家畜(かちく、: domesticated animal[1], livestock[2], domestic animallive stock[3])とは、ヒト(人間)がその生活に役立つよう、野生動物wild animal)であったものを馴化させ、飼養し、繁殖させ、品種改良したものをいう[4]哺乳類鳥類爬虫類両生類魚類のほか、無脊椎動物もその範疇にある[注 1]

古代エジプト壁画に描かれた役畜としての(タウリン系牛)。

利用目的により、農用動物英語farm animal)・愛玩動物英語:pet animal)・実験動物英語:laboratory animal)の3種に大別できる[3]。また、狭義の一つでは、農業生産に直接的に関わる農用動物のみを指す[3](※農用動物は、畜産物を生産する『用畜』と[5]、労働力として利用する『役畜』[6]に大別される[3])。さらに別の狭義では、哺乳類の家畜だけを「家畜」という[4]。また、鳥類は家禽(かきん)と呼び分ける[7][4]のが日本語での通例である。

野生であったものが家畜に変わること、および(ヒトが)家畜に変えることは「家畜化」といい、どちらも「家畜化する」という形で活用する。強制力を強調する場合は「家畜化される」と表現する。

なお家畜動物が再野生化する場合もある(feral animal、rewild animal)。例えば、野猫en:Feral horse(例:御崎馬)などがある。

ブタの祖先とされるイノシシ

定義編集

 
日本の養牛-肉牛
 
日本の乳牛飼育場

家畜(かちく)とは、その生産物(毛皮労働力など)をが利用するために馴致・飼育している動物を指す。鳥類のみを指した場合は家禽(かきん)と呼ぶ。この用途の動物については、近年では「産業動物(経済動物)」という呼称が一般化しつつあり、家畜の存在は社会基盤の1つとして認識されている。また、国の法令でも「産業動物の飼養及び保管に関する基準」[8]があり、ここでの産業動物の定義として「産業等の利用に供するため、飼養し、又は保管しているほ乳類及び鳥類に属する動物をいう。」としている。

 
日本の養豚-豚

英語 "domesticated animal" は「飼い慣らされて人間環境に適合した動物」を意味し[1]家庭用に品種改良をされた動物も含まれる。イヌネコのようにペットとしての一面があるものや、キンギョのようなペットは、品種改良によって野生種では生存不可能あるいは繁殖不可能な形質をもって固定された品種も多いため、「家畜」に含まれるが、本義に「人間環境に適合させた動物」とあるように悪い語意は無い。さらには、家畜として一般には認識されている動物種がペットとして飼育されることもあり、これらから愛玩動物(いわゆるペット)や鑑賞用の動物を含めるとのする意見もある。そもそも愛玩には玩具のような物を指す意味はない。また飼い主にとって、対人関係と同様の愛情を注ぐペットと、そうでない家畜の認識の違いは明瞭である。しかし、それは一般の認識とは少なからず乖離が生まれることが多く、それは家畜に対しても同様とする意見もあり、認識の乖離は深刻な問題となることがある。さらに「」の字には「弄ぶ」「慰み物にする」[9]などネガティブな連想を含み、さらにはネグレクト虐待の概念と併せて社会問題化することがある。

 
日本の養鶏-肉用鶏

このようなことを避けるため、定義には法律や語彙を越えたコンセンサスが必要となる。最も厳密に定義すると、家畜とは、単なる馴致や生産物の利用だけでなく、家畜化の過程で野生種と比較して体形をはじめとする外見が変化し、動物が生み出す生産物や、個体そのものの繁殖も含めた全ての生命維持活動を利用する事に特化し、人の管理下に置かれるようになった哺乳類鳥類を指す。そして人間が利用する動物の中で、愛玩動物キンギョインコなどのペット)は除かれる。その見地からは、ハチカイコなど一部の昆虫が定義の中に含まれている。一例として、家畜伝染病予防法の第2条(「家畜伝染病」の定義)で、伝染性疾病の種類「腐蛆病」・家畜の種類「セイヨウミツバチ」が含まれている。またこの見地からは、一部の魚介類(マダイカキアコヤガイなど)や爬虫類スッポンヘビワニ)は、人が食用や薬用、皮革など工業用に利用するために養殖されており、同義の動物ではあるが、これら変温動物や前述のハチを家畜と呼ぶことは少なくなる。同様に、人間の飼育下で繁殖させた動物でなく、シカキジイノシシなど食用に供するために野生動物を捕獲したならば、保管を目的に一時的に飼育したとしても家畜には含めない。したがって、野生動物を捕獲したものであっても、個体を食肉以外の目的で飼育していれば愛玩動物には含まれる可能性はあり、それを繁殖させれば広義の家畜に含まれる可能性がある(ただし日本では鳥獣保護法に抵触する)。

一例として、インドゾウは人間の飼育下での繁殖が難しく、飼育されている個体は野生動物を捕獲したものがほとんどである。しかしながら長命であり、人間の管理下で繁殖した他の家畜よりも、はるかに長い期間を人間の飼育下で過ごす。これを家畜に含めるかどうかは異論がある。ただしインドゾウが実用に供されたのは過去の話であり、現在では愛玩動物となっている[要出典]

家畜化の歴史編集

最も古い家畜は、イヌである[10]タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)が家畜化されたという点ではほぼ定説となっているが、その地域と時期については定説が確立していない。

ヤギヒツジブタ紀元前8000年頃の西南アジアで、それぞれパサンムフロンイノシシから家畜化されたといわれる。ブタは中国でも独自に家畜化されている。ウシは、タウリン系牛(コブウシ以外のウシ)が紀元前6000年頃の西南アジアで、コブウシインドで、それにおそらく北アフリカオーロックスから家畜化されている。ウマ紀元前4000年頃のウクライナで、ロバは同時期のエジプトで、スイギュウも同時期の中国で家畜化されている。リャマアルパカ紀元前3500年頃のアンデスで、グアナコビクーニャから家畜化された。ヒトコブラクダ紀元前2500年頃のアラビア半島で、フタコブラクダも同時期の中央アジアで家畜化されている。ネコに関しては、北アフリカネズミを駆除する目的で飼い始めたと考えられている。

大型の動物では、その他にトナカイヤクバンテン(バリ牛)・ガウルが古代に家畜化をされている。現代でもイランドシマウマを家畜化しようという試みはあるが、これら以降に(狭義の)家畜化がなされた大型の動物は存在しないのが実情である。インドゾウは使役目的で古くから使われているが、人間の飼育下での繁殖はほとんど行われず、専ら野生の個体を捕獲して調教を行ってきた。大型哺乳類のうち家畜化できたといわれているのは15種程度と言われている。

1950年代半ばからロシアの神経細胞学者リュドミラ・ニコラエブナ・トルットとロシア科学アカデミー遺伝学者ドミトリ・ベリャーエフキツネを家畜化する実験(人為選択による馴致化実験)を行った[11][12]1960年代半ばの4世代目頃になると人に懐くようなり見た目や行動も変化が出てきた[13][14][15]

19世紀に入って家畜は、監禁を押し進められて、徐々に都市から周辺へと移動させ人間と家畜の空間を分離させることが進んできた[16]。なお、イヌをレストランに連れていったり、公共交通機関で移動する、盲導犬がいる等、家畜と人間が空間を共有することで、彼らの取り扱いについての政治的な熟議のきっかけとなるという指摘がある[16]

日本列島編集

考古学的にはイヌ、ウマ、ウシ、ネコなどの動物は、先史時代にユーラシア大陸で家畜化され、列島に入ってきたと推定されている。その家畜史は、沿海州、中国、朝鮮半島、台湾などと関連があったと推察できる[17]

縄文時代には狩猟犬としての縄文犬が存在し、食用のためイノシシを訓化して飼養することも行われていたと考えられている。弥生時代稲作農耕の導入に伴い、家畜化されたブタニワトリが大陸から導入され、縄文犬とは別系統の弥生犬も導入される。古墳時代にはウマが導入され、古代にはウシが登場する。屠児という言葉があり、これは屠殺業者も示していた(『和名類聚抄』:牛馬を屠り肉を取り鷹雞の餌とするの義なり)。

日本書紀』には「猪使連」という職が記述されており、古代には猪が飼育されていたという。

特徴編集

家畜動物には、野生のものには見られない、ある程度共通した特徴が見られる。

  • 形質が非常に多様化すること。特に非適応的な形態のものが現れること。
  • 繁殖期が延長すること。
  • 病気等への耐性の低下。
  • 繁殖等への人の手助けが必要になるなど、自立性の低下。

このような現象も家畜化と呼ばれる。

また、このような現象は、ある程度人間にも共通する。これは、人間が文明を築く内に、自らもその環境下での生活に適応した結果と考えられ、このことを自己家畜化という。

なお、ミツバチやカイコは昆虫であり、通念上これらを家畜と呼ぶ事は少ないが、上記の家畜の定義に適い、この項に示される性質を共有する。その点では家畜であるといえる。

家畜と環境編集

世界には、牛約14億頭、豚約10億頭、羊約10億頭、鶏190億羽の家畜がいる。それに対し人口は68億人である。人間2人に対し、家畜1頭と鶏5羽の比率である[18]

畜産はすべての人為的土地利用の中で最大のものであり、畜産の土地利用には、放牧地と飼料作物の生産に使われる耕作地が含まれ、その総面積は広大で、2004年時点で、全農地の70%であり[19]2019年には77%まで拡大している[20] 、地球上の氷のない陸地の30%に当たる。放牧によって占められている土地の総面積は約3,430万ヘクタールで、これは地球上の氷のない陸面の26%に相当し、飼料の生産面積は約471万ヘクタールで全農地の33%にあたる。しかし、これらの土地の大部分は乾燥や低温によって作物を作るには不向であり、人もあまり住まないような土地である[19]

乾燥地帯は水の無い陸地の約41%を占め、その約94%が開発途上国であり、世界総人口の約6分の1の10~20億人以上の人々が住んでおり、世界の貧しい人々の半分は乾燥地帯に住んでいるとされる。彼らは、農業と家畜に頼って生きており、世界の農業地帯の33[21]~44%が乾燥地帯に存在し、世界の家畜の50%が飼育されている[22]。しかし、農作物の生産性は世界の最も生産性の高い農業地帯の10分の1しかないとされ、更に人口増加により過剰な農地の開梱、放牧により土地の劣化、砂漠化などにより、更に生活が脅かされている、そのため緑化などの環境改善や、改良農業法、気候変動対応型農業などの技術支援が必要であるとされている[21]

例えば毎日グラス1杯の牛乳のためには650㎡の土地が必要であり、この面積は乳代替品(豆乳やライスミルク、アーモンドミルク)等と比較して10倍も高い[23]

国連食糧農業機関 (FAO) は2006年に調査報告書「家畜の長い影」(Livestock’s long shadow) の中で「畜産業はもっとも深刻な環境問題の上位2.3番以内に入る」と発表。2050年までに肉・乳・卵需要は倍増すると予測され、家畜の増加に伴う環境破壊は2050年には今の倍以上に広がると警告している[24]。 肉と乳製品生産には、全農地の83%が使用されているにもかかわらず、そこから得られるカロリーは18%にすぎない。肉などの消費削減は、地球環境にとって不可欠であると考えられるようになってきている[25]。「動物ベース食品の消費量が多いほど環境への影響の推定値が高くなり、植物ベース食品の消費量が増えると環境への影響の推定値が低くなる」さらに「動物性食品がまったく消費されない最も極端なシナリオでは、現在使用されているよりも少ない土地で、2050年でも十分な食料生産を達成でき、かなりの森林再生を可能にし、土地ベースの温室効果ガス排出量を3分の1に削減できるとされている[26]

2018年10月10日、科学誌『ネイチャー』に、「世界は壊滅的な気候変動を回避するために、肉の消費量を大幅に削減することが不可欠だ」とする研究結果が発表された[27]

2019年1月16日付の英医学雑誌The Lancetには「野菜を多くとり、肉、乳製品、砂糖を控える」ように提案する論文が、発表された。「ランセット委員会」の名の下に、栄養や食に関する政策を研究する世界の科学者30人が3年にわたって協議し、100億人の食を支えるために、各国政府が採用できる案をまとめたもので、こうした食の改革を行わないと、地球に「破滅的」なダメージが待ち受けているという[28]

2019年12月、科学者たちは、畜産業がこのまま拡大し続けるなら2030年には気温が1.5度上昇するのに必要な二酸化炭素の49%を畜産業が排出することになる、と述べ、畜産業は「これ以上家畜生産を増やさない」というピーク点を設定すべきだと表明した[29]

2021年、オランダの財務省と農業省の公務員は、家畜によるアンモニア汚染を減らすために、家畜の数を30%削減することを含む提案を作成した[30]

地球温暖化編集

植物を食べる家畜(動物性たんぱく質)を育て、食肉生産する過程で使われる化石燃料(石炭・ガスなどで燃やすと二酸化炭素、窒素酸化物など発生させる)は、大豆などの植物性たんぱく質の生産過程使われる化石燃料より8倍多く必要とされる [31]。AFOLU(農業・林業・その他土地利用)部門に由来する温室効果ガスの量は、世界全体の人為起源の21.5%(10.6Gt)に当たり、二酸化炭素排出量は世界全体の14%、メタン排出量は42%に当たる。主な排出源は、森林減少、家畜の消化管内発酵、農地に残された家畜糞尿、化学肥料の大量施与、稲作などである。とくに最大の排出源は農業(5.1Gt)であり、中でも畜産の割合は多く反芻家畜の消化管内発酵が40%(CO2等価)、家畜糞尿が16%と農業全体の56%である[32]。全ての食料の生産、加工、流通、準備および消費に関連するすべての要素を含む、食料システムの全温室効果ガス排出量は全体の最大37%に相当する。排出量削減のために、より持続可能な肉の量を減らした植物中心の食事への移行で[33]、2050年までに年間0.7〜8.0GtのCO2を減らすことが出来、GHG総排出量の8〜10%とされる生産される食料の25〜30%を占める食料ロスと廃棄物の削減することで[34]、27億台の車を道路から撤去することに相当する12.5 GtのCO2を削減できると試算されている[33]

また2018年、Scienceに掲載された論文[35]によると各食品の二酸化炭素排出量を算出したところ、豆が0.4キログラム、牛乳1.6キログラム、卵2.1キログラム、家禽肉2.9キログラム、豚肉3.8キログラム、牛肉17.7キログラム(タンパク質50グラムあたり)という結果であった。

食料ロスと廃棄物の削減やより持続可能な食事への移行といった食料システムにおける他の行動は、27億台の車を道路から撤去することに相当する12.5 GtのCO2を削減できると試算されている[33]

  • 2010年にカナダのダルハウジー大学で発表された論文では、2050年までに1人当たりの肉の消費量を世界平均で19%から42%減らさなければ、温室効果を抑え、現状レベルの地球環境を維持することはできない、としている[36]
  • 2016年のオックスフォード大学は「食肉消費を大幅に削減すれば、環境にも健康にもよいという研究結果を発表。温室効果ガスを最大3分の2削減、世界全体で約242兆円のコストを節約できる可能性があるという[37]
  • 2018年の食品カーボンフットプリント指数[38]によると、日本人一人当たり1年間の動物性食品消費による二酸化炭素排出量は550.99キログラムに対し、植物性食品消費による二酸化炭素排出量は93.07キログラムと、457.92キログラムもの差が生じる。
  • 2017年のランドマーク調査によれば[39]、食肉会社大手のJBSカーギルタイソン・フーズの3大企業は、2016年にフランス全土よりも多くの温室効果ガスを排出した。
  • 2018年のIATP(農業貿易政策研究所)の報告によると、今後肉と乳の消費量が増え続けた場合、2050年には温室効果ガスの81%を畜産業が占めることになるという[40]
  • 2018年、オックスフォード大学は、乳製品は豆乳やライスミルク、アーモンドミルクと比較して約3倍の温室効果ガスを排出するという調査結果を発表した[23]
  • 2018年、オックスフォード大学は、世界は壊滅的な気候変動を回避するために、肉の消費量を大幅に削減することが不可欠だとする研究結果を英科学誌ネイチャー(Nature)に発表した[41]
  • 2018年、気候変動に関する政府間パネルはレポート「Global Warming of 1.5 ºC[42]」の中で、「肉やその他畜産物の需要をターゲットにすることで、食品システムからの総排出量を減らすことができるという合意が高まっています。」と述べた。
  • 2020年、イギリス政府の気候変動委員会は、2050年までに温室効果ガス排出ゼロ(ネットゼロ)を達成するには、肉の量を20〜50%削減する必要があるとも述べ、翌年7月には、イギリス政府から委託された国家食糧戦略のレビューの中で「10年間で肉消費を30%削減する」という目標が設定された[43]
  • 2021年、Meat Atlasの報告によると、畜産・酪農大手20社が排出する温室効果ガスは、ドイツやイギリス、フランスが排出する量より多い[44]

水の汚染編集

現在地球上の牛の68%・豚の50%・家禽の74%採卵鳥の68%は工業的畜産システムで飼養されている。 工業的畜産とは大量の家畜を密飼い・密閉飼いし、高度な機械を導入することで、家畜飼養にかかわるコストを抑える畜産方法である。 家畜が自由に動き回ることができないことや飼養密度の高さからなどから、家畜は病気になりやすく、また病原体が伝染しやすい。 そのため家畜にはさまざまな抗菌性物質ワクチンが投与される。そしてその家畜から出た排泄物は海へ流れ込む。 また家畜の飼料作物栽培に散布される農薬も海へ流れ込み、珊瑚礁を破壊する。また、畜産業では大量の抗生物質が消費されており(日本の場合は抗生物質の2/3が家畜に使用されている[45])、それらの薬剤の30~90%はそのまま活性物質として排出される。現代の工場式の畜産はこれらの薬剤を大幅に環境に放出している可能性がある[46]。 2017年国際連合食糧農業機関(FAO)は、レポート「農業からの水質汚染」の中で、急速に成長している畜産業が、水質に「深刻な影響を及ぼしている」報告している[47]

人獣共通感染症編集

新型コロナの拡大を機に、畜産業の持つ人獣共通感染症リスクへの関心が高まっている。2020年7月6日に、国連環境計画(UNEP)と、国際家畜研究所(ILRI)が発表したレポート「次のパンデミックの防止-人獣共通感染症と伝染の連鎖を断ち切る方法」は「家畜化された動物種は、人と平均19(5〜31の範囲)の人畜共通感染ウイルスを共有、いっぽう野生動物種は人と平均0.23(0〜16の範囲)ウイルスを共有します」と述べ、家畜種のリスクは野生種よりもずっと高いとして、人獣共通感染症の主要な人為的要因の一つは、「動物性タンパク質の需要の高まり」とそれにともなう「持続不可能な集約畜産」であると述べている。

また2020年10月29日には、IPBES(世界中の研究成果を基に政策提言を行う政府間組織。日本の環境省も年間30万ドルの拠出金を出している)が人獣共通感染症の危険性を指摘する報告書を発表。その中では「食肉消費に対する需要の高まりとグローバル化した食品取引は、土地利用の変化と気候変動を通じてパンデミックリスクを引き起こします」「家畜や家禽の生産の拡大、農場の規模と面積の増加、および敷地内の動物の数の増加により、病原体が人々に伝染する可能性が高まっています」などとされ、その対策として肉税の導入などが提示された[48]

海洋生態系の破壊編集

国連環境計画(UNEP)は、地球温暖化や海洋汚染、乱獲などの影響で2050年頃には海の生態系の変化が顕著になり、世界のほぼすべての海域で漁獲量が減少し、小さい魚しかいなくなると発表した[49]。現在、地球上の漁獲量の1/3が家畜の餌(フィッシュミール)に使われている。

水不足編集

家畜の飼料栽培に使われる灌漑(人工的に水を土地に供給すること)農業は、水不足の大きな原因としてあげられる。2006年、国連環境計画(UNEP)国際地球水アセスメント(GIWA)は、2030年までに17億増える人口を養う水を確保するためには、天水に頼る作物栽培を増やすともに食肉消費も減らさねばならないと発表した。 「An influential study in 2010」によると、1kgの野菜生産に必要な水の量は約322リットルで、果物は962リットル/kgであったが肉生産はそれよりもはるかに多くの水を必要とする。鶏肉は4,325リットル/kg、豚肉は5,988リットル/kg、羊/ヤギの肉は8,763リットル/kg、牛は15,415リットル/kgとなっている。動物生産のために世界全体で、年間約2422Gm3の水(グリーンウォーター(天水)が87.2%、ブルーウォーター(灌漑用水)が6.2%、グレーウォーター(排水)が6.6%)が必要である。この量の3分の1は、肉用牛部門用であり、残りの19%が乳牛部門用である。しかし、直接動物用に使われる水は家畜の飲水が1.1%、用水が0.8%、飼料混合水が0.03%でり、水の総量の大部分(98%)は、動物用飼料生産のウォーターフットプリントであるとされる[50]

牛乳の生産においても、豆乳、ライスミルク、オーツミルク、アーモンドミルクなどの牛乳代替品と比較して、牛乳生産における水使用量がもっとも多いものとなっている。[23]

酸性雨編集

アンモニアは畜舎、ふん尿貯留施設などから多量に大気中に揮散する。アンモニアは降雨により地上に戻ると酸性の硝酸に変化する。工場型の大規模畜産は酸性雨の要因となる[51]

土壌中・水系中の硝酸態窒素の増加編集

家畜の活動で排泄物が垂れ流されると細菌の作用で土壌や近隣水系の硝酸態窒素の上昇をまねく。

抗生物質耐性菌編集

家畜の飼料に抗生物質を使用していることも抗生物質に対する耐性菌を産み出す原因になっており、例えばアメリカ合衆国では1999年の時点でカンピロバクターの54パーセントが耐性菌になっていたといわれている[52]。このように細菌への影響も起きている。

2015~2017年度に実施された厚生労働省研究班の調査では、日本国産の鶏肉の59パーセントから抗生物質耐性菌が検出された。研究班の富田治芳・群馬大教授は「半数という割合は高い」と指摘し家畜や人で「不要な抗菌薬の使用を控えるべきだ」と訴えている[53]

代表的な家畜編集

哺乳類編集

 
実験動物のラット(ペットとしての種はファンシーラット)は、ヒトの欲望と進歩に“貢献させられている”家畜の代表格である。
 
史上初の家畜にして変わらず代表格であり続けるイヌの役割は多岐に亘る。
 
働くロバ
 
ブタ
 
ウシ(タウリン系牛)
齧歯類
兎形類
食肉類
奇蹄類
偶蹄類
長鼻類
  • アジアゾウ(アジア象) - 人為的な繁殖は難しく、野生個体を捕らえて使役している。

鳥類編集

 
ニワトリ

爬虫類編集

両生類編集

魚類編集

無脊椎動物編集

養蜂

他を家畜化する動物編集

ヒトが行う家畜化と同じようなこと、あるいは同じと見えてしまうことを、行っている動物がいる。

アリの仲間には、巣内で他の虫(節足動物)を“飼育”して生産物を採るものがいる。たとえば、クロオオアリは2齢後期のクロシジミの幼虫を育て、アリはその蜜を摂取している。また、インドネシアボゴール植物園内に棲息するヒメカドフシアリ(カドフシアリ属〈gunes Myrmecina〉の1)のいくつかの個体群(コロニー)は、蟻客(好蟻性動物)として巣の中に同居するアリノスササラダニ(学名Aribates javensis ササラダニの一種)を家畜化しているようにも見える。

ただし、これについては発見者自ら異なる見解も示している。詳しくは「家畜化#他を家畜化する動物」内を参照のこと。

家畜と文化編集

通貨
家畜は物々交換が行われていた時代において貴重な通貨であった。そのため、その名残は貨幣単位にも引き継がれた。例として、旧約聖書ヨブ記42.11に登場する通貨単位ケシタ英語版は、もっとも初期のギリシャ語版では子羊と訳されていた。ローマ時代の貨幣ペクニア(ラテン語:pecunia)は家畜を意味する Pecus から来ている[54]

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 出典資料[4]では、爬虫類と両生類を挙げず、無脊椎動物ではなくこれに属する「昆虫類カイコミツバチなど)」を挙げているが、これを挙げておいて先述のグループを挙げないのは理に合わないため、記述を調整した。爬虫類・両生類・無脊椎動物の家畜としてどのようなものを代表として挙げることができるかは、「代表的な家畜」節を参照のこと。

出典編集

  1. ^ a b domesticated animal”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年1月1日閲覧。
  2. ^ livestock”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年1月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 小学館日本大百科全書(ニッポニカ)』. “家畜”. コトバンク. 2020年1月1日閲覧。
  4. ^ a b c d 平凡社百科事典マイペディア』. “家畜”. コトバンク. 2020年1月1日閲覧。
  5. ^ 小学館『デジタル大辞泉』、ほか. “用畜”. コトバンク. 2020年1月1日閲覧。
  6. ^ 小学館『精選版 日本国語大辞典』、ほか. “役畜”. コトバンク. 2020年1月1日閲覧。
  7. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』、ほか. “家禽”. コトバンク. 2020年1月1日閲覧。
  8. ^ 環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室 (1987年10月9日). “産業動物の飼養及び保管に関する基準”. 環境省. 2020年1月1日閲覧。
  9. ^ ”. 漢字ペディア. 公益財団法人 日本漢字能力検定協会. 2020年1月1日閲覧。
  10. ^ 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』. “家畜”. コトバンク. 2020年1月1日閲覧。
  11. ^ 動物好きな研究者の夢 - 40年の研究からペットギツネが誕生 株式会社ユニサービス。EURASIA View, Vol.31, 2004 Juneに掲載
  12. ^ 実験飼育場で遊ぶキツネ ロシアNOW Archived 2015年9月12日, at the Wayback Machine.
  13. ^ 不自然な“進化”~今 動物に何が!?~ 地球ドラマチック、NHK、2014年。[リンク切れ]
  14. ^ エヴァン・ラトリフ (2011年3月). “特集:野生動物 ペットへの道”. ナショナルジオグラフィック. 2019年8月8日閲覧。
  15. ^ ロシア科学アカデミーシベリア支部 細胞学・遺伝学研究所の「キツネの家畜化研究」 株式会社プログレスシステム
  16. ^ a b ドナルドソン & キムリッカ 2016, pp. 162–163.
  17. ^ 松井 2005, p. 181.
  18. ^ 2009年度データ 総務省統計局 [リンク切れ]
  19. ^ a b 国連食糧農業機関(FAO) (2006). LIVESTOCK'S LONG SHADOW Part VIII (Report). pp. 270. http://www.fao.org/3/a0701e/a0701e00.htm. 
  20. ^ 国連食糧農業機関(FAO) (2020). FOOD SECURITY AND NUTRITION IN THE WORLD (Report). pp. 105. http://www.fao.org/publications/sofi/2020/en/. 
  21. ^ a b 国連環境計画(UNEP)Our Planet -砂漠と乾燥地帯 DESERTS AND DRYLANDS-」第3巻第5号、2006年。
  22. ^ 環境省自然環境局 (2013-05). 人々の暮らしと砂漠化対処 (Report). https://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/download/panph.pdf. 
  23. ^ a b c Julie Cappiello (2019年1月14日). “Dairy Milk Results in Three Times More Greenhouse Gas Emissions Than Vegan Milk”. Mercy For Animals. 2019年8月9日閲覧。
  24. ^ Livestock’s long shadow, FAO, 2006.
  25. ^ Damian Carrington, "Avoiding meat and dairy is ‘single biggest way’ to reduce your impact on Earth", The Guardian, 2018-5-31.
  26. ^ SRCCL Report download page — IPCC”. 2019年8月11日閲覧。
  27. ^ Galey, Patrick (2018年10月11日). “気候変動対策に肉の消費減が不可欠、「欧米で9割減」提言 研究”. AFPBB News (AFP). http://www.afpbb.com/articles/-/3192970 2018年10月11日閲覧。 
  28. ^ 肉を半分に減らさないと地球に「破滅的被害」」ナショナルジオグラフィック、2019年1月5日。
  29. ^ Scientists call for renewed Paris pledges to transform agriculture”. 20191219閲覧。
  30. ^ Netherlands proposes radical plans to cut livestock numbers by almost a third”. Guardian News. 20210913閲覧。
  31. ^ U.S. could feed 800 million people with grain that livestock eat, Cornell ecologist advises animal scientists コーネル大学、1997年。
  32. ^ 国際連合食糧農業機関(FAO); 国際農林業協働協会 (2016). 世界食料農業白書 2016年報告 (Report). pp. 38. http://www.fao.org/3/i6030ja/I6030JA.pdf. 
  33. ^ a b c Improved climate action on food systems can deliver 20 percent of global emissions reductions needed by 2050”. 国連環境計画(UNEP). 2021年10月9日閲覧。
  34. ^ ipcc (2021-02-08). SPECIAL REPORT: SPECIAL REPORT ON CLIMATE CHANGE AND LAND -CH05 Food Security- (Report). https://www.ipcc.ch/srccl/chapter/chapter-5/. 
  35. ^ Your Questions About Food and Climate Change, Answered, New York Times, April 30, 2019.
  36. ^ 肉食は地球環境への脅威、食生活改善が必要=カナダ研究 -”. ロイター (2010年10月5日). 2019年8月9日閲覧。
  37. ^ ベジタリアンは、地球温暖化を抑止できる:研究結果”. WIRED.jp (2016年3月29日). 2019年8月9日閲覧。
  38. ^ Food Carbon Footprint Index 2018 nu3.
  39. ^ GRAIN”. GRAIN (2017年11月). 2019年8月9日閲覧。
  40. ^ Emissions impossible How big meat and dairy are heating up the planet IATP
  41. ^ 気候変動対策に肉の消費減が不可欠、「欧米で9割減」提言 研究”. AFPBB News. 20210821閲覧。
  42. ^ Global Warming of 1.5 ºC (Report). IPCC. https://www.ipcc.ch/sr15/ 2019年8月9日閲覧。.  Chapter4参照
  43. ^ The National Food Strategy Independent Review”. National Food Strategy. 2021年7月17日閲覧。
  44. ^ 20 meat and dairy firms emit more greenhouse gas than Germany, Britain or France”. Guardian News. 20210909閲覧。
  45. ^ 浅井鉄夫「資料2 抗菌性物質の使用と薬剤耐性菌をめぐる状況畜産分野における薬剤耐性菌対策に関する意見交換会、2014年2月17日。
  46. ^ Gwynne Lyons (2014年). “Pharmaceuticals in the Environment:A Growing Threat to Our Tap Water and Wildlife (PDF)”. CHEM Trust. 2019年8月9日閲覧。 「環境内の医薬品:水道水と野生生物への脅威」
  47. ^ Javier Mateo-Sagasta , Sara Marjani Zadeh, Hugh Turra (2017) (PDF). Water pollution from agriculture: a global review - Executive summary (Report). FAO. http://www.fao.org/3/a-i7754e.pdf 2019年8月10日閲覧。.  「農業からの水質汚染」
  48. ^ IPBES Workshop on Biodiversity and Pandemics”. Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES). 2021年7月17日閲覧。
  49. ^ [1][リンク切れ] 共同通信
  50. ^ Water footprint of crop and animal products: a comparison”. Water footprint Network. 2019年8月10日閲覧。
  51. ^ Livestock Information,Sector Analysis and Policy Branch Animal Production and Health Division”. Food and Agriculture Organization of the United Nations. 2020年4月20日閲覧。
  52. ^ 栃内 2009, p. 65.
  53. ^ 薬効かない菌、鶏肉の半数から検出 厚労省研究班”. 日本経済新聞 (2018年3月31日). 2019年8月10日閲覧。
  54. ^ Life in ancient Rome 著者: Stanford Mc Krause

参考文献編集

  • 『暮らしと生業』上原真人吉川真司白石太一郎吉村武彦 編、岩波書店〈列島の古代史―ひと・もの・こと 2〉、2005年10月6日。OCLC 76801115ISBN 4-00-028062-7ISBN 978-4-00-028062-4
    • 松井章「狩猟と家畜」
  • ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄(上) 1万3000年にわたる人類史の謎』倉骨彰 訳、草思社〈草思社文庫 ダ1-1〉、2012年2月2日(原著1998年)。OCLC 840926933ASIN 4794218788ISBN 4-7942-1878-8ISBN 978-4-7942-1878-0
  • 栃内新『進化から見た病気 「ダーウィン医学」のすすめ』講談社ブルーバックス B-1626〉、2009年1月22日。OCLC 299692172ISBN 4-06-257626-0ISBN 978-4-06-257626-0
  • スー・ドナルドソンウィル・キムリッカ『人と動物の政治共同体─「動物の権利」の政治理論』青木人志・成廣孝 監訳、尚学社、2016年12月26日、初版。OCLC 968744112ISBN 4-86031-126-4ISBN 978-4-86031-126-1
  • リチャード・C・フランシス『家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか』西尾香苗 訳、白揚社、2019年9月5日(原著2016年)。NCID BB28846413OCLC 1124265137ISBN 4-8269-0212-3ISBN 978-4-8269-0212-0

関連項目編集

外部リンク編集