魚肉ソーセージ

魚肉を練ってソーセージに似た形にした加工食品

魚肉ソーセージ(ぎょにくソーセージ)は、魚肉練り製品の一種で、魚肉すり身ケーシングに入れ加熱・滅菌した、ソーセージに似た形の加工食品。

魚肉ソーセージ[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 158 kcal (660 kJ)
12.6 g
7.2 g
飽和脂肪酸 2.53 g
一価不飽和 2.78 g
多価不飽和 0.91 g
0.10 g
0.81 g
11.5 g
ビタミン
チアミン (B1)
(17%)
0.20 mg
リボフラビン (B2)
(50%)
0.60 mg
ナイアシン (B3)
(33%)
5.0 mg
パントテン酸 (B5)
(1%)
0.06 mg
ビタミンB6
(2%)
0.02 mg
葉酸 (B9)
(1%)
4 µg
ビタミンB12
(13%)
0.3 µg
ビタミンD
(6%)
0.9 µg
ビタミンE
(1%)
0.2 mg
ミネラル
ナトリウム
(54%)
810 mg
カリウム
(1%)
70 mg
カルシウム
(10%)
100 mg
マグネシウム
(3%)
11 mg
リン
(29%)
200 mg
鉄分
(8%)
1.0 mg
亜鉛
(4%)
0.4 mg
(3%)
0.06 mg
マンガン
(5%)
0.11 mg
他の成分
水分 66.1 g
コレステロール 30 mg
食塩相当量 2.1 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
魚肉ソーセージ[1]の脂肪酸組成
100gあたり
総脂肪
6.23g
飽和脂肪酸
ミリスチン酸 (14:0)
パルミチン酸 (16:0)
ステアリン酸 (18:0)
2.53g
0.097g
1.500g
0.850g
一価不飽和脂肪酸
オレイン酸 (18:1)
2.78g
2.500g
多価不飽和脂肪酸
リノール酸 (18:2)
α-リノレン酸 (18:3)
0.91g
0.81g
0.780g
0.10g
0.024g

フィッシュソーセージとも言う。一部に「ぎょにそ」「ぎょにー」と俗な略し方をする人や、稀に「魚ソ」などと略す人もいる。

JASの規格では、魚肉及び鯨肉の原材料に占める重量の割合が50%以上のものを「魚肉ソーセージ」としており、15%未満の「ソーセージ」や15%以上50%未満の「混合ソーセージ」とは区別されている。

製法 編集

スケトウダラなどの冷凍すり身50-60%に、豚脂調味料香辛料を混ぜて練り合わせたものをケーシング(=密閉)し、レトルト殺菌釜で高圧高温殺菌を行って出来上がる。必要に応じてデンプン・植物性タンパク卵白などの結着剤、および酸化防止剤を加えることもある。

由来成分を使わないなど、イスラム教ハラル認証を得た魚肉ソーセージも日本企業により生産されている[2]

歴史 編集

洋食の普及への対応や魚肉の保存性向上を狙い、大正時代から日本各地の水産試験場で魚肉を使用したハム・ソーセージ風食品の開発が進められた。ツナハムについては第二次世界大戦前から実用化されたが、魚肉ソーセージは1949年(昭和24年)、愛媛県八幡浜市(当時は保内町)の西南開発工業協同組合が初めて試作に成功した。同組合は1951年(昭和26年)、西南開発株式会社として創立し、「スモークミート」の名で商品化した。翌1952年(昭和27年)には明治屋と契約し全国発売を開始した。

日本最大のトロール基地であった北九州市戸畑区(当時は福岡県戸畑市)のニッスイ(当時は日本水産株式会社)は、1947年(昭和22年)にグチを材料に魚肉ソーセージを試作。その後、材料をグチよりも安価で量が確保しやすいマグロに置き換え、ツナソーセージを発売。1951年(昭和26年)には、生産量が1日2-3万本を出荷。1952年(昭和27年)には、常温保存期間の長期化が実現し、本格的な全国展開の事業化に成功した[3][4][5]

その後各社の参入があったが、生産量が大幅に増えた原因として水爆実験の影響が挙げられる。1954年(昭和29年)3月1日、南太平洋ビキニ環礁で行われた 15 Mt の水爆実験(キャッスル作戦)により、日本の「第五福竜丸」をはじめ多数のマグロ漁船放射性降下物(いわゆる「死の灰」)を浴び、被曝した。処理のため多量の放射能汚染マグロが水揚げされたことから消費者が忌避する事態となり、マグロの価格は大暴落した[6]。苦境に陥った水産各社は、余剰マグロを原料とした魚肉ソーセージの生産に力を入れるようになった。安価な魚肉ソーセージは、学校給食に納入されるなど、「西の横綱インスタントラーメンなら、東の横綱は魚肉ソーセージ」と呼ばれた程の大衆食となった。1962年(昭和37年)には魚肉ソーセージに関する日本農林規格(JAS規格)が制定された。1972年(昭和47年)には、魚肉ソーセージの国内生産量(魚肉ハムを含む、以下同様)は18万tを超えてピークを迎えている[7]

しかし、生産量ピーク2年後の1974年(昭和49年)、使用されていた食品添加物保存料フリルフラマイド (AF2) に発癌性催奇性が指摘され、使用禁止となってしまう[6]。同年、業界は魚肉ソーセージへの防腐剤の使用を取り止め、代わりに「高温高圧殺菌」「pH水分活性を調節して加熱殺菌」「従前同様の加熱殺菌をして10℃以下で流通保存」のいずれかの方法を採用する事とした。多くのメーカーは「高温高圧殺菌」を採用している。1974年(昭和49年)の生産量は12万tへと急落している。

さらに、1976年(昭和51年)にはアメリカソ連が相次いで排他的経済水域の設定を宣言する、いわゆる200海里問題が発生したため、そのころ主原料となっていたスケトウダラの価格が暴騰。原料コストの高騰という問題が起こった。また、徐々に家庭へ冷蔵庫が普及し、低温輸送技術が進むにつれ、食肉および食肉加工品が普通に食卓へと並ぶようになり、魚肉ソーセージの保存食肉あるいは食肉代用品としての存在価値が減少、生産量を減らしていく。

その後、メーカー側の開発・販売努力(カルシウムDHAビタミンコラーゲンといった有用成分の添加、アニメや子供向け特撮ヒーローのキャラクター採用)や、健康・ヘルシー志向(低カロリー・低脂肪・高タンパク化)も手伝って、徐々に魚肉ソーセージが見直されるようになった。BSE鳥インフルエンザなどで畜肉の安全性に疑問が呈された際にも、魚肉ソーセージが注目された。一時は需要が急増してフル生産体制になり、メーカーは当惑したという。

1990年(平成2年)以降の生産量は、年間5万から8万tとなっている。

おもな用途 編集

特殊品・類似品 編集

  • 魚肉ソーセージの類似品として、魚肉ハムと呼ばれるものも存在する。製法的に大きな違いはないが、魚肉ソーセージが主に魚肉のすり身を用いるのに対し、魚肉ハムは魚肉の肉片を塩漬けにしたものを原料としている。また練り合わせ魚肉にチーズ荒挽き肉等の「種もの」を混ぜ合わせたものを原料とする「特種魚肉ソーセージ」や油焼きの調理後、ハンバーグ類似の香味や食感を有する「ハンバーグ風特種魚肉ソーセージ」も存在する。
  • 2005年(平成17年)には、ニッスイからイチゴ牛乳味の魚肉ソーセージが発売され、ニュースで取り上げられた(味は名称どおりイチゴ味が後味に残るらしい)。これは子供向けに作られたものだと言われているが、1980年代にミルク味などのソーセージをキャラクター商品として発売していた経歴がある。
  • 練った魚肉に種物を加えて魚肉ソーセージと同様に包装したものは魚肉ソーセージではなく、特殊包装かまぼこ類の一種であるケーシング詰特種かまぼこに分類される[8]チーズかまぼこなどが該当する。

関連項目 編集

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ a b 日本食品標準成分表2020年版(八訂)”. 文部科学省 (2020年). 2022年8月3日閲覧。
  2. ^ 「魚肉ソーセージでイスラム圏開拓」日経産業新聞』2018年11月13日(スタートアップ金融面)2018年11月14日閲覧。
  3. ^ 日本水産における漁業用無線通信の系譜Ⅰ”. 北九州工業高等専門学校. 2023年4月29日閲覧。
  4. ^ ニッスイの食品事業”. ニッスイ. 2023年4月29日閲覧。
  5. ^ 日本水産百年史「日本水産のフィッシュソーセージ事業の開始」P242”. 株式会社ニッスイ. 2023年5月2日閲覧。
  6. ^ a b 小畠渥、1999、「研究ノート」、『02 くろしお:高知大学黒潮圏研究所 所報』、高知大学黒潮圏研究所、ISSN 0913-1302
  7. ^ 魚肉ハム・ソーセージの生産数量推移
  8. ^ 特殊包装かまぼこ類品質表示基準 (PDF) [リンク切れ] - 消費者庁

外部リンク 編集