電子渡航認証システム

アメリカ合衆国国土安全保障省により運営されている電子システム

電子渡航認証システム(でんしとこうにんしょうシステム、英語: Electronic System for Travel Authorization、略称:ESTA)とは、ビザ免除プログラム(VWP)参加国から船舶または航空機アメリカ合衆国へ入国・通過する者に対し、米国出入国カード(I-94W:紙製でVWP参加国の渡航者が米国入国時に記入している)をアメリカ合衆国への渡航(アメリカ合衆国を経由して他国へ渡航する場合も含む)前に、インターネットウェブサイト電子申請することを義務付けるものである。システムへの登録は9・11委員会勧告実施法("9・11法"としても知られる)により義務付けられており、アメリカ合衆国国土安全保障省(DHS)により、日本語を含む複数言語を網羅するウェブサイトが運営されている。

ESTA

登録 編集

 
公式サイト

2008年8月1日より登録可能だったが、入国手続き上は2009年1月12日まで必須ではなかった[1]。一度審査が承認されると、そのESTA認証は2年間有効である。当初、ESTA承認を受けても飛行機内または船内での紙製の米国出入国カード(I-94W)への記入も変わらず必要であった。

I-94Wの情報は、国勢調査局および商務省によっても使用されるが、国土安全保障省のオンラインシステムは、テロリストや搭乗禁止(No-Fly)リスト、およびデータベースに掲載されている拒否対象者の入国に備えたVWP参加国渡航者の確認だけを目的に設計されているからである[2]。その後、I-94Wの提出は一部の空港から段階的に廃止され、2010年7月4日以降に全ての空港で提出が廃止された。

アメリカ合衆国連邦政府は、渡航者に対してアメリカ合衆国への渡航3日前(72時間前)に、オンラインで承認申請を行うことを推奨している[3]。しかしこれは必須条件ではなく、ほとんどのオンライン申請は、電子申請後72時間以内に承認される。ただし渡航者がビザ(査証)免除されていない場合、アメリカ合衆国大使館または領事館でビザを取得する必要がある(これは、アメリカ合衆国大使館の外交官による、面接質疑を含む長期かつ面倒で金銭的負担の大きな手続きとなる)。このため連邦政府は、VWP参加国の渡航者に対し、ESTA承認のための登録を渡航直前に行わないよう「推奨」している。しかしこの推奨はしばしば「必要条件」であると誤解される。その結果、この推奨によって「急な出張が遅れてしまう」と不満を漏らす人もいる[4]

いったん認証を受けると2年間は有効だが、その渡航者のパスポートの有効期限が2年未満の場合、ESTAの有効期限もパスポートの有効期限が切れるまでとなる[3]。有効期限内のESTAが申請した場合でも、新たなESTAを登録することが可能であり、申請を出すたびに認証審査費用を払う必要がある。なお、当初は登録無料であったが、2010年3月成立の「旅行促進法」に基づき、2010年9月8日から14米ドルクレジットカード又はPayPalで支払う様に有料化された[5]2022年5月26日より、認証審査費用が21米ドルに変更された。

ESTAの申請は、第三者代理人によることもできる。オンラインの申請代行業者もあるが、公式ウェブサイトと紛らわしい体裁をとっていたり、高額な情報提供料・申請手数料の請求や、解約・返金が不可能な契約によるトラブルも報告されている[6]駐日米国大使館は、代行業者の利用によりESTAが承認される可能性が高くなることはないと公式ウェブサイト上で説明している[7]

ESTA申請後の状況確認や、ESTA拒否の理由、または原因の詳細については大使館・領事館では回答は行っておらず、国境警備局のウェブサイト[8]英語にて電話もしくはウェブフォームから問い合わせが必要である。ESTA拒否、またはESTA申請に関する特定の質問については、DHS TRIP(Traveler Redress Inquiry Program) に連絡が必要。日本語での問い合わせをしたい場合は、代理店に依頼するのが一般的である。

ビザ免除プログラム対象国 編集

以下の国家が発行するICパスポートを保持する国民または国籍の場合、ESTA電子渡航認証システム申請が可能である[9]

アンドラオーストラリアオーストリアベルギーブルネイチリチェコ共和国デンマークエストニアフィンランドフランスドイツギリシャハンガリーアイスランドアイルランドイタリア日本ラトビアリヒテンシュタインリトアニアルクセンブルクモナコオランダニュージーランドノルウェーポルトガルマルタ共和国サン・マリノシンガポールスロバキアスロベニア大韓民国スペインスウェーデンスイス台湾英国

ただし、上記のパスポートを持つ国民であっても、以下の国家へ2011年3月1日以降に渡航歴があると、ESTAは利用できない。イランイラクスーダンシリアリビアソマリアイエメン[10]。その後、2019年8月5日から北朝鮮も追加され、合計8カ国が対象となっている[11]。2021年1月12日にはキューバがテロ支援国家に指定され、同国への渡航歴がある場合、ESTAの対象から除外されることになった[12]

名称の変更 編集

このシステムの名称は、スペイン政府の要請によりETA(Electronic Travel Authorization)からESTAへと変更された。これはバスク地方分離主義者グループETAとの混同を避けるためである。オーストラリア政府は同様のシステムを運用しているが、それは依然としてETA(電子渡航承認Electronic Travel Authority)システムと呼ばれている[13]

査証との違い 編集

ESTAの承認は以下の3つの点で査証とは異なる。

  1. 米国入国のための最終入国審査は、依然として米国入国の際に空港または港で米国税関国境警備局(CBP)の審査官による審査により行われている。
  2. ESTAの審査レベルは米国国務省により発行される査証の審査レベルより低い。
  3. オンラインで提供される情報は、従来からVWP参加国の渡航者が飛行機または船に搭乗/乗船中に出入国カード(I-94W)への記入によって提供されている(現在は廃止)。

結局のところ、ビザ免除プログラム(VWP)参加国の米国渡航者は、従来通り査証不要であるものの、ESTAによる事前承認が必要となったということになる。

査証取得には、査証の種別により160から390米ドル、ESTAは2010年9月8日以降は14米ドル、2022年5月26日以降は21米ドルかかる。この21米ドルのうち4米ドルは事務手数料、17米ドルは、アメリカ合衆国の観光事業推進のための財源となる。申請が承認されなかった場合は、事務手数料の4米ドルのみ徴収される。

グアム、北マリアナ諸島における特例 編集

日本を含む12カ国からグアム北マリアナ諸島へ45日以内の滞在である場合に限り、グアム-北マリアナ諸島連邦ビザ免除プログラム[14]を利用でき、ESTAの申請は不要である。この場合、入国審査時にI-736およびI-94(白色)を提出する必要がある。 ESTA登録済みであればこれら入国審査書類の記入は免除される。 さらにESTA登録済みの渡航者に対して待たずに入国審査を受けられるサービスがグアム国際空港サイパン国際空港で導入されたが、グアムについては2014年10月に廃止された。

カナダまたはメキシコから陸路入国する場合 編集

米国に隣接するカナダ又はメキシコから、鉄道バス・自家用車・徒歩による手段で、陸路により国境検問所から入国する場合は、ESTAの申請は不要であり[15]、従来通り入国時にI-94Wを記入する。この場合、手数料として入国時に6米ドル徴収される[16]

ただし、この方法で入国したのち、航空機または船舶で米国から出国する場合には、I-94Wを航空会社等を通じて搭乗前に返却しなくてはならない。

2022年10月1日より、陸路で入国する場合も、ESTAの申請が義務化された。

出典 編集

  1. ^ ESTA(電子渡航認証システム 公式サイト) 国土安全保障省・税関国境警備局
  2. ^ Arrival-Departure Record, CBP Form I-94W, for Visa Waiver Program(VWP) Applicants 米国国土安全保障省・税関国境警備局、2008年2月25日
  3. ^ a b DHS Announces Pre-Travel Authorization for U.S.-Bound Travelers from Visa Waiver Countries 米国国土安全保障省・税関国境警備局 プレスリリース、2008年6月3日
  4. ^ Industry Anxious About Planned U.S. Electronic Entry System The Transnational、2008年9月4日
  5. ^ 「ビザなし渡米に手数料」『日本経済新聞』2010年9月3日付夕刊、東京4版3面。
  6. ^ ESTA、eTAなどの電子渡航認証の申請代行サイトで高額請求された!”. 国民生活センター (2019年12月25日). 2022年7月30日閲覧。
  7. ^ ESTA電子渡航認証システムについてのよくある質問”. 米国大使館. 2011年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年7月30日閲覧。
  8. ^ [1] U.S. Customs and Border Protection(英語)
  9. ^ [2] 電子渡航認証システム(ESTA)オンラインヘルプ
  10. ^ “重要なお知らせ”. 在日米国大使館・領事館. (2020年5月1日). https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/visa-waiver-program-ja/esta-information-ja/ 2020年5月1日閲覧。 
  11. ^ “北朝鮮渡航者を米政府ESTA対象者から除外 北朝鮮入国印はパスポート上に残らない(1/2)”. コリアワールドタイムズ. (2019年8月9日). https://www.koreaworldtimes.com/topics/news/5765/ 2020年5月1日閲覧。 
  12. ^ “よくある質問”. 米国税関国境取締局. https://esta.cbp.dhs.gov/faq?lang=ja 2022年12月25日閲覧。 
  13. ^ Electronic Travel Authority (ETA 電子渡航許可) 在日オーストラリア大使館
  14. ^ グアム-北マリアナ諸島連邦ビザ免除プログラム - 米国大使館(東京)
  15. ^ Do I need to apply for ESTA if...? - US Customs and Border Protection
  16. ^ Can I enter the U.S. by land from Canada or Mexico? - 米国大使館(東京)

関連項目 編集

外部リンク 編集