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これ描いて死ね

日本の漫画作品

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『これ描いて死ね』（これかいてしね[1][2]）は、とよ田みのるによる日本の漫画。少年漫画雑誌『ゲッサン』（小学館）にて、2021年（令和3年）12月号から連載中[3][4]。都会から離れた離島で暮らす女子高校生が、長期休業中であった憧れの漫画家との出逢いをきっかけとして、仲間やライバルたちと漫画制作に挑む物語である[5]。2023年（令和5年）3月に、書店員ら漫画好きの有志が投票で選ぶ「マンガ大賞2023」で大賞を受賞し、話題となった[5][6]。略称は「これ死ね[7]」。本記事では、前日譚『ロストワールド』（旧題『デビュー』）についても記述する。

これ描いて死ね
ジャンル 少年漫画、学園漫画
漫画
作者 とよ田みのる
出版社 小学館
掲載誌 ゲッサン
レーベル ゲッサン少年サンデーコミックス
発表号 2021年12月号 -
巻数 既刊3巻（2023年4月12日現在）
漫画：ロストワールド
作者 とよ田みのる
出版社 小学館
掲載誌 週刊ビッグコミックスピリッツ
ゲッサン
発表号 2020年第51号（スピリッツ）
2022年9月号（ゲッサン） -
その他 単行本『これ描いて死ね』内に収録
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画
ポータル 漫画
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あらすじ

東京から120キロメートル南方の離島、伊豆王島[8][9]。高校1年生の少女の安海相は、漫画をこよなく愛している[10]。ある日、心酔する漫画家「☆野0」が、同人誌即売会のコミティアで、10年ぶりに新作を頒布すると知り、東京本土へ、そしてコミティアへ向かう[6][11]。相は多くの同人作家を目にし、「漫画は読むだけではなく自分でも描ける」と知る[12]。そして憧れの☆野0が、自身が通う学校の教員の手島零と同一人物だと知り、漫画を教わることを懇願する[9]。やがて相たちは漫画研究会を結成し、手島に漫画の手ほどきを受けつつ、漫画を愛する仲間やライバルたちと共に、漫画制作へ挑んでゆく[13]。

ロストワールド

手島零は漫画家志望の大学生。雑誌『スピリッツ』に漫画を投稿するも、なかなか採用に至らない[14]。ファンタジー、バトル、SFと、漫画の作風は迷走を続ける[14]。漫画を捨てて就職するか死ぬかと迷った末、「どうせ死ぬなら最後に1本」と、現在の自分の怨念すべてを込めて、決死の信念で描いた渾身の作品は、ついに小学館新人コミック大賞で佳作を受賞し、手島は漫画家としての第一歩を歩み始める[15][16]。

登場人物

漫画研究会

伊豆王島の高等学校、王島南高校で新たに設立された漫画研究会。「相」と「心」の字を合せて「想」、それに幸の姓を合せて「赤福 想（あかふく そう）」のペンネームでの合作漫画が、主な活動である[17][18]。以下「漫研」と略して記述する。

安海 相（やすみ あい）
主人公[8][19]。連載開始時点で高校1年生の少女[10]。一見すると社交的だが、実は人との関わりが苦手であり、漫画を支えにして育った[20]。漫画をこよなく愛し、特に☆野0（手島）の大ファンで、彼女のデビュー作『ロボ太とポコ太』を自身のバイブルとしている[12]。漫研では原作を担当[21]。自身でも「ヤスミン」のペンネームでオリジナル漫画を描く[22]。作画の技量は発展途上で「良いところを捜す方が難しい」といわれるほどだが[18][23]、自由奔放で独特の魅力を持つ[24]。
手島 零（てしま れい）
漫研の顧問で、堅物の国語の教員[18][25]。かつて東京で「☆野 0（ほしの れい）」のペンネームで、プロの漫画家として活動していた[18]。デビュー作『ロボ太とポコ太』は打ち切りながら、一部マニアにカルト的な人気を持つ[26]。一同を「漫画はすべて嘘、学業優先、漫研の活動はあくまで趣味の範囲」と厳しく指導するものの、徐々に相たちの情熱に影響されてゆく[6]。『ロストワールド』では、手島の新人漫画家時代が描かれる[8]。貸本店店主の七はかつてのアシスタント仲間[18]。
赤福 幸（あかふく さち）
相の同級生で[18]、漫研設立前からの友人[25]。手島が漫画家だと知り、暑い夏場を冷房つきの部室で快適に過ごすために、手島に「地方公務員なのに副業をしている」と脅し紛いで、漫研設立を申し出る[27]。漫研では漫画制作に直接は関わらず、相たちの漫画を読んで的確に批評することで、作品の質の向上に貢献する[21]、いわば編集者としての存在である[13]。実家は土産物店[18]。熱い漫画が好きで、藤田和日郎のファン[28]。
藤森 心（ふじもり こころ）
相の同級生[18]。百年続く老舗旅館の娘[23]。厳格な母の影響で引っ込み思案な性格だが[29]、漫画が大好きなことから、勇気を出して漫研への入会を申し出、美術部と兼部で活動する[12]。周囲の流行についていけずに友人がおらず、漫研一同を初めての友人として大切にしている[29]。画力に長け[18]、漫研では作画を担当し、相の自由な感性の原作を理性的に再構築する[21]。諸星大二郎のファン[18]。
石龍 光（せきりゅう ひかる）
東京本土からの転校生[18][30]。コミティアでも大人気の同人漫画家で、ペンネームは「ストーンドラゴン」[31]。『ロボ太とポコ太』の愛読者でもあり[32]、作者の手島が顧問と知って[33]、漫研の一員となる[6][18]。人間関係への興味が希薄で友人もおらず[34]、漫画を通じて漫研一同との親交を深めてゆく[24]。コミティアやSNSでの漫画発表では、相たちとは別に単独で活動する[35]。漫画に熱中しすぎて留年しており、相たちと同学年だが、年齢は一つ上[18]。

その他

ポコ太（ポコた）
漫画『ロボ太とポコ太』の作中に登場するタヌキ型のロボット[25]。相のもとにイマジナリーフレンドとして現れ、助言を与える[25]。
寺村 七（てらむら なな）
相が常連である漫画専門貸本屋「寺村貸本店」の店主[18]。店の一室を漫研の部室として提供している[18]。『ロストワールド』では、東京で手島と共にへびちかのアシスタントをつとめたことで手島と知り合い[18]、後に手島のアシスタントをつとめる[36]。
へびちか
人気漫画家。彼女の作品『スイートへびいちご』は、シリーズ累計数百万部発行の大人気作品で[18]、漫画家志望時代の手島がバイブルとしていた[37]。感覚派の天才と呼ばれ、直感で原稿を大幅に手直しするなどして、アシスタントたちを振り回している[38]。光の母[39]。『ロストワールド』にも登場する[37]。

作風とテーマ

漫画を題材とした漫画

高校の漫画研究会を舞台に、創作の楽しさや苦しさや喜び[8][40]、漫画の表現の奥深さ[40]、主人公らの成長を描く青春劇である[8][9]。『まんが道』（藤子不二雄Ⓐ著）のように漫画家を題材とした漫画は漫画界の一大ジャンルだが、本作は漫画家を目指すよりも手前の人物たちの衝動を描く作品である[20]。

『まんが道』や同様に漫画家を目指す人物たちを描いた『バクマン。』のように、漫画家を目指すという目標が、少なくとも序盤では明確に提示されていないことが大きな特徴である[41]。主人公「安海相」は漫研設立直後、自身の目標を「自分が納得できる漫画を描くこと[28]」と語っており、この台詞の通り、「漫画を商業化したい」「人気を得たい」などではなく、「自分が納得できる漫画を描く」を追求することが、この作品の主題である[42]。

作者のとよ田みのるは「フォーカスを当てるのは漫画そのもの。漫画家漫画というか、漫画の漫画[20]」「漫画家が主役というよりも、漫画が主役というつもり[43]」と語っており、漫画家の笠井スイも「マンガ家マンガというより『マンガマンガ』」と語っている[43]。

人物の作風

本編の主要登場人物である漫研4人は、「できる限り可愛く」を心掛けて描かれている[7]。少女同士の友情を意識するために、男性のキャラクターも登場していない[7]（『ティアズマガジン』での2023年3月のインタビュー時点）。

とよ田の前作『金剛寺さんは面倒臭い』の主人公が眼鏡をかけたキャラクターだったため、本作の主要人物4人は眼鏡をかけないようにデザインされている[7]。しかしとよ田自身が眼鏡キャラクターを非常に好んでいるため、前日譚『ロストワールド』では眼鏡をかけないとの制約を外した結果、眼鏡をかけたキャラクターが非常に多くなっている[7]。

『まんが道』からの影響

先述の漫画『まんが道』は本作に強い影響を及ぼしており、随所に同作の影響を受けたとみられる場面が多く登場する[31][42]。たとえば「あらすじ」に述べたように、主人公「安海相」が憧れの漫画家に逢いに行く物語は、『まんが道』において主人公たちが漫画家の手塚治虫に逢いに行く場面を彷彿させる、と指摘されている[31]。

「藤森心」が漫研への入会を申し出て「安海相」との合作のきっかけとなるエピソードは、藤子・F・不二雄と藤子不二雄Ⓐの学生時代の出逢いと、その2人の合作のエピソードと重なる[42]。転校生の「石龍光」は主人公のライバルにも位置する存在であり、登場当初からすでにコミティアやSNSで人気を博すアマチュア漫画家であることから、『まんが道』の登場人物であり、中学生時代から同人活動で活躍していた石ノ森章太郎を思わせるキャラクターと分析されている[31]。

作中で漫研顧問の教員「手島零」が漫研のために自分の備品を提供したり、貸本屋の「寺村七」が店の一室を部室として一同を見守る様子も、それぞれ『まんが道』での手塚治虫、寺田ヒロオのエピソードからの影響と考えられている[42]。

本編と前日譚

『ロストワールド』は、漫研顧問の「手島零」の新人漫画家時代を描く前日譚である[8]。『週刊ビッグコミックスピリッツ』に『デビュー』の題で、創刊40周年記念読み切り作品として掲載された後[44]、『これ描いて死ね』単行本第1巻に『ロストワールド』と改題されて掲載された[45]（ウェブコミック配信サイト「サンデーうぇぶり」では「第0話」として掲載[46]、単行本第1巻には話数の表示はない[45]）。

以降は『ゲッサン』連載の『これ描いて死ね』の第9話が「ロストワールド2」[47]、第14話が「ロストワールド3」といった具合に[48]、『これ描いて死ね』内のエピソードとして掲載されており、単行本第2巻以降も、単行本1冊の最後の1話が『ロストワールド』という構成になっている[49]。『これ描いて死ね』本編では、主人公たちが自分の手で作品を生み出す喜びが描かれる一方で、前日譚『ロストワールド』では、過去の新人漫画家が自分の限界を知る無力感が描かれている[20]。

本編は可能な限り緩く、可愛く、わかりやすく描かれている一方で、前日譚は以前のとよ田の作品に近い作風で描かれている[49]。この前日譚での新人漫画家の姿については、漫画家にとって残酷なエピソードも描かれているが[42]、とよ田はその大部分が自身の実話といい、「体験談にフィクションを交えて描いている[20]」「『あの時、死にそうだったな』という気持ちを乗せている[8][42]」と語っている。

前日譚単体でも物語としては成立し、実際に読者からは「『ロストワールド』だけを読みたい」との意見も寄せられているが、前日譚はマニアックな作風のために、読者に深く繋がる一方で広くは届かないと考えられたため、また優しくポジティブな作風である本編のバランスをはかるために、本編と前日譚の双方を往復する形式として描かれている[42][49]。とよ田はこうした手法を、本編を楽しむための刺激として、寿司に対するワサビにもたとえている[42][49]。

コミティアとの関連性

作中で重要な役割を果たすコミティアは実在のイベントであり、コミティアの許可を得た上で[注 1]、「コミティア」の名でそのまま用いられている[50][51]。とよ田自身、長期にわたってコミティアにサークル参加していることから、とよ田のその実体験が存分に活かされており、漫画が好きな人や、創作をしている人が共感できる要素が多く描かれている[11]。

作中の登場人物が描いたという設定の漫画作品は、とよ田の同人作品として実際に発行されており、コミティアでも頒布されている[52]。

その他の作風

登場人物や台詞のまっすぐな描写もまた、特徴の一つである[49]。これはとよ田のデビュー作である『ラブロマ』から共通する特徴であり、とよ田によれば、ロックバンドのTHE BLUE HEARTSが、厭世的でも皮肉でもなく、正しいことを大声で歌う姿に、強い影響を受けているという[49]。

作中で、登場人物の頭の中にあるイメージと現実とを融合させたり、作中劇である漫画のキャラクターを作中の登場人物の傍らに登場させたりといった、漫画だからこそ可能な表現方法も、特徴の一つにあげられている[2]。優しい絵柄の中で、自分を追い詰めるために過激な言葉を使っているのも、作品の特徴である[9]。

作中で主人公「安海相」が拙い漫画を描く場面があるが、拙さの表現のために、とよ田の実娘（2023年3月時点で小学3年生[19]）の絵を真似て、とよ田が左手で描いている[5][43]。一方で、絵が上手という設定の人物「藤森心」や「石龍光」が描く絵は、とよ田が「天才的に絵がうまい」という実妻の漫画家のトミイマサコが担当している[8][53]。

制作背景

作品の構想

とよ田の前作『金剛寺さんは面倒臭い』（以下『金剛寺さん』と略）は、ラブコメディにも関わらず序盤でハッピーエンドを提示し[20]、全ページが見開きの回があるなど変則的なコマ割り[20][49]、作品のテーマを明言する、大団円の後に蛇足といった具合に、王道の真逆を行く作品であった[20][注 2]。そのために次の作品としては、漫画の王道としてクラブ活動を題材とした作品や、高校生ぐらいの年代を主題に置いた青春物語が構想されていた[56]。『ゲッサン』編集長からも同作の完結後「『金剛寺さん』はマニアックだっため、次作は広く読まれる作品を」と提案され[49]、女の子4人による部活を題材とした作品の構想に至った[49]。折しも同時期に、とよ田が女子高生たちの日常を描く『ゆるキャン△』（雑誌『まんがタイムきららに連載）を非常に好んでいたため、「きらら系（『まんがタイムきらら』系列の作品の総称[57]）の世界は良い、読者たちも好きだろうし、描いてみたい」といった、同作からの影響もあった[7]。

『金剛寺さん』が先述のような作風であったため、本作はフォーマットの決まった王道のエンターテインメントを狙い[20]、自身のエゴを出さずに読者を第一に尊重すること、過剰な背景や説明文を避けて行動で表現すること、読みやすさ、魅力的なキャラクターを心がけて制作された[49]。とよ田によれば、親戚の約90歳のおばが、とよ田の漫画を全部読んでおり、『金剛寺さん』については「あんたの漫画はわからない」と言われたが、本作については「今度のはわかる」と言われたという[43]。

『金剛寺さん』と本作との比較については、とよ田は「前作で全部出し切った、『我』を出しきった気がしたため、次は人のための漫画を描こうと思って、優しい漫画にした」とも語っている[8][43]。ただ、人のためだけに描いていると、中身が空虚になってしまうために、その中央には自身の大切なもの、好きなものとして漫画を配置することで、バランスをとって制作されている[7][8]。

漫研を題材としたことについては、とよ田は「何か部活ものを、というのが最初の発想で、自分が好きなものを考えたら漫画だった」と語っている[20]。主人公の漫画制作の動機については、将来的に「アニメ化したい」「商業化したい」などではなく、純粋に「漫画が好きで、描きたい」と設定された[7]。創作に対するその純粋な想いを表現する場、商業作品も同人作品も共に発表が可能な場として、実在のイベントであるコミティアが用いられることとなった[7]。

タイトルについて

『これ描いて死ね』という特徴的なタイトルについて、とよ田は、漫画の連載前に叱咤激励、鼓舞する言葉の一つと語っている[8]。連載開始前には常に、自分を鼓舞する目的で、漫画に対する目標をノートに書くことが常であり、本作は「漫画の漫画」として目標をノートに書き連ねる内に「これ描いて死ね」という言葉が登場したことで、タイトルに採用したという[49]。

いつも連載前には、自分を鼓舞したり、叱咤激励するつもりで『頑張れよ』などいろいろな言葉を紙に書くんです。それでだんだん調子に乗ってきて、『これ描いて死ね』と書いたりする。この言葉は、いつも自分自身に言っている言葉です。これを思って描いていますし、一番大切にしている言葉だからタイトルにしようと思いました。 — とよ田みのる、MANTAN 2023より引用。

ただし、とよ田はタイトルについて「強すぎたと後悔もしている」と語っており、実際に読者からは「『死ね』という言葉を見るのが辛い」との反応もあった[7]。とよ田自身も、本作の感想を「これ死ね」で検索すると、まったく関係ない恨み言のようなツイートを目にして、ダメージを受けることもあったという[7][49]。「タイトルを変更できるとしたら」の問いに対して、とよ田は『これ描いてSHINE』と答えている。これはTwitterで読者が考案したもので、「死ね」と「シャイン（輝き）」のダブル・ミーニングであり、とよ田は「もしアニメ化されるなら『これ描いてSHINE』にできたら良いな」とも語っている[49]。

舞台の離島

 
作中で漫研一同が登山する三原山

舞台となる離島「伊豆王島」は、とよ田の出身地である伊豆大島をモデルとしている[20]。連載前に、とよ田が雑誌『ゲッサン』の編集長に出身地を聞かれ、伊豆大島と答えたところ、編集者より、出身地である島を舞台とすることを提案された[7]。

とよ田は当初は、東京のどこかの高校で少女たちを可愛く描ければと考えていた上に[5][7]、自身にとって郷里の伊豆大島は当然の場所すぎて、島が特別な場所という意識はなかった[42]。しかし、この編集長からの提案を受けて、直感的に「島から船に乗って本土を行くのが、冒険みたいで良い」と考えられたことで、舞台装置として島が用いられることとなった[5][7]。

またとよ田が、タイムトラベルで過去から現代に来た人物が時代のギャップに驚くようなコメディを非常に好んでおり、離島から東京本土を訪れる主人公たちが、島と都会のギャップに驚く様子が、それに通じるとの狙いもあった[7]。

人物の由来

主要登場人物の姓「安海」「手島」「赤福」「藤森」「石龍」「寺村」の姓の頭文字はそれぞれ、トキワ荘出身である漫画家の藤子不二雄Ⓐ（安孫子素雄）、手塚治虫、赤塚不二夫、藤子・F・不二雄（藤本弘）、石ノ森章太郎、寺田ヒロオに由来している[31][42]。とよ田は、自身にとって漫画といえばイコール藤子不二雄であり、藤子・F・不二雄と藤子不二雄Ⓐであることから、名前に用いたと語っている[42][58]。

主要登場人物の中で漫画を描かない「赤福幸」については、とよ田が知人の編集者に本作の構想を話したところ、「主要人物の1人は自分のように、漫画が好きなだけで漫画を描かない子にしてほしい」と言われ、「まったく漫画を描かない人物も面白い」と考えられたことによる[7]。とよ田が漫画『柔道部物語』において、周囲が努力する中で1人だけ努力しないキャラクター「名古屋」を非常に好んでおり、同作からの影響も受けている[7]。

前日譚の構想

本作の構想時に、『週刊ビッグコミックスピリッツ』の馴染みの編集者から読み切りの依頼があり、主人公を導く人物の前日譚を発案したところ『スピリッツ』側に快諾され、同誌に掲載された作品が『ロストワールド』（『デビュー』）である[45]。

作品名『ロストワールド』は、『これ描いて死ね』の第1話の副題が「来るべき世界」であり、未来に進む若い子供たち、挫折の経験のある人物の対比を、手塚治虫の初期SF3部作とされる漫画『来るべき世界』と『ロストワールド』にかけたものである[59]。『スピリッツ』掲載時には対比する作品が無く、『ロストワールド』では意味がわからないと考えられたために、単体でも通用する作品名『デビュー』で掲載された後、単行本第1巻収録時に、第1話『来るべき世界』の対比として『ロストワールド』へ改題された[59]。

社会的評価

漫画編集者であるササキバラ・ゴウは、主人公の漫画好きをまっすぐに表現しきっていることが印象的として、素朴でシンプルな気持ちを読者に強く訴える作者の力量を評価すると共に、「一昔前であれば漫画家になれない者は漫画を諦めることが当然であり、現在は漫画をただ自由に描けば良い時代になったという時代の変化を実感した」として、「単に『漫画を描く漫画』として、すがすがしい読後感を与えてくれる」と評価している[10]。フリーライターの古林恭も同様に、漫画を描く厳しさや大変さよりも、漫画を読んで描くことが好きで楽しい気持ちがストレートに描かれている様を評価している[6]。

ニッポン放送のラジオ番組『ミューコミVR』では、同局のアナウンサーである吉田尚記が、漫画家が漫画の物語を描くことの面白さや、離島を舞台とする物語を伊豆大島出身であるとよ田みのるが描くことによる現実感、加えて作中で登場人物が藤田和日郎など実在の漫画家や漫画の魅力を細かく語ることにより、とよ田がそれらの漫画家や漫画を非常に尊重していることを、本作の魅力に挙げている[51]。

産経新聞文化部の放送・漫画担当記者である本間英士は本作について、初めて作品を完成させたときの喜び、揃いのTシャツを作ってコミティアへ初めて参加するときの期待感、自分たちの作品がコミティアで初めて売れたときの感動など、初めての体験を通じて感じた嬉しさの現実感、新たな世界への扉を開ける姿を評価している[13]。また本間は、こうした明るい作風の一方で、「漫研顧問の教員がかつて漫画家業として疲弊した過去を持つにもかかわらず、未だ内面には漫画への情熱を秘めており、それを主人公に刺激される様子によって、作品に深みが加わっている」と分析している[13]。画風について本間は「良い意味で脱力感のある独特の作画」として評価している[13]。

ニュースサイト「まいじつエンタ」のライターである富岳良は、本作同様に漫画を題材とした漫画作品の内、商業的な成功を目指す物語の『バクマン。』、プロの生き方そのものを問う『G戦場ヘヴンズドア』と比較して、本作を純粋に漫画を趣味として楽しむ作品として、「世界一ピュアな漫画家漫画」と評している[60]。また、前述のように主人公が純粋に漫画を愛する描写や、漫画に対して初めて経験することの喜びに加えて、過去にプロの漫画家であった漫研顧問、アマチュアながら現役の漫画家として活動する転校生の登場により、過去に創作していた者、現役で創作する者、まだ創作を始めていない者と、どんな視点からでも楽しめるように作られていることを、本作の魅力として挙げている[60][61]。

編集者・ライターの島田一志は、漫画を人生の支えとして育った主人公と、漫画に否定的な態度をとる教員との対比、さらにその教員こそが主人公の愛した漫画の作者であり、しかもその教員が、序盤では自身の漫画が現実に主人公を救っていたと自覚していなかったことを指して、捻りのきいた演出の巧妙さを評価している[62]。また登場人物の1人が、気難しい母親を説得するために、自分の想いを漫画に描いて見せるエピソードを指し、彼女にとっては漫画こそが真実に他ならないとして、先の主人公と合わせ、本作を「漫画は嘘ではない」をテーマとする、極めて骨太な作品との見解を示している[62]。他に、「漫画家への夢にひたむきに進む主人公たちと顧問教員が、作品を生み出す喜びや苦しみを分かち合って、互いに成長する姿に心を打たれる」との意見も寄せられている[9]。

受賞

2022年（令和4年）8月のniconicoと『ダ・ヴィンチ』による漫画賞「次にくるマンガ大賞」では第16位[63]、同2022年12月のフリースタイルによる漫画ランキング『THE BEST MANGA 2023 このマンガを読め!』では第10位に選ばれた[64]。

同2022年12月、現役漫画家や漫画ファンから「漫画を描きたくなる漫画」「創作に携わるすべての人におすすめしたい」などと注目が集まったことで、宝島社によるムック『このマンガがすごい! 2023』で、オトコ編で第6位を獲得した[19][65]。誌上では、主人公の漫画に対する愛に加えて、登場人物たちの家族の漫画への反対、作中での漫画制作の作画と内容の品質の乖離など、登場人物たちの友情や葛藤が、本来なら辛く苦しく表現されそうなところが、重く暗くは描かれていない点もまた評価された[2]。

2023年（令和5年）3月には、マンガ大賞実行委員会によって主催される「マンガ大賞2023」の大賞に選ばれた[8][66]。投票者たちからは「創作活動に興味がある方なら必ず刺さる」などといった声があった[67]。この授賞式でも、先述のササキバラ・ゴウや古林恭らと同様に、主人公たちが純粋な気持ちでまっすぐ創作に挑む、眩しい姿が印象深いとの意見があり、とよ田は「島の子のために純朴さに現実味が増し、島を舞台にしたのが大きい」と分析している[43]。

テレビ報道

マンガ大賞受賞がテレビの各情報番組などで取り上げられた際に、『スッキリ』（日本テレビ）では、お笑いコンビのティモンディの前田裕太は「漫画大好き芸人」として、「自分の好きなことを突き詰めていくことの良さ、尊さを感じる作品」と語り、かつて野球選手の道を諦めた自身の立場から、「夢を諦めてしまった人、現実を知って心が疲れてきてる人にこそ読んでほしい。僕にとっては救いの本」と語った[68]。同番組においてアナウンサーの下川美奈は「青春物語でありながら漫画の裏話もわかり、先生にとてもシンパシーを感じる」と語った[9]。

『ひるおび』（TBSテレビ）では、落語家の立川志らくが、主人公たちが合作で漫画を作り上げる様を指して、「勝利よりも友情を重んじるため、若い読者が共感しやすい作品」と分析した[69]。

コミティアによる評価

コミティアの実行委員会代表である吉田雄平は、マンガ大賞受賞を受け「純粋に創作に取り組む主人公たちの姿に胸を打たれ、コミティアに参加する方へお勧めしたい作品」と語ると共に[11]、世間的にコミティアの知名度はまだ低く、コミティアの継続のために新しい参加者を増やすことがイベント開始当初からの課題であることから、大賞受賞作である『これ描いて死ね』を読んでコミティアの知名度が増すことに、感謝の意を表している[11]。

こうした事情を受けて、コミティアのパンフレットである『ティアズマガジン』では、コミティアの広報を目的として、作中にコミティアが登場する商業作品を紹介する新連載「創作の中のコミティア」が開始され、第1回で『これ描いて死ね』が取り上げられている[11][70]。

この連載においては、作中で主人公たちがコミティアやSNSで漫画を発表する場面を指して、かつて漫画の発表の場がプロのみであった時代と違い、現代はプロとアマチュアの区別のないインターネットや同人誌即売会などの場が用意されているために、「読者に対しても自分にとっても、『漫画とは何か』を問いかける作品」と評価されている[31]。

書誌情報

  • とよ田みのる 『これ描いて死ね』 小学館〈ゲッサン少年サンデーコミックス〉、既刊3巻（2023年4月12日現在）
    1. 2022年5月17日発行（2022年5月12日発売[71]）ISBN 978-4-09-851143-3
    2. 2022年10月17日発行（2022年10月12日発売[71]）ISBN 978-4-09-851326-0
    3. 2023年4月17日発行（2023年4月12日発売[71]）ISBN 978-4-09-852021-3

脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ とよ田は事前にコミティア側に許可を得たものの、実際にはコミティア側では、同人作品、商業作品を問わず、コミティアを作品中に登場させることを認めている[31][50]。
  2. ^ 『金剛寺さんは面倒くさい』は、第3話にしてナレーションで「この物語は必ずハッピーエンドを迎える」と明言されている[54]。さらに最終回直前の第34話で、ナレーションで「物語のテーマは○○ですと文字で書くことは無粋とされている」と断った上で、敢えて物語のテーマを明言している[55]。

出典

  1. ^ “これ描いて死ね”. ゲッサン. 小学館. 2023年4月29日閲覧。
  2. ^ a b c 宝島社 2022, p. 48
  3. ^ “とよ田みのるがゲッサンに帰還、マンガ愛を込めて描く成長譚「これ描いて死ね」”. コミックナタリー. ナターシャ (2021年11月12日). 2023年4月29日閲覧。
  4. ^ Rafael Antonio Pineda (2021年10月12日). “Love Roma's Minoru Toyoda Launches New Manga on November 12” (英語). Anime News Network. 2023年4月29日閲覧。
  5. ^ a b c d e “とよ田みのるさんの「これ描いて死ね」がマンガ大賞…授賞式で「なぜ僕がという気持ち」”. 読売新聞オンライン. 読売新聞社 (2023年3月27日). 2023年4月29日閲覧。
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参考文献

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