ポン酢

柑橘類の果汁を用いた和食の調味料

ポン酢(ポンず)とは、日本発祥のフルーツの酸味が特徴の調味料である。

ぽん酢
ミツカンのぽん酢

オランダの「pons(ポンス)」という果実酒に由来するにも関わらず、日本で「」と結びついて「ぽん酢」となり、やがて純和風の調味料として定着している[1]

定義

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日本内閣府外局である公正取引委員会によれば、ポン酢は「食酢、および食酢の加工品の一種[2]」と定義されている。

  • もともとは、柑橘(かんきつ)の果汁とお酢をベースにした調味料で、色は薄い黄色を呈している[3]
  • これに対して、醤油などで味付けされた製品も「ポン酢」と呼ばれ、これらは通常、茶色や黒色をしている[3]
  • また、柑橘類の果汁が主体のものを「生ポン酢」と呼ぶこともあるが、少量の醤油や出汁を加えたものにも「生ポン酢」と呼ぶ例が見られる[4]

現代の日本では、醤油を加えたポン酢醤油のほうが主流となっており、単なるポン酢と言うと、受け手が混乱することも少なくない[5]

なお、使用される柑橘類には特に決まりは無く、ゆずみかんレモンだいだいすだちゆこうオレンジかぼすシークヮーサーなど、地域や製品によって多様な種類が用いられている[6]

概要

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表記

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「ポン酢」という表記は本稿のタイトルとして用いているが、日本国内ではこの他にも「ぽん酢」「ぱんず」「ポン酢醤油」「ぽん酢しょうゆ」「ぽん酢調味料[注釈 1]」、さらには純漢字表記である「椪酢[7]」など、さまざまな表記が見られている。

現在の日本の法制度においては、「ポン酢の表記に関する規制」は設けられておらず、製造者販売者はそれぞれの意図や好みに応じて、自由に表記を選ぶことがで出来る。

語源

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そもそもポン酢はオランダ語の「pons(ポンス)」が転訛し、酸味を持つ調味料であることから、語尾の「ス」が「酢」という漢字で充て作った言葉である[8]

  • ポンスの語源は中世オランダ語に遡り、これは蒸留酒に柑橘類の果汁や砂糖スパイスなどを加えて作るカクテル、すなわち日本語でいう「フルーツポンチ」に当たるものであった[9]
  • なお、現代のオランダ語では「pons」がすでに廃語となり、「nl:Punch (drank)」という言い方に置き換わっている(オランダ語版ウィキペディア参照)。一方で、日本語では「pons」は「ぽん酢」という形で今も生き残っており、これは非常に興味深い現象である[1]

歴史

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日本史においてポン酢が登場したのは、江戸時代の長崎・出島であり、当時の幕府の武士や官僚たちはオランダ人の「pons」を真似して造ったとされている。その後、九州を中心に日本全国へと広まったが、当時の庶民すべてが使用していたわけでは無かった[10]

  • 文献における初出は、江戸時代後期の『楢林雑話』(1799年・寛政11年)で、「和蘭の酒をポン酢と云、これを製するには、焼酎一杯、水二杯沙糖宜きほどに入、肉豆蔲、香気あるために入」といった記述が見られる[9][11]
  • 明治時代に入ると、ポン酢は「(だいだい)をはじめとする柑橘系果実の絞り汁」を意味する語として定着していく。『日本国語大辞典』によれば、この意味での初出は1884年(明治17年)であり、同年の『東京横浜毎日新聞』に「又その売品は一切安売にて、其中橙は例のポンスに製することも出来るより気強く」との記載が確認されている[9]。その結果、ポン酢は明治時代でようやく量産が可能となり、庶民でも手軽に使える調味料として定着した[12]。しかし、その急激な人気の高まりや価格低下の背景については、未だ明らかになっていない。

さらに、19世紀末から昭和初期にかけては、ポン酢は食料品ではなく、薬品として「ポンス」や「ポンスシロップ」の名で販売されることもあった[13]。そうした経緯を経て、現在では純食用としてのポン酢が一般化し、ひらがなに絞って「ぽんず」と表記される形や、「」の字を意識して用いた「ぽん酢」など、より和風食品らしい名称が広く定着している[10]

ポン酢醤油

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ポン酢醤油(左)を添えた料理(トラフグ皮の湯引き)

ポン酢醤油味付きポン酢)は、かんきつ果汁に醤油を合わせ、出汁や糖類で味を調えた調味料である[6]。これを単に「ポン酢」と呼ぶことも多い。かんきつ果汁のほかに、醬油や酢、かんきつ以外の果汁(りんご果汁など)、香味野菜(ショウガシソなど)、香辛料(唐辛子など)、風味原料(鰹節昆布など)、酒類などを加えたものもある[6]

ちり鍋水炊きしゃぶしゃぶなどの鍋料理を食べる際に手元の小鉢にとる付けタレとして用いられるほか、刺身たたき冷しゃぶあん肝などに紅葉おろしと一緒にかけたり、豆腐料理、秋刀魚などの焼き魚蒸し物酢の物などの酸味の適した料理の付けタレ、かけタレとしても用いられる。また、冷やし中華餃子の付けダレとしたり、マヨネーズと合わせて和風のドレッシングとしてサラダにかけたりもする。炒め物などにも使える。

地域性

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地域食材を組み合わせた様々なポン酢醤油が開発されている[6]。日本全国の購入者当たりの購入規模と購入率は12月が多くなるが、東北地方では7月に多くなっておりカツオの消費と関連していると考えられている[14]

ジュレポン酢

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2011年から、調味料メーカー各社から相次いで「ジュレタイプ」のポン酢醤油が発売され、一時的なブームを起こした[15][16]が、2019年現在ではほとんどの商品がすでに販売中止している。2011年2月当時はヤマサ醤油の「昆布ぽん酢ジュレ」、ハウス食品の「のっけてジュレぽん酢」が発売され、8月にはミツカンから「ぽんジュレ香りゆず」が発売された。

脚注

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注釈

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  1. ^ ミツカンで発売している商品(商標名「味ぽん」)では、「ぽん酢調味料」というのが正式名称となっている。

出典

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  1. ^ a b ポン酢の語源や一般的な種類と使われ方とは | オランダゆかりの物事典”. www.watv.ne.jp. 2025年4月14日閲覧。
  2. ^ 黒酢及びもろみ酢の表示に関する実態調査について”. 公正取引委員会. 2023年6月11日閲覧。
  3. ^ a b ぽん酢は飲み物です。― 渋谷肉横丁に「ぽん酢が飲める酒場」が登場 ―”. ミツカン. 2023年6月11日閲覧。
  4. ^ ヤマサ醤油株式会社 NEWS RELEASE”. prtimes. 2023年6月11日閲覧。
  5. ^ あなたならポン酢はどっち? 黄色かしょうゆ入りの黒”. style nikkei (2019年11月10日). 2019年11月17日閲覧。
  6. ^ a b c d 下藤悟、森山洋憲「ぽん酢醤油の味分析と商品開発への応用」『高知県工業技術センター研究報告』第49号、高知県工業技術センター、2018年、8-12頁。 
  7. ^ 柚子殿謹製 柚子椪酢(ぽん酢) - 川津食品ショッピングサイト 柚子殿-yuzudon-”. 川津食品ショッピングサイト 柚子殿-yuzudon-. 2025年4月11日閲覧。
  8. ^ 小学館国語辞典編集部編「ポン酢」『日本国語大辞典』第2版、小学館、2000-2002年。
  9. ^ a b c 小学館国語辞典編集部編「ポンス」『日本国語大辞典』第2版、小学館、2000-2002年。
  10. ^ a b フードマニア編集部 (2022年8月5日). “ポン酢の由来とは?歴史を交えてフードマニア編集部が解説 - フードマニア Food Mania by 旭屋出版”. 2025年4月12日閲覧。
  11. ^ 立原甚五郎. "楢林雑話" (PDF). p. 12. 2022年6月2日時点のオリジナルよりアーカイブ (PDF)。2022年6月2日閲覧
  12. ^ 秋に食べたい!秋の味覚と呼ばれる食べ物|日本の食と文化|明治の食育|株式会社 明治 - Meiji Co., Ltd.”. 明治の食育|株式会社 明治 - Meiji Co., Ltd.. 2025年4月14日閲覧。
  13. ^ 「ポンス橙菓汁 インフルエンザ予防」(両国米沢町・万珠堂薬舗広告)『読売新聞』1891年1月27日朝刊、「暑中の飲料」(万珠堂広告、コレラ伝染病の予防として)『朝日新聞』1895年8月8日東京朝刊、「薬用滋養飲料ポンス」(両国米沢町・万珠堂広告)『読売新聞』1899年1月8日朝刊、「橙果汁ポンス ポンスシロップ」(滝沢商店広告)「朝日新聞』1923年6月7日東京夕刊など。
  14. ^ 初夏にポン酢が売れる東北の謎 旬の味覚との深い関係とは? ミツカンに聞きました”. 河北新報. 2023年6月11日閲覧。
  15. ^ 調味料トレンド「ぽん酢ジュレ」の売れ行き 日経ウーマンオンライン 2011年9月27日
  16. ^ 犬養裕美子「ジュレポン酢」(フードトレンド)『イミダス』2012年3月

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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