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危機 (イエスのアルバム)

イエスのアルバム

危機』(原題:Close to the Edge)は、イギリスプログレッシブ・ロックバンドイエスが1972年に発表した5作目のアルバムである。アメリカではBillboard 200アルバムチャートで最高3位、シングルカットされたAnd You And IBillboard Hot 100で最高42位、本国イギリスではオフィシャル・チャートで最高4位につけるなどイエスにとっては初の大ヒットと言える売り上げを記録した。LP両面で3曲というイエスにとって初の大作主義的傾向を全面的に打ち出した作品であり、イエスの代表作とされるばかりか、プログレッシブ・ロックにおける一つの到達点とされる。 ビル・ブルーフォードがこのアルバムを最後に脱退したため、ジョン・アンダーソンスティーヴ・ハウクリス・スクワイアリック・ウェイクマン、ビル・ブルーフォードの5人でレコーディングが行われた最後のアルバムとなっている。 ジャケット等アートワークやバンドロゴはロジャー・ディーンによるものであり、特徴的なバンドロゴが初めて使用されたアルバムでもある。

危機
イエススタジオ・アルバム
リリース
録音 1972年4月 - 6月
ジャンル プログレッシブ・ロック
時間
レーベル アトランティック・レコード
プロデュース イエス、エディ・オフォード
専門評論家によるレビュー
チャート最高順位
  • 3位(アメリカ)
  • 4位(イギリス)[1]
  • 16位(日本)[2]
  • イエス アルバム 年表
    こわれもの
    (1971)
    危機
    (1972)
    海洋地形学の物語
    (1973)
    イエスソングス
    (1973)
    ミュージックビデオ
    「Close To The Edge」 - YouTube
    「And You And I」 - YouTube
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    概要編集

     
    ロジャー・ディーンによってデザインされたバンドロゴ

    制作の背景編集

    前作こわれもののリリースに伴うコンサートツアー中であった1972年3月、ロンドンウェスト・エンドアドヴィジョン・スタジオ(英語版記事)の使用を2日間だけ予約し次作のために数トラックを録音した。次いでツアーが終了した同年5月、シェパーズ・ブッシュのバレー学校でリハーサルを行い、すでに録音されたトラックにアレンジを加えたが、曲のアレンジが日を追うごとに徐々に複雑になっていったため、翌日には全員がそれをすっかり忘れてしまう事が頻発し、これによってリハーサル毎にそれらを全て録音しなければならない状態となり、しかもそんな作業をしたにもかかわらず一曲も完成にこぎつけた曲が無かったという。この状況はまさにバンドにとって崖っぷち(原題のClose to the Edge)であったとブルーフォードは語っている。

    レコーディング編集

    1972年7月、再びアドヴィジョンスタジオに入り本格的に録音作業を再開する。同スタジオの所属であったエンジニアでプロデューサーのエディ・オフォードはコンサートでPAミキサーを担当しており、その際に会場の盛り上がった雰囲気の中、各メンバーが非常に素晴らしいパフォーマンスを発揮していたと感じ、その雰囲気をそのまま次のアルバムに取り込むことは出来ないかと考え、ローディに命じてスタジオ内にコンサートステージを作らせた。さらに、ブルーフォードのドラムに更なる共鳴音を加えライブのような音を再現するためドラムセットの台座を木製に変更させ、木製の小屋を作りその中で演奏することによってハウのギター音に変化を持たせるなどのアレンジを行った。 録音作業中、マスターに挿入しようと思っていたパートを録音したテープをスタジオの用務員が誤って捨ててしまったが、運よくゴミ袋の中でぐちぐちゃになっていたものを発見しマスターテープに追加することができた。

    レコーディング期間中、メロディ・メーカー誌の記者で後にケラング!に所属し、イエスの自伝著者ともなるクリス・ウェルチが取材に来ており、その当時のスタジオ内の雰囲気を非常にストレスを溜め、今にも感情が爆発しそうであったブルーフォードやハウやウェイクマン、そしてミックスの完成ごとに苛立ちや不満を漏らす各メンバーが目に付いたという。ウェルチが言うには、イエスと言うバンドは団結力が無く、アンダーソンとハウの2人が主導してアルバムの方向性を一方的に決め、スクワイアとオフォードの2人がそれに少々の手を加えて曲を作っていると見えたようであり、ウェイクマンとブルーフォードは傍観者のように振る舞っていたという。また、彼は24時間ぶっ通しの作業が何日も続いたのを目撃しており、ある日ドカッという鈍い音が聞こえ、何かと思って見に行ったらミキシングコンソールに突っ伏しているオフォードがおり、マルチトラックレコーダーが作動中であったため、突っ伏した拍子にフェーダーが動いてしまいそのまま放置され耐え難い程の爆音が流れていたにもかかわらず爆睡していたという。 ブルーフォードは、このような状況下に置かれたことを「エベレスト山を登らされているようだ」と形容し、徐々にイエスが制作を進めいていた全音階的な作風を嫌い、ジャズに根差した即興音楽を志向するようになった。ブルーフォードが不満を漏らすようになったため各曲の各パートを通しで録音し、その都度メンバー間で議論を繰り返し全員が納得いく物が出来上がるまで修正を何度となく繰り返すという手法によって作業が進められることになるが、ブルーフォードはそれらを非常な重労働と感じた末に不満を募らせ、ついにはバンドを脱退しキング・クリムゾンに加入する遠因となる。当時を振り返って彼は「民主的な選挙をずっとやっているようで、何かあると毎回選挙活動を展開しないといけない。本当に恐ろしく、驚くほど不快で、信じられないくらいの重労働だった。」とコメントしている。また、スクワイアの遅刻癖や作業スタイルにも不満を感じたと言い、ブルーフォードがスタジオのコントロールルームにあるソファで仮眠を取ろうとした際に、スクワイアはミキシングコンソールに向かって作業しており、自身のベースパートへのイコライザーの効きをどれくらいにしようかと迷っており、数時間後に仮眠から覚めた際にいまだにイコライザーを弄っていたスクワイアを目にして呆れたという。ブルーフォードは作業中にアンダーソンから歌詞を書いてみないかと誘われたと語っており、とてもうれしい経験だったとしている。しかし、自身の持てるすべてを出し切ってアルバムの制作ができたと感じており、「一息つくために」イエスを脱退する決心がついたという。

    曲について編集

    アルバムのタイトルソングであり、一曲目に収録されている危機の歌詞はアンダーソンとハウの2人によって執筆されている。18分を超える長さの曲であり、アルバム発表当時、イエス史上最長の曲であった。アンダーソンはこの曲の着想を、彼のお気に入りであるジャン・シベリウス作曲の交響曲第6番 (シベリウス)交響曲第7番 (シベリウス)を聴きながらJ・R・R・トールキン著の指輪物語を読んでいる際に得たとしている。彼の談によれば、交響曲第7番が曲の構成を練る上で最も大きな影響を与えたという。得られたアイデアをハウと共有し、休暇中に2人でロンドン中心部のハムステッドにあったハウの家に籠り、「Close to the edge, down by a river」というフレーズが考え出された。これはハウが以前テムズ川河畔のバタシーに住んでいた経験から得られたものだという[3]。 アンダーソンは、歌詞を執筆するうえでヘルマン・ヘッセ著の小説シッダールタを参考としたが、「これはすべて比喩だ。」と自分に言い聞かせながら3、4度推敲を繰り返した。最終盤の歌詞は彼が見た夢を元にしており、「現世から黄泉へと旅立つ瞬間の夢だった。にもかかわらずとても気分が良く、この時ほど死を恐れなかった瞬間はない。」と語っている。 曲中に聴かれる川のせせらぎと鳥のさえずりは屋外で2日間をかけて録音されたものであり、アンダーソンは、冒頭に鳥のさえずりを挿入し「盛衰 "I Get Up, I Get Down"」の最中にインストパートを設けるというアイデアをウェンディ・カルロスの3作目のアルバムであるSonic Seasonings(英語版記事)から得たと語っている。また彼は、静寂を突き破るようにいきなり即興的に演奏をはじめてはどうかと提案し、冒頭に聴かれるギターを主とした長めのインストパートが作られた。このパートには以前マハヴィシュヌ・オーケストラとコンサートツアーを行った際に得られた経験が大いに生かされているという。 中盤に聴かれるウェイクマンの演奏によるパイプオルガンのパートは、元々ハウが自身のギターパートとして作曲した物であったが、パイプオルガンの音の方が適切であると判断したために変更された。演奏に供されたパイプオルガンはシティ・オブ・ロンドンに位置する英国国教会の教会であるセント・ジャイルズ=ウィズアウト=クリップルゲートに設置されている物である。

    ブルーフォードの脱退とコンサートツアーへの影響編集

     
    ビル・ブルーフォードはイエス脱退後にキング・クリムゾンやジェネシスに在籍する

    ブルーフォードの脱退はアルバムのリリースに伴うツアーのただ中という時期であり、急遽後任としてアラン・ホワイトが加入するが、契約上印税はブルーフォードとホワイトで折半という形にされた。後にリリースされたイエスソングスに収録されている曲のドラムがブルフォードが叩いているものとホワイトが叩いている物があるのはそのためである。 更にバンドのマネージャーであったブライアン・レーンは、契約に違反した補償金として10,000ドルの支払いをブルーフォードに要求した。

    収録曲編集

    オリジナル盤編集

    A面
    #タイトル作詞・作曲時間
    1.「危機
    "Close To The Edge"
    • i) 着実な変革 "The Solid Time Of Change"
    • ii) 全体保持(トータル・マス・リテイン) "Total Mass Retain"
    • iii) 盛衰 "I Get Up, I Get Down"
    • iv) 人の四季 "Seasons Of Man"
    Jon Anderson, Steve Howe
    B面
    #タイトル作詞・作曲時間
    2.「同志
    "And You And I"
    • i) 人生の絆 "Cord Of Life"
    • ii) 失墜 "Eclipse"
    • iii) 牧師と教師 "The Preacher The Teacher"
    • iv) 黙示 "The Apocalypse"
    Anderson; themes by Bill Bruford, Howe, Chris Squire
    3.「シベリアン・カートゥル
    "Siberian Khatru"」
    Anderson; themes by Howe, Rick Wakeman

    リマスター盤編集

    2003年にCDのリマスター盤が発売された。音質の向上が図られている他、従来の3曲に加え、以下の4曲のボーナス・トラックが追加収録されている。

    #タイトル作詞・作曲時間
    4.アメリカ(シングル・ヴァージョン)
    "America" (single version)
    Paul Simon
    5.「全体保持(シングル・ヴァージョン)
    "Total Mass Retain" (single version)
    Anderson, Howe
    6.「同志(オルタネイト・ヴァージョン)
    "And You And I" (alternate version)
    Anderson; themes by Bruford, Howe, Squire
    7.「シベリア(スタジオ・ランスルー・オブ・シベリアン・カートゥル)
    "Siberia" (studio run-through of "Siberian Khatru")
    Anderson; themes by Howe, Wakeman

    また、デジパック仕様でLP時代のジャケットに添ったアート・ワークが復活し、新たな写真やライナー・ノーツが収録されている。

    SACD盤編集

    Audio Fidelityレーベルからハイブリッド式のSACDがリリースされている。ただし後述の5.1ch盤とは異なり2chステレオのままである。詳細は当該websiteを参照の事。

    5.1ch盤編集

    2013年、Panegyricレーベルからスティーヴン・ウィルソンのマスタリングによる5.1ch盤がブルーレイ及びDVD-Audioでリリースされた。詳細はBlu-ray盤及びDVD-Audio盤を参照の事。

    制作人員編集

    イエス
    制作スタッフ

    トリビア編集

    • 2011年のアメリカ・カナダ合作映画『アポロ18』の劇中およびエンドロールの冒頭で「同志」が使用されている。
    • リック・ウェイクマンは本作品や自身のソロ作品であるヘンリー八世の六人の妻でセント・ジャイルズ=ウィズアウト=クリップルゲートに設置されているパイプオルガンを使用し、その縁から教会に対して修繕費として寄付を行っており、また、その他の慈善活動が認められフリー・メイソンへの加入を許された。

    脚注編集

    1. ^ ChartArchive - Yes - Close To The Edge
    2. ^ 『オリコンチャート・ブックLP編(昭和45年‐平成1年)』(オリジナルコンフィデンス/1990年/ISBN 4-87131-025-6)p.73
    3. ^ "Yes' Steve Howe on Jon Davison, performing classic LPs, a renewed solo focus"” (英語). Something Else! (2013年4月24日). 2017年1月30日閲覧。