イラクファルージャで家屋の掃討にあたるアメリカ陸軍兵士達、2004年11月

市街戦(しがいせん、:Urban Warfare、米軍:Military Operations on Urban Terrain(MOUT)、英軍:Fighting In Build-Up Area(FIBUA)は、戦闘形態のひとつで、民間人が生活する市街地集落など建築物が存在する複雑な地形において行われる作戦・戦闘をいう。

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概要編集

市街戦とは、都市部において行われる戦闘である。市街地は、建造物バリケードが障害になって装甲戦闘車両が侵入しづらく、自ずと歩兵の重要性が増す。障害物の多い市街地では、射線や視線が通りにくく、ともすれば出会い頭に近接戦闘が頻発する。言い換えれば、待ち伏せを仕掛けやすく、装甲戦闘車両への肉薄攻撃も容易になる。歩兵は、豊富な遮蔽物に身を隠すことで脆弱性が補われ、野戦より有利に戦うことができるとされる。

建造物に立て篭もった敵には爆撃が通用しにくいため、大火力で建造物ごと破壊するか、歩兵の近接戦闘で掃討していく必要がある。かつては重砲で地区ごと破壊するようなことも行われていたが、民間人や無関係の施設への被害が大きい。そのため、現代では精密誘導兵器を用いて攻撃対象を極限する。 戦争の勝敗が主要都市の制圧にかかっていることは歴史的に見ても多い。第二次世界大戦においては、スターリングラード攻防戦ベルリン攻防戦、また、現代においても、朝鮮戦争ソウル会戦ベトナム戦争テト攻勢第四次中東戦争スエズの戦いソマリア内戦におけるモガディシュの戦闘など多くの市街戦が行われてきた。ブラジルリオデジャネイロではファヴェーラスラム)を根城とする麻薬ギャング組織を撲滅するために、リオデジャネイロ州軍警察所属の特殊警察作戦部隊BOPEが、スラムでの市街戦を現在も経験している。

都市化や非正規戦の増加により市街地戦闘は、より発生しやすい戦闘の一形態となりつつあり、世界各国で作戦戦術研究が進んでいるが、市街地戦闘は通信による指揮統制を困難にし、中隊以上では効果的な戦力発揮(総合戦闘力の発揮)ができないとして、一般的にはやむを得ない場合を除いて、市街地戦闘は避けるべきとされている。一般的に、防御側に有利な戦闘形態であるとされるが、撤退戦における市街地への進入は絶対に避けるべき事項とされている。

特徴編集

 
建物への侵入訓練中の陸上自衛隊員
 
都市迷彩を施したCM-32装輪装甲車

市街戦は都市圏において行われるため、旧来の戦争で想定されていた自然環境にはない特徴がいくつか挙げられる。ここでは主要なものを挙げる。

  • 明確な戦線が存在せず、事前の作戦や兵站計画の立案は困難となって、流動的な対応を迫られる。逆に建物や道路などにより移動ルートは予測しやすくなる。
  • 近代建築物は軽度の爆撃火災によっても容易には破壊できず、強固な掩体として機能する。また残った建物が遮蔽物となり、・砲・ミサイルの射程が限られ、目標捕捉や探知、友軍との通信も困難となる。
  • ヨーロッパなどに多い歴史的な都市は狭い小道が多く、防御側は待ち伏せがしやすくなる。近年に開発された新しい都市は道路や建物の配置が変化しやすいため、最新の都市構造に通じた側に有利となる。
  • 建物が多いため航空機から身を隠すのに適している。特に高層ビル街は固定翼機による偵察・対地攻撃が難しくなるため、ヘリコプターや小型無人機などが必要となる。
  • 道路の幅や強度によっては戦車などの大型車両が通行できないことがある。逆に整備された道路は装輪装甲車などの起伏に弱いが速度に優れる車両に有利となる。ただし崩れた瓦礫によって交通が阻害される[1]など、戦況に応じて変化する。
  • 歩兵は遮蔽物の死角からの奇襲や建物内部の調査が多くなるため、CQBなどの突発的な接近戦に対応する技術を習得する必要がある。このため歩兵の装備は軽量で動きやすい物が必要となる。
  • 建物が密集している区域では風か通りにくいことから、平原に比べ煙幕毒ガスが拡散しにくいため、特に防御側は対策が必要となる。
  • 逃げ遅れた民間人と私服のゲリラは目視での敵味方識別が難しく、兵器作戦戦術が制限される。
  • 自然環境での行動を前提とした従来の迷彩は、コンクリート製のビルやアスファルトの道路などモノトーンで直線的な構造物が多い市街地では効果が減じられ、緑や茶色を基本とした戦闘服は逆に目立つ事もある。対策として灰色色をモザイク状のパターンで配置した都市迷彩が考案された。

近代戦においては、戦況不利となった陣営が防御戦闘のために市街地区を防御陣地として利用する場合が多い。両脇に建物がある道路は容易に封鎖が可能で、建物自体を利用すれば短時間に構築できる。無数の有効な火点を立体的に設定できる狭隘な市街中心部には大型の戦闘車両の投入が難しい。上空からの視界が阻まれるため航空戦力の投入も制限される。レーダー赤外線暗視装置、ナイトビジョンといったセンサー類は制限される。防御側は事前に最新の地形と街区の情報が得られ、戦術的に優位に戦うことができる。

これらにより、市街戦では攻撃側に不利となる要素が多い。その一方で、戦闘を避けて迂回されると防御側は友軍より孤立し篭城戦や飢餓耐久状態になるが、市街地と外を繋ぐ道路は限られているため撤退ルートが固定される。攻撃側には攻撃実行の選択権があり、側背攻撃の危険を受忍すれば迂回できる。また容易に移動できないため核兵器などの戦略兵器、戦略爆撃機からの絨毯爆撃や地中貫通爆弾などの対施設攻撃の脅威が増す。

都市占拠の事実は彼我双方にとって心理的影響があり、また、戦争終結前後での政治的影響が大きく、戦略的目標となり得る。

市街戦の例編集

脚注編集

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出典編集

  1. ^ 『軍事研究2007年12月号別冊 新兵器最前線シリーズ5 世界のハイパワー戦車&新技術』 (株)ジャパン・ミリタリー・レビュー。ISSN 0533-6716NCID AN00067836

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集