トリカブト

日本三大有毒植物の一つ

トリカブト(鳥兜・草鳥頭、学名:Aconitum)は、キンポウゲ科トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。スミレと同じ「菫」と漢字で表記することもある。

トリカブト属
Torikabuto 01.jpg
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: トリカブト属 Aconitum L., 1753
英名
monkshood
  • 本文参照

概要編集

ドクウツギドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされ[1]、トリカブトの仲間は日本には約30種が自生している。花の色は紫色のほか、白、黄色、ピンク色など。多くは多年草である。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。トリカブトの名の由来は、が古来の衣装である鳥兜烏帽子に似ているからとも、の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われる。英名の "monkshood" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味。花言葉は「人嫌い」・「復讐」などなど。

塊根を乾燥させたものは漢方薬として用いられ、烏頭(うず)または附子生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに付いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある[2]

毒性編集

 
トリカブトの毒の一つであるアコニチン

比較的有名な有毒植物。主な毒成分はジテルペンアルカロイドアコニチンで、他にメサコニチンアコニンヒパコニチン (hypaconitine)、低毒性成分のアチシンのほか、ソンゴリンなど[3]を全草(特に根)に含む。採集時期および地域によって毒の強さが異なる[4][5]が、毒性の強弱にかかわらず野草を食用することは非常に危険である。

食べると嘔吐・呼吸困難、臓器不全などから死に至ることもある。経皮吸収経粘膜吸収されるため、素手で触った場合は手洗いが推奨される。経口から摂取後数十秒で死亡する即効性がある。半数致死量は0.2グラムから1グラム。トリカブトによる死因は、心室細動ないし心停止である。下痢は普通見られない。特異的療法も解毒剤もないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている[6]

芽吹きの頃にはニリンソウゲンノショウコヨモギモミジガサなどと外見が似ているため、誤食による中毒事故が起こる(死亡例もある)。株によって、葉の切れ込み具合が異なる(参考画像を参照)。花粉にも中毒例があるため、養蜂家はトリカブトが自生している地域では蜂蜜を採集しないか開花期を避ける。また、天然蜂蜜による中毒例が報告されている[7]

狩猟・軍事利用編集

古来、毒矢に塗布するなどの方法で、狩猟・軍事目的で北東アジア・シベリア文化圏を中心に利用されてきた。アメリカのエスキモーもトリカブトの毒矢を使用したことが、1763年のペテルブルクへの報告で知られる[8]アイヌ語ではトリカブトとその根をスルク(suruku)と呼び、アマッポに使用した[9]。 詳細は毒矢を参照。

医療用編集

漢方アーユルヴェーダなどの伝統医療で使用される。

漢方薬編集

 
附子(生薬)

漢方ではトリカブト属の塊根附子(ぶし)と称して薬用にする。本来は、塊根の子根(しこん)を附子と称するほか、「親」の部分は烏頭(うず)、また、子根の付かない単体の塊根を天雄(てんゆう)と称し、それぞれ運用法が違う。強心作用や鎮痛作用があるほか、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である[4]

しかし、毒性が強いため、附子をそのまま生薬として用いることはほとんどなく、修治と呼ばれる弱毒処理が行われる[10]

附子が配合されている漢方方剤の例編集

COVID-19の治療薬として編集

2021年4月16日、キルギス政府のアリムカディル・ベイシェナリエフ保険大臣はトリカブトの塊根からの抽出物に新型コロナウイルス感染症への治療効果があると発表した。既に何百人かの患者に同意の元で処方されたとしており、記者会見の場で同じものを飲んで安全性をアピールした[11][12]

主な種編集

YListおよび門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』による[13]

レイジンソウ亜属 subgen. Lycoctonum
トリカブト亜属 subgen. Aconitum

北半球の寒帯から暖温帯に300種以上が分布し、日華植物区系区に多くの種がみられる[13]

疑似一年草編集

トリカブト属のうち、レイジンソウ亜属 Subgen. Lycoctonum に属する種は多年草であるが、トリカブト亜属 Subgen. Aconitum に属する種は、多年草のなかの疑似一年草に分類される。地上部と地下の母根(塊根、「烏頭(うず)」)はその年の秋に枯死するが、母根から伸びた地下茎の先に子根(嬢根、「附子(ぶし、ぶす)」)ができ、その子根が母根から分離して越冬芽をもち、翌年に発芽し開花する。地上部と地下の母根から見れば一年草であるが、子根が翌年にも生存するため、擬似一年草のカテゴリーにはいる[13]。分離型地中植物とも呼ばれる[15]

観賞用のトリカブト編集

ハナトリカブトは観賞用として栽培され、切花の状態で販売されている。しかし、その全草に毒性の強いメサコニチンが含まれて取り扱いには危険が伴うことから、子供やペットが触ったり口に入れたりするなどによる事故が起こらないよう、注意が必要になる。

参考画像編集

附子・トリカブトが出てくる作品編集

推理ものの小説、漫画、テレビドラマなどでは定番のアイテムである。以下に代表例を記す。

  • 東海道四谷怪談』 - お岩が飲まされた毒は附子であるとされている[2]
  • 『修道士の頭巾』 - イギリスの歴史ミステリー『修道士カドフェル』シリーズの一つ。主人公が痛み止めの塗薬として調合したものが登場。タイトルの「MONK'S-HOOD」はトリカブトの英名である。
  • 附子』の名は小名狂言の演目名としても知られる。
  • 八つ墓村』 - 作中で金田一耕助は、八つ墓村に群生しているカブトニクが連続殺人に用いられたと推理した。
  • ゴールデンカムイ』 - アイヌ民族の武器として登場。作中では矢じりにトリカブトの根を固めたものを装填して使っていた。
  • 琥珀色の遺言』 - 事件の発端となった影谷洸太郎氏殺害事件で、影谷氏がトリカブトの入った薬草茶を飲んで死亡した。
  • 魔人ドラキュラ』 - 吸血鬼の嫌がるものとしてトリカブトが登場する。

脚注編集

  1. ^ 古泉秀夫 (2007年8月17日). “毒芹(water-hemlok)の毒性”. 医薬品情報21. 2014年8月31日閲覧。
  2. ^ a b 山崎,昶 『ミステリーの毒を科学する : 毒とは何かを知るために』講談社ブルーバックス〉、1992年。ISBN 4061329197 
  3. ^ トリカブトの毒性 (2007/12/04) 医薬品情報21
  4. ^ a b 和田浩二「トリカブト属ジテルペンアルカロイドのLC-APCI-MSによる構造解析と末梢血流量増加作用について」『藥學雜誌』第122巻第11号、日本薬学会、2002年11月1日、 929-956頁、 doi:10.1248/yakushi.122.929NAID 10010204168
  5. ^ 坂井進一郎、高山広光、岡本敏彦「高尾(東京都)産トリカブト塩基成分について」『藥學雜誌』第99巻第6号、日本薬学会、1979年6月25日、 647-656頁、 NAID 110003653012
  6. ^ 岩手医科大学医学部-救急救命情報(トリカブト)
  7. ^ 高田清己、「はちみつによる食中毒」『食品衛生学雑誌』 Vol.34 (1993) No.5 p.443-444, doi:10.3358/shokueishi.34.443
  8. ^ L.ベルグ 『カムチャツカ発見とベーリング探検』龍吟社、1942年、133頁。 
  9. ^ アイヌとトリカブト” (2005年7月). 2022年4月20日閲覧。
  10. ^ 鹿野美弘、縦青、小松健一「漢方エキス製剤の品質評価について(第6報)呉茱萸の修治によるアルカロイド成分含量変化について」『藥學雜誌』第111巻第1号、日本薬学会、1991年1月25日、 32-35頁、 doi:10.1248/yakushi1947.111.1_32NAID 110003649175
  11. ^ Four Patients Being Treated In Kyrgyz Hospitals For Poisoning With Toxic Root Promoted By President”. RadioFreeEurope/RadioLiberty. 2022年4月20日閲覧。
  12. ^ 日高奈緒 (2022年4月17日). “トリカブトの溶液でコロナ治療? WHO「勧めないで」”. 朝日新聞. 2022年4月20日閲覧。
  13. ^ a b c 門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』pp.120-131
  14. ^ 門崎允昭 『アイヌの矢毒トリカブト』北海道出版企画センター、2002年。ISBN 4832802089 
  15. ^ 清水建美 (2001) 「草本」『図説 植物用語事典』pp. 20-21

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集