護憲(ごけん)とは、

  1. 立憲政治を守ること[1][2]
  2. 現行の憲法を擁護すること[1][2]

ここでは、上記のいずれについても記述する。 なお、大辞林第三版においては「立憲政治や憲法を擁護すること。」[3]とされている。

概要編集

立憲政治を守る編集

立憲主義に基づいて行われる政治(立憲政治[4])を擁護する主張ないしは政治的立場のこと。詳細は用語の使用者などが主張する立憲政治の内容によって異なり、以下のような例がある。

  • 議会の過半数を制した政党が政府を組織すべきだとして議会制民主主義の実現を訴える主張、政治的立場のこと。現在の日本では、首相指名選挙衆議院議員の多数が投票した者が首相となって政府を構成する制度的保証(日本国憲法第67条)があるため、日本の政治状況に言及する場合であれば、大正時代の護憲運動やそれを推進した護憲三派など、過去についての記載で使用される用語である。
  • 立憲政治を行うためには君主制を廃止する必要があるとする主張を前提として天皇制廃止を訴える立場のこと。天皇制廃止論者でなければ護憲派とはいえないと主張する論者もある[5]。天皇制廃止の手段として憲法の改正を主張する者は、ここで言う意味の護憲派であり、かつ改憲派でもあることになる。

現行憲法を擁護する編集

日本においては現行憲法の条項を変えるのを防ぐという意味で用いられる[6]。この言葉の使い方について阿川尚之は、憲法を護ることは手段であって絶対の目標ではなく、必ずしも改正を避けることを意味しないはずとして批判している[7]

憲法を修正すべきかという意見と、右派・左派、あるいは保守・革新という政治的立場には、本来関係はない[8]。原理的には、左派の改憲派も右派の護憲派もあり得るが、政治報道においては「改憲勢力=右翼、護憲勢力=左翼」とされ、護憲・立憲主義・平和主義といった立場を短絡的に結びつけるような報道もよく見られる[8]

日本においては、憲法改正に熱心なのは保守派であり、進歩派は改憲に反対(もしくは慎重)とされる[9]。なお、アメリカにおいては、憲法改正や解釈改憲は進歩派の掲げる目標を実現する手段としておこなわれ、保守派はそれを防ごうとする傾向がある[10]。この違いについては、阿川はアメリカの憲法が元々保守的な性格を有しており、日本国憲法は進歩的な性格だからではないかとしている[10]

「現行憲法を擁護する」の詳細編集

以下では、現代の日本における「現行憲法を擁護する」意味での護憲について記載する。

なお、法哲学者の井上達夫は、さらに細分化して、「修正主義的護憲派」(専守防衛・個別的自衛権の枠内なら自衛隊を合憲と見なす立場)と、「原理主義的護憲派」(自衛隊の存在を違憲とする)があるとしている[11]

日本の各政党の立場編集

日本の国会に議席を有する政党について、以下に記載する。

自由民主党日本維新の会は、憲法9条を含む日本国憲法の改正に前向きな改憲の立場を取っている[12][13]

日本共産党社会民主党は、日本国憲法第9条の改正に反対する護憲の立場を取っている[12]

公明党国民民主党は、上記2者の中間の立場を取っている[12][14]立憲民主党は、日本国憲法における「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」は堅持するとしながらも、立憲主義を深化させる観点から未来志向の憲法議論を真摯に行う論憲の立場をとっている[15]れいわ新選組は、緊急事態条項の創設が改憲の目的であるとの立場で改憲に反対している[16]NHK党は、改憲してNHK受信契約の自由を明文化すべきとしており、憲法9条については憲法改正か自衛隊廃止を国民に問うべきだとしている[17][18]

上記の通り日本においては進歩派は改憲に反対(もしくは慎重)とされるが、日本共産党は、第1章の象徴天皇について、2004年までの日本共産党綱領では廃止して共和制に移行する立場をとっていた[19]。また、元日本共産党中央委員会常任幹部会委員で、共産党を離党した筆坂秀世によれば、1970年から1980年代にかけて日本共産党が国民の合意を前提としつつ、憲法改正による最低限の軍備保有を方針とした時期があるという[信頼性要検証][20]

法哲学者の見解編集

法哲学者の井上達夫は、修正主義的護憲派(専守防衛・個別的自衛権の枠内なら自衛隊を合憲と見なす立場)については解釈改憲を是認している点で日本国憲法第9条日本国憲法第96条に違反し立憲主義を蹂躙しており、解釈改憲を是としつつ集団的自衛権行使を解禁した安倍政権の解釈改憲だけを違憲と批判するダブルスタンダードで、立憲主義を二重の意味で蹂躙していると批判している[11]

また、原理主義的護憲派(自衛隊の存在を違憲とする)については、違憲状態を固定化することで憲法の規範性に対する打撃を与えており、立憲主義を堀り崩すと批判している[11]。これらから、井上は、立憲主義を守るには「9条削除」や「護憲的改憲案」が必要としている(出典中「堀り崩す」は「掘り崩す」の誤字と推定:原文ママ)[11]

護憲派の見解編集

日本国において、戦後、「改憲」「護憲」の最大の焦点となったのは再軍備の是非であり、憲法擁護とは平和憲法擁護、つまり憲法9条をめぐるせめぎ合いだったとされる。戦前、立憲主義にのっとった民主政治を求める護憲派の願いを最終的に打ち砕いたのが軍国主義とされ、それがゆえに憲法9条を柱とした「平和憲法」の擁護が戦後の護憲派にとっての中心的課題となった側面もあったとされる[21]

護憲派は、特に憲法前文や9条に掲げられた「平和主義」の理念を特に高く評価している[22][23][24][A]

丸腰は危険ではないかという懸念については、治安の悪いアフガニスタンで長年医療灌漑活動に尽力し、2019年に銃撃を受け亡くなった中村哲医師が、「よそ者が武器を持って入ってくると現地の人々に警戒されるので、まず現地の人と仲良くなって信頼関係を築き、現地人の護衛を雇うのがベストだ。自衛隊派遣は有害無益だ」と述べていた[23]。しかしながら本人は2019年、アフガニスタンのナンガルハル州ジャラーラーバードにて、武装勢力に銃撃され死去した[36]

平川克美は、政治は結果であるとはよく言われるとし、日本国憲法については、それは戦後60年間、日本は一度も戦火を交えず、結果として戦争の犠牲者を一人も出していないというのがこれに当たるとしている[37]

伊藤真(資格試験予備校伊藤塾の代表、弁護士日弁連憲法問題対策本部副部長)は、憲法の理念を生かす「積極的非暴力平和主義」に基づき非軍事の分野で国際貢献をすることを唱えている。詳細は、伊藤の護憲派としての見解の詳細を参照。

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 護憲デジタル大辞泉 2020年2月21日閲覧
  2. ^ a b 護憲 〔精選版〕日本国語大辞典 2020年2月21日閲覧
  3. ^ 「護憲」大辞林第三版
  4. ^ 立憲政治デジタル大辞泉 2020年2月21日閲覧
  5. ^ 山口泉 『週刊金曜日』 2007年1月26日号「「戦後」の欺瞞に寄生する“知的”(?)スノビズム」
  6. ^ 阿川尚之「憲法改正とは何か-アメリカ改憲史から考える」新潮社 p242
  7. ^ 阿川尚之「憲法改正とは何か-アメリカ改憲史から考える」新潮社 p242-243
  8. ^ a b 森健『「改憲」肯定派が多数という調査結果 「9条が自民党を勝たせてきた」政治学者語る』Yahoo!ニュース 2022年6月9日公開 2022年6月10日閲覧 東京大学大学院の境家史郎教授(政治学)のコメント
  9. ^ 阿川尚之「憲法改正とは何か-アメリカ改憲史から考える」新潮社 p240
  10. ^ a b 阿川尚之「憲法改正とは何か-アメリカ改憲史から考える」新潮社 p239-240
  11. ^ a b c d 護憲派は国民を信じていない 井上達夫インタビュー(下)立憲的改憲こそ安倍改憲への対抗策だ 石川智也(朝日新聞記者)
  12. ^ a b c 【図解・政治】衆院選・憲法をめぐる主な政党の立場(2012年12月)
  13. ^ 維新・馬場氏、改憲巡る国民投票実施を「民主主義成長に」
  14. ^ 憲法記念日 国民民主党玉木雄一郎代表談話「憲法審の議論先導する」
  15. ^ 立憲民主党. “綱領” (日本語). 立憲民主党. 2023年1月12日閲覧。
  16. ^ 現行の憲法に対する各党の主張(2022年4月現在) れいわ新選組
  17. ^ 憲法記念日 NHK党立花孝志党首談話「契約の自由、明文化へ改正」
  18. ^ 現行の憲法に対する各党の主張(2022年4月現在) NHK党
  19. ^ 天皇の制度と日本共産党の立場 志位委員長に聞く 2019年6月4日公開 2020年2月21日閲覧
  20. ^ 「MSN産経ニュース」 2012.9.30 17:10 『(9)政治評論家・筆坂秀世氏 「共産党は一貫した護憲勢力」か』、「JBPRESS」2014.10.6『左翼はなぜ力を失ったのか』[信頼性要検証]
  21. ^ 中野晃一『「改憲」の論点』のうちの1章、114p、集英社新書、2018年
  22. ^ 半藤一利保阪正康『憲法を百年いかす』筑摩書房、2017年
  23. ^ a b 吉岡達也『9条を輸出せよ!―非軍事・平和構築の時代へ』、大月書店、2008年
  24. ^ 伊藤真『やっぱり九条が戦争を止めていた』40p、2014年
  25. ^ “河野洋平元衆院議長「現行憲法に不自由はない」 改正に否定的見解”. 産経ニュース (株式会社産業経済新聞社 / 株式会社産経デジタル). (2016年10月4日). https://www.sankei.com/article/20161004-M4UWZO6FXBJZZC7DOVM5OMQEQU/ 2023年1月14日閲覧. "9条に自衛隊の存在を位置づける改憲についても「9条はいかりの役割。自衛隊の実態に合わせて9条を改正すれば実態はさらに進む」と指摘した。" 
  26. ^ “「安倍という不思議な政権」河野洋平元衆院議長が首相を呼び捨て猛批判  講演詳報”. 産経ニュース (株式会社産業経済新聞社 / 株式会社産経デジタル). (2017年5月31日). https://www.sankei.com/article/20170531-AKOCUARFSZJXHIQFKIKK2VMVI4/ 2023年1月14日閲覧。 
  27. ^ “「自民が一貫して改憲政党というのは誤り」河野氏が講演”. 朝日新聞デジタル (株式会社朝日新聞社). (2017年5月31日). オリジナルの2020年11月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201112041339/https://www.asahi.com/articles/ASK506VYFK50UTFK017.html 2023年1月14日閲覧。 
  28. ^ 松井望美 (2017年5月31日). “河野氏、安倍首相を批判「憲法9条はさわるべきでない」”. 朝日新聞デジタル (株式会社朝日新聞社). オリジナルの2021年5月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210506233941/https://www.asahi.com/articles/ASK505T5JK50UTFK00W.html 2023年1月14日閲覧。 
  29. ^ “「自民党は居心地良くなかった」 護憲派の河野洋平元総裁が心情吐露”. 産経ニュース (株式会社産業経済新聞社 / 株式会社産経デジタル). (2017年12月21日). https://www.sankei.com/article/20171221-GKGAED7BYRLYNMW52PC2IGDJX4/ 2023年1月14日閲覧。 
  30. ^ “権力者の改憲号令に疑問 河野洋平元衆院議長に聞く 党内批判勢力「だらしない」”. 西日本新聞 (株式会社西日本新聞社). (2018年2月12日). https://www.nishinippon.co.jp/item/n/393460/ 2023年1月14日閲覧。 
  31. ^ “福田康夫元首相、憲法9条改正論議に改正ありきと苦言 改正急ぐ必要なし”. 産経ニュース (株式会社産業経済新聞社 / 株式会社産経デジタル). (2018年2月28日). https://www.sankei.com/article/20180228-OOZIN6MBURIA5CNIVGZZNMQUNM/ 2023年1月14日閲覧。 
  32. ^ “党内改憲議論「改正が先に」 福田元首相が苦言”. 日本經濟新聞 (株式会社日本経済新聞社). (2018年3月1日). https://www.nikkei.com/article/DGKKZO27520470Y8A220C1PP8000/ 2021年6月16日閲覧。 
  33. ^ “福田元首相「憲法改正、本当にいい?」 日程厳しさ指摘”. 朝日新聞デジタル (株式会社朝日新聞社). (2018年3月1日). https://www.asahi.com/articles/ASL2X6QRZL2XUTFK02B.html 2023年1月14日閲覧。 
  34. ^ “憲法改正で持論「不戦の誓いを」 渋川 /群馬”. 毎日新聞 (株式会社毎日新聞社). (2018年10月6日). https://mainichi.jp/articles/20181006/ddl/k10/040/221000c 2021年8月21日閲覧。 
  35. ^ “古賀誠氏、憲法9条堅持訴え 「自衛隊明記の必要ない」”. 毎日新聞 (株式会社毎日新聞社). (2022年8月20日). https://mainichi.jp/articles/20220820/k00/00m/040/148000c 2021年8月21日閲覧。 
  36. ^ "中村医師銃撃 アフガニスタン大統領「テロ」と断定". テレ朝NEWS. テレビ朝日. 5 December 2019. 2019年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年12月5日閲覧
  37. ^ 平川克美文筆家立教大学特任教授)「正すべきは法に合わない現実の方である」『日本国憲法の大義』56p、農文協、2015年

関連項目編集