怪獣
怪獣(かいじゅう、英語:Kaiju, monstrous beast)とは、正体不明の生物、怪物のことを指す言葉。ネッシーのような未確認動物 (UMA) を指す場合もある。類似ジャンルに「怪人」がある。
歴史編集
「怪獣」の語は中国で編纂された『山海経』で初めて現れる。同書は中国古代の戦国時代から秦代・漢代(紀元前4世紀~3世紀頃)にかけて段階的にまとめられた。同書には、伝説的な妖怪・神の類いが数多くまとめられており、「怪獣」も妖怪の類いを指す単語であった。また、前漢代の文章家・司馬相如の詩にも「怪獣」の語がある(『史記』司馬相如列伝)。
日本の場合は、阿部正信(※文化年間に駿府加番を務めている)が1843年(天保14年)に編纂した駿河国風土記『駿國雑志』の巻第24下に所収の「怪異」の章の中に「狒々」の項目が有り「此怪獣は常に木皮と篠を好て喰へり」という説明文に怪獣という単語が使われている[1]。また巻第25に「怪獣」という項目があり、有度郡小鹿村(現在の静岡市駿河区小鹿)の山中で村人に捕えられた「翼を持った猿のような動物」についての記載がある[2][3]。
1954年(昭和29年)には『ゴジラ』が公開された。『ゴジラ』のヒットは日本においては怪獣映画というジャンル自体に成長し、その中でさまざまな怪獣が創造された。今日の日本ではこれら怪獣映画などのフィクション作品に登場する巨大な生物を指す場合が多い。
年表編集
- 中国古代 - 熟語「怪獣」の初出 / 『山海経』に記載あり[4]。長期に亘る同書の編纂時期のうち、いつ頃に記載されたものかは不明で、早ければ戦国時代、遅ければ3世紀頃(漢代)と考えられる。当時の「怪獣」は妖怪の類いを指した。
- 前漢代 - 司馬相如の詩に「怪獣」の語がある(『史記』司馬相如列伝[5])。
- 1794年(寛政6年) - 日本における熟語「怪獣」の初出[6] / 太田玩鴎の『玩鴎先生詠物雑体百首』中の「高野山行送沙門良深帰木師」冒頭[7]。
- 1843年(天保14年) - 阿部正信が「怪獣」について言及。
- 1933年(昭和8年)3月2日 - アメリカ製特撮怪物映画『キング・コング』の封切り(■右列画像参照)。日本では同年9月14日に公開。
- 1953年(昭和28年)6月13日 - アメリカ製怪獣映画 "The Beast from 20,000 Fathoms " がアメリカで公開される。
- 1954年(昭和29年)11月3日 - 日本初の怪獣映画の封切り / 日本製怪獣映画『ゴジラ』が封切られる(■右列画像参照)。ゴジラは、日本初の怪獣で、日本初の爬虫類系怪獣。現代日本語でいうところの「怪獣」の、これが最初の確定的使用例である可能性が高い。
- 1955年(昭和30年)4月24日 - 日本初の対戦型の怪獣映画の封切り / 日本製怪獣映画『ゴジラの逆襲』の封切り。明確に「怪獣」と定義し得る者同士(ゴジラとアンギラス)の対戦がある作品としては世界初。
- 1956年(昭和31年)12月26日 - 日本製怪獣映画『空の大怪獣ラドン』の封切り / ラドンが日本初の飛翔性怪獣として登場。メガヌロンが日本初の節足動物系怪獣として登場。
- 1957年6月 - アメリカ製SF映画『地球へ2千万マイル』の封切り / 登場する怪獣は、怪物「イーマ」(■右列画像参照)。イーマは世界初・米国初の宇宙怪獣とも言える。
- 1959年3月3日 - イギリス製怪獣映画『海獣ビヒモス』の封切り。
- 1961年(昭和36年)7月30日 - 日本製怪獣映画『モスラ』の封切り / これをもって「東宝三大怪獣」と呼ばれるゴジラ・ラドン・モスラが出揃う。
- 1962年(昭和37年)8月11日 - 日本製怪獣映画『キングコング対ゴジラ』の封切り / 日米を代表する怪獣キャラクラーの初共演作品。
- 1963年(昭和38年)秋 - 日本製怪獣映画『大群獣ネズラ』の撮影が始まるものの、その後、製作は頓挫する。
- 1964年(昭和39年)
- 1965年(昭和40年)
- 1966年(昭和41年)
- 1月以降(月日不特定) - 日本にて第一次怪獣ブームの到来 / 後述する『ウルトラQ』『マグマ大使』『ウルトラマン』などといった様々な怪獣が登場する特撮テレビ番組の相次ぐ放映開始により、怪獣という存在が日本の子供達にとって身近なものになる[* 1]。
- 1月2日 - 日本にて特撮テレビ番組「ウルトラシリーズ(空想特撮シリーズ)」1作目『ウルトラQ』の放映開始 / 登場する怪獣は「ゴメス」など。
- 3月26日 - 4月3日 - 東京にて日本初の本格的な怪獣アトラクション興行あり / 百貨店松屋屋上にて円谷特技プロダクション主催の展示イベント「春休み子供大会 大怪獣ウルトラQの大行進」が開催される。
- 4月10日 - 『ウルトラQ』第15話に、コミカル怪獣の草分け的存在である「カネゴン」が登場[* 2]。
- 4月17日 - 東京にて日本初の大掛かりな活動的怪獣アトラクション興行あり / 遊園地多摩テックにて円谷特技プロダクション主催の活動的イベント「ウルトラQ大会」が開催される。
- 7月4日 - 日本で特撮テレビ番組『マグマ大使』の放映開始 / 登場する怪獣は「アロン」[* 3]など。
- 7月17日 - 日本でウルトラシリーズ2作目『ウルトラマン』の放映開始[* 4]。 / 登場する怪獣は「ベムラー」など。『ウルトラマン』『マグマ大使』という、巨大な正義の味方(ウルトラマンは正義の宇宙人で変身ヒーロー、マグマ大使は正義のロケット人間)が巨大怪獣と格闘するという対戦型怪獣エンターテインメントが誕生し、これ以降、ジャンル化する。
- 11月9日 - 日本で特撮テレビ番組『快獣ブースカ』の放映開始 / コミカルな怪獣を主人公とした番組の登場。
- 12月21日 - 日本製怪獣映画『怪竜大決戦』の封切り / 怪獣が登場する初の時代劇作品[* 5]。
- 1967年(昭和42年)
- 1968年(昭和43年)
- 1970年(昭和45年)9月28日 - 日本で特撮テレビ番組『ウルトラファイト』の放映開始 / 怪獣の着ぐるみを使ったバラエティ色の強い番組として登場。
- 1971年(昭和46年)
- 1978年 - アメリカ製テレビアニメ "Godzilla" の放映開始 / ゴジラ初のアニメ作品。
- 1979年5月25日 - アメリカ製SF映画『エイリアン』の封切り / 登場する怪獣は、怪物「エイリアン」。
- 1985年 - 北朝鮮製怪獣映画『プルガサリ 伝説の大怪獣』の完成 / 登場する怪獣は「プルガサリ」。
- 1998年5月19日 - アメリカ製怪獣映画『GODZILLA』の封切り / 日本を代表する怪獣であるゴジラを使って米国が映画を製作。
- 2004年(平成16年)11月29日 - ゴジラが映画スターとしてハリウッドから高い評価を得て殿堂入りを果たし、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームの星形プレートにその名を刻む / これは(2019年現在のところ)、人間以外のスターとしてはミッキーマウスや名犬ラッシーなど世界に11名いる中の1名、米英以外で生まれたキャラクターとしては唯一(したがって、日本生まれのキャラクターとしても唯一)、怪物キャラクター(怪獣キャラクターを含む)としても唯一。
フィクションにおける怪獣の属性編集
怪獣には「○○怪獣」というように、出生や能力などから代名詞が付けられる場合がある。
- 地底怪獣
- 地中から現れる怪獣。新発見された洞窟から現れるものも、これに含まれる。地中を掘り進む能力に優れ、胴体も四肢も太いものが多い。代表的なものは『フランケンシュタイン対地底怪獣』のバラゴン、『ウルトラマン』のテレスドン、マグラーなど。
- 海底怪獣
- 海中から現れるもの。海中を生活圏とするものは「深海怪獣」とも言う。『ガメラ対深海怪獣ジグラ』のジグラや『ウルトラマン』のグビラなど。蟹やタコ、魚などの水生生物の形態に近いものが多く、東宝のゴジラや『ファイヤーマン』の怪獣のように恐竜型のものは海底怪獣としての属性に言及されることは少ない。
- 古代怪獣
- 先史時代の地球に生息していた怪獣や、恐竜などの古生物の生き残りが怪獣化したもの。「原始怪獣」とも言う。現在まで地底や氷の中で眠っていたものが人為的な要因などで蘇生し暴れまわるものが多く、『ウルトラマン』のゴモラや『ウルトラQ』のゴメスなどが代表的。出自上、ゴジラやラドン、アンギラスなども含まれる。
- 宇宙怪獣
- 地球外から来襲するもの。『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』のバイラスや『ウルトラマン』のベムラーなど。また『ウルトラセブン』の登場怪獣のように、高度な知性を持つ宇宙人に侵略兵器として使役されるものも多い。なお、東宝のキングギドラは桁外れに強大であるため、しばしば「宇宙超怪獣」などと呼ばれる。ゼットンやガイガンなど一部の宇宙怪獣は「宇宙恐竜」という種族に分類される。
- 冷凍怪獣
- 冷凍する能力を表したもの。『ウルトラQ』のペギラや『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』のバルゴン、テレビドラマ版『ジャイアントロボ』のアイスラーなど。ただし、必ずしも寒冷地に生息しているとは限らず、バルゴンなどはニューギニアのジャングルが生息地と設定されている。
- 昆虫怪獣
- 昆虫のような怪獣の総称。モスラやメガロ、『ウルトラマン』のアントラーのように元々その姿であるもののほか、カマキラスや『帰ってきたウルトラマン』のノコギリンのように放射能・兵器などのエネルギーや工業廃水の影響で突然変異したものも含まれる。
- 植物怪獣
- 植物形態の怪獣の総称。『ウルトラマン』のスフランや『ウルトラQ』のジュランなどが挙げられる。なお、後述の「人工怪獣」に挙げられる実験や研究の中で人間によって生み出された怪獣(後述のビオランテのほか、『トリフィド時代』のトリフィドや『ウルトラマン』のグリーンモンスなど)は含まない。
- ロボット怪獣
- メカゴジラや『ウルトラセブン』のキングジョーなどに代表される巨大ロボットの総称。生物(人型を含む)を模した形態であることが多い。
- 人工怪獣
- ロボット怪獣と異なり、動物実験やキメラ研究の中で人間によって生み出された怪獣の総称。『ウルトラマン』のジラースやガヴァドン、『ゴジラvsビオランテ』のビオランテなどが挙げられる。
怪獣退治編集
怪獣退治には昔ながらの展開があり、特に大まかなものは以下のとおり。
出現した怪獣を撃退するため、自衛隊や防衛組織に防衛出動要請が発せられ現場へ到着。怪獣へ攻撃を開始するが、戦車や戦闘機等を用いた射撃・爆撃の効果がなく、逆に撃墜・撃破される(ただし近年は、破壊される演出は減少している)。そこで対策本部が立てられ、本格的な対策を練り直す。その対策により一度は怪獣にダメージを与えるが、今一歩及ばず敗退する。その後画期的な発明や何らかの機転により怪獣を追い込んで、制圧および封印することに成功。
代表的な怪獣編集
脚注編集
注釈編集
- ^ 上記のように当時既に洋邦多数の映画題名に「怪獣」が用いられている中、『ウルトラQ』放映開始時の子供雑誌『まんが王』の特集ですべて「怪物」という語が使われており、唐沢なをきはツイッターおよびブログで「記者さんのボキャブラリーになかったのか、怪獣」と述べて、記者が単にこの分野に無関心だった可能性を指摘している。
- ^ カネゴンは、明らかに動物とは異質な怪物(あるいは怪人とも言える)として、また、怪奇色と社会風刺の色濃い物語の主人公怪獣として登場するが、コメディー性と可愛さも当初から多分に具えており、子供達の支持を受けて、怪獣キャラクターとして一定の地位を獲得することになった。
- ^ アロンは、第1話で恐竜(「大恐竜」「古代恐竜」)として登場したが、再登場時(第13話-第16話)には「怪獣アロン」という扱いに変わっていた。本作品で最初から「怪獣」と呼ばれているのは、第2話から登場したモグネスである。cf. マグマ大使 (テレビドラマ)#登場怪獣・宇宙人。
- ^ 初放映は1週間前の7月10日の予定であったが、撮影時期がずれ込んだため、10日には特別番組『ウルトラマン前夜祭』を放映した[8]。
- ^ 同年4月17日に『怪竜大決戦』よりも先に時代劇作品の『大魔神』が公開されているが、大魔神は「神像」であって「怪獣」ではない。
- ^ 第1部で登場する怪獣は「大蝦蟇」だけだが、第3部(第27話 - 39話)以降は毎回怪獣が登場するようになった。なお、第3部以降に登場する怪獣の作品中の呼称は「怪忍獣」であったが、各話のタイトルには「蟻怪獣ガバリ」「怪獣大逆襲」「鎧怪獣グロン」など「怪獣」の呼称が用いられるものと、「怪忍獣ジャコー」「怪忍獣勢揃い」など「怪忍獣」の呼称が用いられるものとが混在していた。
出典編集
- ^ “駿国雑志24巻下”. 2020年11月17日閲覧。
- ^ 阿部正信 編 『駿國雜志 自卷之廿四上至卷之三十』吉見書店、1910年8月31日、102頁。NDLJP:765117。
- ^ 阿部正信 編 『駿國雜志 附圖第二卷』吉見書店、1912年1月25日、133頁。NDLJP:765121。(想像図)
- ^ “山海經 - 中國哲學書電子化計劃”. 2020年11月17日閲覧。
- ^ “史記 - 怪獸 - 中國哲學書電子化計劃”. 2020年11月17日閲覧。
- ^ 「かい‐じゅう[クヮイジウ] 【怪獣】」 『日本国語大辞典』(JapanKnowledge版)小学館。
- ^ 『玩鴎先生詠物雑体百首』1794年、21ウ頁 。
- ^ 『ウルトラマンシリーズ大解剖 ウルトラQ ウルトラマン ウルトラセブン編』三栄〈ウルトラマンシリーズ大解剖〉、2022年7月1日、9頁。
- ^ “一番好きなウルトラ怪獣は? 3位バルタン星人、2位ゼットン、1位は…”. アニメ! アニメ!. 2019年5月10日閲覧。
関連項目編集
- 『全怪獣怪人』 - 1990年に発売された、特撮番組の怪獣や怪人を紹介した書籍。
外部リンク編集
- 怪獣 - Yahoo!百科事典(執筆者:梶 龍雄)[日本大百科全書(小学館)](2013年7月2日時点のアーカイブ)