碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件

1998年6月に日本の愛知県で発生した強盗殺人事件

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碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件(へきなんし ぱちんこてんちょう ふうふさつがいじけん)は、1998年(平成10年)6月29日愛知県碧南市で発生した強盗殺人事件である。主犯の男(本籍岐阜県土岐市[1][2]住所不定無職[3]。以下、Aと表記する)は後に2012年(平成24年)8月、闇サイト殺人事件無期懲役の刑が確定した直後(1か月後)にこの事件の主犯として逮捕され、社会に衝撃を与えた。碧南夫婦強殺事件(へきなんふうふごうさつじけん)[4]碧南事件(へきなんじけん)[5][6]と略すこともある。

なお、Aと共犯の一人の男B(本籍群馬県、無職)は2006年(平成18年)7月20日名古屋市守山区で高齢女性の首を絞めて重傷を負わせ、現金約2万5000円と金庫などを奪った強盗殺人未遂事件(名古屋市守山区高齢女性強盗殺人未遂事件、なごやしもりやまく こうれいじょせい ごうとうさつじんみすいじけん)にも関与した[7]として、2013年1月16日に強盗殺人未遂容疑で再逮捕されている[8]。この項目ではこの事件についても触れる。

事件概要

※なお、以下の内容はAの第一審の判決要旨に基づく(『中日新聞2015年12月16日朝刊「碧南強殺 名古屋地裁判決(要旨)」より)。

事件発生から発覚まで

Aの弁護人が第一審法廷で読み上げた報告書によれば、Aは5人きょうだいの末っ子で、両親は幼少期に離婚[9]。兄らが営む建築業を中学時代から手伝い始め、高校中退後に独立した[9]。18歳で結婚して2児をもうけたが数年後に離婚、第一審の被告人質問では「離婚が人生で一番の後悔。夫や父としての責任から解放され、自分勝手な生活になり、一連の事件を起こしてしまった」と語った[9]

自動車ローン消費者金融からの借金を返済するため、パチンコ店から多額の現金を盗もうと考えたAは、BとCを犯行に引き入れ、男性(当時45歳)が店長を務めるパチンコ店に目を付け、自宅で男性を待ち伏せて店の鍵を奪い、現金を奪う計画を立てた[7]

仕事仲間であったAとB、建築作業員の男C(鹿児島県枕崎市)の3人は1998年6月28日午後4時半頃[7]、愛知県碧南市油渕町在住の同県尾張旭市のパチンコ店店長(パチンコ店運営会社営業部長)の男性宅を強盗目的で[7]訪れ、翌29日の午前1時頃までに[7]男性とその妻(当時36歳)を用意したビニールひもで首を絞めるなどして殺害し(これについてAを除く一人は「覚えていない」と供述している)[10]、現金約6万円や男性の束1本、小型金庫1個、ブレスレット1本などを[7]奪って逃走した[10][11]。捜査関係者によると、3人はまず妻の首をビニールひもで絞めて殺害し、その後、仕事を終えて帰宅した男性を絞殺したとされる[12]

なお、第一審判決要旨によれば、3人はCの車で夫婦宅に向かい、夫婦宅付近に車を止めた[7]。28日午後4時30分頃、無施錠の玄関から侵入[7]。軍手などをはめていたが、顔を隠すことはしていなかった[7]。Aはその後、車を移動させるなどと言って夫婦宅を出た[7]。玄関から侵入後二人の息子と在宅していた妻の口を手でふさぎ、静かにするように脅し、反抗を抑圧した[7]。同日午後8時過ぎ頃から午後11時23分頃、BとCが妻の首にビニールひもを巻き付けて強く絞めるなどして窒息死させた上、現金を奪った(これはAが前述のように家を出ている間に起きたできごとである)[7]。Aは家に戻り、妻の死亡を知った[7]。Aは間もなくB、C両名に対し、居宅内を物色するように言い、手分けして金目の物を探した[7]。Bが妻の財布を見つけ、中にあった6万円を3人で等分した[7]。翌29日午後1時頃、帰宅した男性に、Aが単独で、またはBもしくはCとともに、首にビニールひもを巻き付けて窒息死させ、鍵束、金庫、ブレスレットを奪った[7]

捜査本部によると、3人はいずれも事件当時、名古屋市内に住んでおり(中日新聞の報道によれば、後述する守山区の事件当時Aは守山区、Bは名東区にそれぞれ居住[11])、同じ建築関係の職場に勤めていた[13]。夫婦から奪った現金は山分けしたという[13]

夫婦の遺体は同県高浜市内で7月4日に放置されていた自動車のトランク内から発見された[14]

捜査の難航

当時小学生(8歳)[7]だった長男の目撃情報から男3人組の行方を追ったが、捜査は難航した。

逃亡中の出来事

碧南事件が発生してから主犯のAが闇サイト殺人事件で逮捕されるまでの9年間に、Aは共犯者のB及び別の男2名と共謀し、計2件の強盗殺人(及び未遂)事件を起こし、女性2名を死傷させた。

名古屋市守山区高齢女性強盗殺人未遂事件

2006年7月20日午後0時20分頃、AとBは共謀し、名古屋市守山区脇田町の無職女性(当時69歳)宅に押し入り、女性の顔に粘着テープを巻き付け[7][11]、首をひものようなもので強く絞め付けるなどして、現金2万5000円[7]金庫[8]貴金属[15]など12点[7]を奪った。女性は気を失い、首や肩に[11]約2か月の重傷を負った[8]が、1時間半後に近所の家に駆け込み110番した[11]。Aらは、女性宅を実際にリフォームした建築会社の名前を騙って玄関から訪問していた[11]

闇サイト殺人事件

この事件の主犯のAは2007年(平成19年)8月24日深夜、別の男2人と共謀して名古屋市千種区で帰宅途中の路上を歩く女性(当時31歳)を車に連れ込んで、手錠をかけて拉致。約6万円とキャッシュカードを奪う。さらに包丁で被害者を脅して、キャッシュカードの暗証番号を聞き出し、8月25日午前0時頃、愛西市佐屋町駐車場で被害者を殺害し、遺体を岐阜県瑞浪市の山中に埋めて逃走した。第一審(名古屋地方裁判所近藤宏子裁判長)では主犯の男とともに死刑判決が言い渡されたが、控訴審(名古屋高等裁判所下山保男裁判長)で地裁の死刑判決が破棄され、無期懲役の判決が下り、最高裁判所千葉勝美裁判長)で確定した。

※なお、上記項目ではAについては「C」と表記されている。

急展開

事件が急展開を見せたのは事件発生から14年後の2012年、現場にあった唾液DNADNA型鑑定の結果、A、B両名のものと酷似していることが判明したことである。愛知県警察8月3日強盗殺人容疑で、3週間前の7月11日に無期懲役の判決が確定したばかりのA(名古屋刑務所に拘留中であった)と、仕事仲間だったB、Cの計3人を逮捕[10]、翌8月4日名古屋地方検察庁送検した[16]

逮捕の決め手となったDNAは、現場に残っていた枝豆の皮に付着していた唾液から検出されたことが、中日新聞(東京新聞)から捜査関係者への取材で分かった[12]。3人は6月28日、夫婦宅を訪れ、男性の帰宅前、妻から枝豆などのつまみやを提供されたという趣旨の供述をしていることも判明している。[12][13]。県警は犯人が食べた跡とみられる枝豆の皮などを保存し、2011年夏に皮に付着した唾液を再鑑定したところ、2012年7月に闇サイト殺人事件無期懲役刑が確定したばかりのAのDNAと酷似していることが分かった[12]。その後の捜査で、現場で採取した別の唾液のDNAが、Bのものと酷似していることも判明。Cは夫婦の子供二人の見張り役だったとみられ、現場に唾液が残っていなかったが、Bの供述から関与が浮上したという[12]。Bの供述では、男性はB、Cの両名が体を押さえた上でAが絞殺し、妻はAの指示でBが殺害したという[12]。また、捜査関係者によると、主犯格のAは、男性が勤務していたパチンコ店の客だったが、犯行直後は捜査線上に浮かんでいなかったという。Aらの指紋は現場で検出されておらず、県警は指紋を拭き取るなどの工作をしたとみている[12]

産経新聞碧南警察署捜査本部への取材によればB、CはAから「誘われた」と供述しているとも報じている[13]。3人は夫婦とは面識がないといい、捜査本部は、Aが2人に事件を持ち掛けて主導し、仕事の関係者などを装って夫婦宅に上がり込んだ可能性があるとみて、経緯を詳しく調べた[13]。また、3人は自宅にいた妻を先に殺害、その後帰宅した男性を殺害したという趣旨の供述もしているという[13]

さらにBの供述などから前述の守山区の事件へのAとBの関与が明らかになり[8]2013年1月16日にAとBの2名を逮捕した[11]。特捜本部によると、逮捕直後Aは「弁護士と話してからしゃべる」と認否を保留し、Bは「ほぼ間違いありません。金目的だった」と大筋で認めた[11]。Bの供述から2人の犯行の疑いが強まり、貴金属の一部が質店に売られていたことも判明した[11]。特捜本部が押収し、裏付け捜査をした。[11]。捜査関係者によると、両容疑者は女性宅を建築した会社の社員を装い、玄関から侵入したとみられる。2人は仕事仲間だったが、女性とは面識がなかったとみられる[11]

公判

第一審(名古屋地裁)

2015年10月29日から名古屋地裁でAの公判が始まり、同年12月15日に判決を迎えた[14][17]。Aは殺意を否認し(男性については、目や口をふさぐために顔にバスタオルをかけようとしたが、男性が暴れたので抵抗を抑えようと、バスタオルを持った両手を交差させ、自分の手首のあたりを男性の体に当てて抑え込んだところ、一端を共犯者が受け取り、これを引っ張って2、3分すると男性が死亡したと供述した[7])、強盗致死罪窃盗罪住居侵入罪に留まると主張していた[7][18]が、2015年12月15日、名古屋地裁で行われた裁判員裁判景山太郎裁判長は「冷酷かつ残忍で、生命軽視の程度が甚だしい」と述べた上で強盗殺人罪の成立を認定(Aの供述に対しては、「Aが供述するような体制で抵抗を抑えようとしているに過ぎないのに、人を窒息死させるような強い力で3分以上首を絞め続けてしまうことなどあり得ない。しかも、Aは捜査段階で検察官に対し、男性の首にビニールひもを巻き付け、その一端をBかCに渡してそれぞれ引っ張り、男性が絶命するまで絞め続けたと供述していた」と断じ、「Aの供述は全く信用できない」とした[7]。その上で、「Aの捜査段階の供述は、男性を殺害したことを認めるAに不利益な内容であり、また凶器については相当具体的な供述をしていたことからすると、ビニールひもの一端をBまたはCも引っ張ったかどうかは不明であるが、Aがビニールひもで男性の首を絞めたことは間違いないと言える。そして人の首を3分以上強い力で絞めることは、人が死亡する危険性の高い行為であり、自ら少なくともその一部を行っていたAには殺意があった」とした[1][7])した。その上で、碧南事件については「事前に夫婦を殺害することまで計画していたとまではいえないが、事態の推移に応じて二人を次々と殺害し、それをも利用して冷徹に当初の強盗計画を遂行した[7]」と、守山事件については「殺意は強固で、非力な高齢女性に対する卑劣な犯行である。被害者を殺害しようとしたのも、強盗の遂行と犯行の発覚防止のためであって、やはり私欲的で身勝手極まりなく、酌量の余地はない[7]」などと非難、「このようなAらの行動には、生命軽視の態度が顕著に表れており、殺害の計画性がなかったことは、必ずしも死刑を回避すべき決定的な事情とはいえない[7]」「Aの生命軽視の態度は甚だしい[7]」などとして、検察側の求刑通り死刑判決を言い渡した[5][19][15]東海3県の裁判員裁判で死刑判決が下るのは愛知県蟹江町母子3人殺傷事件中国国籍の男性被告人(2015年12月現在最高裁判所で係争中)以来2例目となる[1][2]。なお、日本国憲法第39条にていったん確定した罪を再び罰しない「一事不再理」を定めているため、判決は闇サイト事件には言及しなかった[1][20]弁護側は判決を不服として翌12月16日付で名古屋高等裁判所控訴した[21]

公判でAは証人出廷した母親に「地獄にいるような思いをさせてしまった」と述べた[9]。事件の犠牲者に「冥福の祈りを毎日捧げている。ご遺族の気持ちを背負って生きていこうと思う」と話し、生への意欲をのぞかせていた[9]

両親を殺害された兄弟はこの日出廷せず、弁護士を通じて「死刑になったからといって償われるわけではない」などと文書でコメントした[22][15]。また、闇サイト事件で娘を失った女性は報道陣の取材に応じ、裁判を傍聴したあと会見し、「死刑という判決を聞いたときにはほっとした。私はもうAとは関わりたくない。被告にできることは、じっくり罪と向き合って早く裁判を終わらせることだと思う」[15]「死刑しかないと思っていた」と話した。「(闇サイト事件で無期懲役が確定し)娘の無念を晴らせないと思っていた」と振り返り、今回の判決を評価した上で兄弟に対し、「両親への思いは胸に秘めながら、むごい事件のことは忘れて前に進んでほしい」と気遣った[22]

出典

  1. ^ a b c d 中日新聞』2015年12月16日朝刊1面 「夫婦強殺 A被告に死刑 妻殺害 共謀を認定 碧南の事件 裁判員判決」
  2. ^ a b 無期懲役囚に死刑判決 名古屋地裁、碧南夫婦強殺で - 『中日新聞』(2015年12月15日 19時11分。オリジナルからのアーカイブ)
  3. ^ 闇サイト殺人で無期の被告に死刑…「人命軽視」 - 『読売新聞』2015年12月15日 20時49分(オリジナルからのアーカイブ)
  4. ^ 死刑判断「2人殺害」焦点 碧南夫婦強殺事件 - 読売新聞(2015年12月13日配信、オリジナルからのアーカイブ)
  5. ^ a b 愛知、夫婦絞殺の被告に死刑判決 強盗殺人罪を認定 - 朝日新聞デジタル(2015年12月15日15時44分。オリジナルからのアーカイブ)
  6. ^ 中日新聞』2015年12月5日 朝刊「A被告に死刑求刑 碧南強殺、検察『計画の首謀者』」
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 判決要旨
  8. ^ a b c d “闇サイト事件の受刑者ら再逮捕 7年前の強殺未遂事件で”. 日本経済新聞. (2013年1月17日). http://web.archive.org/web/20130120072641/http://www.nikkei.com/article/DGXNASFD1601A_W3A110C1CN8000 2015年12月15日閲覧。  - オリジナルからのアーカイブ
  9. ^ a b c d e 中日新聞』2015年12月16日朝刊29面 「裁判員 苦悩の審理 闇サイト事件『切り替え』腐心 碧南強殺 判決」
  10. ^ a b c 中日新聞2012年8月4日朝刊「闇サイト殺人 A受刑者ら 14年前に夫婦殺害 容疑で逮捕」
  11. ^ a b c d e f g h i j k 闇サイトのA容疑者再逮捕 名古屋・守山の強殺未遂 - 『中日新聞』(2013年1月16日 16時01分)
  12. ^ a b c d e f g 東京新聞2012年8月7日夕刊「愛知夫婦殺害 DNA枝豆から検出」
  13. ^ a b c d e f 産経新聞2012年8月4日17時29分配信「闇サイト殺人事件のA容疑者に『誘われた』 愛知・強盗殺人」
  14. ^ a b “当時6歳の次男「普通に生きたかった」 夫婦殺害初公判”. 朝日新聞. (2015年10月29日). http://digital.asahi.com/articles/ASHBV3DNJHBVOIPE00C.html?_requesturl=articles%2FASHBV3DNJHBVOIPE00C.html&rm=383 2015年10月30日閲覧。 
  15. ^ a b c d 闇サイト事件で無期懲役確定の被告に別事件で死刑判決 - NHKニュース(2015年12月15日 15時38分。オリジナルからのアーカイブ。)
  16. ^ 『中日新聞』2012年8月5日10時47分「闇サイト事件のA容疑者ら送検 碧南夫婦強殺で」
  17. ^ “A被告「殺意なかった」碧南市夫婦強殺初公判”. 日テレNEWS24. (2015年10月29日). http://news.livedoor.com/article/detail/10768183/ 2015年10月30日閲覧。 
  18. ^ 夫婦殺害初公判、被告が否認 強盗殺人の成立が争点に - 朝日新聞デジタル(2015年10月29日12時41分。オリジナルからのアーカイブ)
  19. ^ A被告に死刑判決=17年前の夫婦殺害-「闇サイト殺人」で受刑中・名古屋地裁 - 時事通信(2015/12/15-15:40)
  20. ^ なお、これについて闇サイト事件で娘を殺された女性は「加害者側には裁判をやり直す再審制度の仕組みがある一方、被害者側にはそうした救済の仕組みはない」と疑問を投げかけている(『中日新聞』2015年12月16日朝刊1面 「『闇サイト』切り離し判断」より)。
  21. ^ 中日新聞』2015年12月18日朝刊31面「碧南強殺で死刑 A被告側が控訴」
  22. ^ a b 碧南夫婦強殺 「闇サイト」受刑者に死刑判決…名古屋地裁 - 毎日新聞 2015年12月16日 01時09分(最終更新 12月16日 01時55分。オリジナルからのアーカイブ)

関連項目