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フキシャンフィア類(Fuxianhuiid)は、フキシャンフィア目(Fuxianhuiida)に属する化石節足動物の総称。カンブリア紀における澄江動物群フキシャンフィアなど、中国南部から発見された化石によって知られる。原始的な真節足動物であると考えられ、節足動物の初期系統において重要視される分類群の1つである[1]

フキシャンフィア目
生息年代: Cambrian Series 2
Fuxianhuia protensa life restoration.jpg
地質時代
古生代カンブリア紀前期
Cambrian Series 2
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
: 節足動物門 Arthropoda
: フキシャンフィア目 Fuxianhuiida
学名
Fuxianhuiida
Bousfield, 1995
英名
Fuxianhuiid

目次

形態編集

体長は種によって4cmから10cm以上[2]、最大はおよそ15cmに及ぶ[1]。全体は細長く、殻を持った頭部と、多数の背板に分かれた胴体部からなる[1]

頭部編集

頭部は胴体部の前方数節を覆うほどの幅広い殻(head shield)をもつ。その最前方には、1枚の独立した小さな甲皮(anterior sclerite)があって、可動の眼柄に付いた複眼はその両側から出している[3]。それに次いた腹側の領域には、やや太い触角と、「specialized post-antennal appendages」(SPAs)という頑丈な爪の様な、3節からなる特殊化した付属肢関節肢)がそれぞれ1対ある[4][2]。SPAsは後ろ向きに開閉するような構造で、可動域は狭かったと考えられる[4]。口はその間に開き、開口は後方に向かっており、1枚の口下片(hypostome)に覆われる[4][2]

胴体部編集

 
Chengjiangocaris kunmingensis の化石の前半身。右側は分解された頭部で、直後は胸部の脚と背板が写る[4]

胴体部は一連の背板に分かれ、種によって15-40節以上からなり[1]、一部の種類では脚を持つ幅広い胸部と無脚の細長い腹部として区別できる[1]。胸部のうち前方の3-5節は退化的で、前端ほど小さく、頭部の殻に覆われる。腹側にはたくさんの脚が並び、いずれも二叉型付属肢であり、楕円型の外肢と、10節以上の短いかつ同規的な環状節に分かれた頑丈な内肢からなる。頭部の殻に覆われた前端の数節は背板1枚につき1対の脚を持っているが、それに次いた途中の背板は往々にして1枚につき複数対の脚に対応する。腹部の節は無脚で、最後尾には対をなす部分があって、往々にして鰭状の尾扇である[1]。一部の種類は、前方数対の脚の基部に顎基(gnathobase)という顎らしき突起がある[2]

内部構造編集

内部構造は主にフキシャンフィア属の化石標本から発見されており、神経系循環系消化器の構造が確認される。の構造は現生の大顎類に類似し、3つの脳神経節、いわゆる前大脳・中大脳・後大脳からなり、それぞれの神経は複眼・触角・SPAsに対応している[5]。それに次いて1対の神経索が走り、脚の対数に対応しながら左右会合した一連の神経節が並んでいる。Chengjiangocarisの化石標本から、神経索の両側から伸ばした一連の神経根が発見されている[6]。背中を貫通した管状の心臓から、血管が背板の枚数に対応しながら分岐し、頭部の血管は発達している[7]。中腸の両側は、背板の枚数に対応した数対の消化腺が並んでいる。これによって、消化腺の対の数と背板の枚数は、神経節の節数と脚の対の数に対応していない[8]

生態と分布編集

 
Fuxianhuia protensa の化石。

かつては単純な付属肢構成に基づいて、海底の堆積物しか摂らない底生性動物であったと考えられてきたが、消化腺と顎基の発見により、捕食者もしくは腐肉食者であったことが示唆される[2][8]。頑丈なSPAsは摂食に用いられると考えられる[4][2]フキシャンフィア属における、成長に伴って体節を増やす成長様式と子育て行為を示唆する化石も発見されている[9]

フキシャンフィア類の化石は、いずれも中国南部の化石産地におけるカンブリア紀前期(Series 2)の地層から産出しており、所属する産地および動物群によって以下の種が挙げられる[1]

澄江動物群(約5億2,000万年前)
  • Fuxianhuia protensaフキシャンフィア属)
  • Chengjiangocaris longiformis
  • Shankouia zhenghei
  • Liangwangshania biloba
Xiaoshiba Biota(約5億1,800万年前)
Guanshan biota(約5億1,400万年前)
  • Guangweicaris spinatus

系統関係編集



シベリオン類




Gilled lobopodians(側系統群)




アノマロカリス類


Deuteropoda

"bivalved forms"(側系統群)




フキシャンフィア目



Megacheira


真節足動物

鋏角類



Artiopoda



大顎類









節足動物の系統におけるフキシャンフィア目の位置。[10][11]

フキシャンフィア類は基盤的な真節足動物であると考えられ、分岐学的には真節足動物のステムグループ(脇道系統群)において上階の群(Upper stem-group Euarthropoda)の1つとして位置される[2][1][8][10][11]先節を含めて頭部は3節のみからなり(真節足動物は5節以上)[10]、ほぼ分化しない単純な脚の構造など、原始的な特徴が幾つかの挙げられる。一方、現生の大顎類と大まかに対応できるほど複雑な脳により、節足動物の高次系統が分化する前に、既にこのようなの脳を獲得していたことが示唆される[5]。頭部前方の複眼に対応した独立の甲皮から、初期の節足動物の先節が独立していたことが推測でき、アノマロカリス類オダライアの頭部にある甲皮との相同性も注目されている[12]。脚の多数の環状節に分かれた内肢も、節足動物の関節肢は、無数の環節に細分された、葉足動物の葉足に由来であることを示唆している[13]。また、神経根の発見によって、汎節足動物共通祖先鰓曳動物らしき神経根を持ち、緩歩動物と真節足動物の系統で二次的に喪失したことも示唆される[6]

他方、フキシャンフィア類をカナダスピスオダライアワプティアなどと共に、真節足動物のクレードに属し、大顎類のステムグループに位置するという少数派な知見もある[14][15]

頭部付属肢の対応関係編集

フキシャンフィア類の頭部付属肢に対する解釈、および他の節足動物との対応関係(相同性)は、長く議論されていた。以前は、触角とSPAsのどちらが先節由来[10]、更にSPAsを消化管の枝と見なす知見もあった[16]。しかしSPAsの関節肢的形質と脳の構造が判明して以降、下記の対応関係が有力視されるようになった[10]

分類群/体節(脳神経節) 先節
(前大脳)
第1体節
(中大脳)
第2体節
(後大脳)
第3体節
フキシャンフィア類 上唇/口下片 触角 SPAs 歩脚
Megacheira 上唇/口下片 大付属肢 歩脚 歩脚
大顎類 上唇/口下片 第一触角 第二触角 大顎
鋏角類 上唇/口下片 鋏角 触肢 歩脚
Artiopoda 上唇/口下片 触角 歩脚 歩脚
アノマロカリス類
触手 ヒレ ヒレ ヒレ

下位分類編集

2018年現在、6属8種のフキシャンフィア類が記載される[1]

脚注編集

  1. ^ a b c d e f g h i Ortega-Hernández, Javier; Yang, Jie; Zhang, Xi-guang (2018-07). “Fuxianhuiids” (English). Current Biology 28 (13): R724–R725. doi:10.1016/j.cub.2018.04.042. ISSN 0960-9822. https://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(18)30514-1. 
  2. ^ a b c d e f g Yang, Jie; Ortega-Hernández, Javier; Legg, David A.; Lan, Tian; Hou, Jin-bo; Zhang, Xi-guang (2018-02-01). “Early Cambrian fuxianhuiids from China reveal origin of the gnathobasic protopodite in euarthropods” (英語). Nature Communications 9 (1). doi:10.1038/s41467-017-02754-z. ISSN 2041-1723. https://www.nature.com/articles/s41467-017-02754-z. 
  3. ^ “Arthropod eyes: The early Cambrian fossil record and divergent evolution of visual systems” (英語). Arthropod Structure & Development 45 (2): 152–172. (2016-03-01). doi:10.1016/j.asd.2015.07.005. ISSN 1467-8039. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803915000638. 
  4. ^ a b c d e Yang, Jie; Ortega-Hernández, Javier; Butterfield, Nicholas J.; Zhang, Xi-guang (2013-2). “Specialized appendages in fuxianhuiids and the head organization of early euarthropods” (英語). Nature 494 (7438): 468–471. doi:10.1038/nature11874. ISSN 0028-0836. http://www.nature.com/articles/nature11874. 
  5. ^ a b Ma, Xiaoya and Hou, Xianguang and Edgecombe, Gregory D and Strausfeld, Nicholas J (2012). “Complex brain and optic lobes in an early Cambrian arthropod”. Nature 490 (7419): 258-261. doi:10.1038/nature11495. 
  6. ^ a b Fuxianhuiid ventral nerve cord and early nervous system evolution in Panarthropoda
  7. ^ Strausfeld, quoted in Will Dunham, "Sea creature fossil found with oldest-known cardiovascular system", Yahoo Bews, 7 April 2014: accessed 7 April 2014.
  8. ^ a b c Ortega-Hernández, Javier; Fu, Dongjing; Zhang, Xingliang; Shu, Degan (2018-02-19). “Gut glands illuminate trunk segmentation in Cambrian fuxianhuiids”. Current Biology 28: R146–R147. doi:10.1016/j.cub.2018.01.040. https://www.researchgate.net/publication/323267539_Gut_glands_illuminate_trunk_segmentation_in_Cambrian_fuxianhuiids. 
  9. ^ Anamorphic development and extended parental care in a 520 million-year-old stem-group euarthropod from China
  10. ^ a b c d e “Origin and evolution of the panarthropod head – A palaeobiological and developmental perspective” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 354–379. (2017-05-01). doi:10.1016/j.asd.2016.10.011. ISSN 1467-8039. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803916301669. 
  11. ^ a b Javier, Ortega-Hernández,. “Making sense of ‘lower’ and ‘upper’ stem-group Euarthropoda, with comments on the strict use of the name Arthropoda von Siebold, 1848” (英語). Biological Reviews 91 (1). ISSN 1464-7931. https://www.academia.edu/9363838/Making_sense_of_lower_and_upper_stem-group_Euarthropoda_with_comments_on_the_strict_use_of_the_name_Arthropoda_von_Siebold_1848. 
  12. ^ “Homology of Head Sclerites in Burgess Shale Euarthropods” (英語). Current Biology 25 (12): 1625–1631. (2015-06-15). doi:10.1016/j.cub.2015.04.034. ISSN 0960-9822. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982215004856. 
  13. ^ Jockusch, Elizabeth L. (2017-09-01). “Developmental and Evolutionary Perspectives on the Origin and Diversification of Arthropod Appendages” (英語). Integrative and Comparative Biology 57 (3): 533–545. doi:10.1093/icb/icx063. ISSN 1540-7063. https://academic.oup.com/icb/article/57/3/533/4093793. 
  14. ^ Aria, Cédric; Caron, Jean-Bernard (26 April 2017). “Burgess Shale fossils illustrate the origin of the mandibulate body plan”. Nature 545 (7652). doi:10.1038/nature22080. 
  15. ^ Aria, Cédric; Caron, Jean-Bernard (2017-12). “Mandibulate convergence in an armoured Cambrian stem chelicerate” (英語). BMC Evolutionary Biology 17 (1). doi:10.1186/s12862-017-1088-7. ISSN 1471-2148. PMC: PMC5738823. PMID 29262772. https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-017-1088-7. 
  16. ^ Waloszek, D.; Chen, J.; Maas, A.; Wang, X. (2005). “Early Cambrian arthropods – new insights into arthropod head and structural evolution”. Arthropod Structure and Development 34 (2): 189–205. doi:10.1016/j.asd.2005.01.005. 

関連項目編集

外部リンク編集