マイプ学名Maip)は、アルゼンチンサンタクルス州から化石が産出した、後期白亜紀メガラプトル類に属する獣脚類恐竜。全長約9メートル胴体幅約1.2メートル、体重約5トンと推定されており、頑強な体格をしていたことが示唆される[1]。当時の南アメリカにおける最大級の獣脚類恐竜であり、頂点捕食者であった可能性がある[2]

マイプ
Maip
既知の骨格(A)、第六胴椎の位置での胸腔の復元(B)、産状図(C)
地質時代
中生代後期白亜紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : 鳥吻類 Averostra
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
階級なし : メガラプトル類 Megaraptora
: メガラプトル科 Megaraptoridae
: マイプ属 Maip
学名
Maip
Roland et al., 2022

2020年3月から研究チームによる調査が開始[3]椎骨肋骨が確認されているが、頭蓋骨は発見されていない。2022年4月に原記載論文が発表された。属名の"Maip"はパタゴニア地方の悪霊にちなみ、種小名の"macrothorax"は「大きな胴体」を意味する[1][3]

発見と命名 編集

 
マイプのホロタイプ標本

マイプのホロタイプ標本MPM 21545は、2019年にアルゼンチンのサンタクルス州に位置するエル・カラファテから30キロメートル西のLa Anita Farmにて、アレクシス・ローランドにより発見された。既知の化石要素は軸椎・複数の胴椎および尾椎頸肋および胸肋腹肋・左烏口骨・断片的な肩甲骨・部分的な右恥骨・部分的な中足骨からなる。これらの骨のいくつかは2019年にノヴァスらにより記載された[4]。当該標本は関節しない状態で発見されたが、5m×3mの範囲内に集積していた。ホロタイプ標本には他のメガラプトル類ではこれまで確認されていない骨も含まれている。断片的ではあるものの、当該標本は既知のメガラプトル類の骨格の中では最も完全なものである[5]

マイプは2021年にResearch Squareの査読前論文で言及されたが、当該論文が国際動物命名規約に定められた基準を満たさなかったため、有効な学名ではないものとして扱われていた[6]。2022年、ローランドらにより当該化石はメガラプトル類の新属新種として扱われ、また有効名の学名が命名された。属名の"Maip"は冷風で殺す死の影としてテウェルチェ族の神話に登場する悪霊にちなみ、種小名"macrothorax"は大型の胸腔を反映してギリシャ語で「長い」を意味する"makrós"とラテン語で「胴」を意味する"thorax"に由来する[5]

形態 編集

 
ヒトとの大きさ比較

生存時のマイプは全長約9 - 10メートルと推定されており、そのため既知のメガラプトル類では最大であった可能性がある。メガラプトル類のメンバーは後期白亜紀前半の南半球におけるカルカロドントサウルス科の絶滅に続いて大型化を遂げており[7]頂点捕食者の不在により他の獣脚類が多様化して空白の生態的地位を埋められるようになったという仮説が提唱されている。アベリサウルス科ウネンラギア亜科に加え、メガラプトル類は彼らの生態系における主要な捕食者となった。既知のメガラプトル類の解析によると、当該系統群のメンバーはバレミアン期からアプチアン期にかけてアジア南アメリカオーストラリアに分布するもので全長4 - 4.5メートル、アプチアン期から前期チューロニアン期にかけてオーストラリア・南アメリカに分布したもので全長4.5 - 6メートルである。チューロニアン期からコニアシアン期のメガラプトル類は南アメリカのみから化石が産出しており、より大型で全長6 - 7メートルである。最後に、サントニアン期からマーストリヒチアン期のものはさらに大型であり、全長7 - 10メートルに達する[5]

肋骨に保存された跡は、記載者により靭帯の付着点として解釈されている。このことからマイプの呼吸器は、ワニなど現生爬虫類よりもむしろ現生鳥類のものに類似することが示唆されている[5]

分類 編集

 
マイプのパレオアート

Rolando et al. (2022) の系統解析では、マイプはアルゼンチンのメガラプトル類と共に多分岐をなす派生的なメガラプトル類であることが判明した。原記載論文では、2つの明確な系統群の存在が記されている。1つはより包括的な系統群で、フクイラプトルアウストラロヴェナトルを除く全てのメガラプトル類を含む(系統群A)。もう1つはより排除的な系統群で、南アメリカのメガラプトル類を全て含む(系統群B)。他の著者の過去の解析と同様に、メガラプトル類はコエルロサウルス類内に位置付けられ、ティラノサウルス上科姉妹群に置かれている。以下のクラドグラムはRolando et al. の系統解析の結果を示す[5]

メガラプトル類

プウィアングヴェナトル

ヴァユラプトル

フクイラプトル

メガラプトル科

Australian megaraptorid indet. (LRF 10/106)

アウストラロヴェナトル  

系統群A

アオニラプトル

Bajo Barreal Formation megaraptorid indet. (UNPSJB-Pv 944/958)

メガラプトル
ムルスラプトル
系統群B

オルコラプトル  

トラタイェニア英語版

マイプ

アエロステオン

古生態学 編集

 
マイプのホロタイプ標本が発見されたChorrillo累層地域(中央右)の衛星画像

マイプはアルゼンチン南部に分布するマーストリヒチアン階のChorrillo累層から発見された。同層から発見された命名済みの他の恐竜としては、エラスマリア類英語版鳥盤類であるイサシクルソル英語版ティタノサウルス類竜脚類であるヌロティタン英語版がいる[4]。未同定の化石としては曲竜類イグアノドン科ハドロサウルス科ノアサウルス科英語版ウネンラギア亜科のものが同層から産出している。また無尾目両生類魚類哺乳類モササウルス科ヘビカメ腹足綱も知られている[8]

歯と胴椎を含む非常に断片的な化石も発見されており、メガラプトル類のものとして分類されている。しかし、あまりに断片的であるため、マイプあるいは他の分類群へ割り当てることは不可能である[5]

出典 編集

  1. ^ a b 「悪霊」の名を持つ新種の肉食恐竜 国立科学博物館などが南米で発見」『朝日新聞』、2022年4月26日。2022年4月28日閲覧。
  2. ^ “新種の肉食恐竜”の化石 南米アルゼンチンで発見”. NHKニュース. NHK (2022年4月26日). 2022年4月28日閲覧。
  3. ^ a b 「南半球のティラノサウルス」大型肉食恐竜の新種、化石発見」『産経新聞』、2022年4月26日。2022年4月28日閲覧。
  4. ^ a b Novas, Fernando; Agnolin, Federico; Rozadilla, Sebastián; Aranciaga-Rolando, Alexis; Brissón-Eli, Federico; Motta, Matias; Cerroni, Mauricio; Ezcurra, Martín et al. (2019). “Paleontological discoveries in the Chorrillo Formation (upper Campanian-lower Maastrichtian, Upper Cretaceous), Santa Cruz Province, Patagonia, Argentina”. Revista del Museo Argentino de Ciencias Naturales nueva serie 21 (2): 217–293. doi:10.22179/revmacn.21.655. ISSN 1853-0400. https://www.researchgate.net/publication/337901475_Paleontological_discoveries_in_the_Chorrillo_Formation_upper_Campanian-lower_Maastrichtian_Upper_Cretaceous_Santa_Cruz_Province_Patagonia_Argentina. 
  5. ^ a b c d e f Rolando, Alexis M. A.; Motta, Matias J.; Agnolín, Federico L.; Manabe, Makoto; Tsuihiji, Takanobu; Novas, Fernando E. (2022-04-26). “A large Megaraptoridae (Theropoda: Coelurosauria) from Upper Cretaceous (Maastrichtian) of Patagonia, Argentina”. Scientific Reports 12 (1): Article number 6318. doi:10.1038/s41598-022-09272-z. https://www.nature.com/articles/s41598-022-09272-z. 
  6. ^ Rolando, Alexis M. A.; Motta, Matias J.; Agnolín, Federico L.; Manabe, Makoto; Tsuihiji, Takanobu; Novas, Fernando E. (2021-12-22). “The Biggest Megaraptoridae (Theropoda: Coelurosauria) of South America”. Research Square: 1-43. doi:10.21203/rs.3.rs-1152394/v1. https://assets.researchsquare.com/files/rs-1152394/v1/f6a237e3-38e4-42ed-aaed-27335b4a881e.pdf?c=1640187847. 
  7. ^ Meso, J. G.; Juárez Valieri, R. D.; Porfiri, J. D.; Correa, S. A. S.; Martinelli, A. G.; Casal, G. A.; Canudo, J. I.; Poblete, F. et al. (2021-09-01). “Testing the persistence of Carcharodontosauridae (Theropoda) in the Upper Cretaceous of Patagonia based on dental evidence” (英語). Cretaceous Research 125: 104875. doi:10.1016/j.cretres.2021.104875. ISSN 0195-6671. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667121001221. 
  8. ^ Rozadilla, Sebastián; Agnolín, Federico; Manabe, Makoto; Tsuihiji, Takanobu; Novas, Fernando E. (2021-09-01). “Ornithischian remains from the Chorrillo Formation (Upper Cretaceous), southern Patagonia, Argentina, and their implications on ornithischian paleobiogeography in the Southern Hemisphere” (英語). Cretaceous Research 125: 104881. doi:10.1016/j.cretres.2021.104881. ISSN 0195-6671. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667121001282.