学区
学区(がっく)とは、日本においてある学校に通学する児童・生徒の居住地を限定したときのその区域をいう。西日本では校区(こうく)[1]、通学区域(つうがくくいき)[2]と呼ばれることもある。京都府の公立高等学校の学区では通学圏(つうがくけん)、北海道の一部と北陸地方では、校下(こうか)とも呼ばれる(主に高齢者の一部の方が使われている)[3]。名古屋市内では連区とも言われている。
概説
編集一般に、日本の公立学校は、設立する地方公共団体(都道府県、市区町村)の住民を対象とするため、その住民以外はその学校に入学、通学することができないことが多い。また、その地方公共団体の施政区域を更に細分して、通学できる学校を区域毎に指定する場合がある。それらの区域の一つ一つが学区である。
日本の公立小学校、公立中学校の多くは市町村立(東京都区部のみ区立)である。それぞれの市区町村に複数の学校があるときには、学校教育法施行令第5条第2項の規定により、市区町村の教育委員会が保護者に対し入学すべき学校を指定するが、一般的には学校ごとに学区の範囲を定め、住所地により就学すべき学校を指定している。
学校教育法施行令第8条において指定学校の変更が、第9条において区域外就学(他市区町村立、国立、私立、都道府県立、株式会社立の学校への入学)が認められている。また1990年代後半以降、公立学校選択制を導入し、保護者の希望により学区外の学校を選択し入学可能とする市区町村が多くなっている[4]。
日本の公立高等学校は、都道府県立あるいは市町村立である。2001年までは都道府県の中に学区を設置しなければならないという法律上の決まり[5]があり、主に全日制普通科で学区が設定されていた。なお、全日制の専門学科や定時制、通信制では都道府県域全体を学区としているところが多く、公立の定時制高校は有職者について所在の地域の学校への志願を認めるところもある。
都道府県の中に学区を設定する場合には、一つの学区の中に複数の高等学校を設置することがある。住民は、その中から任意の学校を選び、入学試験を経て、入学することとなる。学区制度は伝統校や進学校や部活強豪校など特定の学校や、都心部の学校への受験生の集中を避けること、過度の受験競争を緩和すること、地域の高等学校、新設の高等学校を育てることに役立っていた。しかし、少子化を迎えた今それらの役割は達成された。前記のように学区の設置義務を定めた法律も削除され、学生間の受験機会の不平等を招来するとして、全日制普通科においても高等学校の通学区域を専門学科などと同様に都県全域とし、学区を事実上撤廃するところが出てきている[6]。
日本の公立特別支援学校は都道府県立が多い。一般に、障害の区別ごとに、学校ごとの学区を設けるのが普通である。従って、公立小中学校同様、住居に応じて入学・通学する学校は1校に限定されるのが普通である。
転居のため、それまで通学していた学校の学区の外に出る場合、地域によっては転学を生徒に指導する場合もある。
越境入学
編集小中学校
編集特に小中学校において、児童・生徒の家庭の事情などにより住所地とは異なる学区にある学校へ入学する場合がある。このような入学を、越境入学と呼ぶ。また、小中学校が廃校になったことで、転校という形でやむを得ず越境入学をする場合もある。
具体例
編集大分県日田市前津江柚木の柚木小学校では2009年度で6年生2人が卒業し、2010年度以降は1人しか児童が残らないことが確定していた。柚木小学校の校区である柚木地区北部の柚木本村・千蔵木の2集落では、既に6歳未満の人口が0で、以後児童数が増える見込みが無かったため、日田市は2009年度限りで柚木小学校を廃校にする決定を下した。
この際に、市は柚木小学校に在校していた児童を、同じ前津江村内の小学校(出野小・大野小)ではなく、県境を超えた福岡県うきは市浮羽町の姫治小学校に転校させる措置を取った。これは、柚木小校区の2集落と他校区の集落の間は10キロ以上の距離がある上、途中に民家がないこともあって安全な通学手段が確保出来ず、柚木地区北部からバス路線がのびているうきは市内の方が通学に適していると判断されたからである。
高等学校
編集高等学校については、学区内の学校より学区外の学校への通学の方が交通面で安全な場合、そういった学区にある学校への入学も認める場合がある。
隣接県特例
編集県境地域での受験校選択の格差緩和や県境を越えた近隣校への自宅通学を促進するため、隣接する県の教育委員会が公立高校に関する協定を結び、隣接する県からの受験生を受け入れる隣接県特例がある。なお、教育委員会HPで非公開の事例も少なくない[注釈 1]。
- 千葉県・茨城県(現在茨城県は全県1学区制となり、事実上の学区を撤廃)・埼玉県・群馬県・栃木県・福島県は、各県の教育委員会が協定を結び、制限つきながら、県境地域で特に事情が無くても隣接県の高校を受験できる。
- 宮城県教委は、福島県、岩手県の教育委員会と隣接県特例を締結している。
- 青森県・秋田県・岩手県の教育委員会は各県相互に隣接県特例を締結している。
- 岡山県教委は兵庫県教委と智頭急行智頭線沿線の 美作市の大原・東粟倉両地区と西粟倉村を対象に、2019年春入学生から通学にかかる時間や費用の軽減を目的に、県境を越えた兵庫県立佐用高校へ通学できる協定を結んだ[7][8]。なお、この協定では兵庫県佐用町などからの岡山県立高校への受験生受け入れは協定されていない[注釈 2]。また、鳥取県教委は岡山県教委や島根県教委と締結している県境の受験生受け入れの協定を公開している。
県外枠の設置
編集岐阜県[9]、群馬県、三重県、奈良県、山梨県、京都府で特色ある教育活動(学科や部活動)を行っている一部の公立高校のように、県外受験生を受け入れる特例を設けている県や、地域の住民を身元引受人とすることで道県外受験生を積極的に受け入れる山間部・離島地域の公立高校が2010年代以降増加している。
日本における学区の歴史
編集- 1872年(明治5年)に学制が定められ、全国を大学区、中学区、小学区に分け、それぞれの学区に大学校、中学校、小学校を設置することとした[10]。
- 1879年(明治12年)に学制が廃され、代わって教育令が公布された。教育令では学区制が廃され、町村ごとに、あるいは数町村連合して公立小学校を設置すべきものと定められた。また私立小学校があれば別に公立小学校を設置しなくてもよいものとした。 1880年(明治13年)に教育令が改正された後、文部省達「小学校設置ノ区域並ニ校数指示方心得」が出され、小学校設置の区域としての学区を新しく設けることとした[11]。
- 1900年(明治33年)施行の小学校令施行規則第82条において、市町村は区域に学校が2校以上ある場合、保護者に対して就学すべき学校を指定することとした。(ただし保護者は市町村に指定学校を変更の申立てをすることが出来る。)同様の規定は、国民学校令施行規則第69条[12]並びに学校教育法施行令第6条及び第8条に引き継がれている。
- 中学校においては、1943年(昭和18年)12月から新たに学区制を採用し、一学区内に複数の学校がある場合は総合考査により入学者を決定することとなった[13]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ 『新明解国語辞典 第六版』(三省堂、2005年)の「校区」の項目には「〔関西以西などの方言〕学区。」と記されている。
- ^ 札幌市立小学校・中学校の通学区域・芦屋市 通学区域
- ^ NHK放送文化研究所"学区? 校区? 校下? - NHK放送文化研究所"(2011年1月8日閲覧。)
- ^ ただし、学校選択制については、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の推進や通学路の安全確保の必要性、また生徒数の偏り等の問題が生じたことから、杉並区のように廃止したり、見直しを行う自治体も多くなっている。
- ^ 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」(2002 年1月11日施行)において、「都道府県教委は通学区域を定める」という規定(第50条)は削除され、通学区域の設定の可否、またその設定方法について、当該高校を所管する教育委員会の判断に委ねることとした。
- ^ 東京都と和歌山県が2003年度に全国で初めて学区撤廃に踏み切った。ただし、東京都でも伊豆・小笠原諸島所在の高校では学区撤廃以後も、下宿生受け入れの都合から本土部からの受験生受け入れの制限が実施されている。
- ^ “教育|高校の越県通学、兵庫県内初導入へ 岡山から佐用”. 神戸新聞NEXT. (2017年1月6日)
- ^ “越境通学:美作などの中学生、兵庫・佐用高へ 19年春から”. 岡山: 毎日新聞. (2017年3月17日)
- ^ 岐阜県の県立高校では県外から生徒を募集します。
- ^ 学制百年史 第二章 近代教育制度の確立と整備(明治十九年~大正五年) 第一節 概説 二 学制の制定
- ^ 学制百年史 第二章 近代教育制度の確立と整備(明治十九年~大正五年) 第二節 初等教育 二 教育令・改正教育令と小学校の制度
- ^ 国民学校令及国民学校令施行規則
- ^ 学制百年史 第四章 戦時下の教育(昭和十二年~昭和二十年) 第三節 中等教育 二 中等学校制度の再編
関連項目
編集- 京都の元学区
- 神奈川県高等学校の通学区域 - 神奈川県の学区の変遷と一覧
- 大阪府高等学校の通学区域 - 大阪府の学区の変遷と一覧
- アメリカ合衆国の学区
- 地元集中
- 学校群制度