糠
糠(ぬか)とは、穀物を精白した際に出る果皮、種皮、胚芽などの部分のことである。ブラン(英: Bran)とも呼ばれる。

概要編集
イネ科植物の果実は穎果と呼ばれる形態で、表面を一体化した果皮と種皮で硬く覆われている。これを除去する過程が精白で、この際得られる穎果の表層部分が糠である。日本では、歴史的に米から出るものが身近であったため、単に糠といえば「米糠」を指す場合が多い。米の栄養素の95%は米糠中に存在する[1]。
他に、大麦の糠は「麦糠」、小麦の糠は「ふすま(麬)」という。燕麦の糠は、オートブランOat branという。多くの穀物では穎果の外層が胚乳よりももろいため、精白に際して杵や棒で搗くなどして表面に衝撃を与える(搗精)ことで糠だけが砕けて胚乳から剥がれる。これをふるいわけて分離する。小麦の場合は胚乳のほうが穎果の外層よりももろいため、穎果全体を丸ごと砕いて製粉するときに細かく砕けず粗大片として残るふすまをふるいわけて分離する。
同じイネ科のトウモロコシは、大きな胚乳の回りの果皮が厚く、収穫から日数が経過したものは乾燥・硬化して除去がさらに困難となるため、そのまま挽いて糠ごと粉にして食用とする(コーンフレークなど)。グルテンを含まず粘性がないので、中南米ではニシュタマリゼーションと呼ばれるアルカリ処理を行ってパン生地のような粘性とナイアシン吸収性をもたせ、これを挽いて糠ごと粉にしたマサを作って食用(トルティーヤなどが知られる)とする。
利用編集
食品としての利用編集
単品では使用されることが少なく、油分が多いことから油(米ぬか油)を絞る、あるいは栄養価が高いことから漬物の一種であるぬか漬けの「ぬか床(ぬかみそ)」として使用される。精白せずに玄米や全粒粉といったかたちで、糠ごと穀物を食べることもある。また、タケノコの調理をする際に行うあく抜きと鮮度保持のための下茹での際に使用する[2]。ビタミンB群を多く含むため、米糠は明治期に脚気に効果あるとされた。この報告は正しかったが、当時の識者からは嘲笑で迎えられた。
福岡県北九州市の小倉・門司地区や行橋市など旧小倉藩に属する地域では、鰯や鯖などの青魚をぬか床(糠味噌)その他の調味料で煮るぬか炊き(北九州では「じんだ煮」と称する[3]。「じんだ」はぬかみその意の古語が方言化したもの)がポピュラーな郷土料理となっている。
現代では「ぬかみそ」と言えばぬか床のことであるが、古来は大豆や、麹などと合わせて醸造された「ぬかみそ」が現代の味噌のように直接食用とされていた。「ぬか炊き」はその名残である。現在、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が含まれている点[4]が見直され、特に小麦ふすまを「ブラン」と呼んで健康食品等に利用する例も増えてきている。
洗剤としての利用編集
日本では合成洗剤が普及するまで、米糠は洗剤としても広く用いられていた[5]。米糠に含まれるγグロブリンというタンパク質が界面活性剤の役割を果たしているとされている。布袋に包んで、柱や床を磨き上げるなどの掃除にも利用された。
飼料・培養基としての利用編集
脱脂した米糠は家畜や家禽の飼料に配合されることがあるほか[6][7]、鋸屑と米糠を混ぜたものはキノコ栽培の培養基として活用されている[8]。
工業製品としての利用編集
近年では脱脂した米ぬかを原料するRB(Rice Bran:米ぬか)セラミックなども開発されている[9]。軽量ながら高い強度と硬度を持ち、優れた耐摩耗性、低摩擦特性があるため無潤滑のすべり軸受などに利用され、すばる望遠鏡の赤外線分析装置の可動部にも採用されている。その他にもゴムに混ぜる事でウェット面でも耐滑性が得られる事からRBセラミックをゴム底に配合した靴やトレッドゴムに配合した自転車用タイヤなどが製品化されている。
糠と動物編集
主な成分編集
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 1,723 kJ (412 kcal) |
48.8 g | |
食物繊維 | 20.5 g |
19.6 g | |
飽和脂肪酸 | 3.45 g |
一価不飽和 | 7.37 g |
多価不飽和 | 5.90 g |
13.4 g | |
ビタミン | |
チアミン (B1) |
(271%) 3.12 mg |
リボフラビン (B2) |
(18%) 0.21 mg |
ナイアシン (B3) |
(231%) 34.6 mg |
パントテン酸 (B5) |
(89%) 4.43 mg |
ビタミンB6 |
(252%) 3.27 mg |
葉酸 (B9) |
(45%) 180 µg |
ビタミンE |
(69%) 10.4 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 7 mg |
カリウム |
(32%) 1500 mg |
カルシウム |
(4%) 35 mg |
マグネシウム |
(239%) 850 mg |
リン |
(286%) 2000 mg |
鉄分 |
(58%) 7.6 mg |
亜鉛 |
(62%) 5.9 mg |
銅 |
(24%) 0.48 mg |
セレン |
(7%) 5 µg |
他の成分 | |
水分 | 10.3 g |
水溶性食物繊維 | 2.2 g |
不溶性食物繊維 | 18.3 g |
ビオチン(B7) | 38.2 µg |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
脚注編集
- ^ 門田, めぐみ (2005) (日本語), 米糠成分の有効利用(企業のページ), 公益社団法人 日本ビタミン学会, doi:10.20632/vso.79.10_509 2020年3月18日閲覧。
- ^ “実は簡単!たけのこのアク抜き&保存のコツ” (日本語). Vegeday. 2020年3月18日閲覧。
- ^ “じんだ煮(JA北九)|保存食・常備菜|JAグループ福岡”. www.ja-gp-fukuoka.jp. 2020年3月18日閲覧。
- ^ “小麦の栄養と機能”. 日清製粉グループ. 2020年1月30日閲覧。
- ^ 生活向上委員会 『これで解決!おばあちゃんに聞く生活の知恵』 SMART GATE Inc.、2015年6月。
- ^ 佐藤裕子,飯野 幸弘,沼澤穂奈美,小松正尚「飼料用籾米と脱脂米糠の給与が「やまがた地鶏」の生産性に及ぼす影響」『山形県農業研究報告(Bulletin of Agricultural Research in Yamagata Prefecture)』第10巻、山形県農業総合研究センター、2018年3月、 69-76頁。
- ^ 下郡洋一郎, 浦野松幸「人工飼料原料の可消化粗蛋白質含有率と代謝エネルギー」『日本蚕糸学雑誌』第57巻第5号、社団法人日本蚕糸学会、1988年、 393-397頁、 doi:10.11416/kontyushigen1930.57.393。
- ^ Ito, Hitoshi; Sato, Tomotaro (1975). “[No title found”]. NIPPON SHOKUHIN KOGYO GAKKAISHI 22 (8): 401–407. doi:10.3136/nskkk1962.22.401. ISSN 0029-0394 .
- ^ “研究紹介 | 東北大学大学院 工学研究科 堀切川・柴田/山口(健)研究室”. www.glocaldream.mech.tohoku.ac.jp. 2020年3月18日閲覧。
- ^ “壁に穴、クマ食害か 米ぬか食い荒らされる、秋田市河辺”. 秋田魁新報 (2019年6月20日). 2019年6月18日閲覧。
- ^ “花巻のバラ園 クマに米ぬか食べられる/岩手”. ibcニュース (2019年6月6日). 2019年6月18日閲覧。
- ^ 文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」