バヌアツ

南太平洋の島国
バヌアツ共和国[1]
Ripablik blong Vanuatu ビスラマ語
Republic of Vanuatu 英語
République du Vanuatu フランス語
バヌアツの国旗
国旗 バヌアツの国章
国の標語:Long God Yumi Stanap
(ビスラマ語:神と共に立つ)
国歌Yumi, Yumi, Yumi(ビスラマ語)
我等、我等、我等
バヌアツの位置
公用語 ビスラマ語英語フランス語
首都 ポートビラ
最大の都市 ポートビラ
政府
大統領 ニケニケ・ヴロバラヴ
首相 シャーロット・サルウェイ英語版
面積
総計 12,200km2157位
水面積率 極僅か
人口
総計(2020年 307,000[2]人(174位
人口密度 25.2[2]人/km2
GDP(自国通貨表示)
合計(2018年 1007億7100万[3]バツ
GDP(MER
合計(2018年9億2800万[3]ドル(178位
1人あたり 3256.321ドル
GDP(PPP
合計(2018年8億400万[3]ドル(181位
1人あたり 2820.863[3]ドル
独立
 - 日付
共同統治より
1980年7月30日
通貨 バツVUV
時間帯 UTC+11 (DST:なし)
ISO 3166-1 VU / VUT
ccTLD .vu
国際電話番号 678

バヌアツ共和国(バヌアツきょうわこく)、通称バヌアツは、南太平洋シェパード諸島火山島上などに位置する共和制国家オセアニアの島嶼国家島国)である。首都はエファテ島にあるポートビラ[1]

北西から南西にかけては、ともに珊瑚海を取り巻くソロモン諸島パプアニューギニアオーストラリアフランス海外領土ニューカレドニアがある。南はニュージーランドが、東から北にかけてはフィジーナウルなど他の島嶼国家やアメリカ領サモア、フランス海外領土ウォリス・フツナが点在する。イギリス連邦加盟国。

国名 編集

正式名称は、

  • Ripablik blong Vanuatuビスラマ語:リパブリック・ブロン・ヴァヌアトゥ
  • Republic of Vanuatu [1]英語:リパブリック・オヴ・ヴァヌアートゥー
  • République du Vanuatuフランス語:レピュブリク・デュ・ヴァヌアトゥ

日本語の表記はバヌアツ共和国[1]、通称は、バヌアツヴァヌアツという表記もされる。中国語の漢字表記では「瓦努阿図」と書き、「」と略す。

バヌアツは、メラネシア系の言葉「バヌア(土地)」と「ツ(立つ)」の合成語で「我々の土地」「独立した土地」といった意味がある[4]

歴史 編集

バヌアツの島々には、数千年前にオーストロネシア語族の人々が渡来してきて定住し始めたと考えられている。その最古の遺跡は、約4000年前のものだと推定されている。1452年から1453年にかけて、海底火山クワエの大噴火が複数回起こり、世界の歴史に大きな影響を与えた。

 
ニューヘブリディーズの地図(1905年

バヌアツは元々メラネシア人の居住地であった。ヨーロッパ人で最初にこの島を訪れたのは、ポルトガル人のペドロ・フェルナンデス・デ・キロスで、1606年4月27日にサント島に上陸している。ヨーロッパ人による植民が始まったのは、英国ジェームズ・クックによる調査が行われた18世紀末以降のことである。1774年、クックがこの地域をニューヘブリディーズと命名した。英仏間で衝突が繰り返された後、1906年に両国は、ニューヘブリディーズ諸島を共同統治領とすることに合意した。

太平洋戦争中は、アメリカ軍が現在はバヌアツ領のエスピリトゥサント島を基地化して、日本軍珊瑚海海戦ソロモン諸島の戦いなどを展開した。

1960年代、バヌアツの人々は自治と独立を要求し始めたが、英語系とフランス語系の島民が対立した。1974年タンナ島ではイギリス主導の独立に反感を抱いていたフランス人の農園主アントワーヌ・フォルネリジョン・フラム運動の支持者らと共にタンナ国としての分離独立を試みたものの、正式な独立宣言を行う前に治安部隊によって逮捕された。1975年にはサント島を中心とした島々でナグリアメル連邦英語版として分離独立の宣言も起きた。1980年に入るとバヌアツの独立を求める声が高まり、タンナ島で再びタフェアン共和国として独立運動が起きたが、これはイギリス軍の制圧で分離独立運動は終結した。同年8月21日にはエスピリトゥサント島のフランス語系住民が独立に反対して分離運動が起き、ベマラナ共和国を名乗った。

1980年7月30日イギリス連邦加盟の共和国としてバヌアツが独立。フランスは政情不安を理由に最後まで独立に反対の立場であったが、これにより事実上、英仏の共同統治下から独立し、大統領国家元首とする「バヌアツ共和国」として出発した。独立した同年にメラネシア社会主義を掲げるバヌア・アク党のウォルター・リニ首相に就任。1991年の社会主義国家の相次ぐ崩壊に伴ってウォルター・リニは党内外から批判が高まり、1991年に解任された。その後、総選挙によりフランス語系の穏健諸党連合のカルロが首相に就任、国家連合党と連立政権を成立させた。2006年7月には環境NGO「地球の友」とシンクタンク「新経済財団」が「地球上で最も幸せな国」に選んだ。

2010年代には中華人民共和国に接近することで多額の投資を引き出すことに成功。これにより首相官邸や大型の会議場、スポーツ施設、港湾などの建設が行われ、インフラの充実が図られた[5]

政治 編集

 
国会議事堂

行政 編集

国家元首の大統領は、儀礼的・象徴的役職である。任期5年で、議会の議員と各州議会議長によって構成される大統領選挙会における投票によって次期大統領を決定する。当選には、3分の2以上の得票が必要で、その条件を充たすまで何度も投票を繰り返す。

2004年の大統領選挙では、32人が立候補し、4月8日から12日まで4回の投票を行い、ようやく決定した。

行政府の長である首相は、議会が議員選挙直後に議員の中から選出し、大統領が任命する。閣僚は、首相が指名し、議会に責任を負う(議院内閣制)。

議会 編集

議会一院制。議席数は52で、全て民選。任期4年。

慣習と土地の問題に関しては、部族の首長によって構成される評議会が、議会に助言を与える。

政党 編集

バヌアツには13の政党が存在している。2016年1月22日に行われた前回総選挙では、バヌア・アク党穏健政党連合国土正義党の3党が各6、国民統一党イアウコ・グループが各4、ナグリアメルナマンギ・アウテが各3議席を獲得するなどした[6]

司法 編集

司法権は最高裁判所に属している。

国際関係 編集

太平洋諸島フォーラム太平洋共同体に参加し、南太平洋の他の島嶼国家や太平洋沿岸諸国(日本や米国、オーストラリア、ニュージーランド、中国など)および太平洋の離島を領有する英仏と連携している。

軍事・防衛 編集

バヌアツはバヌアツ警察隊(VPF)と海洋警察隊(PMW)、準軍事組織であるバヌアツ機動隊英語版(VMF)を保有し、全体の規模は約550名である。

中国が2022年4月にソロモン諸島と安保協定を結んで南太平洋で勢力を拡大していることに対抗して、オーストラリアはバヌアツと同年12月13日、防衛や治安維持、災害救助を支援する協定に署名した[7]

南太平洋非核地帯条約により、域内での核兵器の配備や核実験は禁止されている。

地理 編集

 
バヌアツの地図
 
タンナ島のヤスール火山火口

バヌアツは800kmにわたって北北西から南南東に連なる83の島からなり、それらはニューヘブリディーズ諸島と呼ばれる。そのうち、住民が居住する島は約70である。

最大の島はエスピリトゥサント島(3947km2)。同島のタブウェマサナ山 (1878m) がバヌアツの最高地点ともなっている。最大の町は、エファテ島にある首都ポートビラ(33,900人)、2番目はエスピリトゥサント島のルーガンビル(8,500人)。人口は2002年のデータ。

バヌアツの島の約半分は火山島で、険しい山の周りに平地が僅かにある。特にアンブリム島タンナ島ロペヴィ島アンバエ島の火山は活火山として活動が継続している。残りは、サンゴ礁からなる島である。バヌアツの火山は、太平洋プレートオーストラリアプレートに潜り込むサブダクション帯によるものであり、環太平洋火山帯の一部をなしている。近海では度々マグニチュード7超の強い地震が起きている。

最も南に位置する2つの無人島、マシュー島ハンター島は、フランスの海外領土ニューカレドニアとの間で領有問題を抱えている。

主な島 編集

気候 編集

全域が熱帯雨林気候であり、海洋性気候の特色を持つ。南東貿易風の影響下にあり、5月から10月にかけて気温が低下する。首都ポートヴィラの最高気温は冬季において25、夏季には29度に達する。年平均降水量は2300mmである。2015年3月13日から14日にかけてサイクロン・パムの直撃による被害を受けた。

地方行政区分 編集

 
バヌアツの州
(領土問題を抱えるマシュー島とハンター島は省略している)

バヌアツは6つの州に分かれる。

経済 編集

 
首都ポートビラ

バヌアツの経済は主に農業で占められ、ヤムイモタロイモコプラココア牛肉などの生産が主である。

政府による国家開発政策策定の影響で、2003年以降観光業が順調であり、航空便やクルーズ船の増加に伴い観光客数が年々増加している。無形世界遺産の砂絵などの民俗文化、風光明媚な風土を活かしたスキューバダイビング、火山見学などを目的とした観光客が多く、外貨獲得手段の一つとなっている。主な対外援助提供国はフランス、オーストラリア、ニュージーランドである。

  • 輸出品目 - コプラ、牛肉、木材、ココア、コーヒー、カバ(kaba , 健康飲料)
  • 輸出国(2002年) - インド 32.5%、タイ王国 22.8%、韓国 10.5%、インドネシア 6.3%、日本 4.9%
  • 輸入品目 - 機械機器、食料、燃料
  • 輸入国(2002年) - オーストラリア 22.1%、日本 19.2%、ニュージーランド 10.1%、シンガポール 8.1%、フィジー 6.6%、台湾 5%、インド 5%

オフショア金融などサービス業も盛んである。

反面で同国における経済の発展は、輸出量の低さをはじめ、自然災害に対する脆弱性や島々と国の2つの都市の間の距離が長いことにより、未だに妨げられている点が根深い。

交通 編集

フラッグ・キャリアとしてバヌアツ航空があり、ポートビラ・バウアフィールド空港ハブ空港として国内線・国際線を運用している。日本からの直行便はなく、フィジー経由で約17時間かかる。

国民 編集

民族 編集

 
ダンスを踊るバヌアツ女性

人種構成は、メラネシア系が98%で、他にフランス系、ベトナム系中国系、非メラネシア系太平洋諸島民族が住む。

言語 編集

バヌアツには、3つの公用語(ビスラマ語英語フランス語)の他、100以上の地方言語がある。共通語は、ピジン英語のビスラマ語(ビシュラマ語)である。ビスラマ語は英語を基本に、大洋州諸語ポリネシア諸語南オセアニア諸語とフランス語が混ぜ合わさってできたクレオール語共通語としての役割を担っている。

国民は普段は自分の出身地の言語を使い、ビスラマ語が普及する以前は島ごとに言語や文化が異なり他の島の人との疎通が困難だったため「砂絵」という絵文字文化が生まれた。これは一筆書きで描かれるという特徴がある。

南太平洋の独立国の中では唯一フランス語が公用語になっており、主に首都ポートビラのあるエファテ島タンナ島エスピリトゥサント島で使われている。各家庭が教育では英語系とフランス語系どちらかを選ぶことができる。政治勢力も英語系・仏語系に分かれており、英仏共同統治の名残となっている。政府機関などでは英語が主に使われている。

宗教 編集

宗教は、長老派教会 36.7%、英国国教会 15%、カトリック教会 15%、地域固有の伝統信仰 7.6%、セブンスデー・アドベンチスト 6.2%、キリスト教会 3.8%、その他 15.7%。その他には、ジョン・フラム信仰が含まれる。ジョン・フラム信仰とは、太平洋戦争終了に伴うアメリカ軍撤退後にメラネシアの各地で広まったカーゴ・カルト(積荷信仰)の一つで、ジョン・フラムという白人の聖者が莫大な財宝(積み荷)を持って自分たちの島を訪れるというものである。タンナ島では、毎年2月15日に彼を迎えるための盛大な祭りが行われている。

教育 編集

健康 編集

バヌアツにおける平均寿命は、男性が67歳、女性が70歳となっている。

治安 編集

2021年04月30日時点で日本国外務省は「近年、首都ポートビラ周辺では、人口の集中や高い失業率などのため、空き巣、引ったくり及び性的暴行などの犯罪が増加しています。日本人宅や商店への空き巣・強盗被害が報告されていますので、窓には鉄格子を設置する、外出する際は戸締まりをするなど、容易に侵入されない防犯対策が必要です。また、性的被害や暴行に遭わないよう、夜間単独での外出は控えてください。」としている[8]

また、首都ポートビラ周辺では部族間の抗争が発生することがあり、同国滞在中は不測の事態に巻き込まれないよう、現地の報道やホテルなどから最新の情報を入手すると共に、デモや集会を行っている場所や抗争・喧嘩の現場など、多くの人間が集まる場所には近付かないようにするなどの注意が必要とされる。

法執行機関 編集

バヌアツ警察英語版(VPF)が主体となっている。

人権 編集

マスコミ 編集

情報・通信 編集

バヌアツには国営放送のVBTCがあり、インターネットにおいてはウガンダ共和国プロバイダを使うことが多い。新聞は売店などでの販売が主流。

文化 編集

バヌアツの文化は地域の差異や外国の影響により、強い多様性を保っていることが特徴となっている。

バンジージャンプの起源となった成人の儀式ナゴール」が有名である。

食文化 編集

バヌアツの料理には、タロイモヤムイモなどの根菜果物野菜が用いられる。パパイヤパイナップルマンゴープランテンサツマイモは年間を通して豊富に収穫されている為、それらを使った料理も提供されている[9]

主な調理法は「煮込み」で同国においては伝統的なものともなっている。多くの料理の味付けにココナツミルクココナツクリームが使用されている点が特徴。著名な料理としては、ラプラプが挙げられる。

文学 編集

著名な作家は殆ど存在していない。2002年に亡くなった女性の権利活動家のグレース・メラ・モリサフランス語版英語版は「非常に叙述的な詩人」とされており、現在ではバヌアツを代表する作家の一人として国際的に有名となっている。

音楽 編集

バヌアツの農村地域では、伝統音楽(ビスラマ語:kastom singsing、または kastom tanis)が今も盛んに行われている。

映画 編集

タンナ島を舞台にした『タンナ』は、同国とオーストラリアの合作映画である。

美術 編集

サンド・ドローイング英語版と呼ばれる儀式的な芸術が古くから続いている。

世界遺産 編集

2003年に「バヌアツの砂絵」が世界無形文化遺産に登録された。

祝祭日 編集

日付 日本語表記 現地語表記 備考
1月1日 元日 New Year's Day
2月21日 ファザー・リニ・ディ Father Walter Lini Day リニは、初代首相。
3月5日 酋長たちの日 Custom Chiefs Day
移動祝祭日 聖金曜日 Good Friday
移動祝祭日 復活祭の翌日 Easter Monday
移動祝祭日 キリスト昇天祭 Ascension Day
5月1日 メーデー Labor Day
7月後半 こどもの日 Childrens Day
7月30日 独立記念日 Independence Day
8月15日 聖母被昇天祭 Assumption Day
10月5日 憲法記念日 Constitution Day
11月29日 祖国統一の日 National Unity Day
12月25日・26日 クリスマス Christmas Days

スポーツ 編集

バヌアツ出身の著名アスリートとして、サッカー選手リチャード・イワイ陸上競技選手のジョルジュ・タニエルなどがいる。

サッカー 編集

バヌアツ国内ではサッカーが最も人気のスポーツとなっており、1994年にサッカーリーグのポートビラ・フットボールリーグが創設された。同リーグではタフェアFCが圧倒的な強さを誇っており、1994年から2009年にかけて世界記録となる15連覇を達成している。バヌアツサッカー連盟英語版によって構成されるサッカーバヌアツ代表は、これまでFIFAワールドカップには未出場である。しかし、OFCネイションズカップには9度の出場経験をもつ。

クリケット 編集

クリケットも人気スポーツである。19世紀末にニューヘブリディーズ諸島に住んでいたイギリス人駐在員を通じてバヌアツに導入された[10]。最初の国際試合はフィジーと1977年に行った[10]。1979年にはクリケットバヌアツ国立クリケットチームが初の南太平洋競技大会で銀メダルを獲得し歴史を作った[10]。バヌアツクリケット協会は1995年に国際クリケット評議会に加盟した[10]

著名な出身者 編集

歴史的な人物にはロイ・マタ英語版が知られている。ロイ・マタは、現在のバヌアツ地域における指導者の一人であり、かつてメラネシアにおいて強大な権力を示した酋長でもあった。

バヌアツを代表する女優にはマリエ・ワワ英語版が挙げられる。

脚注 編集

  1. ^ a b c d バヌアツ共和国(Republic of Vanuatu)基礎データ 日本国外務省(2023年1月2日閲覧)
  2. ^ a b UNdata”. 国連. 2021年10月11日閲覧。
  3. ^ a b c d IMF Data and Statistics 2021年10月24日閲覧([1]
  4. ^ バヌアツ国名の由来 東京都立図書館
  5. ^ 中国「一帯一路」“債務のワナ”に揺れる国”. 日テレNEWS24 (2018年11月30日). 2018年11月30日閲覧。
  6. ^ Vanuatu Daily 2016年10月2日閲覧。
  7. ^ オーストラリア、バヌアツと安保協定 中国に対抗日本経済新聞(2022年12月13日、共同通信記事の転載)2023年1月2日閲覧
  8. ^ バヌアツ 危険・スポット・広域情報”. 日本国外務省. 2022年9月30日閲覧。
  9. ^ The Peace Corps Welcomes You to Vanuatu Archived 2008-09-10 at the Wayback Machine.. Peace Corps (May 2007). This article incorporates text from this source, which is in the public domain.
  10. ^ a b c d Vanuatu Cricket Association 国際クリケット評議会 2023年10月1日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集

バヌアツ政府

日本政府

その他