家父長制

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家父長制(かふちょうせい、ドイツ語: Patriarchat英語: patriarchy)は、家長権(家族と家族員に対する統率権)が男性たる家父長に集中している家族の形態[1]。「父権制」と訳されることもある[2]。古代ローマに、その典型を見ることができる[2]

家父長制はパターナリズム (paternalismともいわれる。父と子の関係にしばしば見られるような、他者の利益を名目に他者の行動に強制的に干渉しようとする考え方のこと[3]。父親が小さな子供のために、よかれと思って子供の意向をあまり聞かずに意思決定することから来ている[4]。父子関係以外にも、医師などが、患者の健康を理由に患者の治療方針を一方的に決めるような場合も例に挙げられる[5]

西洋の家父長制編集

フランス民法典原始規定に夫を家長として権利を集中する近代家父長制の典型がみられた[6]。1970年代の改正により消滅。民法典論争#ヨーロッパの家族観参照。

日本の家父長制編集

日本の明治民法でも家長権は戸主権として法的に保証されていた[1]が、古代ローマと異なり、女性も例外的に家長たりえる(女戸主)、家長権の絶対性・包括性は無く、個々の権利義務の集まりでしかないなどの違いがあった[7]。1947年の家制度廃止により消滅。

家父長制に関する議論編集

  • J・J・バッハオーフェンに始まる一連の文化人類学的議論からは、自ら産んだ子は必ず実子という女性の生物学的優位性と、それに対抗して父性を確保しようとする高等哺乳類本能が、古今東西を問わず男女不均衡の社会を導いたとの指摘が挙がっている[8]
  • 家父長制度、父権制あるいはそれに準じる意識がDVの原因となっているとの研究や指摘がある[9][10][11][12]
  • 神戸大学教授の平野光俊は、パターナリズムの一例として「結婚や出産後は退職して家事・育児に専念することが女性にとっての幸せだ」という固定観念と、「出産を経て復職した女性は大変そうだから責任のある仕事はさせない」という男性側の「優しさの勘違い」を挙げている[13]
  • ケイト・ミレットは『性の政治学』での父権制patriarchyに関して次のように主張する。「われわれの社会秩序の中で、ほとんど検討されることもなく、いや気づかれることさえなく(にもかかわらず制度化されて)まかりとおっているのが、生得権による優位であり、これによって男が女を支配しているのだ」[14]。「軍隊、産業、テクノロジー、大学、科学、行政官庁、経済ーー要するに、社会のなかのあらゆる権力の通路は、警察の強制的暴力まで含めて、すべて男性の手中にあることを想い起こせば」[15]、われわれの社会が他のあらゆる歴史上の文明と同じく父権制であるという事実は、直ちに明らかになる。「父権制の支配を制度ととらえ、この制度によって人口の半ばを占める女が残り半分の男に支配されるものとするならば、父権制の原則は、男が女を支配し、また年長の男が年若い男を支配するというように二重に働くように見える」[16]

脚注編集

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  1. ^ a b 『縮刷版 社会学事典』弘文堂、1994年、156頁。
  2. ^ a b 長谷川公一「政治社会とジェンダー」『ジェンダーの社会学』新曜社、1989年、91-92頁。
  3. ^ 池松辰男 (2017年3月). “時事用語事典 パターナリズム [paternalism]”. 時事オピニオン. 集英社. 2019年2月20日閲覧。
  4. ^ 用語集 パターナリズム”. 健康を決める力. 中山和弘(聖路加国際大学). 2019年2月20日閲覧。
  5. ^ 池松辰男 (2017年3月). “時事用語事典 パターナリズム [paternalism]”. 時事オピニオン. 集英社. 2019年2月20日閲覧。
  6. ^ 星野英一『民法のすすめ』岩波書店、1998年、147-150頁
  7. ^ 青山道夫『日本家族制度論』、九州大学出版会、1978年、249、277頁
  8. ^ 中川善之助・青山道夫・玉城肇・福島正夫・兼子一・川島武宜編『家族 家族問題と家族法I』、酒井書店、1957年、17-43頁(青山)
  9. ^ R.E. Dobash and R.P. Dobash, "Violence and Social Change, Routledge & Kegan Paul, 1992.
  10. ^ K. Yllo and M. Bograd, "Feminist Perspectives on Wife Abuse, Sage", 1988.
  11. ^ 「ドメスティック・バイオレンス(DV)の加害者に関する研究」、研究部報告24、法務総合研究所研究部。
  12. ^ 松島京、「親密な関係性における暴力性とジェンダー」、立命館産業社会論集、36(4)、2001年。
  13. ^ 麓幸子. “女性管理職を増やすには”. 日経メディアマーケティング株式会社ホームページ. 日経メディアマーケティング株式会社. 2019年2月20日閲覧。
  14. ^ ケイト・ミレット『性の政治学』(ドメス出版、第4刷、1993年)、71頁から72頁
  15. ^ 上掲書、72頁
  16. ^ 同上

参考文献編集

関連項目編集