天城山
天城山(あまぎさん)は、静岡県の伊豆半島中央部の東西に広がる山。天城山は連山の総称で、天城連山や天城山脈と称されることもある。日本百名山の一つ。
天城山 | |
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北から見た天城山 | |
標高 | 万三郎岳 1,406[1] m |
所在地 | 静岡県伊豆市・伊東市・賀茂郡東伊豆町・賀茂郡河津町 |
位置 | 北緯34度51分46秒 東経139度00分06秒 / 北緯34.86278度 東経139.00167度座標: 北緯34度51分46秒 東経139度00分06秒 / 北緯34.86278度 東経139.00167度[1] |
山系 | 伊豆半島 |
種類 | 成層火山 |
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プロジェクト 山 |
伊豆半島最高峰の万三郎岳(ばんざぶろうだけ 1,406m[1][注釈 1])、万二郎岳(ばんじろうだけ 1,299m)、遠笠山(とおがさやま 1,197m)等の山々から構成される。東西の山稜部は富士箱根伊豆国立公園に指定されている。
概要
編集天城山は第四紀の成層火山。80万〜20万年前の噴火で形成され、火山活動を終え浸食が進み現在の形になった。かつての山頂は浸食が深い南側にあったと考えられている[2]。遠笠山も含めて天城山とすることが多いが、火山学上では伊豆東部火山群に属し、天城山が活動を終えてからできた火山地形である。また、万三郎岳の西に位置する皮子平火口がおよそ3200年前に噴火し、北麓にかけてなだらかな斜面が形成されているが、これも伊豆東部火山群の活動に分類される[3]。
山名の由来
編集気候の節で述べたように天城山は多雨地帯であり、「雨木」という語が由来であるとする説がある[4]。また、 葉に多くの糖分が含まれているアマギアマチャ(天城甘茶 学名: Hydrangea macrophylla var.amagiana)という、ヤマアジサイに近い種類の植物があり、日本国内にはこの葉を乾燥して甘茶をつくり薬用や仏事に用いる風習が残る地方がある。そのアマギアマチャが伊豆の山地に多く自生しており、かつて天城山周辺の住民にも同様の風習があったために天城山の名になったのではないかという説もある[5][リンク切れ]。
気候
編集夏期には太平洋からの湿った風が、天城山にあたることで上昇気流となり、雨雲に発達するため雨が多く、年間降水量が4,000mmを超えることもある[6]。アメダス地点の平年値(1991年-2020年)は4,552.mmであり、気象庁の観測地点としては屋久島(鹿児島県)4,651.mm、えびの(宮崎県)4,625mmに次ぎ、国内第3位の降水量である。また、冬季には積雪することも珍しくない。
歴史
編集近世には徳川幕府の天領として天城山を韮山代官が管理してきた。山中のヒノキ・スギ・アカマツ・サワラ・クス・ケヤキ・カシ・モミ・ツガの9種は制木とされ(天城の九制木)、公用以外は伐採が禁じられていた[7]。
静岡県の安倍川上流の有東木地区よりワサビ栽培が伝えられ[8]、茶、シイタケと並ぶ豆駿遠三国の主要な特産物として、江戸でも流通し17世紀後半代には年貢としても納入されていた。明治期には畳石栽培が生まれ[8]、現在では一大産地となり天城のワサビは最高級ブランドとなっている。また、これも明治期に天城湯ヶ島地区にてシイタケの栽培法が確立し、一帯では現在でもシイタケの栽培が盛んである。
- 1907年(明治40年)、天城山の西側には下田街道が通り、天城峠は伊豆半島の交通の難所であったため、天城トンネルが掘られた。後に川端康成などの有名な小説に登場したためにトンネルは観光スポットとなっている。1970年(昭和45年)には自動車時代に適応した新天城トンネルが完成した。
- 1955年(昭和30年)3月15日、富士箱根国立公園に、天城山を含む伊豆半島地域が編入され、現在の富士箱根伊豆国立公園に名称が変更された。
- 1957年(昭和32年)12月10日、学習院大学の男子学生である大久保武道と、同級生女子の愛新覚羅慧生の2名が、大久保の所持していたピストルで頭部を撃ち抜いた状態の死体で発見された。女性が満州国皇帝の親族であることから、当時のマスコミ等で大きく報道された。この事件を天城山心中という。
- 1958年(昭和33年)9月27日、狩野川台風が伊豆半島を襲い、天城山に猛烈な豪雨をもたらし、多くのがけ崩れや狩野川の氾濫を起こし多数の死者を出した。
- 2012年(平成24年)5月3日、4時10分までの24時間に観測史上最大の649ミリの降水量を記録した[9][リンク切れ]。4月30日の降り始めから5月3日11時までの総雨量は789.0ミリだった[10]。
主な地形と峠
編集名称 | 標高 | 座標 | 備考 |
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1,197.3m |
北緯34度52分43.3秒 東経139度1分57.1秒 | 伊豆東部火山群のスコリア丘。 三等三角点 基準点名は、遠笠野[11]。 山名は山容に由来する。 | |
1,299m |
北緯34度51分35.6秒 東経139度1分14.8秒 | ||
1,325m |
北緯34度51分42.48秒 東経139度0分55.59秒 | アセビが群生し、トンネル状になっている。 | |
北緯34度51分41.96秒 東経139度0分36.47秒 | 万三郎岳との間にシャクナゲ群生地がある。 | ||
1,405.6m |
北緯34度51分45.9秒 東経139度0分6.2秒 | 天城山の最高峰。一等三角点 基準点名は、万城岳[12]。 | |
北緯34度51分41.2秒 東経138度59分44.2秒 | |||
1,360m |
北緯34度51分32.8秒 東経138度59分40.4秒 | ||
1,160m |
北緯34度51分29.24秒 東経138度59分09.45秒 | 皮子平へ下る登山道。 | |
北緯34度51分43.9秒 東経138度58分58.3秒 | 伊豆東部火山群の火口。 | ||
1,197.4m |
北緯34度51分16.9秒 東経138度58分25.4秒 | 三等三角点 基準点名は、白田峠[13]。 | |
1,173m |
北緯34度50分45.6秒 東経138度57分39.67秒 | ||
北緯34度49分50.4秒 東経138度56分4.7秒 | 天城トンネルがある。 |
自然
編集植生
編集天城山の稜線にはブナ林があり、中にはブナの巨木もみられる[14]。5月にはアマギシャクナゲ、6月にはアマギツツジの花が見頃になる[14]。
- 常緑広葉樹を主とする暖温帯林
標高600m以上の地帯
編集- 落葉広葉樹を主とする冷温帯林
人工林としてはスギとヒノキが、東麓では標高1,000m付近まで、北麓では800m付近にまで植林されている。
山腹、山麓の巨木
編集- 太郎杉
- 天城山中で最大の巨木[15]。老木には珍しく幼木をそのまま巨大にしたような整った樹型が特徴。
- 推定樹齢450年以上[15]、樹高53m[15]、幹周り約13.6m[15]、静岡県指定の天然記念物[15]、森の巨人たち百選[15]、所在地 静岡県伊豆市湯ヶ島 (地図)
- シラヌタの大杉(不知沼の大杉)
- 天城山の南麓にあるスギの大木で、太郎杉につぐ大杉として次郎杉とも呼ばれる。
- 幹周約8.6m、東伊豆町指定の天然記念物、所在地 静岡県賀茂郡東伊豆町大字奈良本 (地図)
- お化け杉
- シラヌタの大杉の近くにあり、異様なほどに多くの枝を持つスギの大木。千手観音杉とも。
- 幹周約5.4m、所在地 静岡県賀茂郡東伊豆町片瀬国有林 (地図)
動物
編集コルリやオオルリなど年間で64種の鳥類が確認されている[14]。シラヌタの池などはモリアオガエルの産卵地として知られ「シラヌタの池とその周辺の生物相」として静岡県天然記念物に指定されている[14]。
登山
編集天城山は著名な登山家である深田久弥に日本百名山の一座として選ばれ、登山シーズンには多くの登山客を集める。山稜は森林限界を超えていないため、登山道の大部分が広葉樹に覆われている。そのため、万二郎岳から馬の背に至る鞍部にある2箇所の岩場と、八丁池展望台、山体西部の青スズ台で展望が開ける程度である。最高峰である万三郎岳においてもわずかに北方が望めるほど。
万二郎岳と万三郎岳の間の馬の背と呼ばれる尾根には、登山道がアセビの樹林の中を通るアセビのトンネルがある[14]。また万三郎岳の北東側にはシャクナゲ群生地がある[14]。
なお、天城山は積雪があるため、冬期登山の場合はアイゼンが必要になることがある。
主な登山路
編集- 天城縦走路コース(天城峠 - 八丁池 - 戸塚峠 - 小岳 - 万三郎岳 - 万二郎岳 - 天城高原駐車場、17.5km)[14]。天城山の主稜を東西に歩く山頂へ至るルート。天城峠の西からは伊豆山稜線歩道に繋がり、達磨山などの伊豆半島の西北部の山稜へ歩くこともできる。
- 八丁池コース(上り御幸歩道、下り御幸歩道、下り八丁池歩道など)[14]。
- シャクナゲコース(天城高原ゴルフ場 - 万二郎岳 - 万三郎岳 - 天城高原ゴルフ場のシャクナゲ群生地などを周回するコース、8.4km)[14]。
- 皮子平コース(天城の秘境と呼ばれる皮子平にあるルートで、八丁池側、天城高原ゴルフ場側、筏場新田側の3ヶ所に入口がある)[14]。
皇族と登山
編集昭和天皇は1930年(昭和5年)6月に八丁池までの往復を歩き、この際に使用した登山道を御幸歩道と呼ぶようになった。八丁池にはこの登山を記念して「天蹕留蹤碑 (てんひつりゅうしゅうのひ)」と刻まれた記念碑が残っている。なお、昭和天皇は1981年(昭和56年)6月にも登山している。また、昭和天皇の孫である徳仁親王(後の今上天皇)も1982年(昭和57年)7月に天城山の縦走を行い、万二郎岳から万三郎岳、八丁池を抜けるコースを歩いた[5]。
ストックの弊害
編集環境省の環境カウンセラーで自然公園指導員が「両手に持つダブルストックが本格的な「格好良い」登山スタイルと勘違いをされている。ストックをなるべく使わない方が良い。膝の負担を減らすなどの効果はあるが、自身の体でバランスを取ることによって筋力も付く。特に若 い人は必要ない。」と指摘しているのである[16]。
関連作品
編集脚注
編集注釈
編集- ^ GNSS測量等の点検・補正調査による2014年4月1日の国土地理院『日本の山岳標高一覧-1003山-』における改定値。なお、旧版での標高は1,405m。
出典
編集- ^ a b c “標高値を改定する山岳一覧 資料1”. 国土地理院 2014年3月26日閲覧。
- ^ 出典:静岡大学教育学部総合科学教室 小山真人研究室「伊豆の大地の物語(35) 伊豆新聞連載記事(2008年4月27日)
- ^ 出典:静岡大学教育学部総合科学教室 小山真人研究室「伊豆の大地の物語(88) 伊豆新聞連載記事(2009年5月3日)
- ^ 出典:NHK 『新日本風土記』「伊豆 天城越え」 2012年11月9日放送
- ^ a b c 出典:千葉県森林インストラクター会 伊豆・天城山のブナ・ヒメシャラ林を訪ねる八丁池周辺の自然(昭和天皇行幸時の説明要旨) Archived 2005年5月24日, at the Wayback Machine.
- ^ 出典:気象庁 年間降水量 天城山
- ^ a b 出典:現地解説版より
- ^ a b とれたてぴちぴち伊豆育ち。ふるさとの特産品をご紹介① - 伊豆市、2012年11月11日閲覧
- ^ 出典:2012年5月3日14時08分 読売新聞
- ^ 出典:静岡地方気象台 平成24年4月30日から5月3日にかけての大雨に関する気象速報 (PDF)
- ^ “基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2016年4月26日閲覧。 “基準点コード TR35239205201,北緯 34°52′43″.9236,東経 139°01′56″.8591,標高 1197.23(m)”
- ^ “基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2016年4月26日閲覧。 “基準点コード TR15239203001,北緯 34°51′46″.2396,東経 139°00′06″.4913,標高 1405.63(m)”
- ^ “基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2016年4月26日閲覧。 “基準点コード TR35238272801,北緯 34°51′27″.8840,東経 138°58′41″.5596,標高 1197.35(m)”
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 「天城山ハイキングマップ」昭和の森・天城山自然休養林管理運営協議会 2021年6月26日閲覧
- ^ a b c d e f “天城の自然10選と探索マップ”. 伊豆の国市観光協会. 2021年12月19日閲覧。
- ^ “天城の自然環境(下) 荒れる登山道”. 伊豆新聞掲載 (2011年12月14日). 2023年7月23日閲覧。