牛久保のナギ(うしくぼのナギ)は、愛知県豊川市下長山町の熊野神社境内にある、国の天然記念物に指定されたナギ(梛)の巨樹である[1][2][3]

牛久保のナギ。
2022年4月20日撮影。

ナギはマキ科ナギ属の常緑高木で、比較的温暖な気候を好むため、日本国内での主な自生地は四国および南九州以南の地域であり、人為的に植樹されたものを除き、自然状態で自生するナギの個体は関東地方以北にはほとんど存在しない[4]。国の天然記念物に指定されたナギは、生育地として指定されたもの2件と、単体の樹木として指定されたもの2件の合計4件である[† 1][5]。このうち単体の樹木として国の天然記念物に指定された牛久保のナギは、自生の北限に近い緯度にあるナギとしては著しく大きく成長したものであることから、1938年昭和13年)12月14日に国の天然記念物に指定された[1][2]。牛久保は当地の合併前の旧町名(愛知県宝飯郡牛久保町)である[3]

解説 編集

 
 
牛久保の
ナギ
牛久保のナギの位置
 
「牛久保のナギ」周辺の空中写真。
生育する熊野神社境内は飯田線の線路で分断されている。
国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成。(2020年6月16日撮影の画像を使用作成)

牛久保のナギは、日本三大稲荷の1つとされる豊川稲荷にほど近い、愛知県豊川市中心市街地南方の下長山町に鎮座する熊野神社境内の、樹木が茂る鎮守の森の一角にある小高い場所に生育している[4][6]

生育地は境内の一角ではあるが 、東海旅客鉄道(JR東海)飯田線の線路が、この熊野神社の境内の敷地を南西から北東方向へ横切るように敷設されているため、神社の境内が2つに分断された形になっている。これは1897年明治30年)に開業した豊橋駅 - 豊川駅間の建設に際し、飯田線の前身である豊川鉄道が熊野神社境内を横断するような形で線路を敷設したことによるもので、結果的に国の天然記念物に指定されたナギの木は、線路南東側の飛び地のような境内に所在することになり、熊野神社社殿のある線路北西側の境内とは分断されてしまったため、一見しただけでは本樹が神社境内に生育していることが分かり難い(位置関係は右下の空中写真参照)。

本樹は目通り周囲約3.5メートル、樹高は約15メートルという[† 2]、ナギとしては巨大なもので、地上から約4メートルのところで2つの支幹に分かれている[4]樹冠の広がりは10メートルを超えており[2][6]、推定される樹齢は300年以上[7]、あるいは400年以上とされ[8]、樹勢は盛んである[9]

ナギの木は和歌山県熊野三山を総本社とする熊野神社系の神社境内に植栽されていることが多く、雌雄異株であるため、雄株と雌株が対になって参道の両側に植栽されることもあるが、牛久保のナギは雄木(雄株)であり、前述した飯田線の線路を挟んで北西側にある熊野神社社殿の右手に雌木(雌株)があって、毎年秋になると濃い藍色のが結実する[8]

ナギの葉は光沢のある細長い楕円形をしており、多数の葉脈(平行脈)があって[2]、見た目からは想像し難いが、簡単に裂くことができないことから別名「ベンケイナカセ(弁慶泣かせ)」とも呼ばれ[8]、裂けにくい特徴があるため、夫婦の縁が切れないことを願うお守りに入れられたりするという。葉の先端はにぶく尖っていて、長さは約6センチ、幅は2センチほどで、葉の形状の印象から広葉樹のように見えるが針葉樹である[2]

交通アクセス 編集

所在地
  • 愛知県豊川市下長山町西道貝津87[7]
交通

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ ナギ属が含まれるマキ科の植物のうち、枯死により国の天然記念物指定が解除された事例は次の2例。
    1. 「海蔵寺のナギ」(静岡県熱海市
    2. 「常福寺のラカンマキ」(千葉県長生郡白子町
    このうち「常福寺のラカンマキ」は、ラカンマキ(羅漢槙)としては唯一の国の天然記念物であったが、近隣に所在する天然ガス工場が排出する亜硫酸ガスにより1965年(昭和40年)頃より樹勢が衰え、近隣住民らによって保護回復の試みが行われたが枯死してしまい、1968年(昭和43年)5月11日付で天然記念物の指定が解除された。
  2. ^ 樹高は資料により異なり、豊川市観光協会の「熊野神社」の解説では20メートルである。本記事では愛知県庁ホームページの「文化財ナビ愛知」で解説されている数値を記載した。

出典 編集

  1. ^ a b 牛久保のナギ(国指定文化財等データベース) 文化庁ウェブサイト、2022年3月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e 倉内(1995)、p.406。
  3. ^ a b 本田(1957)、p.60。
  4. ^ a b c 文化庁文化財保護部(1971)p.97
  5. ^ 「国指定天然記念物である千葉県長生郡白子町常福寺のラカンマキについて知りたい。」千葉県立中央図書館) - レファレンス協同データベース
  6. ^ a b 牛久保のナギ 文化財ナビ愛知 愛知県公式ホームページ、2022年3月28日閲覧。
  7. ^ a b c d 熊野神社 2022年3月28日閲覧。豊川市観光協会公式ウェブサイト。
  8. ^ a b c 「現地解説板」豊川市教育委員会による設置。
  9. ^ 倉内(1995)、p.404。


参考文献・資料 編集

  • 加藤陸奥雄他監修・倉内一二、1995年3月20日 第1刷発行、『日本の天然記念物』、講談社 ISBN 4-06-180589-4
  • 文化庁文化財保護部監修、1971年5月10日 初版発行、『天然記念物事典』、第一法規出版
  • 本田正次、1958年12月25日 初版発行、『植物文化財 天然記念物・植物』、東京大学理学部植物学教室内 本田正次教授還暦記念会

関連項目 編集

外部リンク 編集

座標: 北緯34度48分26.7秒 東経137度22分48.7秒 / 北緯34.807417度 東経137.380194度 / 34.807417; 137.380194