解、p.564、平凡社、初版第5刷、2004年3月1日発行、ISBN 4-582-12805-X
- ^ a b 二村(2002), p.289
- ^ 小泉(1974), p.345 「さらに銭の十分の一を「分」ということになったが、この分は質量単位に限らず、一般に十分の一を表わす字である。」
- ^ 小泉(1974), p.259 「銭以下は、分、厘、毫と十進法を取るのである。この方式もいつか日本に入った。
- ^ 計量単位令、別表第6 この表に掲げられているもの。「もんめ」のみが「真珠の質量の計量」の場合に限って認められるが、「分」は認められていない。
- ^ 二村(2002), p.289 長さ 尺貫法による単位. 寸の10分の1.
- ^ 二村(2002), p.289 また, 正しい使い方ではないが, 町工場などで1/8インチを分とよぶことがある. すなわち, 1/8インチは3 mm強であるから, ほぼ1分に近いところから出たよび名であろう.
- ^ 二村(2002), p.289 質量 日本固有の貫系の質量単位. 匁の10分の1をいう.
- ^ 大修館書店による「漢字文化資料館」において、「ややこしいのですが、この表は、実際の数字を表す場合の表で、割合を表すときには、10分の1に「割」が割って入って、後は1桁ずつ繰り下がるそうです。」という勘違いに基づく解説がなされている。漢字で数を表す時、10分の1は割、100分の1は分、1000分の1は厘となりますが、もっと小さい数を表す漢字には、どのようなものがありますか? 漢字Q&A、漢字文化資料館
- ^ 「分」は十分の一? 百分の一? 玉城武生、2020-07-29
- ^ 二村(2002), p.289 「1/10,すなわち0.1をいう。ただし,何割何分というときの分は,1割(0.1)の1/10のことで,1/100すなわち0.01を表すことになる.」
参考文献編集
- 二村隆夫 『丸善 単位の辞典』丸善、2002年3月25日。ISBN 4-621-04989-5。
- 小泉袈裟勝 『歴史の中の単位』総合科学出版、1979年12月1日。ISBN 978-4-88181050-7。
- 小泉袈裟勝 『歴史の中の単位』総合科学出版、1974年11月10日。