大帝

偉大な王やすぐれた帝王に対する尊号・美称

大帝(たいてい)は、「偉大な王」や「すぐれた帝王」に対する尊号・美称(称号[1][2]。 これとは別に、中国文化圏の民間信仰や道教では神格一般の尊号・美称として用いられる語[1]

他の語との使い分け 編集

日本語では、偉大な君主に対し用いて、「帝(皇帝天皇)」に対する「大帝」の語のほか、類似表現として「」に対する「大王」の表現もある。

さまざまな言語での表現
古代ギリシャ語 ラテン語 フランス語 ドイツ語 英語 中国語 日本語
Karolus Magnus
(カロルス・マグヌス)
Charlemagne[注 1]
(シャルルマーニュ)
Karl der Große
(カール・デア・グローセ)
Charles the Great
(チャールズ・ザ・グレート)
查理大帝[注 2] カール大帝
Ἀλέξανδρος ὁ Μέγας
(アレクサンドロス・ホ・メガス)
Alexander Magnus
(アレクサンデル・マグヌス)
Alexandre le Grand
(アレクサンドル・ル・グラン)
Alexander der Große
(アレクサンダー・デア・グローセ)
Alexander the Great
(アレクサンダー・ザ・グレート)
亚历山大大帝 アレキサンダー大王

たとえばラテン語の「Karolus Magnus」(カロルス・マグヌス)が、フランス語では「Charlemagne」(シャルルマーニュ)、ドイツ語では「Karl der Große」(カール・デア・グローセ)、英語では「Charles the Great」(チャールズ・ザ・グレート)などとなり、直訳的には「偉大なカルロス(シャルル/カール/チャールズ)」、意訳として「カール大帝」のように用いる。

「大帝」と呼ばれることがある実在の君主 編集

アジア 編集

ローマ帝国 編集

ローマ帝国以外の欧州 編集

イスラム圏 編集

中国文化・道教での神格化された存在への尊称としての「大帝」 編集

中国神話道教では神格に対する尊称・尊号のひとつに「○○大帝」がある。この文化圏では、天帝そのものなどの最高神のような存在から、自然や実在の人物を神格化したものまで、さまざまな対象の異称としても用いる[1]

中国神話では最初の伝説的な神格として「三皇五帝」が登場する。たとえば、そのうち「神農」の異称の一つに「神農大帝」がある。ほかにも自然事物では、たとえば北極星を神格化した「北極紫微大帝[22]道教では「玉皇大帝」とも呼ばれたり[23]、聖地の一つ泰山は「東嶽大帝」(仏教の文脈では「太山府君」)などとなる[24]

民間信仰がより体系化された道教でも、神格に対するさまざまな尊称として、「○○君」「○○天尊」「○○大帝」「○○大帝君」などの多様な表現がある。たとえば最高神とされる3神格を総称して「三清」や「三清大帝」などという。さらに、たとえば三清のなかで1位の神格「元始天尊」には、「天宝君」「清微天宝君」「玉清大帝」「玉清聖境虚無自然元始天尊」などの呼び方がある[25]。同様に、「三清」のうち「太上道君」の異称の一つに「上清大帝」がある[26]。中国民間信仰のうちの最高神「玉皇大帝」は、道教では三清の下位「四御」の一柱とされ、「天公」「玉帝」「玉皇上帝」などの異称をもつ[27]

ほかにも、たとえば中国文化の霊獣玄武には、「玄天上帝」「真武大帝」などの異称がある。玄武は道教では「三清」の一「太上老君」の化身とされる[28]。中国の南方では火の神「華光大帝」があり、これを5神として「五顕大帝」ともいい、明代に編まれた『西遊記』にも登場する。これは仏教のもとでは黄檗宗で伽藍を守る仏神となり、日本の寺院でも「華光像」(華光菩薩像)などとして祀られている[29]

10世紀から11世紀のアモイ福建省廈門市)の医師「呉夲」は、死後神格化されて「保生大帝」となった[30]。『三国志』に登場する武将・関羽を神格化した関帝を「関聖大帝」などと諡されている例もある。

注釈 編集

  1. ^ これとは別に「Charles Ier le Grand」(シャルル1世ル・グラン)という表現もある。
  2. ^ 「查理」は「シャルル」の音訳。

出典 編集

  1. ^ a b c 小学館日本国語大辞典』「大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  2. ^ 小学館『デジタル大辞泉』「大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  3. ^ "大帝[呉]". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  4. ^ "西本 省三". 20世紀日本人名事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  5. ^ 島薗進『明治大帝の誕生: 帝都の国家神道化』春秋社、2019年5月。ISBN 978-4393299517 
  6. ^ Romey, Kristin「米大統領が攻撃示唆 イランが誇る古代ペルシャの遺跡」『NIKKEI STYLE』鈴木和博訳、2020年1月19日。2023年4月26日閲覧。
  7. ^ 岡崎正孝「イランにおけるカナート」『水利科学』第18巻第4号、水利科学研究所、1974年10月、55頁、ISSN 0039-4858 
  8. ^ "コンスタンティヌス(大帝)". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年4月26日閲覧
  9. ^ "テオドシウス". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  10. ^ エドワード・ギボン 著、村山勇三 訳『ローマ帝国衰亡史』 5巻、岩波書店、1954年、263頁。 
  11. ^ "ユスティニアヌス(1世)". 旺文社世界史事典 三訂版. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  12. ^ "カール(大帝)". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年4月26日閲覧
  13. ^ "オットー1世(大帝)". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  14. ^ Angel, Miguel「ナポレオンの野望が火付け役? 古代エジプト史の解明」『NIKKEI STYLE』北村京子訳、2021年5月30日。2023年4月26日閲覧。
  15. ^ "イワン3世(大帝)". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  16. ^ "ピョートル1世(大帝)". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  17. ^ "エカテリーナ2世(大帝)". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  18. ^ "シメオン1世(大帝)". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月26日閲覧
  19. ^ 石田保昭『ムガル帝国とアクバル大帝』清水書院、2019年3月。ISBN 978-4-389-44136-4 
  20. ^ "イスラム教". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年4月26日閲覧
  21. ^ "アッバース(1世)". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年4月26日閲覧
  22. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「紫微大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  23. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「玉皇大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  24. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「東嶽大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  25. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「元始天尊」(JapanKnowledgeで閲覧)
  26. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「霊宝天尊」(JapanKnowledgeで閲覧)
  27. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「玉皇大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  28. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「玄天上帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  29. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「華光大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)
  30. ^ 岩波書店『岩波 世界人名大辞典』「保生大帝」(JapanKnowledgeで閲覧)

関連項目 編集