鱗甲目

鱗甲目センザンコウ科の動物

鱗甲目(りんこうもく、Pholidota)は、哺乳綱に分類される目。現生種ではセンザンコウ科のみで本目を構成する。以前は有鱗目とされることもあった[4]

鱗甲目
Manidae.jpg
保全状況評価[1]
(センザンコウ属単位で)
ワシントン条約附属書II
(ただし全種が附属書Iに掲載)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 鱗甲目 Pholidota
: センザンコウ科 Manidae
: センザンコウ属 Manis
学名
Pholidota Weber, 1904[2]
Manidae Gray, 1821[2]
Manis Linnaeus, 1758[2]
タイプ種
Manis pentadactyla Linnaeus, 1758[2]
和名
鱗甲目[3]
センザンコウ科[3][4][5]
センザンコウ属[3]
現生種

分布編集

アフリカ大陸(セネガルからケニア・南アフリカ共和国にかけて)、アジア(インドから中華人民共和国南部、台湾、スマトラ島、ボルネオ島にかけて)[4]

形態編集

オオセンザンコウは頭胴長(体長)75 - 85センチメートル、尾長65 - 80センチメートル、体重25 - 33キログラム[4]。オナガセンザンコウが体長30 - 35センチメートル、尾長55 - 65センチメートル、体重1.2 - 2.0キログラム[4]。オナガセンザンコウやキノボリセンザンコウは物に巻きつけることができる長い尾をもち、オナガセンザンコウの尾椎は46 - 47個で哺乳綱の中では最も多い[4][5]。全身は腹面と四肢の内側を除いて、角質の鱗で覆われる[4]。目名Pholidotaは古代ギリシャ語のpholisやpholidosに由来し、「鱗」の意[6]

頭部は円錐状で、頭骨は単純な形状をしている[4]。耳介は退化しているか、消失している[4]。歯や咀嚼するための筋肉はなく、角質の胃で獲物をすりつぶす[4][5]

鱗は定期的に生え換わる。全体的な姿は、南米のアルマジロ類に似ているが、アルマジロの鱗が装甲としての機能しか持っていないのに対し、センザンコウの鱗は縁が刃物のように鋭く、体に比べて長い尻尾を振り回すことで攻撃にも利用される。

分類編集

形態や食性から、古くは貧歯目に含まれていた[5]。体の構造が異なるため別の目として独立させられた。従来の化石研究では食肉目に最も近い動物群であることが知られていたが、近年の遺伝子研究に基づく新しい系統モデルでも、4つの大グループのうち、「ローラシア獣類」の1つとして、食肉目、奇蹄目などの近縁グループとされている。多数の絶滅群を含むキモレステス目内の有鱗亜目・鱗甲亜目とされることもある。

アフリカ大陸に分布する種をアフリカセンザンコウ属Phataginusに分類する説もあった。一方で現生種と化石種1種の頭蓋の比較から、それらは全体として単系統群だがアフリカセンザンコウ属Phataginusは偽系統群であるとしてセンザンコウ属のシノニムとする説もある[2]。以下の分類・英名はMSW3(Schlitter,2005)に、和名は川田ら(2018)に従う[2][3]

センザンコウ科の化石記録は始新世中期から更新世まで断続的に発見されており、その大半がヨーロッパからのものである。現生のものと同の化石は、アジアとアフリカの中新世後期及び鮮新世前期以降のものが知られている[7]

化石種も含めた下位分類は必ずしも定説をみていないが、センザンコウ科以外の絶滅科としては、いずれも始新世の北米に生息していた†エピコテリウム科(Epoicotheriidae Simpson,1927)[8]、†パトリオマニス科(Patriomanidae Emry,1970)、†メタケイロミス科(Metacheiromyidae Wortman,1903)[9]などが提唱されている。

生態編集

森林やサバンナなどに生息する[4]。オナガセンザンコウやキノボリセンザンコウは樹上棲[4]夜行性だが、キノボリセンザンコウは昼間に活動することもある[5]。属名Manisはラテン語で「死霊・オバケ」の意があるmanesに由来し、夜間に活動することに由来する[6]。昼間は地下に掘った巣穴や岩の隙間・樹洞などで休む[5]。地表棲の種は前肢の爪を内側へ丸めこみ、前肢の甲の外側を接地して移動する[4]。尾を支点にして立ち上がったり、後肢を使って素早く移動することもある[4]

アリシロアリを食べる[4]

主に1回に1頭(種によっては2 - 3頭を産んだ例もあり)の幼獣を産む[4]

台湾には、ミミセンザンコウが、死んだふりをしてアリを集めるという俗説がある。『本草綱目』にも、鱗を開いて死んだ振りをしアリが中に入り込んだ所で鱗を閉じて水に潜り浮いたアリを食べるという生態が記されている[要出典]。『和漢三才図会』では「本朝ニモ九州深山大谷ノ中鯪鯉稀ニコレ有リ」とする。

人間との関係編集

食用とされたり、鱗が薬用や魔除けなどになると信じられていることもある[5]

中国ではセンザンコウを「鯪鯉」などと表記し、古くは魚の一種だと考えられていた。李時珍の『本草綱目』にも記載があり、鱗は漢方薬、媚薬の材料として珍重されている。実際にはセンザンコウの鱗は人間の毛や爪と同じケラチン質が主成分であり、古来より語られているような薬効はないことが医学的に確認されているにも関わらず、2000年代に入ってもなお中国などへ向けた密輸品が摘発されている[10][11]インドでは鱗がリウマチに効くお守りとして用いられているほか、中国やアフリカではセンザンコウの肉を食用、鱗を魔よけとして用いることもある。ベトナムではジャライ族が民族楽器クニーの素材として用いる。 が皮革製品の材料に使われることもあるが、ほとんど流通していない稀少品として価値をつけられている。

1995年にセンザンコウ属単位でワシントン条約附属書IIに掲載され、2000年にはインドセンザンコウ・パラワンセンザンコウ・マレーセンザンコウ・ミミセンザンコウの輸出割当が0とされ、2017年にはセンザンコウ属単位でワシントン条約附属書IIに掲載されているものの全種が種単位でワシントン条約附属書Iに掲載された[12]いずれの地域でも、密猟によって絶滅の危機に瀕している種が多く、特にサバンナセンザンコウなどは深刻な状況にある[要検証]

出典編集

[脚注の使い方]
  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> (downroad 04/04/2020)
  2. ^ a b c d e f Duane A. Schlitter, "Order Pholidota," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Page 540.
  3. ^ a b c d 川田伸一郎, 岩佐真宏, 福井大, 新宅勇太, 天野雅男, 下稲葉さやか, 樽創, 姉崎智子, 横畑泰志世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Christopher Dickman 「センザンコウ」伊澤紘生訳『動物大百科 6 有袋類ほか』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、56-57頁。
  5. ^ a b c d e f g 川道武男 「鎧をまとって身を守る センザンコウ」『動物たちの地球58 哺乳類II 10 ネズミ・ウサギほか』、朝日新聞社、1992年、316-317頁。
  6. ^ a b Martha E. Hieath "Manis pentadactyla". Mammalian Species No. 414, American Society of Mammalogists, 1992, Pages 1-6.
  7. ^ 『絶滅哺乳類図鑑』 63頁
  8. ^ G. G. Simpson. 1927. "A North American Oligocene edentate" Annals of Carnegie Museum 17(2):283-299
  9. ^ J. L. Wortman. 1903."Studies of Eocene Mammalia in the Marsh Collection, Peabody Museum." Part II. Primates. Suborder Cheiromyoidea. The American Journal of Science, series 4 16:345-368
  10. ^ “冷凍センザンコウ14トンを押収、インドネシア”. ナショナルジグラフィックニュース (ナショナルジオグラフィック). (2008年8月7日). オリジナルの2013年5月13日時点におけるアーカイブ。. http://megalodon.jp/2013-0513-1156-14/www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=42696477&expand 2012年5月28日閲覧。 
  11. ^ “センザンコウの大量密輸摘発、タイ”. NHK News Web (日本放送協会(NHK)(cache)). (2012年5月27日). オリジナルの2012年5月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120530072257/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120527/k10015410111000.html 2012年5月28日閲覧。 
  12. ^ UNEP (2020). Manis crassicaudata. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (downroad 04/04/2020)
  • 富田幸光『絶滅哺乳類図鑑』伊藤丙雄、岡本泰子、丸善、2002年、63頁。ISBN 4-621-04943-7
  • Gaubert, P., & Antunes, A. (2005) (October 2005). “Assessing the taxonomic status of the Palawan pangolin Manis culionensis (Pholidota) using discrete morphological characters”. Journal of Mammalogy 86 (6): 1068-1074. 

センザンコウに関する著作編集

関連項目編集