ドイツ料理
ドイツ料理(ドイツりょうり、ドイツ語: Deutsche Küche)は、ドイツで食べられている料理。ドイツ語圏のオーストリア料理やスイス料理、アルザス料理、ルクセンブルク料理なども含むことがある。

ドイツ料理の特徴・歴史編集
「ドイツの料理」は、フランスやイタリアなど南の暖かく食材に恵まれた国々の料理とは異なり、風土的に食材が不足しがちであるため、これを解消するための工夫が凝らされているのが特徴である。
冬季には作物があまり取れないため、マリネやザワークラウト、ピクルス、ヴルスト(ソーセージ)などの保存食品が発達してきた。ドイツは中小の諸邦がまとまって成立した連邦国家で、しかも東西南北に広がり、南部のバイエルンの山岳地方から、温暖なライン地方、北の湖沼地方まで風土も農産物もバラエティに富んでいるため、一口にドイツ料理といっても数多くのバリエーションがあり、地方によってそれぞれ名前も異なる。地続きの近隣諸国とも相互に影響し合っており、例えばフランスからはユグノーや、フランス革命後には旧貴族やそれに関係した人々が多くドイツに移ってきており、彼らの食文化をもたらしている。
新大陸発見後、南米からもたらされたジャガイモは、長い不作の時期、ドイツの民衆の飢えを満たす上で多大な貢献があった。当時の食糧不足からくる口減らしの悲劇は、グリム童話の子捨てや姥捨て話の中にその痕跡を残している。特に第一次大戦においては、イギリス軍の海上封鎖があり、食糧供給は極端に不足し、多くの餓死者を出した。ドイツ最大の危機は1916年で、ルタバガで飢えをしのいだといわれる(カブラの冬)。アデナウアーは代用品の開発に力をそそいだ。第二次世界大戦においては、ナチス政府は種々の工夫をしたが、その一つはアイントプフ(質素な鍋料理)を推奨したことである。「アイントプフの日曜日」(Eintopfsonntag)キャンペーンでは節約した金を寄付することを奨励した[1]。
ドイツの料理では、ジャガイモを使った料理が必須のメニューに数えられる。女の子は「ジャガイモでフルコースの料理が出来るようになれないとお嫁にいけない」という言葉があるくらい、ジャガイモは大きな役割をもっている。もっとも現代のドイツ人が毎日ジャガイモばかり食べているということはなく、ジャガイモが日常の主食になることもない。
一般的な傾向として、保存食としてのニンジンなど各種野菜の酢漬け(ピクルス)、保存された肉や魚の加工や調理が軸になる。魚料理は白身魚のフライとサバやウナギの燻製が有名で、北海沿岸部のブレーメンなどには魚料理を出す店も多い。内陸部ではコイ・マスといった淡水魚が養殖され、旬に応じて食べられている。
ドイツでは朝食と夕食を簡単なもので済ませ、そのぶん昼食は時間をかけたっぷりと食べることが多い。学校や職場に行く時間が早いので、午前10時前後にコーヒーブレイク、俗に「第2の朝食」を摂る習慣がある。夕食を簡素に済ませる場合、特にアーベントブロート(Abendbrot)すなわち「夕べのパン食」と呼ぶ。
シチューや肉料理のような「温かい食事」(warmes Essen、ヴァルメス エッセン) を摂るのは一日に一回以下が普通で、数日に一回という場合もあり、他は「冷たい食事」(kaltes Essen、カルテス エッセン) となる。後者は加熱調理をほとんど使わずに用意できる食事のことで、パン・シリアル、マーマレード・スプレッド類、ハム・ソーセージ・サラミなど塩蔵品、バター・チーズやカード (食品)など乳製品、簡単な卵料理、コールスローやサラダから成り立つ。
一般的には「南ドイツ地方のほうが北ドイツ地方よりも食文化が栄えている」とされる。南ドイツは温暖で土地も肥沃で、小麦やワイン用ぶどうの生産が可能である。ただし、海水魚を使った郷土料理など、北部でしか食べられない料理も存在する。
主食編集
肉編集
ドイツでは豚肉・牛肉・鶏肉が主に消費される肉類であり、豚肉が最も人気がある。2011年においては、ドイツ国民1人当たり平均で61 kg (130 lb)の肉を消費した[2] 。
家禽では鶏肉が最も一般的だが、アヒル・ガチョウ・七面鳥も食されている。狩猟の肉、とりわけイノシシ・ウサギ・鹿・キジは秋から冬にかけてが旬とされる。ラムとヤギ、ウマも食されるが、食材としては稀な部類に含まれる。
肉は通常ポットローストやフライパン炒めで調理されるが、これらのレシピは大抵フランス料理由来である。硬い肉を柔らかくするために用いられる調理法、ザウアーブラーテン、マリネ肉、酢やワイン酢と混合し数日浸けこむといった方法はドイツ国オリジナルである。
ソーセージ(ドイツ語: Wurst)作りはドイツの長い伝統であり、数百の地域バリエーション、1500以上の種類が存在する[3]。
現在も多くのヴルストが、ドイツの精肉店(ドイツ語: MetzgerまたはFleischer)で天然の豚・鹿・牛・鳥・羊・ラムの腸詰として作られている。
最も有名で最も人気があるのは、一般的に粗挽き肉とスパイスで作られたブラートヴルスト(Bratwurst)、豚肉または牛豚を燻製にし冷水で調理されたヴィーナー(Wiener)、血液(豚やガチョウが多い)で作られたブルートヴルスト(Blutwurst)やシュヴァルツヴルスト(Schwarzwurst)などがある。コールドカットには数千種類がある。
地域特産品(例えばミュンヘンの白ソーセージはバイエルンで一般的)も存在し、国の多くの地域で見られる。
魚編集
ドイツにおける魚の年間消費量は、1人当たり平均14Kgである。その3分の2弱が海水魚で、4分の1が淡水魚、残る10%強をその他の魚介類が占める。なかでもアラスカサーモン、サーモン、ニシン、マグロが最も一般的に食されている。国内産のものとしては、養殖によるトラウトとパイクパーチ、コイが最も多く提供されている。ウナギ、ペルカ(パーチ科)、パイクなど他の種類の魚類については、商業的な養殖よりは、むしろスポーツフィッシングの対象や郷土料理の範疇である。
魚は、加工製品や燻製として食べられることが多い。鮮魚または冷凍魚の状態で調理されるのは、上記消費量のうち5.2Kgに過ぎない。その調理方法は、身に小麦粉をまぶして鉄板焼きにしたミュラリン・アルト(Müllerinart、粉屋のおかみ風)いわゆるムニエルのこと、そして酢入りのスープで煮たブラウコッヘン(フランス料理法のオー・ブルーと同様)が一般的である。ニシンの塩漬けや発酵させたマチェスは主に料理の付け合わせとして、頻繁に登場する。代用サーモン(シロイトダラやスケトウダラの肉を着色したもの)、ジャーマンキャビア(各種の魚卵を着色したもの)、「マスキャビア」(マスの卵を着色したもの)といったコピー食品も、魚類の消費量の一角を占めている。
特別な魚料理としては、クリスマスのコイ料理(フライまたはブラウコッヘン)、初夏のカレイ料理、野菜の出し汁で煮たウナギに白いバターソースを添えたアール・グリュン(直訳は「緑のウナギ」)などがある。
野菜編集
ドイツでは気候風土の関係で、新鮮な野菜が食卓に届くのは3月から10月頃までで、冬の間はザワークラフトやピクルスなど、酢漬けの保存野菜が中心になる。その中でも、保存の効く玉ねぎやジャガイモは、いろいろなレシピで使われている。後者の起源はフリードリヒ2世によるジャガイモ栽培キャンペーンから来る。料理としては、アイントプフ、酢漬けキャベツとウインナーの煮込み、アウフラウフなどがよく知られる。また、他の国ではあまり見かけない珍しい野菜を用いたメニューもあり、アーティチョーク、白アスパラガス、チコリー、コールラビなどが代表的な存在である。
ドイツ料理の一覧編集
スープ編集
- ツヴィーベル・ズッペ - オニオンスープ
- アイントプフ 「農夫のスープ」
- マウルタッシェ
- レバークネーデル・ズッペ
- アール・ズッペ - うなぎのつみれ汁
- グーラッシュ
- カトッフェル・ズッペ - ポテトスープ
肉類編集
肉料理編集
- シュニッツェル
- コトレット
- アイスバイン
- フリカデッレ - 形状は丸形とは限らず、様々なバリエーションがある。
- ハンバーグ - ドイツ語ではもっぱらハックステーク(挽肉のステーキ)やドイチェ・ビーフステーク(ドイツ風ビフテキ)と呼ばれる。挽肉のパテを上記のフリカデッレよりも薄く広く、ステーキ肉のような形に整えてから焼くもの。ドイツ食品典ではハンバーグの材料について、飲食店で提供ないし市販の場合、肉を80パーセント以上用いることと規定されている。
- クネーデル - 主に丸い形に成形された肉団子。下記のように、肉を用いないクネーデルも多種存在する。
- シュバイネハクセ
- ザウアーブラーテン
- カッセラー
- ルーラーデン - 薄切りの肉で具を巻き、焼いたもの
- ゲシュネッツェルテス - 細切りにした肉をソテーしたもの。ゲシュニッツェルテスと表記する場合もあるが、上記のシュニッツェルとは異なる料理。
- ケッセルフライシュ - バラ肉やさまざま部位の肉(豚の顔皮や尻肉、舌、臓物など)を水煮にしたもの
- シュラハトプラッテ - 豚バラ肉とザワークラウトをケッセルフライシュのように煮込み、ブラッドソーセージなどと盛り付ける
- ザウレニーレン - 細切りにした豚の腎臓をフライパンで焼き、酢やレモン果汁で調味したソースで煮たもの
- ザウマーゲン - 豚の胃袋に具材(角切りの豚肉、炒めたタマネギ、潰したジャガイモなど)を詰めて湯煎したもの。プファルツ地方の名物で、同地方出身のヘルムート・コール連邦首相がドイツを訪れた他国の首脳たちに振舞ったことでも知られる。
- タルタルステーキ
- メット - 新鮮な豚挽肉を調味し、生のまま喫食する。ハッケペーターとも呼ばれる
魚料理編集
- ロイヒャーアール - うなぎの燻製
- フィンケンヴェルダーショレ - カレイのソテー
- マチェス - ニシンの塩漬け
- ロルモプス - 酢漬けにしたニシンの身でキュウリやタマネギ等のピクルスを巻いたもの。ベルリン発祥とされている
- フレンキッシェカルプフェン - コイのフランケン地方風から揚げ。希望に応じて、内臓(イングライシュ)やひれ(フロッセン)が添えられる場合もある
- フォレレ・ブラウ - マスのスープ煮
- カルプフェン・ブラウ - コイのスープ煮
- メーフィシュリ - マイン川で獲れた小魚のフライ
野菜料理編集
- ザワークラウト
- アウフラウフ
- 農夫の朝食
- ポテトパンケーキ
- コールロラーデ - ロールキャベツの一種
- ケーゼ・ミット・ムジーク - 薄切りまたはみじん切りのタマネギをマリネにして、チーズと和えたもの。チーズの代わりにソーセージを用いると、ヴルスト・ミット・ムジークとなる。
パン編集
- ブレートヒェン(ゼンメル/Semmel、ヴェック/Weck )- ハードな生地が特徴の小型パン。生地の配合やトッピング、形状、また地方によって数多くのバリエーションがある。代表的なものにカイザーロールがある。そのままかじる、あるいは手で割るのではなく、横からナイフを入れて上下に二分割してから食べるのが一般的。
- ブレーツェル - 生地を紐状にし、結び目のようにねじり、ラウゲン液(カセイソーダ液)に浸けてから焼く。このパンがもととなった同形状の焼き菓子がある。
- ブロート
- ミッシュブロート - 小麦粉とライ麦粉を混合して焼いたパン。
- ダンプフヌーデルン - 蒸し団子。多くの場合、スイーツとして提供される。
- ツヴィーベルクーヘン - タマネギのクーヘン
ヌードルほか編集
- シュペッツレ
- クネーデル - ダンプリングの一種。材料として小麦粉、固くなったパン、ジャガイモ、挽肉など様々なバリエーションがある。
- シュトラマー・マックス - スライスしたライ麦パンに目玉焼きやハムなどを乗せた軽食
- トースト・ハワイ - スライスした小麦パンにパイナップル・ハム・チーズなどを乗せ、オーブンで焼いたオープンサンドイッチ
- アウフシュニット - ハム・ソーセージ・チーズなどをごく薄く切り分けたもので、英語圏のコールドカットに相当。「冷たい食事」で皿に盛り付けたり、サンドイッチの具として供される。
卵料理編集
- ゾールアイ - 調味塩水に浸けた固ゆで卵
お菓子編集
- クーヘン
- トルテ
- ローテグリュッツェ
- マルチパン
- レープクーヘン
- クラップフェン
- ベルリーナー・プファンクーヘン
- カイザーシュマーレン
- 焼き栗
- シュネーバル – 小麦粉・卵・砂糖・バター・ラム酒を混ぜた生地を切り分け薄く延ばしパイカッターで切れ目を入れ丸め、穴開きの球体状の型に詰め込み、ピーナッツオイルで揚げ粉砂糖を振りかけ完成となる、ローテンブルクで中世に誕生した菓子である。
- フランクフルタークランツ
- シュトレン
- フリュヒテブロート - 直訳すると果物パンすなわちフルーツケーキの一種。ドライフルーツ・ナッツ類・スパイスがふんだんに使われる。ドイツ南部を中心に、アドベントの時期の風物詩である。
- アイアシェッケ
飲み物編集
日本のドイツ料理研究家編集
脚注編集
- ^ 南[2003:180-197]
- ^ “German meat consumpton remains stable”. thebeefsite.com (2012年9月28日). 2015年7月1日閲覧。
- ^ Guide to German Sausages & Meat Products
文献編集
- 南直人 『世界の食文化 18 ドイツ』 2003年 農山漁村文化協会 ISBN 978-4-540-03220-2
- 藤原辰史 『ナチスのキッチン 「食べること」の環境史』 2012年 水声社 ISBN 978-4-89176-900-0 欧文の参考書の記載多し。
関連項目編集
外部リンク編集
- 食文化における日独比較:Vergleichende Studien uber die EBkultur in Deutschland und Japan hdl:10441/1482
- 第二次世界大戦後のドイツ製パン手工業 (PDF)