石鹸

洗浄剤および高級脂肪酸の塩の総称
この項目には、JIS X 0213:2004 で規定されている文字が含まれています(詳細)。

石鹸(石鹼、せっけん、シャボン、: sabào)は、一般に汚れ落としの洗浄剤を示す語である。また高級脂肪酸塩(えん)の総称である。

店舗に並ぶ石鹸の数々
マルセイユ石鹸フランス語版(サヴォン・ド・マルセイユ)

一般用語としての石鹸と化学用語としての石鹸は重なり合うことが多いが、化学的には石鹸ではないものが一般的に石鹸と呼ばれている場合や、その逆の場合がある。

概要編集

界面活性剤であり、や油を含む汚れを水に分散させる作用により洗浄能力を発揮する[1]

また、細菌やウイルスを洗い落とすことにより物理的に除去する「除菌作用」があるが、これは菌を殺す「殺菌」は別である。全ての石鹸が細菌やウイルスに対する「殺菌作用」を持つわけではないが、殺菌を目的とした逆性石鹸や一部の薬用石鹸は殺菌作用を有する。

石鹸の主成分は脂肪酸塩であり、牛脂・羊脂・豚脂・硬化油・ヤシ油・綿実油などの油脂水酸化ナトリウムなどの塩基鹸化することによって作ることができる[2]。成分が脂肪酸塩だけで、添加物を含まない石鹸を指す特に純石鹸と呼ぶが、多くの石鹸は純石鹸ではなく、炭酸塩香料などが添加されている。

石鹸は古代から手作りされてきた。現代でも家庭で容易に手作りすることができるが、市販品のほとんどは工業的に作られている。

一般には溶媒として溶かして使用するものであるが、水なしで使えるよう工夫されたドライシャンプーもあり、介護災害時宇宙ステーションでも使用されている[3]

なお石鹸は硬水では泡立たず、石鹸かすを形成するため洗浄効果が低下する[4][5]

分類編集

成分による分類編集

ナトリウム・カリウムなどのアルカリ金属塩のアルカリ石鹸と、アルカリ金属以外の金属塩の金属石鹸に分類され、石鹸といえば通常は前者を指す。

アルカリ石鹸は水溶性で表面活性が著しく、起泡力をもち洗浄力がすぐれる。

使用するアルカリ金属の種類によって、石けんの性状が異なる。水酸化ナトリウムから作られるナトリウム石鹸は固形で、水酸化カリウムから作られるカリウム石鹸は軟らかく、液状であることが多い。リチウム石けんも硬い傾向がある。リチウム石けんは、もっぱらグリースとして用いられる。

用途による分類編集

身体用石鹸編集

人の身体に用いる石鹸である。各国で薬事法などの規制を受ける[6]。浴用石鹸(ボディーソープ)、洗顔用石鹸、手洗い用石鹸(ハンドソープ)、薬用石鹸などがある。固形・粉石鹸はナトリウム石鹸で、液体石鹸・ボディーソープ・シャンプーは溶解度の大きいカリウム石鹸である。また、ナトリウム石鹸・カリウム石鹸を併用したものもある。なお「合成固形石鹸」は石鹸ではなく、日本の医薬品医療機器等法では「化粧品」として扱われている。
なお、一般に「化粧石鹸」という言葉が使われることがあるが、これには明確な定義はない[6]。身体用の固形石鹸を「化粧石鹸」と呼ぶこともあれば、「洗顔石鹸」と「浴用石鹸」をひっくるめて「化粧石鹸」と呼ぶこともある[6]。いずれの場合も「化粧石鹸」は通常固形石鹸だけを指し、液体石鹸は含まれない[6]
  • 薬用石鹸
殺菌消毒用。身体の一部や食器、布巾などに用いる。日本の医薬品医療機器等法では医薬部外品として扱われている。殺菌成分としてトリクロカルバン、トリクロロカルバニリド、イソプロピルメチルフェノールなどを含む。
2016年9月、米国食品医薬品局(FDA)トリクロサン、トリクロカルバン等19成分を含有する抗菌石けんの米国内での販売を停止する方向であると発表した[7]。これを受けて、日本厚生労働省もトリクロサン等を含む薬用石けんの成分変更を促す通知を行った[8][9]
  • 日本薬局方薬用石ケン
日本薬局方に収載されている医薬品で、医療用洗浄剤、リニメント剤坐薬の基剤、瀉下浣腸に用いる[10]。殺菌消毒用ではない。白色ないし淡黄白色の粉末または粒で、臭いがある[10]

身体以外用石鹸編集

  • 洗濯用石鹸
手洗い向けの固形石鹸と、洗濯機向けの粉石鹸。合成洗剤より高価だが、水質汚染、皮膚炎、蛍光剤による衣類の褪色を避ける効果が期待できる。水温が高いほど洗浄力が上がることから、風呂の残り湯を利用することが多い。また、石鹸かすの残留による黄ばみを抑えるため、クエン酸が使われる。
  • 台所用石鹸
使用済み食器の洗浄、食品の寄生虫卵除去用。食器が滑りやすく、破損リスクが高い欠点がある。近年普及した食器洗い機は構造上石けんが使用しにくいが、成分を調整した製品もある。

工業用石鹸編集

工場などの機械部品についた油汚れの除去を目的とする。汚れの程度が強いため、木材粉パーライトなどの研磨剤を含むものが多い。

形状による分類編集

 
液体石鹸とレフィル(詰め替え用)

鹸化に使用するアルカリによって固まりやすさが変わるため、固形と液体は製造段階で分かれる。水酸化カリウムで鹸化したものはカリ石鹸(脂肪酸カリウム)、水酸化ナトリウムで鹸化したものはナトリウム石鹸(脂肪酸ナトリウム)と呼ばれ、カリ石鹸はナトリウム石鹸より融点が低い。

固形石鹸(Bar soap編集

ナトリウム石鹸を手に収まるサイズに成形したもの。ただし、洗濯石鹸ではキログラム単位のものもある。乾燥するとひび割れる事から、防湿包装される。プラスチック包装が普及するまではパラフィン紙(グラシン紙)が用いられた。

紙石鹸編集

固形石鹸を紙のように薄く削いだもので、手洗い一回分として携帯可能である。もともとは子供向けで駄菓子屋などで売られていた[注釈 1]
近年は売り上げ下火となっていたが、新型コロナウイルスの流行に伴い手指の洗浄や除菌への関心が高まり、再び注目されつつある[11][12][13]

粉末石鹸編集

主に洗濯用石鹸の形状。必要量を計量しやすく、溶かしやすい。

液体石鹸編集

常温でゼリー状から粘液状になるカリ石鹸を適度に加水したもの。ホテルなど宿泊施設では減った分だけ補充すればよい点が管理に有利なため普及している。手洗い用(ハンドソープ)と浴用(ボディソープ)があり、前者は殺菌と洗浄を、後者は香料や保湿を重視している。液状以外にゲル状、状(プッシュ式容器による)の製品がある。

石鹸ではないもの編集

界面活性剤として脂肪酸塩を利用していないため石鹸ではないが、一般に、または法令上「石鹸」とされているものがある。

逆性石鹸(陽性石鹸)編集

界面活性剤として脂肪族アミン第四級アンモニウムイオン)を用いる。界面活性を持つイオンが陽イオンであるため、陽イオン界面活性剤に分類される。石鹸の脂肪酸イオンは陰イオンであり、性質が逆なので逆性石鹸と呼ばれる。
洗浄力は低いが殺菌力が強く、殺菌剤消毒薬として利用される。なお、石鹸と混合すると界面活性剤同士が中和反応を起こして相殺し、効果が減じる。
塩化ベンザルコニウム塩化ベンゼトニウムが外用の消毒薬として器具や手などの消毒に用いられている。

両性石鹸編集

両性イオン界面活性剤に分類される殺菌剤。消毒薬に利用される。普通の石鹸と混合しても殺菌力がある程度維持される。

ステンレスソープ編集

金属のイオン性を利用した臭い消し製品。作用原理が全く異なる。
 
石鹸が作るミセルの構造。石鹸の分子は、その一つ一つの両端に親油基と親水基を持ち、汚れ(≒油)があると、そこに多数の石鹸の分子の親油基の側が次々と着き、結果として内側に親油基を向け外側に親水基を向けた状態で多数の分子の向きが揃い、包み込むようにして球状のミセルとなり、水とともに流れてゆく状態になる。

歴史編集

起源編集

 
17世紀中頃の石鹸工場を描いた版画

石鹸の歴史は紀元前3000年代に始まるといわれている[14]

古代から水だけで落ちにくい汚れに対して粘土灰汁、植物の油や種子[注釈 2]などが利用されていたが、やがて動物のを焼くときに滴り落ちた脂肪の混合物に雨が降り、アルカリによる油脂鹸化が自然発生して石鹸が発見されたと考えられている。石鹸の「鹸」は「灰汁」や「塩基(アルカリ)」を意味する字であり(鹸性=塩基性、アルカリ性)、石鹸を平たく解釈すれば「固形塩基」「固形アルカリ」となる。

伝説では神への供物として羊を焼いたときの脂と灰で石鹸らしきものが誕生したとされ、それが古代ローマの「サポーの丘英語版」での出来事であり soap の語源になったとされている[14][15]。一方、シュメール粘土板に薬用石鹸の記述がみられる。中東では現在でも石鹸が地場産業となっている地域(ナーブルスアレッポなど)がある[16]

普及編集

ヨーロッパではプリニウス博物誌の記載が最初で、ゲルマン人ガリア人が用いていたこと、すでに塩析が行われていたことが記されている。その後いったん廃れるが、アラビア人に伝わり生石灰を使う製造法が広まると8世紀にスペイン経由で再導入され、家内工業として定着していった。12世紀以降、それまでのカリ石鹸に替わりオリーブ油を原料とする固形のソーダ石鹸が地中海沿岸を中心に広まり、特にフランスマルセイユ9世紀以降主要な集散地から生産の中心地となった。

18世紀末には産業革命のもとで原料のアルカリ剤の大量生産が可能となったことで、石鹸も大量生産されるようになり普及した[14]。医学の進歩ともあいまって、皮膚病や多くの経口伝染病が減少した[17]

1916年にはドイツで世界初の合成洗剤が誕生[14]。1933年にはアメリカで世界初の家庭用合成洗剤が発売された[14]

日本編集

日本には安土桃山時代に西洋人により伝えられたと推測されている[18]。最古の確かな文献は、1596年慶長元年8月)、石田三成博多の豪商神屋宗湛に送ったシャボンの礼状である。

最初に石鹸を製造したのは、江戸時代蘭学者宇田川榛斎宇田川榕菴で、1824年文政7年)のことである。ただし、これは医薬品としてであった[19]

最初に洗濯用石鹸を商業レベルで製造したのは、横浜磯子堤磯右衛門である[19]。堤磯右衛門石鹸製造所は1873年明治6年)3月、横浜三吉町四丁目(現:南区万世町2丁目25番地付近)で日本最初の石鹸製造所を創業、同年7月洗濯石鹸、翌年には化粧石鹸の製造に成功した。1877年(明治10年)、第1回内国勧業博覧会で花紋賞を受賞。その後、香港上海へも輸出され、明治10年代の前半に石鹸製造事業は最盛期を迎えた。1890年(明治23年)、時事新報主催の優良国産石鹸の大衆投票で第1位になったが、全国的な不況のなかで経営規模を縮小した。翌年創業者の磯右衛門が死去。その2年後の1893年(明治26年)、廃業した。彼の門下が花王資生堂などで製造を続けた。

日本で一般に石鹸が普及したのは1900年代に入ってからである[14]

銭湯では明治10年代から使用され始め、洗濯石鹸のことを「洗い石鹸」、洗面石鹸のことを「顔石鹸」と称していた[18]。また、艦上で真水が貴重だった大日本帝国海軍ではそれぞれセンセキ、メンセキと呼んでいたという。

第二次世界大戦直前には、原料油脂の入手が困難となったことから石鹸の規格や価格の統一化が段階的に進み、結果的に1940年には各石鹸ブランドが一時的に消滅した。名称も化粧石鹸から浴用石鹸へ、さらに洗濯石鹸と統合されて家庭用石鹸となった。1943年には、ベントナイトを混入した戦時石鹸が登場。さらに翌1944年には2号石鹸としてカオリンの混入、3号石鹸として混和物を80%まで認めた石鹸が製造された。これらは泥石鹸と呼ばれたが、戦争終結後はさらに劣悪な石鹸が流通した[20]。なお、当時、混和材として用いられたベントナイトやカオリンは、戦後に登場したクレンジング用の洗顔石鹸などに敢えて利用されることがある。

製法編集

 
石鹸工場の現場
 
製造工程

油脂鹸化法と脂肪酸中和法、エステル鹸化法の3種類がある。原料は天然油脂アルカリのみだが、製法によって最終製品に含まれない副原料を使用する。天然油脂として主に牛脂ヤシ油が、その他にもオリーブ油馬油こめ油ツバキ油など様々な油脂が用いられている。

油脂鹸化法
原料油脂を水酸化ナトリウム鹸化し、食塩塩析して分離する。原料油脂に前処理をしない古来からの製法で、釜炊きと通称される。品質がやや不安定だが個性的な石鹸を作れるため、主に小規模事業者が行う。
脂肪酸中和法
原料油脂を高温加水分解して得られた脂肪酸蒸留してグリセリンから分離し、単独で中和する。アルカリの残留がない肌にやさしい石鹸が得られ、大量生産に適し品質も安定するため、大規模メーカーの製造(連続中和法)に使われる。なお、分離したグリセリンは保湿機能を持つため、後で戻し配合する場合もある。
エステル鹸化法
前処理として、原料油脂(トリアシルグリセロール)にメチルアルコールを反応させ、エステル交換反応によって脂肪酸メチルエステルバイオディーゼルの主成分でもある)に変換した後に鹸化する。低温・短時間で鹸化できるため、油脂の酸化などによる匂いや不純物の発生を抑える。アレルギー対策用などの製品で利用される。

成分編集

市販の石鹸は脂肪酸アルカリ塩を主成分とし、洗浄補助剤として無機塩(炭酸塩ケイ酸塩リン酸塩など)や金属封鎖剤(キレート)、添加剤として香料染料、グリセリン、天然油脂、ハーブビタミンなどのほか保存料が加えられる製品も存在するが、無添加を謳った製品もある。

一方、脂肪酸塩以外の界面活性剤を含む製品もあり、含有量によって複合石鹸、合成洗剤、合成化粧石鹸などに区分される。

脂肪酸の種類編集

脂肪酸は、親水性カルボキシル基に結合した親油性炭化水素によって多くの種類があり、石鹸の性質はその親油性(炭素数が多いほど強い)により変化する。 炭素数が少ない脂肪酸で作った石鹸は、親水性が強い代わりに親油性が弱く、冷水に溶け易いが油に対する洗浄力が下がる。逆に炭素数が多いと、油汚れの洗浄力は強いが水に溶けにくい。このため、炭素数12から18のものが良く利用される。

脂肪酸の種類と石鹸の性質[21]
脂肪酸名 炭素数 原料油脂の例 冷水での溶け易さ 洗浄力 皮膚刺激性
ラウリン酸 12 ヤシ油パーム核油 溶け易い やや大 持続性小
ミリスチン酸 14 ヤシ油、パーム核油 溶ける やや粗大
パルミチン酸 16 パーム油牛脂 溶けにくい 持続性大
ステアリン酸 18 牛脂 溶けない 特大 泡立ち中
オレイン酸 18不飽和 パーム油、牛脂、オリーブ油 溶け易い 細かい 微弱

アルカリの種類編集

洗浄用途では、脂肪酸のナトリウム塩とカリウム塩が用いられる。カリウム塩はナトリウム塩より溶解性が高く、固形石鹸や粉石鹸にはナトリウム石鹸液体石鹸にはカリウム石鹸が使われる。たとえば浴用石鹸においては日本ではほぼナトリウム石鹸であるが、ヨーロッパなど水道水の硬度の高い地域ではカリウム石鹸も浴用石鹸とされている。

この他のアルカリ金属であるリチウムルビジウムセシウムなどの塩も洗浄能力を持つが、ほとんど利用されていない。リチウム石鹸は洗浄用ではなく、グリース増稠剤として広く使われている。

アルカリ金属以外の塩は水溶性が低く、金属石鹸と呼ばれるが、グリースに使う場合は水溶性を気にする必要はないので、カルシウムやアルミニウムの塩も用いられる。

金属石鹸は工業的に重要で、グリース以外にも塗料印刷インキ乾燥促進剤(ドライヤー)として利用されるほか、軍事面では焼夷弾ナパーム弾など)に使われる。洗浄用の石鹸が水中の硬度成分(カルシウムマグネシウム)と反応すると、水溶性を失い洗浄力のない石鹸かすとなるが、これも金属石鹸である。

洗浄補助剤編集

アルカリ剤、軟化剤、水分調整剤として炭酸塩やゼオライト、ケイ酸塩などの無機塩が使用される。粉石鹸には水分を放出する作用を持つ炭酸塩やゼオライトが、固形石鹸には水分を保つ性質を持つケイ酸塩(水ガラス)が使われる。

金属封鎖剤編集

遷移金属も脂肪酸塩と反応して石鹸かす(金属石鹸)を作るが、これらは往々にして有色である(例えば銅石鹸)。硬度成分が洗浄効果を損ねる以上に着色による支障が懸念され、これを防ぐため遷移金属と優先的に結合するキレート剤のエチドロン酸(ヒドロキシエタンジホスホン酸)塩、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸)塩が使われる。

添加剤編集

 
様々な香りの石鹸

脂肪酸の匂いを和らげるため、しばしば香料が加えられるほか、洗濯石鹸を化粧石鹸と区別するために目立つ染料を添加した製品もある。また、化粧石鹸は添加剤による保湿や皮膚への有用性を謳った様々な製品が販売されている。一方、主成分の脂肪酸塩の腐敗カビの繁殖を防ぐため、ジブチルヒドロキシトルエンなどが保存料として使用される(このため無添加の製品は、変質を防ぐために使用者が配慮する必要がある)。

殺菌剤編集

薬用石鹸の場合、塩化ベンザルコニウムトリクロサンなどが有効成分となっている。ただし、これらが効果を発揮するにはpHを低くする必要があり、脂肪酸塩ではなく合成界面活性剤(アシルイセチオン酸ナトリウム(スルホン酸類)、アシルグルタミン酸ナトリウムなど)が用いられ、ここでいう石鹸に該当しない可能性が高い。

合成洗剤等にくらべ、5000年の歴史のある自然の石鹸は抗ウイルス作用が強く、高頻度の手洗いによる肌荒れ予防にも優れていることが知られている[22][23]

界面活性剤の種類編集

医薬品医療機器等法の成分名では「石けん素地」と表示される。一方、合成界面活性剤は物質名で表示される。メーカーが製品をアピールする目的で純石鹸、無添加などを謳っている場合は脂肪酸塩が主成分である可能性が高い。

家庭用品品質表示法で定められた品名表示
品名表示 表示の対象 界面活性剤中の
脂肪酸ナトリウム(純石けん分)の割合
合成洗剤 主な洗浄作用が純石けん分以外の界面活性剤の働きによるもの。 0%以上
洗濯用70%未満
台所用60%未満
複合石けん 主な洗浄作用が純石けん分の界面活性作用によるもので、
純石けん分以外の界面活性剤を含むもの。
洗濯用70%以上
台所用60%以上
100%未満
石けん 主な洗浄作用が純石けん分の界面活性作用によるもので、
純石けん分以外の界面活性剤を含まないもの。
100%

法規制編集

日本の法令体系では、身体洗浄用石けん(浴用、薬用)は医薬品医療機器等法における化粧品医薬部外品として、家庭用石けん(洗濯用・台所用)は家庭用品品質表示法における雑貨工業品品質表示規程[24]で規格化されている。

医薬品医療機器等法ではすべての原料成分名を表示することが義務付けられているが、家庭用品品質表示法の様な石鹸・洗剤の区分や割合の表示義務はない。また、化粧石鹸の場合は含量の多い順に記載されるが、薬用石鹸は医薬部外品として有効成分とその他の成分を分けることが規定されているため、含量の多寡は明らかではない。なお、化粧石鹸にはJIS規格(K3301)がある。

家庭用品品質表示法では界面活性剤の種類と含有量により、洗濯用石けんは70%以上、台所用石けんは60%以上が脂肪酸塩であること[25]が義務付けられている。含有量の試験方法としては、JISの定める石けん試験方法(K3304)がある[26]

手作り石鹸編集

 
手作り石鹸
 
着色された手作り石鹸

眼や皮膚を護る保護具と、材料さえ用意すれば、石鹸の手作りは比較的簡単にできる。理科の実験、アレルギー対策、環境保護(リサイクル)などのために石鹸の手作りは行われている。

手作りの方法編集

以下に一例を記す。

材料(原料)は油脂・アルカリ剤・食塩を用意する。ただし、水酸化ナトリウム水酸化カリウムといった高濃度の劇物を使用するため、耐熱容器と保護具(ゴム手袋、眼を護るゴーグル)は必要である。

作業の性質上、肌荒れや化学熱傷などの危険があるため、十分な知識を得て、経験者の監督下に行うことが望ましい。

  1. 反応に必要なアルカリの量を、使用する原料油脂の鹸化価と、アルカリの分子量から求める。
  2. アルカリを少量の水に溶解し、原料油脂を加えて撹拌する。
  3. 次第に粘度があがり、20分ほどで反応が完了する(固まらない場合、量が間違っている)
  4. 2週間放置後、飽和食塩水を加えて撹拌し、分離した固形分を取り出す。
  5. pH試験紙でアルカリ残留がなく石鹸のアルカリ性範囲内であることを確認する。

理科の実験編集

石鹸を作ることにより、油脂の構造、アルカリによる鹸化、塩析、界面活性、両性分子などといった様々な化学的知識を体験的に学ぶことができるため、かつて理科化学の実験教育に利用されていた。

環境保護編集

1990年代、家庭で使用済み天ぷら油を下水道に流されていることが社会的な問題として取り上げられ、家庭で出る廃油(主に使用済みの天ぷら油)を使った石鹸作りが広まるきっかけとなり、現在にいたるまで、環境保護活動のためのリサイクル活動の実践のひとつとして家庭や地域コミュニティで石鹸作りが広く行われている。また各家庭での消費行動が地球環境にどのような悪影響を及ぼしているか、ということを周知するための環境教育の一環として行われることもある。

アレルギー対策編集

また、市販の石鹸では問題があって使えない人、たとえば市販の石鹸では添加物によりアレルギーを引き起こしてしまう人は、それを回避するためにメーカー製は避け、自分自身の眼と手で、自分にとってアレルギーを引き起こさない原材料を厳選し、たとえばオリーブ・オイルなどを原料として、自分のためだけに「安全な石鹸」作りを行う人もいる。できた石鹸には副生物のグリセリンが多少残留するが、無害である。

環境への影響編集

石鹸と合成洗剤は、1gあたりの洗浄能力および必要量が全く異なるため、単純比較してはならない。

石鹸が合成洗剤より環境への影響が小さいとされるのは、環境中で石鹸分子の界面活性剤機能が速やかに失われる事と、最終分解までの期間が短いことを根拠としている。ただし、石鹸と同じ用途で使われる合成洗剤製品には多様な副成分、添加剤が使われているため、主成分のみの比較ではあまり意味はない。

2014年4月、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律における、リスク評価を優先的に行う必要がある物質(優先評価化学物質)[27]に指定されている。

2014年、界面活性剤の環境特性および影響に関する250以上の論文・報告をまとめた論文が発表され、石鹸を含む界面活性剤は非常に大量に使用され水生環境に広く放出されているものの、現在の使用レベルでは水生環境または底質環境に悪影響を及ぼさないと報告した[28]

毒性編集

生物細胞細胞膜表面で重要な物質代謝を行っており、細胞膜は繊細な界面(ここでは水と油が接触する境界面)で成立しており、試験管内での細胞毒性試験で界面活性剤を作用させると機能を失い、死滅する。このため、石鹸や合成洗剤などの界面活性剤は特に水生生物への毒性が強く、環境中に一定濃度以上存在すると生態に悪影響を及ぼすことになる。

しかし、石鹸は硬度成分(カルシウムマグネシウムイオン)の封鎖により親水性を失い、水に溶けない金属石鹸(石鹸かす)となる。また、バクテリアによる資化で脂肪鎖の親油性も低下しやすい。こうして界面活性力を失うことで、毒性も消失する。

魚毒性試験では、石鹸(脂肪酸ナトリウム)の半数致死量は 100 mg/L 前後と、1-10 mg/L の合成洗剤(LASなど)より弱いものの毒性を持つ[29]が、実験室環境なので硬度の供給がなくバクテリア濃度も低いことから、値が小さくなっている。

一方、合成洗剤は硬度の影響を受けない商品としての特長と、安価な合成樹脂を原料とする製品としての特長から、界面活性力が持続して毒性も継続する。代表的な直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム (LAS) の場合、直鎖末端のアルキル基が酸化されてカルボキシル基となると親油性が大きく低下する。ただし、この反応は底質など酸素の乏しい環境では進行せず、水中の固形物に吸着されて沈殿すると残留しやすい。下水処理で汚泥中に残留するのは、このためである。

分解性編集

石鹸を構成する脂肪酸は、環境中ではバクテリアや水生生物による摂取・分解が積極的に行われる。このため、一時分解性、完全分解性ともに高く、環境中での半減期が短いことから環境負荷が低いとされる。

ただしこのことは、BODが高く水中の溶存酸素の消費速度が大きいことも意味するため、酸素の供給が乏しい止水域では酸欠リスクを強める。また、用水の硬度が高い地域では使用量を増やす必要から、有機物負荷量が高くなる(逆に著しく低い場合は、親水性が残留し毒性低下が遅れる可能性がある)。

一方、合成洗剤(LAS)の代表的な化合物の場合、BODが47%と5日間でほぼ半減[30]しているが、石鹸よりは遅いことになる。また、魚の場合体内の半減期が1 - 6日間と資化に時間がかかることから、蓄積性を持つ。

オイルボール編集

1997年頃から、東京の海岸に悪臭を帯びた白い油脂塊がみられるようになった。これは、家庭や事業所から排出され下水に流入した油分が、下水内でバクテリアによって脂肪酸となり、下水内のカルシウムイオンと反応してカルシウム石鹸となったものである[31]。オイルボールとも呼ばれる[32][33]。中国で問題となっている地溝油も同種のものである。主成分は、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸及びその金属塩である[31]

東京などで採用されている合流式下水道は、大雨時などには未処理の下水が川や海に放流されるという構造を持つ[34]。こうして放流された未処理の下水を越流水と呼ぶ。その中には家庭や事業所からの排出された油分や汚物が含まれているため、オイルボールの原因となっていた。近年では下水設備の改良により減少傾向にある[35]

文化編集

日本では、お中元お歳暮など礼儀上の贈り物として定番商品だが、文化圏によっては身だしなみが悪い、体臭が気になるという忠告・当てこすりの意味に取られる場合があり、配慮が必要。

箪笥に石鹸を入れ衣類への移り香を楽しむ習慣は、芳香剤が普及するまでは石鹸が身近な香料だった事に由来する。現代では、石鹸自体(脂肪酸)の匂いも対象となっている。

受験生に贈ると縁起が悪い(滑る、落ちる)としたり、その逆に厄落としに意味づけるなどの若者文化があった。

学校などで石鹸を網袋に入れて蛇口に吊すことが広く行われていたが、カラスが食べてしまうため少なくなった。

固形石鹸の適度な柔らかさを活かし、カービング素材として用いられる。

製造販売業者編集

世界
日本

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 駄菓子屋で売られていた紙石鹸は女の子が本の間に挟んで香りを楽しむという使用方法もあった
  2. ^ サポニンを多く含む、エゴノキムクロジなど。インドではリタ(reetha)、ソープナッツとも呼ばれ、現在も粉末が利用されている。

出典編集

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関連項目編集

外部リンク編集