WASP-121は、とも座の方向におよそ860光年の距離にある10等星である[1][3][2][注 1]。WASP-121の周囲には、少なくとも1つ太陽系外惑星が存在することがわかっている[2]

WASP-121
仮符号・別名 Dilmun
星座 とも座[1]
見かけの等級 (mv) 10.44[2]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  07h 10m 24.0604565856s[3]
赤緯 (Dec, δ) −39° 05′ 50.571250476″[3]
視線速度 (Rv) 38.350 km/s[2]
固有運動 (μ) 赤経: -3.735 ミリ秒/[3]
赤緯: 25.663[3]
年周視差 (π) 3.7996 ± 0.0104ミリ秒[3]
(誤差0.3%)
距離 858 ± 2 光年[注 1]
(263.2 ± 0.7 パーセク[注 1]
WASP-121の位置(〇印)
物理的性質
半径 1.458 ± 0.30 R[2]
質量 1.353+0.080
−0.079
M[2]
表面重力 175 m/s2[2]
自転速度 13.5 ± 0.7 km/s[2]
スペクトル分類 F6 V[2]
光度 3.3 ± 0.3 L[2]
有効温度 (Teff) 6,460 ± 140 K[2]
金属量[Fe/H] 0.13 ± 0.09[2]
他のカタログでの名称
CD-38 3220, 2MASS J07102406-3905506, TOI-495[3]
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特徴 編集

大きさの比較
太陽 WASP-121
   

WASP-121は、スペクトル型がF6 Vに分類されるF型主系列星で、質量半径太陽の1.4倍程度と見積もられる、太陽より少し大きい恒星である[2]光球面の有効温度は、およそ6,460 Kで、太陽よりやや高温である[2]

WASP-121は、自転速度が13.5 km/s以上と推定され、この種の恒星の中では高速であり、活動的な恒星といわれる[2]。一方で、WASP-121の光度曲線からは、自転に伴う周期的な光度変化は、少なくともミリ等級水準では検出されていない[2]。また、恒星の活動性の指標である、彩層からのカルシウム輝線もみられない[4]

惑星系 編集

 
WASP-121bの観測結果に基づくシミュレーションを視覚化した、「ウルトラホット・ジュピター」のみえかた。ウルトラホット・ジュピターは母星の光を反射できないが、大気が非常に高温になるため熱放射で輝くと考えられる。出典: NASA / JPL-Caltech / Aix-Marseille University[5]

2015年、WASP-121の周りを約1.27の周期で公転する惑星WASP-121bの発見が初めて公表された[2]。2011年から2012年に、WASP-SouthがWASP-121を観測した結果、WASP-121の手前を通過する天体による周期的な減光が確認され、オイラー望遠鏡TRAPPISTによる追観測で、この天体が惑星であることが明らかになった[2]

WASP-121bは、質量が木星の1.2倍ほど、半径は木星の1.8倍に及ぶホット・ジュピターで、その軌道長半径が、潮汐力により惑星が破壊される臨界軌道半径であるロッシュ限界より若干大きいだけであることから、潮汐破壊寸前の状態にあるものと考えられる[2]。WASP-121bは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)などによる観測から、成層圏赤外線での(H2O)輝線が放射されていることがわかった[6]。これは系外惑星の成層圏に水を検出した初めての例であり、母星からの放射はかなりの部分が惑星大気の上層部で保持されて、低空ほど温度が低くなる逆転現象が生じており、その原因として酸化バナジウム酸化チタンなどの気体による吸収が寄与しているものと考えられる[6]。一方、近紫外線でのHSTによる観測からは、マグネシウムのイオンが、WASP-121bのロッシュ・ローブを超えて広がっていることが確認され、金属元素が惑星重力の束縛外へ流出しているとわかった[7]。このように惑星から流出した物質は、母星を覆い、彩層輝線をみえなくしている可能性もある[4]

WASP-121の惑星[8]
名称
(恒星に近い順)
質量 軌道長半径
天文単位
公転周期
()
軌道離心率 軌道傾斜角 半径
b (Tylos) 1.157 ± 0.070 MJ 0.02596+0.00043
−0.00063
1.27492504+0.00000015
−0.00000014
< 0.0032 88.49 ± 0.16{° 1.753 ± 0.036 RJ

名称 編集

2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の優先観測目標候補となっている太陽系外惑星のうち、20の惑星とその親星を公募により命名する「太陽系外惑星命名キャンペーン2022(NameExoWorlds 2022)」において、WASP-121とWASP-121bは命名対象の惑星系の1つとなった[9][10]。このキャンペーンは、国際天文学連合(IAU)が「持続可能な発展のための国際基礎科学年英語版(IYBSSD2022)」の参加機関の一つであることから企画されたものである[11]。2023年6月、IAUから最終結果が公表され、WASP-121はDilmun、WASP-121bはTylosと命名された[12]ディルムンは、バーレーン群島及びアラビア半島東部にあった古代文明のシュメール語[12]テュロス: Τύλος)は、バーレーン島古代ギリシア語名である[12]

ギャラリー 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ a b c パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算

出典 編集

  1. ^ a b 中野太郎 (2019年8月6日). “金属元素が流れ出すラグビーボール型の惑星”. AstroArts. 2022年9月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Delrez, L.; et al. (2016), “WASP-121 b: A hot Jupiter close to tidal disruption transiting an active F star”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 458 (4): 4025-4043, Bibcode2016MNRAS.458.4025D, doi:10.1093/mnras/stw522 
  3. ^ a b c d e f g CD-38 3220 -- Star”. SIMBAD. CDS. 2022年9月18日閲覧。
  4. ^ a b Salz, M.; et al. (2019-03), “Swift UVOT near-UV transit observations of WASP-121 b”, Astronomy & Astrophysics 623: A57, Bibcode2019A&A...623A..57S, doi:10.1051/0004-6361/201732419 
  5. ^ Water Is Destroyed, Then Reborn in Ultrahot Jupiters”. JPL (2018年8月9日). 2022年9月18日閲覧。
  6. ^ a b Evans, Thomas M.; et al. (2017-08), “An ultrahot gas-giant exoplanet with a stratosphere”, Nature 548 (7665): 58-61, arXiv:1708.01076, Bibcode2017Natur.548...58E, doi:10.1038/nature23266 
  7. ^ Sing, David K.; et al. (2019-08), “The Hubble Space Telescope PanCET Program: Exospheric Mg II and Fe II in the Near-ultraviolet Transmission Spectrum of WASP-121b Using Jitter Decorrelation”, Astronomical Journal 158 (2): 91, Bibcode2019AJ....158...91S, doi:10.3847/1538-3881/ab2986 
  8. ^ Bourrier, V.; Ehrenreich, D.; Lendl, M. et al. (2020). “Hot Exoplanet Atmospheres Resolved with Transit Spectroscopy (HEARTS). III. Atmospheric structure of the misaligned ultra-hot Jupiter WASP-121b”. Astronomy and Astrophysics 635: A205. arXiv:2001.06836. Bibcode2020A&A...635A.205B. doi:10.1051/0004-6361/201936640. 
  9. ^ NameExoWorlds 2022”. NameExoWorlds. IAU (2022年8月). 2023年6月15日閲覧。
  10. ^ List of ExoWorlds 2022”. NameExoWorlds. IAU (2022年8月). 2023年6月15日閲覧。
  11. ^ 太陽系外惑星命名キャンペーン2022”. 国立天文台 (2022年9月5日). 2023年6月15日閲覧。
  12. ^ a b c 2022 Approved Names”. NameExoWorlds. IAU (2023年6月). 2023年6月15日閲覧。
  13. ^ a b Hubble Detects Exoplanet with Glowing Water Atmosphere”. JPL (2017年8月2日). 2022年9月18日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集

座標:   07h 10m 24.0604565856s, −39° 05′ 50.571250476″