広島小1女児殺害事件
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広島小1女児殺害事件(ひろしましょういちじょじさつがいじけん)とは、2005年(平成17年)11月22日に広島県広島市安芸区矢野西で帰宅途中の女子児童がペルー人の男によって強制わいせつのうえ、殺害された事件。
広島小1女児殺害事件 | |
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場所 |
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日付 |
2005年11月22日 午後(発見は同日17時頃) (UTC+9) |
攻撃手段 | 絞殺 |
攻撃側人数 | 1人 |
死亡者 | 小学1年生女子児童A |
犯人 | 日系ペルー人の男X(のち33歳と判明) |
動機 | わいせつ目的 |
対処 | Xを逮捕・起訴 |
刑事訴訟 | 無期懲役 |
管轄 |
広島県海田警察署 広島地方検察庁 |
状況 編集
11月22日午後、下校途中の女子児童A(当時7歳)が学校を出てから行方不明となり、同日17時頃に空き地に放置されていた段ボール箱の中から遺体となって発見された。
この日は来春に入学する児童の就学前検診のために午前で授業が終わり、12時30分頃には下校だった。普段は一緒に下校している友達が早退していたため、女児は一人で下校していた。[1]
死因は絞殺による窒息死で、推定死亡時刻は13時から14時。遺体の下半身には性的暴行の際に受けたと思われる手指のような鈍体で傷つけられた痕跡が存在していた。頬には涙の跡があった。
男は、女子児童の首を絞めて抵抗力を奪った後、膣に何度も指を差し込んだ。膣口を裂き広げ、出血させるほどの手荒さで、膣の最奥部に位置する外子宮口の周囲にも多数の出血跡が残っていた。さらに、女子児童が瀕死の状態になると、男は肛門にも指を突っ込み、肛門部から奥にかけて4ヵ所の裂傷を負わせた。男はこの間に射精し、その精液は女子児童の肛門部やパンツに付着していた。
広島県海田警察署の捜査により、遺体が入れられていた段ボール箱から東広島市のホームセンターで売られていたガスコンロを購入した顧客が割り出された。これを受けて29日夜、事件現場の近所に住んでいた自称・ペルー人の男X(当時30歳と自称していたが、後に33歳であることが判明)が指名手配され、この男は翌30日に三重県鈴鹿市内の親族宅で逮捕された。
このXはペルー国内でも未成年者に対する3件以上の婦女暴行をしたとして指名手配されていたため、本名を偽って就労ビザを不正取得したうえで2004年4月に日本に渡航していたことが判明した。Xは当初は三重県に在住し、2005年夏頃に広島県に引っ越していた。母国には被害者Aと同じくらいの年齢の子供を残してきていた。
事件当時の報道 編集
この事件は2004年11月17日に発生した奈良小1女児殺害事件からほぼ1年が経過して発生した事件であったためか、Xが逮捕されていない段階からワイドショーのコメンテーターを中心に「オタクによる性犯罪目的」説が喧伝されていた。2005年11月23日のテレビ朝日『やじうまプラス』では、勝谷誠彦が犯人について「これねかなりねぇ、心理的に見ると、まるで女児を物の様に扱ってますよね」と発言した。だが、逮捕された犯人像が「オタク」とはまるでかけ離れたものだったことが判明している。
『週刊文春』2005年12月8日号では、段ボール箱を封印する際のテープの型が、当時、『週刊少年ジャンプ』で連載中であった漫画『魔人探偵脳噛ネウロ』に登場していたものに似ているとの記事が掲載された。また、日本テレビの『NNNニュースプラス1』でも同様の報道がなされた。
実名報道の是非 編集
当初、Aの実名は報道されていたが、性的暴行を受けた事が判明したため、各種報道機関は遺族の感情を考慮するという名目の下、実名報道を取りやめた。しかし、その後、Aの遺族が氏名報道を行うこと、性犯罪が行われた事実を報道することを各種報道機関に要請したため、実名報道及び性犯罪に関する報道も復活する形となった。
裁判 編集
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 強制わいせつ致死、殺人、死体遺棄、出入国管理及び難民認定法違反被告事件 |
事件番号 | 平成21年(あ)第191号 |
2009年(平成21年)10月16日 | |
判例集 | 刑集第63巻8号937頁 |
裁判要旨 | |
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第二小法廷 | |
裁判長 | 古田佑紀 |
陪席裁判官 | 今井功、中川了滋、竹内行夫 |
意見 | |
多数意見 | 全員一致 |
意見 | なし |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
刑事訴訟法294条、刑事訴訟法379条、刑事訴訟規則208条 |
Xは取り調べに対し「悪魔が乗り移った」などと主張。広島地方裁判所における第一審では検察より死刑を求刑された。
初公判から50日目の2006年7月4日に判決。地裁では猥褻行為を生前に行ったこと、「悪魔」は罪を逃れるための言い訳であり「責任能力はある」と認められた。判決では「動機・経緯は卑劣かつ冷酷で、何ら酌むべき点はない」「犯行態様は残忍」「被害児童の尊い人命が奪われ、遺族の悲しみや社会に与えた影響も甚大で、結果は重大」「罪質・動機・犯行態様・結果の重大性・遺族の処罰感情・社会的影響・犯行後の行動からは永山判決が示す死刑の適用基準を満たしていると考えてもあながち不当とは言えない」などとXを厳しく非難した。一方で、「殺害人数が1人である」「犯行に計画性がない可能性がある」「被告人が過去ペルー国内において犯した犯罪について指名手配中であったが無罪推定の原則上前科が証明できない」などとも述べ、無期懲役の判決が言い渡された。
2008年12月9日、控訴審の広島高等裁判所は第一審判決を破棄し、犯行場所についての供述を含む被告人の検察官調書が第一審で取り調べなかったことは違法であるとして審理を広島地方裁判所へ差し戻した。スピード裁判で十分な審理が行われなかったことに触れ、前科について破棄した事について「賛同することはできない」とした[2]。
この判決を不服とし、X側が上告したところ、最高裁は控訴審判決を破棄した。その理由は、検察官が第一審で取調べを請求したXの検察官面前調書の立証趣旨はXの弁解状況、殺意の存在及び被告人の責任能力とされ、犯行場所については立証趣旨とされていなかった。そのような中で、第一審裁判所が被告人質問の内容から犯行場所に関する供述内容が記載されていると推測し、弁護人に具体的な任意性を争う点を釈明させ、任意性立証の機会を与える義務まではないとして否定した。さらに、検察官が控訴審においてはこの点について特に解明する必要がないと態度をとっていた。したがって、第一審には釈明義務を認め、検察官に対し任意性立証の機会を与えなかったことが審理不尽として違法であるとし、当事者の主張もないのに、前記審理不尽を認めた判決は違法であるとした。
この事件は、裁判員裁判のモデルケースとされ、公判前整理手続が行われ、従来に比べ短い期間で判決が下され、公判における証拠調べのあり方についても問われた。最高裁は、証拠の採否について第一次的にゆだねられている第一審裁判所の合理的裁量を尊重し、当事者からの主張もないのに、たやすく控訴審がその判断を覆すのは妥当でないと判断したと思われる。
やり直し第二審が行われた広島高裁では、2010年7月28日、Xに殺意があり猥褻目的による犯行であり、刑事責任能力が事件当時あったことを認めた上で、殺害人数が1人であること、計画的犯行でなかったこと、十分ではないが反省の態度を示していることなどから「一審判決が軽すぎるとはいえない」、犯罪の性質や動機、犯行態様の残忍性から「弁護側の主張を考慮しても一審判決が重すぎるとはいえない」として、無期懲役を言い渡した一審判決を支持し、検察側・弁護側の各控訴を棄却した。この判決に対し検察側は最高裁への上告を検討したが、判例違反であると上告するのは困難であるとして断念した[3]。またX側も上告しなかったため無期懲役が確定した。
その他 編集
本事件の被害者Aは1年生の1学期まで千葉県船橋市の小学校に通っていたが、自衛隊員である父親の転勤により2005年夏に転居後、2学期から事件が起きた広島県広島市安芸区の小学校に通っていた。
Xが逮捕された5日後である2005年12月5日に本事件と、同年12月に発生した栃木小1女児殺害事件による子どもの安全対策を問われた事に触れ、和歌山市市長の大橋建一が「広島もかなり郊外ですし、栃木の今市もイマイチのまちであります。そういうところで事件が相次いで起こる。我々のまちも全くひとごとではない」と発言した。大橋は、同年12月6日の本会議で発言を取り消した上「不用意な、配慮を欠いた発言だった」として謝罪した。
参考文献 編集
刑事裁判の判決文 編集
- 広島地方裁判所刑事第2部判決 2006年(平成18年)7月4日 裁判所ウェブサイト掲載判例、平成17年(わ)第1355号、平成18年(わ)第254号「日本に不法入国し,そのまま不法滞在を続けていたペルー国籍の被告人が,通りすがりの小学1年生の女児にわいせつ行為をした上,同女を殺害し,その死体を遺棄したという事件につき,死刑が求刑され,無期懲役の判決が出された事案。」。
- 広島高等裁判所第1部判決 2008年(平成20年)12月9日 裁判所ウェブサイト掲載判例、平成18年(う)第180号「わいせつ目的で女児を殺害し,その死体を遺棄したという強制わいせつ致死,殺人,死体遺棄等被告事件について,犯行場所を確定するために検察官調書を取り調べる必要性が高いにもかかわらず,検察官から証拠調請求のあった被告人の警察官調書1通及び検察官調書10通の全部について,その請求を却下した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして,原判決を破棄し,原裁判所に差し戻した事例」。
- 広島高等裁判所第1部判決 2010年(平成22年)7月28日 裁判所ウェブサイト掲載判例、平成21年(う)第202号「本件について,差戻後の審理をするに至った経緯を踏まえ,当審では差戻前控訴審の弁論終結時までの審理を前提に審理を行い,(1)弁護人及び検察官の訴訟手続の法令違反の各主張については,理由がなく,主張も採用できない(ただし,被告人のペルー共和国当時の前歴関係については,差戻前控訴審が一部証拠採用しているが,当審では心証形成の資料にはしない。),(2)弁護人の事実誤認の各主張については,理由がない,(3)弁護人の法令適用の誤りの主張については,誤りはない,としてそれぞれ退けた上で,検察官及び弁護人の量刑不当の各主張については,各所論を踏まえて検討しても,被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑は相当であり,その量刑が軽過ぎて不当であるといえないとともに,これが重過ぎて不当であるともいえないとして,双方の控訴をいずれも棄却した事案」。
出典 編集
- ^ “木下あいりちゃん殺害事件(2005年)”. 事件インデックス. 2023年4月19日閲覧。
- ^ “「まことに不可解」広島高裁、1審判決を厳しく批判”. 読売新聞. (2008年12月10日). オリジナルの2008年12月12日時点におけるアーカイブ。 2014年3月7日閲覧。
- ^ <広島女児殺害>検察が上告断念へ 差し戻し審で無期懲役
関連項目 編集
外部リンク 編集
- STOP 犯罪 - タイトル名に実名が使われているため、一部省略した。