カモミール
カモミール、カモマイル(英: chamomile、あるいはカモミーユ(仏: camomille)、学名:Matricaria recutita)は、キク科の1種の耐寒性一年草。和名はカミツレ(加密列)である[1][2]。後述するように、カモミールとも呼ばれる植物が他にあるため、本記事のMatricaria recutita を特にジャーマン・カモミール(German chamomile)という[2]。ヨーロッパではハーブとして、どちらも同じように使われてきた。 ロシアでは、国花として用いられる。
カモマイル | |||||||||||||||||||||
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![]() カモミールの花
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Matricaria recutita L. | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
Matricaria chamomile | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
カミツレ(加密列) | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
German chamomile |
特徴編集
ヨーロッパ原産の一年草で、秋蒔きのときは二年草である。ヨーロッパから西アジアにかけて分布する[2]。日本へは、江戸時代(19世紀初め)にポルトガル人やオランダ人によって伝えられたといわれる[2]。その後、鳥取県や岡山県などで栽培が始められた。現在は広く普及していて庭に植えられることも多く、飛んだ種からそのまま野生化することもある。
草丈50 cm内外になり、茎は直上して枝分かれする[2]。葉は羽状複葉で、コスモスの様な葉の形をしている[2]。春先の5月ころに、仇先に白い舌状花に囲まれ、中央が盛り上がった黄色い筒状花になっている、直径3 cmくらいの頭花を多数咲かせる[2]。株全体から甘い芳香を漂わせており[2]、花にリンゴに似た特有の強い香りがある。
語源編集
カモミールの語源は「大地の(χαμαί)リンゴ(μήλον)」という意味のギリシア語名のカマイメーロン(χαμαίμηλον (chamaímēlon))で、これは花にリンゴの果実に似た香りがあるためである。
スペイン語名のマンサニージャ(manzanilla)は「リンゴ(manzana)のような(香りがある)もの」という意味。属名のマトリカリアは「子宮」を意味し、婦人病の薬として用いられていたことに由来する。「マザーズハーブ(母の薬草)」とも呼ばれる[3][信頼性要検証]。
和名はカミツレ(加密列)で、これはオランダ語名カーミレ(kamille [kaˑˈmɪlə])の綴り字転写カミッレが語源。旧仮名遣いでは促音の「っ」を大きな「つ」で書いていたためにこのように訛ったものと思われる。また、カミルレとも。
利用編集
地上部の茎葉、特に花に、良い香りがする精油を含んでいる[2]。精油成分には主に、カマツレン、ノニール酸やテルペンアルコール、その他配糖体のアビゲニンなどを含んでいる[2]。特有の香気はテルペンアルコールによるものである[2]。カマツレンは青色油状で、腫れを引かせる消炎作用があり、その他の精油は延髄を興奮させて、発汗、血液循環を促す作用が知られている[2]。その他、腸内ガスの排出(駆風)や、体温を温める効果が知られている[2]。
今から4千年以上前のバビロニアで既に薬草として用いられていたと言われ、ヨーロッパで最も歴史のある民間薬とされている[4]。 安全で効果的なハーブとして、古くからヨーロッパ、アラビアで利用された。中世までは特にフランスなどで[5]薬草として用いられ、健胃・発汗・消炎作用があるとして、婦人病などに用いられていた。ハーブ処方の古典『バンクスの本草書』には、肝臓の痛み、頭痛、偏頭痛などに効能があり、ワインと共に飲むと良いと書かれている[5]。なお、カモミールに含まれるルテオリン及び赤ワインに含まれるプロシアニジンには、どちらもエンドセリンの阻害作用が存在する[6][7]。
フランスでは薬草といえばカモミールというほどよく知られ、ドイツでも風邪、頭痛、下痢などにハーブティーに用いられるほど、よく知られたハーブである[2]。イギリスでは、よく似たローマンカモミール(ローマカミツレ)をカモミールと呼んでいる[2]。カモミールは花床[注釈 1]が空洞であるが、ローマンカモミールは花床が充実しているので区別がつく[2]。薬草としての効用は、カモミール(ジャーマン・カモミール)もローマンカモミールも同じである[2]。欧州では伝統生薬製剤の欧州指令に従い医薬品ともなっている。
5 - 6月の開花期に、花を摘み取って陰干ししたものをカミツレ花と呼んでいる[2]。花から水蒸気蒸留法で精油を抽出したものは、抽出が間もないうちは濃紺色をしている。この精油は、濃縮された形のままでは不快な匂いがするが、希釈するとフルーティーで甘いハーブ調の香りがする[8]。精油は食品や香水に香料として使われている。アロマテラピーにも用いられるが、学術的研究はほとんどなく、ローマンカモミール油と混同されていたり、使われたカモミールの品種を特定できない研究もある[8]。抗炎症作用を持つと考えられるが、喧伝される精油の薬効の多くは、ハーブとしてのカモミールに伝統的に言われるものである[8]。黄色味が強くなった精油を青くするため、偽和が行われることがある[8]。
民間療法では、風邪の初期や下痢止めに、カミツレ花1日量10 - 15グラムを600 ㏄ほどの水で半量になるまで煎じて、食間3回に分けて分服する用法が知られている[2]。駆風や体温を温めるには、カップにカミツレ花5グラムほどを入れて、ティーとして飲用することが知られる[2]。また、浴湯料として、茎葉か花を布袋に入れて風呂に入れると、疲労回復、リウマチ、神経痛、腰痛に役立つと考えられている[2]。服用・飲用以外に、風呂に入れる入浴剤や石鹸などのスキンケア製品に使われる例もある[9]。
カモミールはキク科であるため、キク科アレルギーを持つ人には用いない。カモミールティーでアナフィラキシー反応を起こし、死亡した例がある[10]。
園芸療法で扱われるハーブとしては代表的。カモミールは同じキク科の除虫菊などと同じく近くに生えている植物を健康にする働きがあるといわれ、コンパニオンプランツとして利用される。たとえばキャベツやタマネギのそばに植えておくと害虫予防になり、浸出液を苗木に噴霧すると立ち枯れ病を防げる。ハーブティーや入浴剤として使用した後の花を土に埋め込めば、カモミールの効果がある土になる。
花言葉編集
近縁種編集
カモミールが名前に入っている近縁種がいくつかある。
- ローマンカモミール (Roman chamomile) (Anthemis nobilis)。
- キク科カマエメルム属の多年草。ジャーマンカモミールと同様に、花を染色、ハーブとして入浴剤に用いる。全草に香りがあり、花から淹れたハーブティーには苦みがある点がジャーマンカモミールとの大きな違いである。
- イヌカミツレ (scentless chamomile) (Matricaria inodora syn. Matricaria perforata)。
- 「香りがない」という意味の種名のとおりほとんど香りがなく、ハーブとしての価値はないが、園芸種は白花の八重咲きで花が美しいため、観賞用に栽培される。
- カミツレモドキ (Dog-fennel or Stinking Chamomile) (Anthemis cotula)
- カモミールではないが、ヨモギギク属のナツシロギク(Tanacetum parthenium)はかつてカミツレ属(マトリカリア属)に分類されていたため、園芸上マトリカリアと呼ばれる。
参考画像編集
脚注編集
注釈編集
- ^ 花の根元の部分。
出典編集
- ^ 日本サプリメント協会『体の悩みを解決!ずっと元気に!サプリメント健康時点』集英社、227ページ、2015年、ISBN 978-4-08-333142-8
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 田中孝治 1995, p. 80.
- ^ カモミール(カミツレ)の花言葉|種類、特徴、色別の花言葉 LOVE GREEN
- ^ わかさの秘密カモミール(カミツレ)
- ^ a b 『西洋中世ハーブ事典』104ページ
- ^ LOX-1ブロッカーの開発|血管生理学部|組織・各部の紹介 国立循環器病研究センター研究所
- ^ 平成18年度年報 264/1066 産総研
- ^ a b c d マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年
- ^ お風呂 華密恋の湯カミツレの宿 八寿恵荘(2018年2月25日閲覧)
- ^ デイビット・ウインストン, スティーブン・メイム 著 『アダプトゲン―ストレス「適応力」を高めるハーブと生薬』 熊谷千津, 法眼信子 訳、フレグランスジャーナル社 、2011年
- ^ [1]
参考文献編集
- 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、80頁。ISBN 4-06-195372-9。
- 西洋中世ハーブ事典(八坂書房)
関連項目編集
外部リンク編集
- カミツレ(カモミール) - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)