レンギョウ
レンギョウ(連翹)とは、広義にはモクセイ科レンギョウ属(学名: Forsythia)の総称(それらから品種改良で作られた園芸品種をも含める)。狭義には、レンギョウ属の種の一つ、学名 Forsythia suspensaの和名を指す。一般には広義の意味で称されることが多い。
レンギョウ属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Forsythia Vahl | ||||||||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
レンギョウ Forsythia suspensa | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
レンギョウ属(連翹属) | ||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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属名のForsythiaは、19世紀初頭にイギリスの王立植物園の監督官を務めた園芸家ウィリアム・フォーサイス(William A. Forsyth、1737年 - 1804年)に因む。
レンギョウ F. suspensa
編集レンギョウ(連翹[1]、学名: Forsythia suspensa (Thunb.) Vahl[2])は、モクセイ科レンギョウ属の落葉性低木広葉樹。別名、レンギョウウツギ(連翹空木)[2]。古名は、いたちはぜ、いたちぐさ。中国名は連翹(別名:黄寿丹)[2]。英名はゴールデンベル (golden bells, golden bell flower) 。
学名の種小名 suspensa(ススペンサ)は、枝が「垂れる」「懸垂」を意味する[3]。
和名のレンギョウは、漢名の連翹を音読みしたものであるが、実は中国で過去に異なる植物を指すものであった。中国原産[1]。中国で連翹とは、本来トモエソウ(学名:Hypericum ascyron、中国名:湖南連翹(大連翹)、黄海棠)もしくはオトギリソウ(学名: Hypericum erectum、中国名:小連翹)のことを指したが、これらどの実も薬用されていたこともあって、宋以降からは現在の山西省の南東部で大量に生産された現在のレンギョウの実が連翹と称して売られるようになり、ついにはレンギョウが連翹として認識されるに至った。明の『本草綱目』にあるレンギョウの実の挿絵は現在のレンギョウの実の形とはほぼ同じである[4]。現在の中国においては連翹と書くと日本と同様にForsythia suspensaのことを指すが[5][6]、河北省・貴州省や台湾など一部の地域ではトモエソウのことを連翹と呼ぶこともある[5]。
特徴
編集雌雄異株。
落葉広葉樹の低木[7]。繁殖力が旺盛で、よく繁る。株立ちして樹高は1 - 3 mまで育ち[8]、半つる性の枝は湾曲して伸び下に垂れ、地面に接触すると、そこからも根を出し新しい株ができる[9]。枝は竹のような節を持つ。また、枝の髄が早期に消失するため、節の部分を除いて中空になる。このことから“空の木”、レンギョウウツギ(連翹空木)という別名が付いた。この呼称は最初、本来の連翹(トモエソウ)との誤用に気付いた時、区別するために使われた。若い枝は陵があり、節以外は髄が中空になっている[1]。樹皮は灰褐色で、膨らんでいる皮目が多い[1]。冬芽は卵形や楕円形で枝と同色、枝先の頂芽はほぼ葉芽で、側芽(花芽)は枝に対生する[1]。葉痕は半円形で、維管束痕が1個つく[1]。
花期は早春(3 - 4月)[1]。まだ葉が芽吹く前、2 - 3 cmの黄色い花が、細い枝に密に多数開く[7]。開花時期は華やかに見える[1]。花弁は深く切れ込んだ4裂である[7]。その花の形から、英名はゴールデン・ベル(Golden Bells)という[8]。
その花が咲き終わる頃、入れ違うように緑色の葉が茂る[1]。葉は長さ3 - 10 cm、幅2 - 5 cmの広卵形で先が少し尖る[7]。葉縁にまばらな鋸歯がある)が対生に芽吹き、それが秋になると濃緑色、概憤色(くすんだ黄緑色)、紫色と順に変色し、最後に落葉する。
付いた果実は漢方薬(下記参照)として用いられる。種子を落とした後の果実は、冬も枝に残る[1]。
分布・生育地
編集中国・朝鮮原産[7]。日本への渡来は古く、渡来年代は不明であるが[7]、『出雲国風土記』や『延喜式』にもレンギョウの名前が見られる。薬用として平安時代初期に渡来したともいわれているが[7]、実際に渡来した時期は定かではなく、江戸時代前期に栽培の記録があることから、江戸時代だという説もある。
レンギョウ属
編集レンギョウ属(レンギョウぞく、学名:Forsythia)には、7種(アジアに6種とヨーロッパに1種)の原種、および幾つかの園芸用に交配された雑種がある。どの種も黄色い4弁の花が特徴的である。中国・朝鮮半島・ヨーロッパ各地でも多く植栽され、春を告げる花として知られている。
中国・朝鮮原産種
編集- レンギョウ(学名:Forsythia suspensa、中国名:黄寿丹) - 中国原産種。
- ギラルディアナ(学名:Forsythia giraldiana、中国名:和秦翹) - 中国原産種。
- シナレンギョウ(学名:Forsythia viridissima、中国名:金鐘花) - 中国原産種。株立ちして枝が立ち上がる樹形になる[1]。春に公園などで見られるのは、このシナレンギョウが多く、レンギョウ類では最もよく植えられている[1]。植栽されているのもののほとんどは、枝が刈り込まれている[1]。
- チョウセンレンギョウ(学名:Forsythia ovata (Forsythia koreana, Forsythia viridissima var. koreana)、朝鮮名:ケナリ(개나리)) - 朝鮮半島原産種。朝鮮半島ではカラムラサキツツジ(朝鮮名:チンダルレ(진달래))と共に、春の訪れを告げる花として親しまれている。
日本の公園や庭木などで「レンギョウ」として一般的に植栽されているのは、レンギョウ、シナレンギョウ、チョウセンレンギョウである。耐寒性耐暑性に優れているため、日本全国に分布している。大気汚染や病虫害にも強く、どんな土壌でもよく育つことから、庭木、公園、垣根に用いられることが多い。
これら3種はよく似ているが、幹を縦に切ると、レンギョウは芽の出る部分以外が中空、シナレンギョウは芽の出る部分を含み細かい梯子状の髄があり、チョウセンレンギョウは芽の出る部分以外に細かい梯子状の髄がある。また、レンギョウ、チョウセンレンギョウの枝は弓なりに長く伸び下垂するが、シナレンギョウは枝が直立し上向きに張って伸びる傾向があるため、園芸業界では、それぞれ「シダレレンギョウ(ツルレンギョウ)」「キダチレンギョウ」と区別して呼ぶことがある。
日本原産種
編集先述したように、日本で一般に植栽されているレンギョウ類の多くが、シナレンギョウ、チョウセンレンギョウと外来種である。しかし、日本にも一部の地域に自生している野生種がある。
- ヤマトレンギョウ(学名:Forsythia japonica) - 中国地方の石灰岩地に分布している。
- ショウドシマレンギョウ(学名:Forsythia togashii) - 瀬戸内海の小豆島の石灰岩地に分布している。
これら日本原産種は、他のレンギョウ類に比べて開花時期が4 - 5月頃と遅い。ヤマトレンギョウは葉に先立って花を咲かせ、ショウドシマレンギョウは葉の展開と同時期に独特の緑色を帯びた黄色い花を咲かせる。
この2種は、全国的にも限られた地域にしか分布しない固有種で、森林開発、人工造林、園芸採取などによって現在の生育地で絶滅すると野生状態では地球上から完全に消滅してしまうことになるため、(国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに準拠した)環境省のレッドリストによって、絶滅危惧種に指定されている。
ヨーロッパ原産種
編集園芸種
編集- インテルメディア(学名:Forsythia × intermedia) - 1880年にドイツで作出された。レンギョウとシナレンギョウとを交配させた。スペクタビリス(Forsythia x intermedia ’spectabilis’)などの栽培品種がある。花は大輪で多花性。ヨーロッパで広く栽植されている。日本で流通している切花の多くはこの品種である。
最近ではインテルメディアにさらに別の品種を交配させたり、また他にも多くの品種改良が行われ、様々な鑑賞用の品種が作出されている。
利用
編集薬用
編集漢方医学では「連翹」と呼ばれ、解熱剤、消炎剤、利尿剤、排膿剤、腫瘍・皮膚病などの鎮痛薬に用いる。成分にトリテルペン、モノテルペングリコシド、リグナンを含み、強い抗菌作用がある。成熟果実を一度蒸気を通したのち、天日で乾燥し用いる。日本薬局方においては、レンギョウまたはシナレンギョウの果実を用いている。
連翹が配合された方剤の例
名所
編集鎌倉市の明月院などがある。
文化
編集俳句
編集連翹忌
編集4月2日は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883年 - 1956年)の命日で、これを連翹忌とも呼ぶ。これは、高村が生前好んだ花[10]がレンギョウであり、彼の告別式で棺の上にその一枝が置かれていた[11]ことに由来する。
脚注
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 44
- ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Forsythia suspensa (Thunb.) Vahl レンギョウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月7日閲覧。
- ^ 辻井達一 2006, p. 177.
- ^ 謝宗万『古今薬用連翹品種的延続与変遷』。中医薬研究、1992年第3期、pp.37-39。
- ^ a b 中国植物誌
- ^ 藥用植物圖像數據庫 (香港浸會大學中醫藥學院)
- ^ a b c d e f g h 辻井達一 2006, p. 175.
- ^ a b 辻井達一 2011, p. 175.
- ^ 辻井達一 & 20006, p. 177.
- ^ “連翹忌(れんぎょうき) の意味”. goo辞書. 2020年2月9日閲覧。
- ^ “連翹忌(4月2日 記念日)”. 雑学ネタ帳. 2020年2月9日閲覧。
参考文献
編集- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、44頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 辻井達一『続・日本の樹木』中央公論新社〈中公新書〉、2006年2月25日、175 - 177頁。ISBN 4-12-101834-6。
- 茂木透 写真「レンギョウ属 Forsythia」『樹に咲く花:合弁花・単子葉・裸子植物』高橋秀男・勝山輝男 監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2001年、268-273頁。ISBN 4-635-07005-0。
関連項目
編集外部リンク
編集- "Forsythia Vahl" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2012年1月9日閲覧。
- "Forsythia". National Center for Biotechnology Information(NCBI) (英語).
- "Forsythia" - Encyclopedia of Life
- 波田善夫. “レンギョウ属”. 植物雑学事典. 岡山理科大学. 2012年1月9日閲覧。