短波放送

短波を用いて音響を送る放送。
短波ラジオから転送)

短波放送(たんぱほうそう)とは、短波を用いて音響を送る放送である。

短波ラジオ受信機中国DEGEN社製)

日本では、総務省令電波法施行規則第2条第1項第24号の2に「3MHzから30MHzまでの周波数電波を使用して音声その他の音響を送る放送」と定義[1]している。放送法施行規則別表第5号第5放送の種類による基幹放送の区分(2)にもあるので、基幹放送の一種でもある[2]

概要

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国際放送や国土の広大な国での広域の国内放送に使われる。中波MW:Medium Wave)による中波放送と対比して短波(Short Wave)を略してSWと表示される。変調方式は、中波放送と同様の両側波帯振幅変調(AM)が主である。但し、単にAM放送と言った場合は中波放送に限り、短波放送は含めないのが普通である。

短波は上空に存在する電離層F層で反射するため、受信機アンテナ、および外来雑音などの条件が良ければ、ほぼ全世界の放送を受信できるが、地球上の地表面から発射された電波が上空にある電離層での反射の影響を受けるためにフェージングが起こりやすく、電波が不安定になりやすい。但し、電離層の状態の変化により、条件の良い周波数は季節(夏季と冬季)や時刻(昼間と夜間)によっても変わるため、放送局は良好に受信できるように季節(夏季と冬季)や時刻(昼間と夜間)などによって周波数を変更したり、複数の周波数を同時に使って放送する。冬季や夜間は低い周波数の受信状態が良好になり、逆に夏季や昼間は高い周波数の受信状態が良好になる。また、電離層の状態は太陽黒点活動の影響を受けるために、太陽黒点数は約11年周期で増減する。太陽黒点数が増える時期になると高い周波数が受信状態が良好になり、太陽黒点数が少ない時期になると低い周波数が受信状態が良好になる。

第二次世界大戦以前の日本では短波受信機がさほど普及していなかったが、戦争中は短波放送の聴取が禁止されていた。戦後の1945年9月18日に短波放送の聴取禁止が解除された[3]

周波数

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一部例外を除き、国際電気通信条約で定められた次の14のバンド(周波数帯)による。それぞれのおよその波長から、「メーターバンド」(mb)と呼ばれる。最も長波長の120mb(日本では未使用)は厳密には、短波の通常の定義である3000 - 30000kHzより長波長(低周波)の中波だが、短波放送に含められる。

バンド 周波数(kHz) 用途
120m 2300 - 2495 赤道に近い熱帯地域で国内放送用に使われるため、俗にトロピカルバンドといわれる。
90m 3200 - 3400 120mb同様にトロピカルバンドである。
75m 3900 - 4000 アメリカ大陸では利用できない(3500 - 4000kHzまでアマチュア無線に割当て)。
主として国内放送用。ラジオNIKKEIが使用。
60m 4750 - 5060 国内放送用。
49m 5900 - 6200 国内放送・国際放送用バンド。ラジオNIKKEIが使用。冬に多くの放送局が集中する。
41m 7200 - 7450 国際放送用バンド。7200 - 7300 kHzはアメリカ大陸では利用できない(7000 - 7300kHzまでアマチュア無線に割当て)。
31m 9400 - 9900 国際放送用バンド。短波放送のメインストリートといわれる。
多くの放送局が集中し、ラジオNIKKEIも使用(2018年から休止。免許返上はしていない)。
25m 11600 - 12100 国際放送用バンド。短波放送のメインストリートといわれる。
22m 13570 - 13870 国際放送用バンド。開設されて歴史が浅いせいか局は少ない。
19m 15100 - 15800 国際放送用バンド。主として遠距離伝搬用。
16m 17480 - 17900 国際放送用バンド。19mバンドに特性が似ている。
15m 18900 - 19020 国際放送用バンド。開放されて歴史が浅いせいか局数は少ない。
13m 21450 - 21850 国際放送用バンド。太陽活動の活発な時期の遠距離伝搬用。
11m 25670 - 26100 国際放送用バンド。13mバンドと同様、太陽活動の活発な時期だけ使われる。遠距離伝搬用。

変調方式

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上述の通り、変調方式は振幅変調(AM)が主である。ステレオ放送には仕様上は対応するが、過去を含めて世界のいずれの局でも実施されたことはない。

WARC-HF-BC-87(1987年世界無線通信主管庁会議)において、2015年末までにSSBへの全面的移行が提議されたが、WRC-03(2003年世界無線通信会議)で、期限を定めずにデジタル方式に移行すると変更[4]された。このデジタル方式とされたのがデジタル・ラジオ・モンディエール(DRM)である。対応受信機で聞くか、アナログ受信機で受信して中間周波数をDRMコンバータに入力して復調することとなる。日本仕様のDRMに対応した端末こそ存在しないが、外国仕様の対応端末での受信だけなら日本でもできる。

放送局

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日本国内では、日本放送協会(NHK)による海外向け放送として「NHKワールド・ラジオ日本」と民間放送(民放)では、日本国内向け放送の日経ラジオ社の「ラジオNIKKEI」が実施している。この2者は特定地上基幹放送事業者である。

更に、北朝鮮拉致問題の拉致被害者の可能性が強い日本人向けに「特定失踪者問題調査会」(民間団体)による「しおかぜ」は、茨城県古河市にあるKDDI八俣送信所から送信しているが、地上基幹放送局ではなく業務用の特別業務の局として免許されている。気象庁航空機向けにVOLMET放送を、ファクシミリ船舶向けに気象無線模写通報を送信しているが、これらも気象用の特別業務の局による。これら特別業務の局が行うのは電波法令上は同報通信[5]といい地上基幹放送局による地上基幹放送ではない。また、放送法令上の放送でもない。

海外では、イギリスBBCの「BBCワールドサービス」、アメリカの「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)などが有名である。

日本の周辺諸国からの日本向け日本語放送は、大韓民国(韓国)の「KBSワールドラジオ」、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の「朝鮮の声放送」、中華人民共和国(中国)の「中国国際放送」、中華民国(台湾)の「台湾国際放送」、ベトナム社会主義共和国の「ベトナムの声放送局」、モンゴル国の「モンゴルの声」などが実施している。国家(政府)以外では、キリスト教系などの宗教団体が宗教放送を実施している。一部の独裁国家では難民亡命者などの反政府派が正体を隠して放送している地下放送も実施されている。

また、北朝鮮拉致問題の拉致被害者の日本人などに向けて日本政府の「拉致問題対策本部」(日本の内閣が設置)が行っている「ふるさとの風」は海外の第三国の送信所から行われている。

2000年代以降から衛星放送(BS放送)、通信衛星(CS放送)やインターネットなどが普及したことにより短波放送の重要度は低下しており、先進国では短波放送が縮小や廃止されてインターネット放送などに移行しているが、通信設備が整備されていない開発途上国などでは依然として短波放送の重要度は高い。

受信機と受信アンテナ

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日本で販売されていたソニーICF-SW7600GR。2001年発売のモデルが2016年時点で現行商品として販売されている状況であった[6]。現在のソニーはワールドバンドラジオをカタログから削除している[7]

短波放送を受信するためには、これに対応した受信機ラジオ)が必要である。

2022年現在の日本では、アイワ、「ELPA」ブランドの朝日電器、「Audio Comm」ブランドのオーム電機、「ANDO」ブランドのアンドーインターナショナル、「Qriom」ブランドの山善の各社が短波ラジオ(ワールドバンドラジオとも)を製造し、国内の家電量販店ディスカウントストアホームセンターやインターネットの通信販売などで販売している。中国TECSUNDEGENなどのメーカーが生産する安価な短波ラジオが、「株・競馬ラジオ」などと称して販売されているほか、日経ラジオ社(ラジオNIKKEI)受信専用の短波ラジオもある。

また、上級者向けにアマチュア無線機や業務用無線機などの製造販売メーカーが、据置型やハンディ型のオールバンド受信機(広帯域受信機)を製造している。これらは主にアマチュア無線専門店で販売している。

バブル景気期は時代を反映し、高級車のデッキでの短波ラジオの搭載が見受けられたが、現在はトヨタ・センチュリーのみに搭載されている。

海外から輸入する場合、ラジオ放送用の受信機器(関税率表85.27項)については関税率を無税としており、関税定率法の規定により、計算される課税価格[注 1]に対して消費税が課される。個人輸入で比較的安価に購入できるものもあるが、故障の際に日本で修理できず、自力で修理するリスクもある。

一般的な短波ラジオは、電波が不安定な特徴があるので付属ロッドアンテナ(棒状アンテナ)に市販の家電用の電線コード(3〜5m程度)を繋いで、窓際や屋外に出すだけでもかなり受信感度が向上する(ロングワイヤーアンテナを参照)。外部アンテナが接続可能な機種もある。窓際や屋外に外部アンテナを設置することにより格段に受信感度が向上する。

2019年現在の日本国内の短波ラジオメーカー

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2019年現在の中国の短波ラジオメーカー

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  • DEGEN(德劲)
  • TECSUN(德生)
  • Kchibo
  • REDSUN
  • ZHIWHIS

脚注

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注釈

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  1. ^ 原則として、輸入貨物の価格に日本までの運賃と保険料を加算したもの。

出典

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  1. ^ 平成6年郵政省令第28号による電波法施行規則改正により定義
  2. ^ Fell's Guide to Operating Shortwave Radio Hardcover – 1 Jun. 1969 by Charles Vlahos(Author). Publisher: Lifetime Books(1 Jun. 1969), ISBN 0811900479, ISBN 978-0811900478
  3. ^ 短波ラジオとテレビの禁制やめる(昭和20年9月18日 毎日新聞(大阪)『昭和ニュース辞典第8巻 昭和17年/昭和20年』p729 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  4. ^ 電波法施行規則、無線設備規則、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則及び電波の利用状況等の調査に関する規則の各一部改正にする省令案について (PDF) pp.9 - 10「短波放送を行う放送局の無線設備の技術基準の改正」(電波監理審議会(第896回)会長会見資料(平成17年6月8日開催)別紙「2.WRC-03による無線通信規則改正を受けた短波放送を行う放送局の無線設備の技術基準の改正」参考資料(国立国会図書館のアーカイブ:2009年10月21日収集))
  5. ^ 電波法施行規則第2条第1項第20号 「同報通信方式」とは、特定の二以上の受信設備に対し、同時に同一内容の通報の送信のみを行なう通信方式をいう。(送り仮名の表記は原文ママ)
  6. ^ ソニー公式サイトの商品ページ”. www.sony.jp (2018年2月17日). 2019年3月12日閲覧。
  7. ^ ICF-SW7600GR”. bbs.kakaku.com (2019年3月11日). 2019年3月12日閲覧。

参考文献

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  • 『電波で巡る国ぐに』 久保田博南(著) コロナ社 1991年出版、ISBN 4-339-07663-5
  • 『世界を聴こう - 短波放送の楽しみ方』 赤林隆仁(著) コロナ社 1993年出版、ISBN 4-339-07670-8
  • 『簡単BCL入門 世界の放送を受信せよ!』 紺野敦(著)・工藤和穂(著) CQ出版 2007年出版、ISBN 4-789-81326-6
  • 『決定版!BCL受信バイブル』 ラジオライフ編集部(著) 三才ブックス 2018年出版、ISBN 4-866-73051-X
  • 『令和版BCLマニュアル』 山田耕嗣(原著) 電子工作マガジン編集部編(著) 電波新聞社 2019年出版、雑誌コード 06390

関連項目

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外部リンク

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