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憲法改正

憲法の条文を公式に修正、追加または削除すること
改憲から転送)

憲法改正(けんぽうかいせい、英:Constitutional amendment)とは、成文法で示される憲法の条文を修正、追加または削除すること[1][2]。憲法改正における問題点は主として、

  1. 憲法改正権の所在
  2. 憲法改正の手続
  3. 憲法改正の方向性

にある[3]。憲法の条文が変わらないまま、その規範の意味が変更・修正されるとする憲法の変遷とは区別される[4]改憲(かいけん)ともいう。

日本国憲法の改正に関する議論については、憲法改正論議日本国憲法改正案一覧を参照。

憲法改正の方向性編集

改正の論点としては、一般的に統治機構・地方自治・人権などの政体にかかわる規定が取り上げられることが多いが、法律で規定しても良いような政体の変更に結びつかない事項について改廃する場合[5]もある。

1945年以降の、アメリカ・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・オーストラリアの6か国における憲法改正について見れば、統治機構・地方自治(中央と地方の権限変更等)に関する改正が多く、人権に関する改正、憲法改正手続きの改正も見られる[6]

憲法改正の手続編集

憲法に適切な改正手続きを定めるのは、革命クーデターなど非合法な憲法の変更を防ぐ目的がある。適切な改正手続きがあれば重要な政治体制の変革はすべて憲法改正の形で合法的におこなえるからである[7]

憲法の定める改正手続きによらない憲法の変更、たとえば、革命クーデターは、非合法であり、許されない。しかし、そういう禁止がかならずしも事実において守られないことも、諸国の歴史の示すところである[8]。もっとも、改正ではなく新憲法の制定という手段が最終的に否定されうるかどうかは、革命やクーデターの成功の度合い、新政府に対する国民の支持、旧政府に対する国民の不支持の度合いによっても変わってくる。世界の国では、憲法の変更が改正手続でなく新憲法の制定という形で行われることも多い。

なお、改正の実際上の難易について、硬性憲法であることは、改正が常に事実として困難であるとはいえない。同じ硬性憲法であっても、明治憲法は、五十年余にわたって一回の改正もなかったが、スイス憲法、アメリカの多くの州憲法は、しばしば改正されている。これに反して、軟性憲法の一つといえるイギリス憲法の場合、必ずしも改正が容易に行われるとはいえない。憲法の規定が詳細か簡潔か、憲法を政府や国民がどのような規範として意識しているか、政治的・社会的変化により憲法と実際とに厳しい隔離が生じているかどうか、その空隙を埋める方法として、解釈運用の果たす役割をどう考えるか、改正を実現するに足りる政治力が存在しているかどうかなどによって決まるものである[9]

憲法改正権の所在編集

憲法制定権力は、1789年のフランス革命以降、国民主権と同意義的に国民が持つものと考えられるようになり、司法・立法・行政といった国家権力は国民が制定した憲法に基づいて存在する機関だと説明される。併せて、憲法改正権は憲法制定権の元で定められる権利の一部だと考えられているため、それらの機関に憲法改正権自体を持たせることには消極的になる向きがある。

なお、大日本帝国憲法施行時に天皇主権を掲げていた日本では、政府は天皇機関説を排撃し、日本国憲法の制定経緯にあたっても国民の憲法制定権や憲法改正権を明確には採用していない。

憲法改正の限界について

憲法改正について限界があるか否かについては、一般に、

  1. 所定の改正手続きをふんでもなお一定の事項については改正を許さないものとする実体的改正禁止規定の効力
  2. 実体的改正禁止規定が存在しない場合の限界の有無
  3. 改正手続規定の改正の可否

の三点が議論される。これら3つの問題に対する答えは、改正権の上位に憲法制定権が別に存在すると考えるか否かによって変わると考えられている[10]。詳細については、「憲法改正論議#憲法改正の限界」を参照のこと。

有無の区分 特徴
限界説 いかなる憲法にもその基本原理があり、基本原理を変更する改正はできないとする。ドイツフランスなど、人権や統治機構などに関する一部条文の憲法改正を憲法自体で禁止している例もある。憲法改正手続きにより基本原理を変えるような改正が行われ、実際に憲法として国民に受け入れられ通用する場合は、無効とは言いえず、憲法の破棄と新憲法の制定があったものとみる[11]
無限界説 無限界論の特色は、およそ法・憲法は歴史の所物であり、歴史の発展に即して改正されることを所期している、とする。したがって、手続き的に瑕疵なく行なわれる以上、憲法の改正は無限界であり、なんら憲法の諸条項の中に軽重の区別をしてはならないし、またそうすることは無意味であるとする。基本的原理が修正または根本的に変更されても、それが歴史の発展にかなうものである以上、憲法の改正として承認されなければならないとするのである。法を歴史的産物として客観的に捉えている無限界説をもって正当と考える[12]

各国の憲法上の改正手続について編集

日本編集

日本では日本国憲法第96条においてその改正手続を定めている。

  1. 国会の発議
  2. 国民の承認
  3. 天皇公布
国会の発議
国会の発議は両院の総議員の3分の2以上の賛成によってされる。ここでいう「総議員の3分の2」はそれぞれの議院の3分の2であり、両院の議院全員で3分の2ではない。
その他、細かな争点には以下のものがある。
  • 憲法改正案を国会に提案する権利が国会議員にあることには学説上異論はない。立法上、憲法改正案を国会に提案する権利を内閣国民に付与することも可能とする見解もある。
  • 審議の定足数は最低限総議員の3分の2以上を必要とする。全員賛成だとしてもこれだけの出席が必要だからである。
  • 総議員の意味は、法律上の定数とする説と、現在議員の総数とする説がある。
  • 両議院の議決は対等である。
国民の承認
国会が議決すると、法案は国民投票にかけられ、承認は多数決によっておこなう。投票の規定については日本国憲法の改正手続に関する法律による。
  • 賛成の投票の数が投票総数(賛成の投票数と反対の投票数を合計した数)の2分の1を超えた場合は、国民の承認があったものとなる(有権者の半数ではない)。
天皇の公布
国民投票で可決されると、改正憲法は天皇がこれを国民の名において公布する。
投票率、絶対得票の問題点
前述のように国民投票は投票された票の中で賛成が過半数に達すれば可決するのであるが、有権者全体から割り出した数ではないため、きわめて低い投票率の中でも賛成が過半数に達しさえすれば、成立となる。極端に言えば投票率3%で圧倒的多数が棄権の状況で賛成2%、反対1%であったとしても理論的には成立しうる。このことから、「全有権者の数に比べて極端に少ない賛成投票の数、割合で憲法改正が成立する可能性を認めてしまっていいのか」、「その後の憲法体系を不安定にしないためにも、憲法改正の成立要件のハードルを上げた方がいいのではないか」という問題提起がなされている[13]
そこで、リトアニアの国民投票制のように最低投票率制を設けて過半数ルールはそのままに「投票率○○%を超えること」という条件を加えたらどうか、という提案もなされている。国民投票法案の審議過程で一部野党が最低投票率制の導入を主張したが「投票ボイコットを誘発しかねない」などの理由で見送られた[14]
そこで提案されるのが「賛成投票の数が全有権者の数の○○%を超えること」という、絶対得票率のルールである。実際、沖縄県民投票条例ではこのルールが採用され、最低投票率ルールを採用せず、10条2項で「県民投票において、本件埋立てに対する賛成の投票の数、反対の投票の数又はどちらでもないの投票の数のいずれか多い数が投票資格者の総数の4分の1に達したときは、知事はその結果を尊重しなければならない」と、絶対得票率25%ルールを採用していた[15]
○○%を超える賛成投票が絶対的に必要と規定すれば、極端に低い数で憲法改正が成立する問題は合理的にクリアできる。南部義典シンクタンク「国民投票広報機構」代表)は、「憲法改正の成立をめざす立場(賛成)は、過半数だけでなく、この25%を超えるべく、懸命に運動を展開することでしょう。逆に、反対の立場は、投票棄権が法的な意味をなさない中で、その賛成派の運動を上回ろうと、さらに懸命に運動を展開することでしょう。全体として、賛成・反対を合わせた投票率が向上する効果が得られるはずです」と提言する[16]

日本国憲法に関する個別の条文に対する改正内容の論点は、憲法改正論議#憲法改正の論点を参照。

アメリカ合衆国編集

アメリカ合衆国憲法はいわゆる硬性憲法である。憲法の修正がなされた場合にはそれまでの条文はそのまま残され、憲法修正条項として追加される形により修正される。合衆国憲法第5条によって修正される。

連邦議会は、両議院の三分の二が必要と認める時は、この憲法に対する修正を発議し、または全州の三分の二の議会の請求がある時は、修正発議のための憲法会議を招集しなくてはならない。

いずれの場合でも、修正は、全州の四分の三の議会によって承認されるか、または四分の三の州における憲法会議によって承認される時は、あらゆる意味において、この憲法の一部として効力を有する。いずれの承認方法を採るかは、連邦議会が提案することができる。

ただし、一八〇八年以前に行われる修正によって、第一条第九節第一項および第四項の規定に変更を及ぼすことはできない。また、いずれの州もその同意なくして、上院における平等の投票権を奪われることはない。

これまでの憲法修正では、唯一の例外である修正第21条を除いて、全て前者の方法(議会による承認)によっている(修正第21条のみが憲法会議を経て成立した。)。

なお、アメリカ合衆国は各州にも独自の憲法が存在する。

イギリス編集

イギリスは、判例慣習法法律などのうち、国家の性格を規定するものの集合体が憲法とされる不文憲法国家である。よって、イギリスにおける実質的意味の憲法は、法的には通常の法律制定手続きで成立した法律によって変更される。

フランス編集

フランス共和国憲法の改正手続はフランス共和国憲法第89条に規定されており、概要は以下の通りである。

  1. 政府又は議会が憲法改正案を提案する。
  2. 憲法改正案を上下両院で過半数の賛成で可決する。
  3. 両院合同会議で5分の3以上の賛成(政府提案の場合のみ)または国民投票で有効投票の過半数の賛成を得て改正案が成立する。

フランス共和国憲法第11条を根拠に、以下の手続きで改正されたこともある。

  1. 大統領が憲法改正案を提案する。
  2. 国民投票で過半数の賛成を得て改正案が成立する。

フランス共和国憲法第11条では公権力の組織に関する法律案は議会を通すことなく上記の手続きでも成立するとされている。また、憲法もここでいう法律に含まれるとされる。そのため、過去には憲法改正案(大統領の選挙方法を間接選挙から直接選挙に変更)が公権力の組織に関する法律案に含まれるとして、上記の方法で憲法改正が行われた。元老院は憲法第89条にもとづかない憲法改正を違憲として憲法裁判所に訴えたが、憲法裁判所は国民投票で成立した法律は審査の対象外で判断する権限を有さないと判示し、憲法第11条にもとづいて憲法が改正されることが確定した。

ドイツ編集

ドイツ連邦共和国基本法(「憲法」ではなく「基本法」と命名)の改正は、

  • 「連邦議会3分の2以上」かつ「連邦参議院の表決数3分の2以上」で発議
  • ナチス国民投票を乱発(悪用)して政権基盤を強化した歴史の反省から、国民投票は不要となり、連邦議会、連邦参議院の議決と大統領の承認で改正できる。

各国の憲法改正の状況編集

後述のように、国によって憲法の性質とそれをめぐる環境もかなり異なるので回数だけを取り上げた平板な比較はあまり意味をなさない。

デンマーク編集

デンマーク王国憲法は、1849年に制定されたあと、1953年に二院制から一院制に移行した4回目の憲法改正が最後となっている。

韓国編集

大韓民国憲法は9回にわたって憲法が改正され、特に、そのうちの5回では韓国の国家体制を大きく変えるほどの改正がされた。現在の憲法は第六共和国憲法と呼ばれる。

リトアニア編集

リトアニアのリトアニア共和国憲法は1992年に制定後、10回改正されたが国民投票をめぐって失敗が相次ぐ。1996年以降、改憲のために実施した7つの国民投票すべてが過半数に届かない「否決」か、投票率が基準に満たない「不成立」となった。リトアニアでは「過半数の賛成」という基準以外にも、改正項目ごとに「投票率50%以上」や「絶対得票率50%以上」といった条件が細かく規定されている。このように投票率で線引きする規定は日本の国民投票には存在しない[17]。「最低でも投票率○○%以上必要」という条件を加えるのは日本よりも厳しい。リトアニアの最低投票率制と比べて、視察した議員団の山花郁夫野党筆頭幹事(立憲民主党)は「(日本の)改正手続きが厳格すぎるとの声があったが、決してそうではないと確認できた」と話す[18]

リトアニアでの失敗続きは、世論の理解が追いついていないためとの指摘もある。同国のラウラ・マティヨシャイティーテ中央選挙管理委員長は、国民投票の際に広告を出す習慣がそもそもなく、過去の投票では賛成派、反対派とも宣伝活動をほとんどしてこなかったと説明する。広告費には110万ユーロ(約1億3300万円)の上限があり、マティヨシャイティーテ委員長は「一般国民が(内容の詳細を)理解できない状態で行われてきた」と語った[19]ネット選挙における広告の規制など日本も他人事ではない。

イタリア編集

イタリア共和国憲法は14回の憲法改正をおこなっている。

アメリカ合衆国編集

アメリカ合衆国憲法は、18回、27か条を修正・追補している。

ドイツ編集

ドイツ連邦共和国基本法は、第二次世界大戦後に新たに制定され、63回の憲法改正をおこなっている(2019年11月9日現在)。ただし、戦う民主主義にもとづき、民主主義破壊につながるような改正は認めていない(第1章「基本権」)。63回は多いが、連邦制を採用していて、連邦と州との権限配分を基本法で細かく規定しており、見直すたびに改憲が必要になるのも改正回数を押し上げている一因だという[20]。2019年3月には教育へのデジタル技術の活用を進めるため、連邦(中央政府)から各州への財政支援を可能にする改正を行ったが、日本からの視察団の与党議員は「日本なら憲法改正どころか、毎年の予算措置で対応できる内容だ」と指摘した。他の多くの改憲例を見ても、「日本の法律改正と同じような感覚」(奥野総一郎国民民主党憲法調査会事務局長)で繰り返されてきたのが実状だという[21]

また、連立政権も珍しくなく、政党間での政治的取引が活発なことも回数を押し上げてきた。保守派が求めた州の権限強化を認める見返りに、反対する左派が、環境動物の保護規定をセットで改憲案に加えさせるといったような妥協案がたびたび図られてきたという(フンボルト大学、クリストフ・メラース教授(公法学))。メラース教授は「基本法の改正はあまりにも簡単であるため、重要でないことまでどんどん取り込まれてしまった。(憲法として)もはやあるべき姿ではない」と解説する[22]

スイス編集

スイス連邦憲法も改正が多く、過去140回以上にもわたる憲法改正をおこなっている[要出典]。なお、スイス憲法旧25条の2(出血前に麻酔させることなく動物を殺すことを禁止)の削除のように、形式的意味の憲法ではあるが実質的意味の憲法に含まれない条項の改正も含まれる。

メキシコ編集

メキシコは、1910年のメキシコ革命で1917年に制定された後、最多の憲法改正をおこなっているとされ、2007年11月までに175回改正している[要出典]

文献情報編集

脚注編集

  1. ^ 憲法改正小学館デジタル大辞泉
  2. ^ 憲法改正(三省堂大辞林 第三版)
  3. ^ 憲法講義(上田勝美)p286
  4. ^ 山下平八朗、「憲法の変遷」 『愛知工業大学研究報告』 1981年 16号 p.37-42
  5. ^ 例:スイス憲法旧25条の2(出血前に麻酔させることなく動物を殺すことを禁止)に関する憲法改正
  6. ^ 「諸外国における戦後の憲法改正【第5版】」山岡規雄・井田敦彦 国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 932(JAN.10.2017)[1]
  7. ^ 宮沢俊義『憲法講話』岩波書店岩波新書〉、1967年6月1日(原著1967年4月20日)、第2版、p. 215。ISBN 97840041003482009年5月30日閲覧。
  8. ^ 憲法講話(宮沢俊義)p215
  9. ^ 憲法(第3版)(伊藤正己)pp18-19
  10. ^ 憲法第5版(長谷部恭男)pp34-35 ISBN 978-4-88384-168-4
  11. ^ 「憲法の改正」と「新憲法の制定」の違い(法学館憲法研究所HP)
  12. ^ 憲法講義(上田勝美)p288
  13. ^ 南部義典シンクタンク「国民投票広報機構」代表)、最低投票率ではなく、”絶対得票率”を考えよう ←グラフも用いてわかりやすく解説されている。
  14. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか
  15. ^ 南部義典シンクタンク「国民投票広報機構」代表)、最低投票率ではなく、”絶対得票率”を考えよう
  16. ^ 南部義典シンクタンク「国民投票広報機構」代表)、最低投票率ではなく、”絶対得票率”を考えよう
  17. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか
  18. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか
  19. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか
  20. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか
  21. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか
  22. ^ 朝日新聞2019年10月29日朝刊、(憲法を考える)改憲 日本は遅れているのか

関連項目編集