ステレオタイプ
ステレオタイプ(英: Stereotype、仏: Stéréotype)とは、多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固定観念、レッテル、偏見、差別などの類型化された観念を指す用語である。アメリカのジャーナリストであるウォルター・リップマンによって命名された[1]。
“ステレオタイプ”はフランス語の“Stéréotype”を英語読みしたもので、「立体的な」を意味する“ステレオ(stereo)”とは綴りは同一だが語意が異なる。
概要編集
元々は印刷術のステロ版(鉛版)が語源となる社会学の用語で、思考や観念、ものの見方・捉え方を示し、ステロ版で印刷された印刷物のように、「型を用いて作られたかのように全く同じもの」「既に完成された状態のものとして扱われているもの」という意味で、「多くの人に浸透している認識や固定観念、特に先入観、思い込み」を指す。日本語で同様の表現を示すなら、「判で押したように」「紋切型の」がほぼ同様の用語である。
フランス語で「決まり文句」など類型化された表現を意味するクリシェ(cliché) も、フランス語で“クリシェ”とはステロ版を意味するため、同じ意味といえる。
「ステレオタイプな」「ステレオタイプのような」という形容詞としては"stereo typical"(ステレオティピカル)という語もあり、これは日本語では「常同的」「常同性」と訳されることがある[2]。
古典的な類型性編集
物語やフィクションなどで造形される人物像にその典型的な形が見られ、勧善懲悪の物語では、善役はいかにも善役らしい姿や言動があり、他方、悪役は同様にいかにも悪役らしい姿や言動で表現される。
大衆向けの娯楽目的の小説や映画、ドラマなどでは、人物造形だけではなく、物語の構成やプロット、展開・結末などもステレオタイプになっているのが一般である。漫画やアニメなどでは、「Boy meets girl, and fall in love」という言葉があるが、これは最近の物語におけるステレオタイプではなく、古代の青春恋愛物語である『ダフニスとクロエー』においても同じような構成になっている。これらは、神話類型(Cat:神話類型)に通じ、物語の基本的な類型構造で、人間心理の普遍的・先天的なありようとも関係すると考えられる。
しかし近代において、大衆社会、マスコミュニケーションが成立すると、政治、経済、社会的な目的において、過剰に単純化され類型化されたイメージが広く一般の人にも流布するようになり、文字通り、紋切り型な把握や観念や思考となって定着するようになった。
ステレオタイプな観念の特徴編集
多くの人が持つ観念には、先入観やタブロイド思考を含み偏見や差別的な意識とも関係している。
「紋切り型」という言葉が示すように、多数の人において同じような考え方や見方が類型化されて共有され、なぜその思考や見方が妥当と確信するのかということについても、メディアや周囲の人が皆そう言っているとか、主体的に吟味することなく、そのまま無批判に取り入れ鵜呑みにしていることが一般である。
その為、客観的根拠もなく、個々人が抱く考え方・観念に対する理解にも乏しく、底が浅く、また複雑なものごとを単純化しているため、当人は理解しているとの錯覚に陥っているが、迷妄であって固定観念になっている場合も多々ある。
ステレオタイプの例編集
以下の例は、統計学・科学的な裏付けが無い固定観念による類型化による一例で偏見や差別を助長する原因となっている。
性別・身体的特徴/服装・髪型編集
性的指向編集
- 同性愛者 - 2006年11月に議決された、国際人権法に関するジョグジャカルタ原則はこうしたステレオタイプを偏見や差別の要因となるものとして、国家や社会にその徹底した撤廃を求めている。
血液型編集
日本では比較的広く見受けられ、差別的要素が多分に含まれているが、欧米諸国ではこういった偏見は見られない。科学的に立証された例は無く日本における迷信の象徴的な類である。
人種・国籍・肌の色など編集
- 『ニューヨーク・タイムズ』は、アメリカ合衆国における代表的なステレオタイプとして、「貪欲なユダヤ人」、「卑劣な中国人」、「馬鹿なアイルランド人」、「怠惰な黒人」を挙げている[4] 。アメリカ合衆国における人種・国籍によるステレオタイプの詳細については、英語版ウィキペディアのen:Stereotypes of groups within the United Statesを参照。
- 黒人 - 日本においては黒人差別をなくす会による差別的であるとの指摘や抗議活動により、ステレオタイプで描写された絵本『ちびくろサンボ』の絶版、カルピスの登録商標の使用差し止め、藤子プロの『オバケのQ太郎』における特定エピソード掲載巻の回収および以後の掲載中止、ダッコちゃんの販売停止に追いこまれる事態となり、その後、出版社やアニメ制作会社などでは作品に黒人自体を出すことをタブーとし自粛している。また黒人は白人よりも体臭が強いというステレオタイプも見受けられる[3]。
- 東洋人 - 挨拶のとき必ず合掌しお辞儀をする。理数系の学科が得意[5]。その一方で、物事に対していい加減な部分がある。時間や約束事に対してルーズ。物静か、集団的、クリーニング店を経営している、勤勉、目上の者には絶対服従、など。瞑想(仏教の修行)をするので精神が安定している。空手・柔道・拳法など徒手格闘術の達人である。
- 日本人 - 眼鏡を掛け、出っ歯で背が低く、首からカメラを提げている(戦後、日本人団体旅行者の与える印象が強かったため)。いつも笑顔。イエスとノーが曖昧。個人主義的な西洋人に対して集団主義的。恥の文化。捕虜になって辱めを受けるよりも潔い死を選び(戦陣訓)、「ハラキリ」や「バンザイ突撃」「カミカゼ」に至る。英語の発音が下手で独特の文法の英文を作る。手先が器用で物作りが得意。欧米の一部では、外国人嫌い[6][7]、歯並びが悪い[8][9]、などのイメージがある。
地域性編集
- 都会(主として東京23区を指す) - 洗練されている。流行の先端を行っている(おしゃれ)。人間関係(人付き合い)が表層的。考えが合理的でクール。教育、健康、育児などにおいて「不健全」な環境。危険でマナーが悪く冷たい人間性。
- 田舎(主として郡部を指す) - 地味。洗練されていない。訛りがひどい。流行から遅れている。産業は農林漁業関係しかない。濃厚な人間関係(人付き合い)が残っている。生活や子育てにおいて、健全なよい環境が残されている。安全でマナーが良く温かい人間性。
- 江戸人 - 刹那的(例:「宵越しの金は持たない」)・場当たり的。意地・見栄を張る。口は悪いが(江戸弁)、人情に厚い。
- 関西人 - お笑い好きでおしゃべり。いらち(=せっかち)。派手好き。食い倒れ・建て倒れ・着倒れ・履き倒れ・寝倒れ。首都圏を敵視している。いわゆる「関西のおばちゃん」は逞しく、金銭感覚に優れ、虎縞や豹柄の服を好む[13]。
- 港町(横浜、神戸、長崎、函館、小樽など) - ハイカラ、おしゃれ、開放的な気質(コスモポリタニズム)。
- 沖縄 -本土に比べて温和な人間性がある。
職業や学業の専攻編集
- 文系と理系
- 理系 - 白衣を着ていることが多い。理屈っぽい。ポップカルチャーにおける科学者のステレオタイプに大きな影響を及ぼした人物として、アインシュタインがいる。ぼさぼさの白髪に白衣を着ているというイメージ[14]は多くのフィクションや映画で使われた(実際には、彼は白衣は着なかった。詳細は en:Albert Einstein in popular cultureを参照)。マッドサイエンティストは異常な知識・技術力と研究意欲と功名心を持つ一方で、一般的な道徳心や倫理、社会通念を欠くか無視しており、精神的には不安定。
脚注編集
- ^ 上瀬由美子『ステレオタイプの社会心理学』サイエンス社、2002年、p.5
- ^ webio「stereo typical」
- ^ a b c d e f g h i j Guy Bechtel, Délires racistes et savants fous, éditions Pocket, coll. « Agora », 2006 ; James M. O'Neil, , Male Sex Role Conflicts, Sexism, and Masculinity: Psychological Implications for Men, Women, and the Counseling Psychologist The Counseling Psychologist n° 9 (2): pp. 61–80, 1983, DOI:10.1177/001100008100900213 ; Pierre-André Taguieff, La Force du préjugé. Essai sur le racisme et ses doubles, Paris, La Découverte, « Armillaire », 1988 ; rééd., Paris, Gallimard, « Tel », 1990 2-07-071977-4 et Le Racisme : un exposé pour comprendre, un essai pour réfléchir, Paris, Flammarion, «Dominos», 1997 2-08-035456-6.
- ^ 『こいつは人種差別主義者だ。だけど、ねえ、それがディズニーなのさ(It's Racist, But Hey, It's Disney)』(『ニューヨーク・タイムズ紙』、1993年7月14日付記事)より
- ^ 1993年の調査によれば、米国におけるSATの数学テストの成績は、アジア人がおおむね他の民族に比べて高い Chapter 1: Elementary and Secondary Science and Mathematics Education - Figures
- ^ “LPGA reverses xenophobia”. examiner.com. 2008年10月6日閲覧。
- ^ “New tourism agency to act as policy 'control tower'”. The Japan Times Online. 2008年10月6日閲覧。
- ^ “THE CHANGING SHAPE OF JAPANESE TEETH:New Cosmetic Treatments Promote Smiles”. Trends in JAPAN. 2008年10月6日閲覧。
- ^ “RELAX AND SAY 'AHHH'There's no need to grit your teeth”. The Japan Times. 2008年10月6日閲覧。
- ^ Sheridan Prasso, The Asian Mystique: Dragon Ladies, Geisha Girls & Our Fantasies of the Exotic Orient PublicAffairs, 2005. ISBN 1586482149
- ^ “South Park Season 3 Epsode 11 - Chinpoko Mon”. WWW.TWIZTV.COM. 2008年10月6日閲覧。
- ^ “My Dog Jackie and Japanese Porn”. YouTube: kevjumba. 2008年10月6日閲覧。
- ^ しかしアニマル柄の所有率は東京の方が大阪より高い。アニマルファッション東阪一致!?か?
- ^ 1946年のTIME誌の表紙 [1]
- ^ Critchfield, Austi (2017年11月15日). “This is Why Doughnuts Are Associated With Cops”. Spoon University. 2020年11月2日閲覧。 “The funny thing is, the whole cop and doughnuts thing is completely out of date -- today, an officer could just as easily swing through a McDonald’s drive through as he could a Krispy Kreme. Yet, the stereotype endures, even though police aren’t seen at doughnut shops in nearly the numbers they used to have been. In a way, it’s become a stereotype of itself, which is pretty meta.”