グラスホッパー (小説)
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『グラスホッパー』 (GRASSHOPPER) は、伊坂幸太郎による日本の小説、及びそれを原作としたメディアミックス作品。
グラスホッパー GRASSHOPPER | ||
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著者 | 伊坂幸太郎 | |
発行日 | 2004年7月30日 | |
発行元 | 角川書店 | |
国 |
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言語 | 日本語 | |
形態 | 上製本 | |
ページ数 | 322 | |
コード |
ISBN 978-4-04-873547-6(単行本) ISBN 978-4-04-384901-7(文庫) | |
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2004年に角川書店から出版され、著者伊坂が「今まで書いた小説のなかで一番達成感があった」と語っている。サスペンス、コメディ、オフビートなど分類不能の要素を含み、ストーリーは鈴木・鯨・蝉の3人の登場人物が代わる代わる語り手を務めている。第132回直木三十五賞候補作となった。
2008年に井田ヒロトによる作画で漫画化され、『コミックチャージ』(角川書店)で連載された。2015年に実写映画化された[1]。
あらすじ編集
妻を轢き逃げした男、寺原に復讐するために職を辞し、裏社会で寺原の父親が経営する会社「フロイライン」に入社した鈴木。フロイラインの幹部である比与子に命令されカップルを殺害しようとする。ところが、寺原の息子は自分の目の前で車に轢かれてしまった。業界には「押し屋」と呼ばれる殺し屋がいるという。
命じられるままに押し屋を追った鈴木だが、待っていたのは妻と幼い息子のいる家庭だった。温かい家族に戸惑う鈴木だが、会社からは息子の敵を討たんとする電話がかかってくる。
一方、自殺専門の殺し屋・鯨はあるホテルで政治家の秘書を自殺させるときに、押し屋の犯行を目撃する。鯨は押し屋に仕事を先取りされたという過去を清算するために、押し屋を殺害して殺し屋家業から足を洗おうと考える。
また、ナイフ使いの若者、蝉は岩西という男の元で殺し屋をしており、一家を殺害する。その家でガブリエル・カッソの「抑圧」を見て、主人公で新聞屋の店主に束縛されている青年に同情と嫌悪感を抱く。
鈴木は自分が家庭教師だという嘘をつき、押し屋一家に近づこうとする。一家の長のような槿(「むくげ」ではなく「あさがお」と読む)に怪しまれながらも、一家と距離が縮まっていく。
鯨は政治家の梶に依頼されホテルに向かい、梶と会うが、梶は慌てた様子をする。鯨は梶が別の殺し屋を雇い、自分を殺害する計画を練っていた事に感づき、梶を自殺に追い込む。
蝉は岩西から言われた仕事に向かおうとするが、ビル街の外れで、二人の男が一人の男をリンチしているところを目撃する。二人の男が話している内容から寺原関係だと分かり、2人に興味を持つ。2人の外見に「柴」と「土佐」とあだ名をつける。土佐がナイフを持って襲いかかって来るが、蝉は返り討ちにした後、仕事のことを思い出しまた場所に急ぐ。
鈴木は槿の子供とサッカーをし、童心に帰る。そこで子供に「バカジャナイノー」と言われ、鈴木も真似して「バカジャナイノー」と言ってみる。
鯨は梶が1度反抗しようとするが、いつもの様に梶を死にたがらせる。
蝉は仕事場所のタワーホテルに入るが、依頼者の梶が首を吊っているのを見る。自分が仕事に遅れたから梶は気を落として自殺したのかと考える。
鈴木は槿の家に向かうと、遅い昼食であるパスタを食べる。その後、槿に仕事を聞くが、槿はエンジニアだと答える。そして、槿はバッタが集まると凶暴化するという話をし、人間も同じだと言う。
鯨は公園に戻ると、ホームレスの田中から「過去を清算する方法」を教えられる。そして、未来は「神様のレシピ」というものに全て書かれており、どう抗っても無駄だと説明する。
蝉は仕事の失敗を岩西にどう説明しようかと考えながら商店街を歩いていると、ポルノ写真集店を営む桃に出会う。蝉は桃から寺原の息子が殺害されたという話を聞き、フロイラインの一人の社員が押し屋の居場所をつきとめた(鈴木のこと)というの聞き、殺し屋を殺害することで岩西からの独立を図る。
鈴木は比与子からの電話で、寺原の息子が息を吹き返したという連絡を受ける。
一方、鯨は岩西の事務所に行き、岩西を自殺させる。しかし、突然電話がかかり、岩西は電話を取る。
蝉は桃から社員(鈴木)が連れていかれるビルを聞き出し、車を盗んで行こうとすると、信号が赤になり、岩西に電話をかける。すると、岩西が「がんばれよ、蝉。」と言って、電話が切れた。
鈴木は槿の家から比与子のところへと向かう。鈴木は喫茶店に行き、比与子と出会う。そして、鈴木は比与子に薬を忍ばせないために、比与子が着く前に水を飲んだ。そして、比与子が着いたあと改めて押し屋のことを尋ねられるが、何も言わないようにする。しかし、突然眠気が鈴木を襲いかかり、疑問を持った後、この店ごと劇団という寺原の仲間であることを悟り、自分が馬鹿であると思い、眠った。
意識が覚めると、拘束され、比与子と見知らぬ二人の男がいることに気づく、そして、自分が運ばれていることを知り、廃ビルの中に入って拷問すると言われ、一人の短髪の男が金槌を振る。
岩西は電話が終わり、鯨に蝉のことを伝え、「戦ってほしい」と伝えると、ビルから飛び降りた。そして、事務所のビルから出ると、蝉を目撃する。
蝉は車を走らせて、桃から聞いたビルを発見する。人がいる階に上がると、部屋に入る。鈴木と拷問する男達と比与子を見つける。比与子を殴ると男の一人も同じように殴る。もう1人が襲ってくるところで、二人の男が柴と土佐ということに気づく。蝉は柴と土佐を討った後、鈴木を助け廃ビルから車で脱出する。その時に鈴木が付けていた結婚指輪を奪う。
蝉は自分が押し屋を始末しようと考えていることを鈴木に明かす。鈴木は押し屋にも家族がいるためやめてくれと頼むが蝉は自分は家族ごと始末するのが得意分野だ、と言い、鈴木は落胆する。
蝉と鈴木は車に乗るが、実は鯨が車の中におり、鯨は蝉を連れて近くの林に行く。鯨は蝉を始末し、車に戻るが、鈴木の姿はなかった。
鈴木は近くにいた槿に助けてもらい、槿の家まで乗せてもらう。その時、槿の息子がこっそり鈴木のスマホを取ってしまい、比与子に住所を伝えてしまったと伝えられ、慌てる。
なんとか家につくが、家に固定電話がないことに焦り、槿たちに避難するように伝える。
だが、その時に実は槿一家は本当の家族ではなく、妻や子供たちは劇団に所属していたのだ。さらに、比与子に教えた住所はシールを扱う会社の住所であることがわかり、鈴木は安心すると同時に結婚指輪を失くしたことに気づく。槿に林まで送ってもらうと同時に、劇団たちに別れを告げる。
車から降り、指輪を探そうとした瞬間、道路の向こう側に鯨がいることを見つける。
鈴木は鯨に自殺したい気持ちにさせられ、道路に飛び出そうとするが、その直前で亡き妻の声が聞こえ、何とか踏みとどまる。その瞬間、鯨が車に轢かれ、鈴木も睡魔に襲われ、眠る。
その後、鈴木は駅のホームにおり、すべて夢だったのかと思うが、現実だとわかる。亡き妻と来た広島のホテルでバイキングを食べ、塾の講師として働くことになる。情報収集を行うと、どうやら「フロイライン」は消滅し、比与子も死亡したのではないかという噂があることを知る。
駅に行くと、槿の子供という設定だった劇団の子供たちに会い、子どもたちの元気な姿に安堵する。
登場人物編集
- 鈴木(すずき)
- 27歳の元中学校教師。二年前、妻がひき逃げに遭って亡くなるまでは平凡な生活を送っていた。犯人に復讐するため職を変え、その父親の経営する会社「フロイライン」に入社する。
- 鯨(くじら)
- 自殺専門の殺し屋。「鯨」の名に相応しく大柄な体格で、彫の深い陰鬱な目をしている。彼と対面した人間はなぜか死にたくなるという。愛読書はドストエフスキーの『罪と罰』で、それ以外は読んだことがない。自殺させた人間が幻覚のように現れ話しかけてくるため、現実が曖昧になりつつある。新宿区内の公園でホームレス生活をしており、田中というホームレスの男から、過去の清算で悩みから解放されると告げられる。
- 蝉(せみ)
- ナイフを巧みに扱う殺し屋。ナイフの扱いだけでなく格闘術にも優れる。岩西という仲介業者と2人で仕事を受けている。痩身で猫のように機敏な茶髪の青年。哲学的死生観を持ち、口が悪く蝉のように喧しい。政治家筋から鯨の殺害を依頼されるが仕事に失敗し、その後押し屋を追うことになる。殺しの実行役だが依頼内容について知ることはなく、殺害現場で観たガブリエル・カッソの「抑圧」という映画の主人公に自らを重ね、苦悩する。
- 鈴木の妻
- 寺原の息子の運転する車に轢き逃げされ死亡する。鈴木とはホテルのバイキングで出会った。明朗な性格で、口癖は「やるしかないじゃない」。
- 比与子(ひよこ)
- 非合法的仕事を好むフロイラインの幹部。契約社員として採用された鈴木の教育係で、鈴木の身元を調べ真意を試そうとする。鈴木と同じ歳の女性。短い茶髪に一重瞼で赤い唇。
- 寺原(てらはら)
- フロイライン社長。違法な薬物の売買や臓器売買にも携わっているとされる。社名はドイツ語の「令嬢」を意味し、裏の業界内でも名が通っている。
- 寺原の長男
- 遊びで何人もの人間を死に至らしめたことさえある道楽息子。鈴木の妻もその一人で、犯した全ての事件を父親の力でねじ伏せてきた。
- 岩西(いわにし)
- 蝉の上司。殺し屋を斡旋する仲介業を営み、依頼人との交渉や身辺調査などの仕事をしている。痩せたカマキリのような男。何を考えているか分からないが、伝説のミュージシャン、ジャック・クリスピンに心酔しており、いつも引用するほど彼の言いたいことは全てその歌詞にある。ただしジャック・クリスピンの存在は非常に曖昧。
- 梶(かじ)
- 衆議院議員。自らの不祥事の後始末のため鯨に依頼を出すが、小心者で鯨の裏切りに怯え、岩西に殺害を依頼する。
- 槿(あさがお)
- 押し屋と思われる男。妻と2人の息子がおり、システムエンジニアを名乗る。
- すみれ
- 槿の妻を名乗る女性。
- 田中(たなか)
- 鯨が暮らす公園のホームレスの一人。元はカウンセラーをしていたらしい片足の悪い男。鯨に幻覚について語り、解放されるにはやり残した仕事を清算することだと説く。
- 桃(もも)
- ポルノ雑誌店の店主。肥満体形に年中下着のような服を着ているが、いやらしさのない年齢不詳の女性。店は裏の業界人がよく出入りする情報交換の場となっている。
- スズメバチ
- 毒殺専門の殺し屋。
書籍情報編集
- 小説
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- 単行本:2004年7月発行、角川書店、ISBN 4048735470
- 文庫本:2007年6月発行、角川文庫、ISBN 9784043849017、巻末解説:杉江松恋
- 漫画
- 2008年10月、角川書店、ISBN 9784047250499
- 2009年3月、角川書店、ISBN 9784047250635
- 2009年6月、角川書店、ISBN 9784047250666
参考編集
- 同著者の作品『魔王』と本作『グラスホッパー』を再構築した漫画『魔王 JUVENILE REMIX』が出版されており、これを執筆した漫画家大須賀めぐみによって文庫本『グラスホッパー』の表紙が描かれた。
- その『魔王 JUVENILE REMIX』のスピンオフとして、本作の登場人物である蝉を主人公に据え、彼と岩西との出会いを描いた漫画『Waltz』が出版されている。
映画編集
グラスホッパー | |
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監督 | 瀧本智行 |
脚本 | 青島武 |
原作 | 伊坂幸太郎「グラスホッパー」 |
製作 |
水上繁雄 杉崎隆行 椿宜和 |
出演者 |
生田斗真 浅野忠信 山田涼介 波瑠 麻生久美子 菜々緒 吉岡秀隆 村上淳 宇崎竜童 石橋蓮司 金児憲史 佐津川愛美 山崎ハコ |
音楽 | 稲本響 |
主題歌 | YUKI「tonight」 |
撮影 | 阪本善尚 |
編集 | 高橋信之 |
制作会社 | 角川大映スタジオ |
製作会社 | 「グラスホッパー」製作委員会 |
配給 |
KADOKAWA 松竹 |
公開 | 2015年11月7日 |
上映時間 | 119分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
興行収入 | 10.2億円[2] |
映画化作品が2015年11月7日に公開された[3]。監督・瀧本智行と主演・生田斗真は『脳男』(2013年)に続いてのコンビ[1]。
キャスト編集
- 鈴木 - 生田斗真
- 鯨 - 浅野忠信
- 蝉 - 山田涼介
- 百合子(鈴木の婚約者) - 波瑠[4]
- すみれ - 麻生久美子[4]
- 比与子 - 菜々緒[4]
- 槿 - 吉岡秀隆[4]
- 岩西 - 村上淳[4]
- 鯨の父 - 宇崎竜童[4]
- 寺原会長 - 石橋蓮司[4]
- 寺原Jr - 金児憲史[4]
- メッシュの女 - 佐津川愛美
- 桃 - 山崎ハコ
スタッフ編集
- 原作 - 伊坂幸太郎『グラスホッパー』(角川文庫刊)
- 監督 - 瀧本智行
- 脚本 - 青島武
- エグゼクティブプロデューサー - 井上伸一郎
- 製作 - 堀内大示、高橋善之、小沼修、藤島ジュリーK.、高橋敏弘、宮田謙一
- プロデューサー - 水上繁雄、杉崎隆行、椿宜和
- 音楽 - 稲本響
- 主題歌 - YUKI「tonight」(EPIC Records Japan)[5]
- 撮影監督 - 阪本善尚
- 照明 - 堀直之
- 美術 - 平井淳郎
- 録音 - 高野泰雄
- 装飾 - 柳澤武
- 編集 - 高橋信之
- スクリプター - 増子さおり
- 音響効果 - 柴崎憲治
- VFXスーパーバイザー - 道木伸隆
- 衣裳 - 高橋さやか
- ヘアメイク - 細倉明日歌
- 助監督 - 甲斐聖太郎
- 配給 - KADOKAWA / 松竹
- 製作 - 「グラスホッパー」製作委員会(KADOKAWA、ハピネット、電通、ジェイ・ストーム、松竹、朝日新聞社)
製作編集
- 劇中に登場するアーティスト、ジャック・クリスピンの楽曲として、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが「Don’t Wanna Live Like the Dead」を書き下ろし、挿入歌として採用されている[6]。
- 原作とは違い東京都渋谷区を舞台としており、渋谷スクランブル交差点でのアクションシーンは千葉県長柄町のショッピングモール跡地に作られた実物大のセットを使い撮影された。
受賞編集
脚注編集
- ^ a b “伊坂幸太郎「グラスホッパー」、生田斗真主演で映画化!浅野忠信&山田涼介も出演”. シネマトゥデイ (株式会社シネマトゥデイ). (2014年7月4日) 2020年7月13日閲覧。
- ^ 『キネマ旬報』2017年11月上旬特別号、149頁。「2015年興行収入10億円以上番組 (PDF) - 日本映画製作者連盟」に「10.0億」とあるのは2016年1月時点の途中成績のため。
- ^ “生田斗真×伊坂幸太郎『グラスホッパー』公開日が11月7日に決定!”. シネマトゥデイ (2015年3月6日). 2015年3月6日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “波瑠「グラスホッパー」で生田斗真の恋人に 麻生久美子、菜々緒らも出演”. 映画.com (2015年7月8日). 2015年7月8日閲覧。
- ^ “生田斗真主演『グラスホッパー』YUKIが主題歌を描き下ろし!”. シネマトゥデイ (2015年9月2日). 2015年9月4日閲覧。
- ^ “「グラスホッパー」挿入歌はジョンスペ、架空のアーティストのため楽曲書き下ろす”. 映画ナタリー (2015年9月25日). 2015年9月25日閲覧。
- ^ “日本映画批評家大賞 2016公式サイト”. 日本映画批評家大賞. 2016年5月26日閲覧。