ゼンテイカ(禅庭花)はワスレグサ属多年草。一般的にはニッコウキスゲ(日光黄菅[4])の名前で呼ばれる[5]。花が咲く時期も近く、外見もユリに似ているが互いに別の種。また、各地で別々に同定されたため、和名、学名ともに混乱が見られる[6]。別名はニッコウキスゲのほか、エゾゼンテイカ、センダイカンゾウともよばれる[1]。地方により、ヤマガンピョウ、オゼカンゾウなどともよばれている[4]

ゼンテイカ
霧ヶ峰の車山高原肩のゼンテイカ(2009.07.11撮影)
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ワスレグサ科 Asphodelaceae
亜科 : ワスレグサ亜科 Hemerocallidoideae
: ワスレグサ属 Hemerocallis
: ゼンテイカ H. dumortieri var. esculenta
学名
Hemerocallis middendorffii Trautv. et C.A.Mey. var. esculenta (Koidz.) Ohwi (1949)[1]
シノニム
和名
ゼンテイカ、セッテイカ、ニッコウキスゲ、エゾカンゾウ、エゾゼンテイカ、センダイカンゾウ、トビシマカンゾウ(島嶼型)、ムサシノキスゲ(低地型)
英名
Daylily

概要

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日本本州中部地方以北から東北地方の海抜1000メートル (m) 以上の高山地帯に生える多年草である[4]。本州などでは高原に普通に見られるが、東北地方北海道では海岸近くでも見られる。関東では低地型のムサシノキスゲや、奥多摩、埼玉、茨城県でも低地型の自生のニッコウキスゲが見られる。日光霧降高原尾瀬ヶ原霧ヶ峰などの群落が有名である[4]。花が黄色で葉がカサスゲ(笠萓)に似ているため、地名を付けてニッコウキスゲと呼ばれだし、全国に広まった。ただし、栃木県日光地方の固有種というわけではなく、ゼンテイカは日本各地に普通に分布している。

雪解けの春を迎えるころに、鮮やかな広線形の葉を左右2列に扇形に広げた若芽を出す[4]。 花期は初夏から夏にかけて(5月上旬から8月上旬)[4]。草原・湿原を代表する花で、群生すると山吹色の絨毯のようで美しい。高さは50 cmから80 cmほどになる花茎を伸ばして、花茎の先端に数個つぼみをつけて、黄橙色の6弁花を次々に咲かせる[4]。花はラッパ状で、大きさは10センチメートル (cm) ぐらい。花弁は見た目は6枚だが、うち3枚は萼が変化した物なので実際は3枚花弁。朝方に開花すると夕方にはしぼんでしまう一日花である[4]。ムサシノキスゲは開花の翌日まで開花する。

日光地方では、霧降高原を中心に「日光キスゲまつり」が毎年開催されている。府中市 (東京都)では、ゴールデンウィークの頃に「キスゲフェスティバル」が開催される。

分類

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本種は、分類の紆余曲折のため和名・学名ともに混乱が見られる。

本種の学名は、1925年に小泉らによりH. esculentaとされた[7]

1949年大井により、当時はmiddendorffiiと分類されていたエゾカンゾウの変種middendorffii var. esculentaとされた[8]。次に1964年北村らによりヒメカンゾウの変種とされ、H. dumortieri var. esculentaとされた[9]。また、ゼンテイカ群の分子系統学的解析を行っている野口(1988)[10]は、大井の見解を受けてH. middendorffiiとしている[11]

保護上の位置づけ

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本種自体は普通種であり、個体や群落自体が保護されているものではないが、天然記念物指定地域に多く群生している。

参考: 国指定植物天然記念物

ゼンテイカ群とその近縁種

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ゼンテイカ群とその近縁種の植物
画像 名称(学名) 概説 保護上の位置付け
  ヒメカンゾウ
(H. dumortieri C.Morren var. dumortieri
ニツコウキスゲよりやや小型。花茎は25 cm - 40 cm程度となり、花期は5月頃。
  トビシマカンゾウ
(H. dumortieri C.Morren var. exaltata (Stout) Kitam. ex M.Matsuoka et M.Hotta / シノニム Hemerocallis exaltata Stout)
ニッコウキスゲの島嶼型であり、山形県飛島で発見されたことから和名がある。佐渡島には群落があり、佐渡市の花となっている。ニツコウキスゲと比べてやや大型であり、花茎は1 mに達する。 山形県レッドデータブック準絶滅危惧(NT)に指定されている。
  ムサシノキスゲ
(H. dumortieri var. esculenta f. musashiensis)[13]
ニッコウキスゲの変種。浅間山 (東京都)に自生している。5月初旬から中旬にかけて開花し、開花した翌日に閉花する。かすかな芳香があると言われる。植物園などで見られるムサシノキスゲは府中浅間山から移植したものである。 東京都レッドデータブック絶滅危惧I類(CR+EN)に指定されている。
  エゾキスゲ
(H. lilioasphodelus L. var. yezoensis (H.Hara) M.Hotta / シノニム H. thunbergii auct. non Baker
日本では北海道に分布する。ゼンテイカ群の近縁種。花茎は40 cm - 80 cm程度で、花期は5月 - 7月。花は夕方に開き始め、翌日の午後にしおれる。花は鮮やかなレモンイエローとなる。
  ユウスゲ
(H. citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta / シノニム H. vespertina H.Hara
ゼンテイカ群には含まれない。別名にキスゲ、ユウスゲ、アサマキスゲ等がある。日本では本州から九州の山地に分布し、花期は7月 - 9月。花茎は1 m - 1.5 m程度となる。花は鮮やかなレモンイエロー。夕方から開花が始まり、翌朝にはしおれる。花には芳香がある。他に野カンゾウ群として、朝方から開花するノカンゾウ、ハナカンゾウ、ヤブカンゾウ、アキノワスレグサなどもある。 各都道府県レッドデータブックでは、千葉県野生絶滅(EX)三重県,和歌山県,福井県,愛媛県絶滅危惧I類(CR+EN)山口県,長崎県絶滅危惧II類(VU)兵庫県,香川県,大分県,宮崎県,鹿児島県準絶滅危惧(NT)に指定されている。

利用

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食材として乾燥した花

園芸植物として植栽される。特に近年は園芸種として幅広く流通しており、ニッコウキスゲの名で花店やホームセンターの園芸コーナーでも良く見かけるほどまでになっている。

5 - 6月ごろの若芽、つぼみは同じ仲間のヤブカンゾウと同様に食用になる[4]。採取は蕾を少量とるくらいに控えるのがマナーとされており、国立公園などでの採取は厳禁である[4]。また、台湾では金針または黃花菜の名で食用とされる。若芽はヤブカンゾウと同じようにほのかな甘みがあり、食べるときはおひたし、マヨネーズあえ、辛子和え、煮浸しにする[4]。蕾は熱湯にくぐらせて、酢の物サラダにする[4]

参考文献

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  • 北村四郎「大井次三郎,日本植物誌,J. OHWI, Flora of Japan, 1-1383, 6 plates,1953,5500圓,至文堂(東京都新宿區拂方町27番地)」『植物分類,地理』第15巻第1号、日本植物分類学会、1953年、ii、doi:10.18942/bunruichiri.kj00002992603ISSN 0001-6799 
    • 大井次三郎『日本植物誌』至文堂、1953年。 NCID BN03887018 
  • 高野昭人監修 世界文化社編「にっこうきすげ」『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、103頁。ISBN 4-418-06111-8 
  • 平成10年度新規植物特性調査事業報告書 ヘメロカリス(pdf) 平成11年3月 農林水産省種苗管理センター
  • 牧野富太郎, 小野幹雄『原色牧野植物大圖鑑』(改訂版)北隆館、1996年。ISBN 4832604007NCID BN14637522全国書誌番号:97037209 

脚注

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  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hemerocallis middendorffii Trautv. et C.A.Mey. var. esculenta (Koidz.) Ohwi ゼンテイカ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年7月15日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hemerocallis esculenta Koidz. ゼンテイカ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年7月15日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hemerocallis dumortieri C.Morren var. esculenta (Koidz.) Kitam. ゼンテイカ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年7月15日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 高野昭人監修 世界文化社編 2006, p. 103.
  5. ^ 東京都建設局公園緑地部管理課『都立公園ガイド 2017-2018』東京都生活文化局広報広聴部都民の声課、2017年9月、70,194頁。ISBN 9784865694550 
  6. ^ Carr Michael (1995). “Plant of forgetfulness Onomastics”. 小樽商科大学人文研究 (小樽商科大学) 90: 27-67. ISSN 0482-458X. NAID 120000989184. https://hdl.handle.net/10252/1407. 
  7. ^ 小泉源一「東亞植物考察(前承・未完)(羅典文)」『植物学雑誌』第39巻第457号、日本植物学会、1925年10月、1-30頁、doi:10.11501/2360724NCID AN00117934 
  8. ^ 日本植物誌
  9. ^ A. P. G. 22(1-2): 41 (Jan. 1966); Kitam. & Murata in A. P. G. 22(3): 69 (Jul. 1966).
  10. ^ 野口順子「異質染色質の変異よりみた日本列島におけるゼンテイカ群の変遷史と分化」『植物分類,地理』第39巻第1-3号、日本植物分類学会、1988年、25-36頁、doi:10.18942/bunruichiri.kj00002594209ISSN 00016799NAID 110003761709 
  11. ^ 埼玉県内に自生するゼンテイカ(ニッコウキスゲ)について 埼玉県立自然史博物館,自然史だより 第53号 2004.3
  12. ^ ビーナスライン沿線の保護と利用のあり方研究会提言 ビーナスライン沿線の保護と利用のあり方研究会・長野県
  13. ^ 和久井健司, 北村真理, 松田蘭, 小松憲治, 藤垣順三「日本在来Hemerocallis spp.のRAPD分析による遺伝的変異および類縁関係の評価」『東京農業大学農学集報』第57巻第4号、東京農業大学、2013年、293-299頁、CRID 1050282813720607360ISSN 0375-9202