とちあいか
とちあいかは、イチゴの栽培品種。栃木県の代表的なイチゴの品種である「とちおとめ」が萎黄病にかかりやすいことから[2]、耐病性がある品種として[3][4]栃木県農業試験場いちご研究所によって開発された[4]。酸味を抑え甘さが際立つのが特徴で[5]、一般消費者への販売を志向した品種である[3]。
とちあいか | |
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宇都宮産とちあいか | |
属 | オランダイチゴ属 |
種 | オランダイチゴ |
品種 | とちあいか(栃木i37号)[1] |
開発 | 栃木県農業試験場いちご研究所 |
とちあいかの名称が一般投票によって決定するまでは、「栃木i37号」と呼ばれていた[1]。2018年に品種登録が申請され[3][4]、2019年より商業生産・流通が行われている[6]。
特徴
編集とちあいかは、耐病性が高いため生産者にとっては栽培しやすく、酸味が弱く甘い[注 1]ため消費者が食べやすいという特徴を持つ[3][4]。また単位面積あたりの収穫量が「とちおとめ」の1.3倍あり[4][7]、既存品種より早い10月下旬から出荷できるという生産面の優位性がある[8]。生産者と消費者の双方にとってメリットのある品種であることから、栃木県はとちおとめと並ぶ、あるいはとちおとめを超える主力品種に育てていくことを目指している[3][4]。
既存品種の「とちおとめ」が業務用(洋菓子などへの加工用)と一般消費用、「スカイベリー」が贈答用との位置付けにあるのに対し、とちあいかは一般消費者をターゲット[注 2]としている[3]。また、とちおとめよりも実が硬めであることから長距離輸送が可能となり、関西方面への出荷や日本国外への輸出も視野に入れている[4]。形は円錐形で[4]、ヘタの部分がへこんでいるため[10]、実を半分に切ると、断面がハートの形[注 3]になる[9][11]。これを生かしてクリスマスやバレンタインデーなどの季節行事での訴求が期待されている[9][11]。
2019年11月から12月にかけて、栃木県農業試験場いちご研究所が181人に対して品種名を伏せてとちおとめと食べ比べを実施したところ、甘み・酸味・外観・食感・香りの5つの評価項目すべてでとちあいかがとちおとめを上回った[12]。老若男女を問わず、とちあいかの方が評価が高く、特に女子大生は85%がとちあいかの方を購入したいと回答した[12]。
歴史
編集栃木県は仁井田一郎がイチゴ栽培の普及に尽力したことで、1968年以降イチゴ生産量日本一を継続し、2018年には県が「いちご王国」を宣言した[13]。栃木県のイチゴと言えば、とちおとめとスカイベリーが品種として定着しているが、産地ごとに独自の品種があり、熾烈な競争が切り広げられていることから、新品種の開発も続けられている[13]。とちおとめの欠点[注 4]改善を目標として[14]、2011年に[5]栃木市の栃木県農業試験場いちご研究所[注 5]で新品種の開発が始まった[4]。交配開始から7年[注 6]をかけて、栃木県では10番目となるイチゴの新品種「栃木i37号」が完成し、品種登録を申請した[4]。
2018年11月13日、農林水産省は「栃木i37号」について出願公表した[3]。11月15日に全国農業協同組合連合会栃木県本部(JA全農とちぎ)が主催する「いちご王国とちぎ流通懇談会」(東京都)の席では、栃木県知事の福田富一が早速新品種の売り込みを行った[15]。
2019年3月26日に栃木県は栃木i37号を「普及品種」に指定し[16]、6月6日にはいちご研究所が観光いちご園経営者または直売のみの生産者の中から最大5戸を対象に苗の有償配布を行うと発表した[17]。配布対象がこの条件になったのは、苗の供給の都合と、観光客へ新品種を訴求したいという思惑があったからである[17]。同年の「栃木i37号」の作付農家は65戸で、栽培面積は2.5ヘクタール、見込み出荷量は125トンであった[6]。7月には、栃木県の特許庁への商標登録出願状況から、新品種の名称候補は、あきね・とちあかり・とちあいか・とちまる・えみか・とちれいわの6つであると下野新聞が報じた[14][注 7]。2019年は台風19号が襲来し、被災した農家もあったが、10月28日に4戸の農家が356パック・96キログラムを初出荷した[6]。この時点では名前が決まっていなかったため、「栃木i37号」として出荷した[6]。はが野農業協同組合(JAはが野)の2020年産(2019年10月 - 2020年6月)の栃木i37号の販売額は、試験販売という位置付けであったため5900万円と少なく、とちおとめの88億7600万円とは大きな開きがあった[19]。
2020年7月28日、福田富一知事は定例記者会見で、栃木i37号の名称が「とちあいか」に決定したと発表した[1]。2019年10月から2020年3月まで行われた一般投票で最多の2,782票を獲得した名称であり、「愛されるとちぎの果実」と言う願いが込められている[1]。10月30日にとちあいかの名称決定後初の出荷が行われ[20]、45キログラムが大田市場などへ流通していった[10]。同年は250戸が16ヘクタールで栽培し[10]、12月に本格的な出荷を迎えた[11]。栃木県と農業協同組合は2021年シーズン(2020年10月 - 2021年6月)を「市場評価を受ける勝負の年」と位置付けたが、コロナ禍のために試食会などの対面での宣伝が難しいことから、専用ウェブサイトや動画などを作成し、オンラインでの広報を進める方針である[11]。
2021年1月、スイーツパラダイスと資生堂パーラーのいちごフェアで、とちあいかが対象のイチゴの1つに選ばれた[21][22]。
脚注
編集- 注釈
- ^ 消費者が求める食味が酸味を控えたものであることから、この特徴を持つイチゴ品種が開発された[5]。糖度はとちおとめとほぼ同じであるが、酸味が少ないため、より甘く感じられる[5]。
- ^ 2020年現在、とちあいかはとちおとめよりも1パックあたり100円ほど高価であるが、過去数年間に開発された新品種は1,000円を超すような贈答用が多かったため、安価な方である[9]。栃木県は、高級品種の増加による消費者のイチゴ離れを避け、イチゴの消費拡大を狙って一般消費向け品種を開発した[8]。甘みが強いため菓子材料としてはとちおとめの方がむいているとされる[7]が、ケーキに使う企業もある[9]。
- ^ 意図的にハート形になるよう開発されたのではなく、偶然である[5]。
- ^ とちおとめは2019年時点で栃木県のイチゴ作付面積の9割以上を占める圧倒的な主力品種であるが、夏季に萎黄病にかかりやすいという弱点がある[2]。
- ^ 他の果実類は民間による新品種の開発も行われるが、イチゴはほとんどが地方公共団体によって開発されている[5]。
- ^ 最初の5年で交配・選抜を重ね、残る2年で農家による実験的な栽培を実施した[5]。
- ^ 県によって正式に名称候補が発表されたのは、10月28日のことである[18]。
- 出典
- ^ a b c d “イチゴ新品種は「とちあいか」 栃木県が開発、名称決定”. 下野新聞 (2020年7月29日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ a b 松本萌「病に強い新顔 期待 ブランド戦略課題」日本経済新聞2019年11月1日付朝刊、地方経済面 北関東41ページ
- ^ a b c d e f g “イチゴ新品種、甘く大粒 開発7年、王国の主力候補 栃木県”. 下野新聞 (2018年11月15日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j 常松鉄雄"とちおとめ超えた?新イチゴ誕生 県開発「栃木i37号」大きな粒・際立つ甘さ・病気に強い"朝日新聞2018年11月15日付朝刊、栃木版23ページ
- ^ a b c d e f g 竹田直人 (2020年9月20日). “1日数百個のイチゴを試食… ハート形の「とちあいか」開発の苦労”. 2021年1月1日閲覧。
- ^ a b c d “イチゴ「栃木i37号」初出荷 酸味少なく甘さ際立つ新品種”. 下野新聞 (2019年10月29日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ a b 「イチゴ新品種甘くジューシー とちおとめより多く・大きく 商品名公募も検討」読売新聞2018年11月15日付朝刊、栃木2、30ページ
- ^ a b 「台風乗り越え新種船出 大衆志向で消費拡大」日本経済新聞2019年10月31日付朝刊、地方経済面 北関東41ページ
- ^ a b c d "イチゴ「とちあいか」長く愛して 栃木の新顔、店頭お目見え 強い甘み、手ごろ価格で気軽に"日経MJ2020年12月7日付、12ページ
- ^ a b c "イチゴ新品種「とちあいか」出荷 甘み強く、断面ハート形"毎日新聞2020年10月31日付朝刊、栃木版25ページ
- ^ a b c d “イチゴ新品種「とちあいか」出荷本番 デジタル活用 PR強化も”. 下野新聞 (2020年12月28日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ a b "新品種、とちおとめに完勝 イチゴ「i37号」消費者評価 全5項目で上回る"日本経済新聞2020年7月16日付朝刊、地方経済面 北関東41ページ
- ^ a b 大村美香「イチローはペダルをこいだ 赤く華やかまるでアイドル 苺ひとすじの道(栃木県〜神奈川県)」朝日新聞2019年3月16日付朝刊、週末be6ページ
- ^ a b “イチゴの新品種、名称候補6つ 栃木県が商標出願、投票で決定”. 下野新聞 (2019年7月17日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ “栃木県産イチゴ、首都圏でPR 新品種「栃木i37号」に歓迎の声も”. 下野新聞 (2018年11月16日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ 野田樹"県、「i37号」普及へ 来季限定的に一般販売"毎日新聞2019年3月28日付朝刊、栃木版25ページ
- ^ a b “「栃木i37号」の栽培希望者募る PRへいちご園など対象 栃木県”. 下野新聞 (2019年6月7日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ 林田七恵・萩原桂菜"白イチゴは「ミルキーベリー」 贈答用、紅白セット販売も 病気に強い「i37号」も初出荷"毎日新聞2019年10月29日付朝刊、栃木版19ページ
- ^ “イチゴ販売額90億円台を維持 JAはが野の20年産”. 下野新聞 (2020年6月6日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ “イチゴ新品種「とちあいか」出来栄え上々 名称決定後、初の出荷 JAはが野”. 下野新聞 (2020年10月31日). 2021年1月2日閲覧。
- ^ “〜スイパラでいちご食べ放題〜フルーツパラダイス『ブランドいちご食べくらべ』”. PRTIMES. 時事通信社 (2020年12月23日). 2021年1月3日閲覧。
- ^ “「資生堂パーラー銀座本店」が2日間限定で「ストロベリーホリデー2021」開催”. 大人の社会見学. エキサイト (2021年1月2日). 2021年1月3日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- いちご新品種「栃木i37号」の名称決定について - 栃木県