武庫川

兵庫県の二級水系河川のひとつ

武庫川(むこがわ)は、兵庫県南東部を流れる河川の1つである。二級水系の本流である。流域面積は約500 km2(甲武橋地点より上流)であり、武庫川本川および45の支川・小支川の流路延長の合計は、約260 kmである[1]。上流部よりも中流部の方が、河床勾配が急であるという特異性が見られる[2]

武庫川
武庫川 2003年11月撮影
JR福知山線道場駅付近
水系 二級水系 武庫川
種別 二級河川
延長 66 km
平均流量 -- m³/s
流域面積 496 km²
水源 兵庫県丹波篠山市真南条
水源の標高 -- m
河口・合流先 大阪湾(兵庫県)
流域 兵庫県、大阪府
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地図外部リンク
Geoshapeリポジトリ 国土数値情報河川データセット
武庫川水系 280014 地図 武庫川水系
武庫川 2800140001 武庫川水系 地図 武庫川流路
丹波篠山市内にある武庫川の始点。真南条川と田松川の合流地点。

地理 編集

支流の田松川真南条川(さらに上流での呼称は龍蔵寺川)が、JR福知山線南矢代駅南方、天台宗松尾山高仙寺よりやや北側で合流した地点(兵庫県丹波篠山市真南条地区付近)を源としており(ページ右)、現地には武庫川源流の碑が建っている。田松川は明治8年(1875年)に加古川水系と武庫川水系をつなぐために開削された運河であり、篠山口駅東付近に両水系の分水界がある。蛇行を繰り返しながらも次第に南行し、三田盆地を潤したのち再び山峡に入り、武庫川渓谷を形成する。宝塚市街西方で大阪平野の北西端へ出て南流、下流域では尼崎市西宮市の境界を成しつつ瀬戸内海大阪湾)に注ぐ。

最終氷期までの武庫川は篠山川の下流であった。これは川代渓谷の標高が176 mであることと篠山盆地の堆積物を除いた基盤の丹波層群の基盤の標高が160 mであることから判明している。最終氷河期までの篠山川は傾斜の緩やかなことから排水が悪く、当野付近の基盤岩が武庫川に堆積し、さらに流れを堰き止めた。川代渓谷の誕生とともに排水は改善し、盆地に堆積されていた堆積土の侵食が始まる。武庫川の水は篠山川に奪われた結果、分水嶺は盆地南部に移動する。篠山川の流れは速くなり、盆地を侵食していった[3]

 
最終氷河期に基盤岩が武庫川に堆積した当野付近の武庫川源流部。かつてはこのあたりは源流ではなく、篠山川下流であった。

源流部では武庫川は小川だが、谷筋の田圃の間を流れながら周辺の山から流れ出る水を集めて次第に大きくなり、山間を湾曲しながら三田盆地に入る。広やかな三田盆地の田圃の間をゆっくり流れる間にも、支流からの水を集め川幅を広げる。三田市内の武庫川沿いの田圃では毎春レンゲの花が見られる。三田周辺の武庫川東岸側は人口の少ない地域で、上流側の支流には青野ダム、下流側の支流には千苅ダムの2箇所の上水道用貯水ダムがある。西側は最近特に住宅地として開発されてきた地帯で、武庫川にもかなりの下水が流れ込む。

三田盆地を抜けると急に山間部に入り、武庫川渓谷となる。渓谷入口で合流する支流の船坂川流域には鎌倉峡のような峡谷があり、百丈岩などの巨岩が聳える。羽束川と合流する地点には神戸市の千苅浄水場があり、千苅ダムから上水道用浄水をしているが、過去の水不足の際には緊急給水をこの武庫川の水から実施したこともある。武庫川は山間を蛇行しながら下ってゆくが、途中しぶきを上げるような急流も各所に見られる。途中の川岸には秘湯、武田尾温泉がある。このあたりに治水を主眼とした巨大なダム(武庫川ダム)を作る計画が持ち上がり、流域の住民との間で話し合いが行われていたが、2010年9月になって「ダム建設には合意形成や完成までに時間を要する」として、事実上計画は消滅した。なお、JR西日本福知山線の武田尾駅から生瀬駅方面の武庫川渓谷沿いには福知山線旧線跡が残り、現役当時の姿のトンネル鉄橋が多く、ハイカーらの人気が高かった。管理するJR西日本は旧線廃止から30年以上が経過し老朽化が著しいため、宝塚市や西宮市に対し、一旦はこのルートの閉鎖の打診したものの、その後JR西日本と地元自治体により安全対策工事と維持管理が行われ、すでに整備済みの宝塚市側の1.5㎞に加え、西宮市側の3.2kmも2016年11月15日に整備が完了し開放された[4]。 なお、渓谷中にある武庫川左岸に鎮座する渓谷で最も大きな岩石とされる「高座岩」及びその上流にある「溝瀧」では明治時代頃まで現在の伊丹市や尼崎市で農耕を営んできた農民らによる村々での雨乞いの風習が存在し、降雨がない干ばつが続いた年には「此の岩は近郷の信仰ある岩にして、旱魃にならば雨乞を執行する場所たり」「其の儀式は動物の生血を塗るにあり」「然らば天其の汚を厭ひ、洗い去らんが為めに雨を降らすといふ」「其の血は、武庫、川辺両郡は純白色の馬の血を塗るを例とす」と降雨を祈る特異な雨乞い儀礼が実在した。

渓谷を抜けると、宝塚市内で大阪平野に出る。この大阪平野への注ぎ口は扇状地のようになっている。宝塚歌劇団の本拠地である宝塚大劇場は、市街地の武庫川沿いから見ることができて、観光ダムの中央には宝塚観光噴水(ビッグ・フェニックス)が設置されるなど、いかにも行楽地といった趣である。なお、阪急電鉄宝塚駅と宝塚大劇場を結ぶ花のみちは、かつての武庫川の堤防跡を利用している。夏には河川敷で宝塚観光花火大会が開催されて、多くの人が訪れる。ここから河口までは河川敷の大部分が整備されており、休日には球技やジョギングなどを楽しむ人の姿が見られる。以前は宝塚観光ダムにより深度が確保されて、ボート遊びを楽しむ人々の姿も見られた。

宝塚市以南では武庫川本流から農業用の灌漑用水が無数に引かれ、宝塚、伊丹、尼崎、西宮各市内に縦横無尽に用水路が張り巡らされている。河口に至る迄に仁川、天神川、天王寺川といった支流と合流し、尼崎市と西宮市の間を流れる下流部に於いて、両岸に松並木の茂る高い堤防となり、川底が周辺の地面より高い天井川である。第一阪神国道武庫大橋の西宮側ではかつて関西を代表する高級ホテルだった旧甲子園ホテルがその優美な姿を見せている。尼崎市西大島(当時は武庫郡大庄村)の堤防上では、明治期旗振り通信が行われ、尼崎市金楽寺の電報電話局別館と西宮市六湛寺の市役所前とを中継した。阪神電鉄本線より南の最下流部は汽水域であり、ハゼ釣りの名所として知られる。

由来 編集

奈良に都が置かれていた奈良時代に、都から見て武庫川は向こう側ということから「武庫川」と呼ばれるようになった。

流域の自治体 編集

兵庫県
丹波篠山市三田市神戸市北区西宮市宝塚市伊丹市尼崎市
大阪府
能勢町(天王地区)

現状と課題 編集

武庫川では、下流部築堤区間の流下能力が低い区間の安全性の向上が課題である。近年では人口資金が高度に集積しており、全国想定氾濫区域内人口では武庫川が平成20年度第8回河川現況調査より約107万人で全国第10位である。また、下流部築堤区間は、堤防により洪水氾濫を防ぐ築堤区間となっており、仁川合流点より上流の振込区間とは違い、堤防が壊れてしまうと近くには阪神電鉄武庫川駅兵庫医科大学病院などがあり甚大な被害が予想される。

昭和58年の台風10号を機に昭和62年から河川改修事業により河道掘削を行い、平成21年3月に下流部築堤区間の整備が終了した。その結果、低い河口約3㎞付近の流下能力は1.7倍に向上した。[4]

対策 編集

近年、集中豪雨が多発している。平成21年8月には、兵庫県西・北部豪雨災害が発生しており、武庫川でも、このような豪雨に備え、洪水に対する安全度の向上を被害を抑えるために早期に図る必要がある。一方、これまでの治水対策は、流域に降った雨水を川に集め、海まで早く安全に流すことを基本に行われてきた。しかし、都市化の進展に伴う流出量の増大、市街地での河道拡幅の難しさの増大など、通常の河川改修による対応に限界があり、あまり進行していないのが現状である。

このことから、従来の河川改修等を基本とする「河川対策」と合わせ、流域内の保水・貯留機能の確保等の「流域対策」及び、水害が発生した場合でも被害を小さくする「減災対策」を組み合わせた[5]

支流 編集

括弧内は流域の自治体

  • 真南条川(丹波篠山市):事実上の最上流での武庫川の本流。さらに上流では龍蔵寺川と名が変わる。
  • 田松川(丹波篠山市):明治8年になって開削された運河で、篠山川を介して加古川とつながっている。
  • 波賀野川(丹波篠山市)
  • 天神川(丹波篠山市)
  • 相野川(三田市)
  • 内神川(三田市)
  • 青野川(三田市):中流にダム湖の千丈寺湖がある。
  • 黒川(三田市)
  • 大池川(三田市)
  • 池尻川(三田市)
  • 成谷川(三田市)
  • 山田川(三田市)
  • 有馬川(神戸市北区、西宮市):上流に有馬温泉がある。
    • 有野川(神戸市北区):有馬川の支流。
  • 船坂川(西宮市、神戸市北区):鎌倉峡や百丈岩など、渓谷の趣に溢れている。
  • 羽束川大阪府豊能郡能勢町丹波篠山市三田市宝塚市、神戸市北区):最上流に籠坊温泉、下流に千苅貯水池がある。
  • 波豆川(三田市、宝塚市、神戸市北区)
  • 川下川(宝塚市、神戸市北区):源流には兵庫県の天然記念物で兵庫県で最も大きな丸山湿原があり、途中には川下川ダムがある。
  • どん尻川(西宮市)
  • 名塩川(西宮市)
  • 大多田川(西宮市):上流に奇勝蓬萊峡を擁する。
  • 荒神川(宝塚市):清荒神清澄寺境内を流れ、武庫川に注ぐ。
  • 大堀川(宝塚市)
  • 天王寺川(宝塚市、伊丹市、尼崎市):中山を源流とする。支流の天神川と併せ天平年間に僧行基により開削された用水路
  • 逆瀬川(宝塚市)
  • 仁川(西宮市、宝塚市):六甲山系に発している。中流から芦有ドライブウェイ沿いになり地図上の六甲隧道の上標高750m辺りを源流としている。この仁川によって下流は宝塚市と西宮市の市境になっており中流・上流は西宮市である。
  • 枝川(西宮市):現在の甲子園口駅南東で分流し大阪湾へ注いでいたが、大正期(当時は武庫郡鳴尾村)に廃川。その跡地を阪神電気鉄道が開発したのが、高級住宅地としてしられる西宮七園の一つであり、そして野球の聖地として名高い阪神甲子園球場が所在する、甲子園地区である。
  • 昆陽井(伊丹市)武庫川から取水し伊丹市西部を灌漑する用水

並行する交通 編集

鉄道 編集

  • JR西日本福知山線(南矢代駅 - 藍本駅間、広野駅 - 宝塚駅間) - 藍本駅 - 広野駅間は武庫川は路線の東側に大きく蛇行し離れている。現JR福知山線の生瀬駅 - 道場駅間は、阪鶴鉄道として開通したときから、国鉄時代末期の1986年11月1日に同線新三田駅以南が複線化されるまでほぼ武庫峡に沿ったルートを取っており、風光明媚な車窓が楽しめる区間として知られていた。現在同区間はトンネルを多用した新線に切り替わっており、ほとんど峡谷を眺めることはできない。非電化時の廃線跡は武庫川沿岸の各所に残っており、生瀬駅 - 武田尾駅間では一部整備されている箇所があるが、武田尾駅以北では橋梁が外されていたり、トンネルが閉鎖されていたりして探訪には適さない。
  • 阪急電鉄今津線(宝塚駅 - 宝塚南口駅間)- 車窓から川を眺めることができるのは左記の区間のみであるが、宝塚南口駅 - 今津駅間でも約2 kmほどの間隔で並行している。
  • 阪神電気鉄道武庫川線(全線) - 武庫川駅 - 洲先駅間では武庫川の堤防脇を走る。阪神電気鉄道本線の武庫川駅は、武庫川にかかる橋梁上にホームがある珍しい駅である。駅舎も東岸の尼崎市、西岸の西宮市の両方にある。なお、同駅から南下する阪神武庫川線のホームは、西宮市方の堤防脇にある。

道路 編集

主な橋梁 編集

流域の観光地 編集

道場駅下車
武田尾駅下車

脚注 編集

  1. ^ [1]
  2. ^ 日本水環境学会関西支部川部会(編集)「関西の川歩き 里の川をめぐる散策ブック」神戸新聞総合出版センター(2018年6月)ISBN978-4-343-00998-2、242ページ
  3. ^ [2]
  4. ^ http://www.nishi.or.jp/print/0003998700030002500205.html
  5. ^ [3]

関連項目 編集