引きこもり

社会的な交流・接点を喪失した生活が長期にわたり、定着した状態

引きこもり(引き籠もり、ひきこもり、: hikikomori, social withdrawal)は、仕事学校に行けずに籠り、家族以外とほとんど交流がない(社会関係資本を持たない)人の状況を指す。現時点では、日本の厚生労働省はこうした状態が6か月以上続いた場合を定義としている。様々な支援方法に共通して、本人のことを温かく受け止めて肯定し、安心感の持てる関係性や居場所を作っていくことが重要であるとされる。

定義と呼称の歴史編集

「引きこもり」とは英語からの訳語で、出典はアメリカ精神医学会編纂の『DSM-III』の診断基準におけるSocial Withdrawal(社会的撤退)という用語だった。

「引きこもり」の意味は時代とともに変化している。かつては、後述のように、隠遁や病気療養を指して使われたが、平成30年度の厚生労働白書では「様々な要因の結果として、社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたっておおむね家庭内にとどまり続けている状態を指す現象概念」と定義し、報告に一節を割いている。

様々な要因の結果として、社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたっておおむね家庭内にとどまりつづけている状態を指す現象概念である。なお、ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。

思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究, 平成19年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学事業)

また、次のような定義もある。

「安心できる場所に退避する状態」 — Association of Relatives And Friends of the Mentally Ill

吉川幸次郎『宋詩概説』には「弾劾されて失脚し、遠く江蘇の蘇州に、別荘を買って『蹌浪亭』と名づけたのにひきこもり」という公職に就いていない、または官職を辞した状態を意味する用例や(岩波文庫版P124、初出1962年)、横山光輝の『三国志』(希望コミックス版24巻、潮出版社、1981年)にも(諸葛亮の台詞として)「これは隆中にひきこもっているころ聞いたのですが」といった用例がある。なお、第2次橋本内閣までは、首相の病気による内閣総理大臣臨時代理の辞令に「内閣総理大臣何某病気引きこもり中内閣法第九条の規定により……」と記載されていた。

前述した厚生労働省が定義しているような「引きこもり」の用法が生まれたのは平成年間以降である。

ニートとの違い編集

引きこもりに類似する用語として、就学・就労していない、また職業訓練も受けていないことを意味する「ニート」(若年無業者)という用語がある。引きこもりとニートは別物という見方が多いが、厚生労働省が実施した調査では、いわゆる引きこもりの状態にある者(調査では20〜49歳)をニートの「就業希望を有しない者」に含めている。つまり、引きこもりを「ニート」に含めて扱っている。

統計編集

日本編集

内閣府「若者の生活に関する調査報告書」(2016年)
  満15歳から満39歳の者
狭義のひきこもり
  • ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける
  • 自室からは出るが、家からは出ない
  • 自室からほとんど出ない
17.6万人 54.1万人
広義のひきこもり
  • ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する

定量的な数値編集

NHK福祉ネットワークによると、2005年度の引きこもりは160万人以上である。稀に外出する程度のケース(準ひきこもり)まで含めると300万人以上存在する。男女比は調査によって様々で、NHKのネットアンケートによると54:46、「社会的ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査報告によると男性が76.4%であり、ほとんどの調査報告において男性は6〜8割の割合で女性より多く存在する。

厚生労働省の調査結果では、引きこもりを経験した者は1.2%、現在20歳代の者では2.4%が一度は引きこもりを経験していた。男性に約4倍多い。高学歴家庭では、約20人に1人が引きこもりを経験していた。家庭が経済的に困窮していたかどうかは引きこもりと関係ない。また、発達障害者が3割程度含まれることを確認した。

内閣府は、引きこもりの実態を把握するために、若年層(15歳〜39歳)を対象に調査を行っている。しかし、引きこもりが長期化する人が増えていることから、2018年12月、中高年層(40歳〜64歳)を対象とする初めての調査を行った。その推計では、中高年層における引きこもりは61万3000人に上る。内閣府平成27年度調査では「不登校」,「職場になじめなかったこと」,「就職活動がうまくいかなかった」,「人間関係がうまくいかなかった」という、学生時代に直面した問題が引きこもりの切っ掛けとして上位に挙がっていた。しかし、平成30年度調査においては、「退職したこと」,「人間関係がうまくいかなかったこと」,「病気」,「職場になじめなかったこと」という、社会人として直面する問題が切っ掛けとして上位となっている。こうした問題は、中高年引きこもりの前段階の1つに当たるパラサイト中年が直面する問題でもある。

日本の公的機関の調査により判明した引きこもりの傾向は下記である。

  • 男性に多い。
  • 20〜29歳の者に経験者が多い(しかし、高齢化に伴い2010年代からは40代以上の人数が上回りつつある)。
  • 社会人と比較して発達障害者が高い割合で含まれる。
  • 高学歴の両親がいる家庭に多い。

高齢化と長期化編集

2010年代中盤まで、引きこもりは若者の問題であると考えられており、不登校問題と同一視されてきた経緯から、支援対象者は10歳代から20歳代を想定した場合がほとんどであった。内閣府は2016年9月、サンプル調査に基づき、15〜39歳の若年層の引きこもりが全国で約54.1万人(統合失調症の者も含めた場合、約56.3万人)に上るとの推計を公表した。その内、準引きこもり(ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する)が約36.5万人、狭義のひきこもり(近所のコンビニなど近場以外に外出しない状態か殆ど家に出ない状態)が約17.6万人であった。内閣府調査で対象外だった40歳以上の引きこもりについて、KHJ全国ひきこもり家族会連合会は、16万人いると推計している。

近年では引きこもりの長期化や、社会に出た後に引きこもりになってしまうケースなどにより、20歳代や30歳代以上が増加している。KHJが2016年から2017年にかけて実施したアンケートでは、引きこもりの平均年齢は33.5歳、40歳代も25%が占めた。引きこもりの平均期間は10.8年間で、調査対象の16%は20年以上に及んでいた。支える家族の平均年齢は64.1歳と高齢化している。2割近いという調査結果もある。

山形県が2013年に引きこもりの実態を調査したところ、15歳以上の県民のうち、引きこもりは1,607人だった。そのうち40代以上が717人だった。これはほぼ半数が高齢の引きこもりであるということを示している。

就職氷河期世代の高齢化などにより、引きこもりが中高年になっても続く傾向は2010年以前から指摘されていた。この年齢層では支援の方法も限られてしまい、支援団体でも支援対象者に年齢制限を設けている場合がある。引きこもりの子を養っている親が老年期に入ると、経済的・体力的に行き詰まってしまう場合が多い。このためKHJのように、中高年に達した引きこもりの子を持つ親も参加できる支援団体もあるほか、親の退職・死亡後も子が引きこもりから抜け出せないことを前提に、生活資金の確保や物価が安い地域への引っ越しといった「サバイバルプラン」を助言するファイナンシャルプランナーもいる。高齢化がさらに進むことで、介護が必要な80代の親と50代の引きこもりとの親子関係における問題があるとする「8050問題」を掲げるメディアもあり、特に2019年に入ってからはワイドショーなどテレビ番組でもいわゆる40歳以上が該当する中高年の引きこもり8050問題を積極的に追求・報道するなど社会問題に発展している。

政府の引きこもり支援は内閣府の「子ども・若者育成支援推進法」を法的根拠にし、当初は34歳まで、その後、39歳までに上限を引き上げて、支援対象者を年齢で線引きしてきた。また、内閣府は引きこもりの実態を把握するために、15歳から39歳までの主に若者を対象に調査してきたが、引きこもりが長期化する人が増えていることから、2018年12月、40歳から64歳を対象とする初めての調査を行い、40歳から64歳で引きこもりの人は、推計で61万3000人に上り、15歳から39歳を対象にした調査で推計した54万1000人より多くなっている。その内、準引きこもり(ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する)が約24万8000人、狭義のひきこもり(近所のコンビニなど近場以外に外出しない状態か殆ど家に出ない状態)が約36万5000人であった。また、40〜44歳の層では、就職氷河期による影響の為、殆どの大学短大専門学校の新卒者が就職活動する時期に当たる20〜24歳の時期にひきこもりが始まった人が目立っていた。更に引きこもり期間については、中高年引きこもりの約21.2%が3〜5年が最も多かったと同時に、10年以上の者は約36.1%を占めていた。その内、30年以上引きこもっていた者は、10年以上引きこもりをしている中高年の約17.7%であった。2020年には引きこもりの親が続々と亡くなり始めており、政府の対応は遅く形式的な対応に留まるため、今後数年で引きこもりの子の孤独死や親の死体遺棄が急増することが指摘されている。

世界各国編集

フランス編集

フランスでは、伝統的に、何世紀も前から、人間と会いたがらない人のことを misanthrope ミザントロープ と言う。日本語の訳は「人間嫌い」などとされている[1]

イギリス編集

英語圏では、もともと、ある人が社会と距離を置くような態度をとることや、その行動パターンは、あえて言うとsocial withdrawalと言う。

英語圏で、日本でも社会と距離を置く人々がおり、だが日本独特のパターンがある、ということが知られると、オックスフォード英語辞典は2010年8月、第3版に「hikikomori」の単語を収録し、定義文として“社会との接触を異常なまでに避けること”を掲載、補足説明文として“一般的には若い男性に多い”を掲載した。

BBC が日本の引きこもりについての番組を放映した時に、複数のイギリスの視聴者から同様の経験を持つとのコメントが寄せられた。イギリスでは孤独問題が社会問題になっており、2018年に孤独問題担当国務大臣を設置して孤独対策に力を入れ始めた。


イタリア編集

イタリアでも引きこもりが目立ってきており、同国の新聞が特集記事を組んだこともある。イタリアには引きこもり状態の若者が10万人程度いるとの推計もあるが、正確な実態は不明である。問題への認識は従来薄かったが、2017年6月に日本の取り組みを参考にした支援団体「HIKIKOMORIイタリア」(本部ミラノ)が発足するなど、対策が取られつつある。


アジア諸国編集

韓国台湾香港などでも確認されている。

原因編集

国立精神・神経センター精神保健研究所による引きこもり概念の説明編集

厚生労働省/国立精神・神経センター精神保健研究所社会復帰部による 「ひきこもり」の概念は以下である。

  • 「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではない
  • 「ひきこもり」の実態は多彩である
  • 生物学的要因が強く関与している場合もある
  • 明確な疾患や障害の存在が考えられない場合もある
  • 「ひきこもり」の長期化はひとつの特徴である
  • 長期化は、以下のようないくつかの側面から理解することができる
    • 生物学的側面
    • 心理的側面
    • 社会的側面
  • 「ひきこもり」は精神保健福祉の対象である
— 国立精神・神経センター 2003

※調査対象者は次の条件をすべて満たす80例(男66例女14例)。初診時の年齢が12歳から34歳(平均19.8歳)、調査時点で13歳から37歳(平均21.8歳)。

  • 統合失調症躁うつ病、器質性精神病などの基礎疾患がないこと
  • 初診時点で3か月以上の無気力・引きこもり状態があること
  • 1989年6月の時点で、本人との治療関係が6か月以上続いていること
  • 少なくとも本人が5回以上来院していること(家族のみの相談も多いため)
  • 評価表を記入するための資料が十分にそろっていること

オペラント条件づけの観点からの発生メカニズム編集

人間の自発的行動の生起メカニズムを解明するオペラント条件づけの観点から引きこもりを説明すると次のようになる。引きこもり状態は、まず不快状況を回避する行動から始まる。回避は長期的には不快状況の克服にはならないが、短期的な結果として不快な状況が起きないことへの満足が発生し、回避という行動は強化される。引きこもり状態が長期化するにつれ、組織への戻りにくさや引きこもり状態を自認することへのストレスなど、様々な葛藤が生じる。そのため、引きこもり状態からの脱却のための自発的行動が試みられるようになるが、この行動による短期的な結果として、自他からの不快な反応が「罰」として生じることがある。この罰に屈してしまうと、家に引きこもっていれば何も起きず、罰を受けずに済むという、引きこもり状態の強化を学習することになる。慢性化した引きこもりは、こうした悪循環を数年に渡って強固に学習したものと言える[2]

親子関係の失敗編集

機能不全家族で育った子供はまず親との人間関係作りに失敗しており、人間関係の基礎が人間不信になっている場合がある。良い子をただ演じている事があり、いじめがきっかけで引きこもりが発生するケースが多い。ひどい場合は解離性障害を発生する。 野中俊介らが行った研究によれば、引きこもりの生じた家族は他の一般的な家族と比較して、コミュニケーションを通じて子どもの望ましい行動を増やす力は同程度に有しているものの、子どもの望ましくない行動を制御する力が弱いことを示しており、引きこもり状態に対して家族間のコミュニケーションが正常に機能していないことを示唆している。

職場関係の問題編集

学齢期不登校だった状態がそのまま続いてひきこもりになっている人もいるが、社会人になった後、職場の人間関係、追い出し部屋セクハラリストラ、などの要因から心をすり減らし引きこもりになった人も多い。

一度会社を辞めただけで社会との縁までもが切れてしまう背景には、人材に対して減点方式の評価を行い、リセットすることが許されない(リセットしようとすること自体が大きな減点となる)日本の社会構造がある。典型的な問題として、年金などの社会保障終身雇用時代の家庭を前提に設計されている一方、終身雇用のレースから外れるととても不利な境遇に陥るようになっている。また、学生時代を終えてから一旦でも非正規雇用で仕事をすると、正規雇用で仕事をすることが難しくなる。

池上正樹は、300社以上応募しても再就職できなかった引きこもりの人の声を紹介している。「私が感じたのは、いったん、仕事を離れると人としての価値が下がったような扱いをされることです。理想的なのは、大学を卒業してから現在まで仕事が一貫していて、転職の回数も少なくて、途中のブランクがないこと。石油ガスパイプラインじゃないですけど、継ぎ目がちゃんとつながっていて、途中で漏れていないことなんです。 ところが、いまは、事情があって継ぎ目がうまくつながらない人が多い。そういう人たちが、社会から排除されているような気がするんです。」

引きこもりになりやすい人編集

引きこもった本人の内面は「これ以上、自分が傷つけられたくない」し、他人を「傷つけたくもない」、つまり「他人に迷惑をかけたくない」という心性がほぼ共通している。

日本の公的機関により、引きこもりには発達障害者も多数含まれることが報告されている。

精神疾患?編集

日本のある研究では、引きこもり(6カ月以上自宅に滞在)を理由として精神保健福祉センターにカウンセリングに訪れた16-35歳のうち、その80%は精神患が診断され、その33%は統合失調症もしくは気分障害、32%は一般的発達障害もしくは精神遅滞、34%はパーソナリティ障害もしくは適応障害であった。[要出典] ただし実際重度の強迫性障害や統合失調は就労不可能である場合がほとんどであり、諸外国もそういう疾患を非就労とは換算しない。[要出典]


ステージによる特徴と対応編集

渋谷昌三「自分の心理学」のp.93「厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」をもとに渋谷昌三が作成したものから。

準備段階編集

特徴
不安、緊張の高まりや抑うつ気分などが出てくる。
就学・就労を続けている為、周囲は気付きにくい。
対応
学校や仕事を休みがちになるなど、問題行動が見られたら、本人の訴えによく耳を傾ける。

開始段階編集

特徴
引きこもりが始まり、不安や焦りが目立ち始める。
幼児的な言動が見られたり、暴力的になったりする。
対応
当事者には休養が、家族や関係者には余裕が必要な時期。過度に指示しすぎないことが大切。

引きこもり段階編集

特徴
開始時期ほどの不安定さは見られない。夜間にコンビニへ買い物に行くなど、ごく浅い社会との接触が可能に。
対応
焦って社会復帰させようとせず、見守る。支援者や支援機関は家族の不安を支える。

社会との再会段階編集

特徴
試行錯誤しながら外界との接触が生じ、活動が始まる。
対応
当事者の変化に一喜一憂せず安定した関係を心がける。

援助の方針編集

社会的資源編集

  • ひきこもり地域支援センターは、厚労省の一次相談窓口事業であり、すべての都道府県・政令指定都市に設置が済んでいる。
  • ひきこもりサポーターは、市町村職員によるアウトリーチおよび支援事業であり、そのスタッフは厚労省の人材研修事業によって養成される。

心理面のケア編集

上述のように引きこもりの原因が精神面にある場合、適切な治療・ケアを行い本人をサポートすることが大切である。個々の治療法については、「社交不安障害#治療」「パニック障害#治療」「広場恐怖症#治療」「広汎性発達障害#治療」「うつ病#治療」「統合失調症#治療」「強迫性障害#治療」「不安障害#治療」「身体表現性障害#診断」「適応障害#治療」「身体醜形障害#治療」「パーソナリティ障害#治療」「自律神経失調症#治療」「オープンダイアローグ」などを参照。

加えて、本人の存在自体の価値がまるごと認められる居場所づくりに向けた支援が必要である[3]

また、支援者は、否定をせず根拠や内実を伴った積極的な肯定をすることなどを通じて本人の存在自体をまるごと認め、自己愛の醸成をサポートする。その後、「すること」への意欲が高まり、本人が何かを遂行できたとき、一つ一つの達成を心に響く形で肯定・称賛し、自尊心の形成を支援する。

さらに、本人と支援者との「語り合い」を通じて、本人が納得でき生きやすく元気の出る「語り」を形成できるようサポートすることも重要である。

しかし、引きこもり状態にある青少年は、挫折感、失敗感、劣等感、うしろめたさ、これ以上傷つきたくないという恐怖心、引きこもりが続くことへの不安などを抱え込んでいる。したがって、周囲の大人が一方的に叱咤激励したり背中を押したりすると、彼らの不安や劣等感はつのる一方となり、火に油を注ぎ傷に塩を塗ることにもなりかねない。そして、「生きていても価値がない」「死んだ方がマシ」という状態に追い詰められてしまうこともある。また、どうにもならない自分を抱えあぐねている状況で、その絶望から逃れる試みとして自殺を引き起こす危険性が高まる。

引きこもった青少年の援助で必要なのは、まず周囲の大人が彼らの生きにくさを適切に理解し、安心感を提供することである。また、山中(1978)らが指摘するように、引きこもりをすぐにやめさせるのではなく、彼らのペースで解決の道を歩めるよう、待つ姿勢やともに考えていく姿勢が大切なのである。

諸分析・諸見解編集

厚生労働省の調査結果では、56%の引きこもり経験者がこれまでに精神障害を経験していた。しかし精神障害の経験なしの者も44%あった。引きこもりと同時期の精神障害の発症は多くない。精神障害が合併しやすいが、「引きこもり=精神障害の一症状」ではなさそうである。

厚生労働省の調査研究班が、引きこもり支援にあたる専門機関の職員などに向けた「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」をとりまとめた。 全国5か所の精神保健福祉センターにおいて、引きこもりの相談に訪れた当事者184人(16歳〜35歳)を対象に精神科診断を行なったもの。 調査結果によると、何らかの精神障害を有していると診断されたのは149人。分類不可とされた1名を除き、

  1. 統合失調症などを有し、薬物療法を必要とする群(49人)
  2. 広汎性発達障害など、生活・就労支援が必要となる群(48人)
  3. パーソナリティ障害など、心理療法的支援が必要となる群(51人)という、3つに分類された[4]

生活習慣編集

生活時間が不規則になり、夜型になる傾向がある。引きこもりというと、まったく外に出られないかというと、そうではない例も挙げられている。程度は人によって異なり、全く自宅から出られない人もいれば、買い物などのために外出する人もいる。自分の趣味に関する用事のときだけ外出する場合が多いとされる(準引きこもり)。また、近所のコンビニエンスストアなどには出かける人も多いと指摘されている(狭義の引きこもり)。

内閣府若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」によると、ふだん自宅にいるときによくしていることを聞いたところ、引きこもり群と引きこもり親和群は、「本を読む」や「インターネット」、「あてはまるものがない」が多く、「家事・育児をする」が少なかった。また、引きこもり群は、「ラジオを聴く」や「新聞を読む」が多く、「テレビを見る」は比較的少なかった。

引きこもりの時期編集

引きこもりは、必ずしも学齢期にある者が起こすとは限らず、いったん社会人として自立した者が起こすこともある。また、学齢期に引きこもりを起こした者が、立ち直るきっかけを見出せないまま中年期に達することもある。

例えば、東京都が2008年、国がニートと定義する15〜34歳の男女に絞って無作為抽出した大規模な調査結果をみても、「自室からほとんど出ない」「自分の趣味に関する用事のときだけ外出する」などの引きこもり状態の人が、都内に少なくとも2万5千人以上いると推計。「引きこもり予備軍」を含めると、その合計は、都内で約20万人に上る。

内閣府が2010年、全国15歳以上39歳以下の者に絞って無作為抽出した3,287人(有効回収数)に対する調査結果をみても、引きこもり群:35〜39歳:23.7%、30〜34歳:22.0%と引きこもりが高年齢化している。

「引き出し」編集

引きこもりの解決を謳う業者の中には、本人を無理やり連れ出し施設に収容し、さらに施設においても人権を侵害されるようなケースがあり、「引き出し屋」または「引き出し業者」として問題視されている。2016年3月21日にテレビ番組「ビートたけしのTVタックル」において、「引き出し屋」の一つに挙げられる「ワンステップスクール」の代表者広岡政幸が引きこもり当事者の部屋のドアを破壊し、怒号を浴びせる場面が放映され、Twitter上などで「暴力的だ」などと非難を浴びた。 引き出し屋の施設に入れられた引きこもりが、精神的なストレスによるPTSDや引きこもりの悪化、自殺企図に至るケースもある[5]

「ひきこもり新聞」を発行者の木村ナオヒロによると、引き出し屋は親に「お子さんを救えるのは私たちしかいない」などと吹き込み、強引に契約を結んでいる。また「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」所属のソーシャルワーカー・深谷守貞は、引き出し屋が親に対し半年で500万円など法外な料金を請求する事実を挙げ、引き出し屋を「引きこもりが人間関係の貧困であることに目をつけた貧困ビジネス」だと指摘している。 深谷によると、親が引き出し屋を頼った結果、親子関係が破綻・断絶したケースもある。

こうした問題は国会などでも取り上げられ。2020年8月25日、厚生労働省は消費者庁と合同で引き出し被害者から初めてヒアリングを実施した。また上述の引き出し屋「ワンステップ」を運営する一般社団法人若者教育支援センター)に対し2020年10月に集団訴訟が提起される。

引きこもりに対する誤解や偏見編集

引きこもりについて、主に「甘えている」という誤解や偏見がある。 他にも「怠けている」「親の育て方が悪い」「病気」や「自己責任」などがある。

引きこもりは犯罪予備軍という誤解編集

神戸学院大学総合リハビリテーション学会の会誌“「神戸学院総合リハビリテーション研究」第11巻 第2号 2016年3月”に掲載された論文にて、2000年に発覚した新潟少女監禁事件や、同年に発生した西鉄バスジャック事件など、思春期・青年期の子ども・若者が加害者となる事件が起きて世間の注目を集めた事や、加害者に引きこもりの生活状態や経験があったことが報道されることによって、引きこもりは犯罪予備軍ではないかという誤解が生まれた事などが説明されている。

ギャラリー編集

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

出典編集

  1. ^ コトバンク ミザントロープ
  2. ^ 河合俊雄・内田由紀子(編)『「ひきこもり」考』 <こころの未来選書> 創元社 2013年 ISBN 978-4-422-11225-1 pp.85-89.
  3. ^ 本間 友巳 (2006). 居場所とは何か 浅井 利明・本間 友巳(編)不登校・引きこもりと居場所 (pp. 5-10) ミネルヴァ書房
  4. ^ 長期化するひきこもりへの支援〜精神保健からのアプローチ〜 (PDF) 長野県精神保健福祉センター 大沼泰枝 小泉典章
  5. ^ 「週刊女性PRIME」編集部. “まるで"強制収容所"引きこもり支援の壮絶実態”. 東洋経済 ONLINE. 東京経済新報社. 2020年11月3日閲覧。

参考文献編集

  • 10代・20代を中心とした「ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン (Report). 国立精神・神経センター. (2003). https://www.mhlw.go.jp/topics/2003/07/tp0728-1.html. 
  • Fit Mind, Fit Job - From Evidence to Practice in Mental Health and Work (Report). OECD. (2015-03). doi:10.1787/9789264228283-en. 
  • 池上正樹 『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』 講談社講談社現代新書〉、2014年。ISBN 978-4062882866 

関連項目編集

引きこもりが加害者となる事件編集

外部リンク編集