街の灯
『街の灯』(まちのひ、City Lights)は、1931年のアメリカ合衆国の映画。チャールズ・チャップリンが監督・脚本・製作・主演したコメディ映画。サイレント映画だが音楽付きのサウンド版として公開された。
街の灯 | |
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City Lights | |
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監督 | チャールズ・チャップリン |
脚本 | チャールズ・チャップリン |
製作 | チャールズ・チャップリン |
出演者 |
チャールズ・チャップリン ヴァージニア・チェリル |
音楽 |
アルフレッド・ニューマン チャールズ・チャップリン |
撮影 |
ローランド・トザロー ゴードン・ポロック |
編集 | チャールズ・チャップリン |
配給 | ユナイテッド・アーティスツ |
公開 |
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上映時間 | 87分 |
製作国 |
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言語 | 英語 |
製作費 | 150万ドル |
配給収入 |
3億2000万円(1973年リバイバル)[1] ![]() |
前作『サーカス』に引き続きユナイテッド・アーティスツで製作・配給した作品で、製作に3年余りの時間を要した。冒頭には「コメディ・ロマンス・イン・パントマイム」というタイトルを掲げている。本作はトーキー映画反対論者であったチャールズ・チャップリンが、基本的にサイレントだが伴奏音楽と音響が入ったサウンド版として製作した初めての作品である。ある浮浪者が盲目の花売り娘の目を治すためにあれこれ奮闘する物語で、ユーモアとペーソスが織り交ぜられたコメディ映画となっている。現在もチャップリンの代表作として高く評価されている。1991年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
あらすじ編集
主人公は浮浪者の男である。男はある日、街角で盲目の花売り娘と出会い一目惚れしてしまう。彼女は落とした花を拾ってくれた男がタクシーで去っていったと勘違いし、その男が金持ちの紳士と思い込む。その夜、浮浪者の男は妻と別れ自殺しようとした富豪を助け、友達になる。しかしこの富豪は酔っぱらった時には浮浪者のことを思い出すが、素面の時は忘れてしまう。
浮浪者の男は花売りの娘から花を買って紳士を装っていた。いつの間にか娘にとって、男はただのお金持ちではなく、それ以上の人物となっていった。男は病気の彼女のために働き出し、彼女の家へ通い詰めできる限りの献身をするのだった。ある日、娘とその祖母が家賃を滞納し立ち退きを迫られていることを知った男は、娘を助けるためにお金を工面しようとする。しかし遅刻で仕事をクビになり、途方に暮れていたところに、八百長ボクシングへの出場を持ちかけられた。ところがその試合の寸前になって相手は逃亡し、やむを得ず強力な相手と試合をする羽目に。あの手この手で攪乱しつつ必死で戦うが、あえなく敗れる。
浮浪者の男は途方に暮れていると、街で偶然酒に酔った富豪と再会し、彼の家に行き娘の事情を話すと1,000ドルもの大金を援助してくれた。しかし運悪く、室内には2人組の強盗も居合わせており、頭を強打され倒れた富豪を見て浮浪者は大慌てで警察を呼ぶ。警官が到着した時には強盗は逃げてしまい、意識を取り戻した富豪の酔いもすっかり覚めていた。警官に疑われた浮浪者は富豪の家から逃走する。翌日、浮浪者の男は花売りの娘に家賃と目の手術代として1,000ドルを手渡しその場を立ち去った。その帰りに男は無実の強盗容疑で捕まってしまう。
時は流れ、刑務所から出た浮浪者の男が街をとぼとぼと歩いていると目の治った花売り娘と再会した。娘は1,000ドルを自分に渡した恩人は金持ちの紳士だと思い込んでいるので、まさかこの浮浪者が恩人だとは思いも寄らない。そのまま立ち去ろうとする浮浪者の男に彼女は哀れみから一輪のバラと小銭を手渡そうとする。その時、男の手を握った娘はこの浮浪者こそが恩人であることに気付くのだった。男は困惑しながらも、かつての優しい微笑みを浮べた。
キャスト編集
- 放浪者:チャールズ・チャップリン
- 盲目の花売り娘:ヴァージニア・チェリル
- 花売り娘の祖母:フローレンス・リー
- 富豪:ハリー・マイヤーズ
- 富豪の執事:アラン・ガルシア
- 市長、花売り娘の階下の住人:ヘンリー・バーグマン
- 放浪者の相手のボクサー:ハンク・マン
- 迷信のボクサー:ヴィクター・アレクサンダー
- 医師:T・S・アレクサンダー
- 警官:ハリー・エイヤース
- 道路清掃夫、強盗:アルバート・オースチン
- レフェリー:エディ・ベイカー
- レストランの女性:ベティ・ブレア
- 禿げたパーティーの招待客:バスター・ブロディ
- 新聞の立ち売りの少年:ロバート・パリッシュ、マーガレット・オリヴァー
- 花屋のアシスタント:ミセス・ハイアムズ
- 葉巻を拾おうとした浮浪者:ジョン・ランド
- 背の高いパーティーの招待客:ジャック・サザーランド
- アートショップの前のエレベーターの男:タイニー・ウォード
- 葉巻の上に座るレストランの客:フローレンス・ウィクス
- その他、レストランのシーンでは、ブレイク前のジーン・ハーロウも出演している。
製作編集
1928年5月に準備が行われ、同年12月に撮影が開始された。しかし、1929年6月に水に飛び込もうとする富豪役を演じていたヘンリー・クライブが水に飛び込むことを躊躇したため、チャップリンは彼を解雇し、代わりにハリー・マイヤーズを立てて登場シーンの撮り直しが行われた。さらに同年11月、盲目の花売り娘を演じていたヴァージニア・チェリルが「美容院に行くから」と言って撮影を早退したため、チャップリンは激怒し彼女を解雇した。代わりに『黄金狂時代』でヒロインを演じたジョージア・ヘイルが盲目の花売り娘を演じることになったが、側近の忠告で10日後にヴァージニアを復帰させることになった。
完璧主義者のチャップリンは、ヴァージニア演じる花売り娘との出会いのシーン(正味3分ほど)に342回のNGを出し、1年以上かけて撮り直しされた(撮影日数534日のうち、このシーンの撮影だけで368日をかけている)。喜劇映画研究会の新野敏也は、「【オープニング・タイトルのCITY LIGHTとクレジットされる夜の街】と【オープニング・シークエンスで彫像の除幕式が行われる朝の街】は同じセットでほぼ同じカメラ・アングルながらも、【オープニング・タイトル】では題名に合わせて街路灯が左端に配置されている」、「オープニング・シークエンスの彫像で繰り広げられるチャップリンのパントマイムでは、足捌きに合わせて靴裏のあたる彫像の部位が削られ微調整されている」などの事例を挙げて、この画面構成を「数限りなくリハーサルや撮り直しを繰り返した事が推察され、商業映画の製作コストをまるっきり無視した、完璧以上を求める天才ぶり」と表現している[要出典]。結局撮影を完了したのが1930年10月5日のことで、2年以上の月日が費やされた。さらに編集と作曲作業に3ヶ月をかけ、翌1931年1月30日にロサンゼルスの劇場でプレミア公開された。その際チャップリンの隣りにはアルベルト・アインシュタインが座っていた。
スタッフ編集
- 製作・監督・脚本・編集:チャールズ・チャップリン
- 撮影:ローランド・トザロー
- 音楽:アルフレッド・ニューマン、チャールズ・チャップリン
- 美術:チャールズ・D・ホール
- 助監督:アルバート・オースチン、ヘンリー・バーグマン、ハリー・クロッカー
- 作曲:チャールズ・チャップリン
- 編曲:アーサー・ジョンソン
評価編集
1931年2月6日に封切られ、映画は大ヒット。興収は500万ドルに達した。 1934年1月13日には日本でも封切られ、人気作となった。同年度のキネマ旬報ベストテンでは第10位にランクインされた。
- 「映画史上最高の作品ベストテン」(英国映画協会『Sight&Sound』誌発表)※10年毎に選出
- 「AFIアメリカ映画100年シリーズ」
- 1998年:「アメリカ映画ベスト100」第76位
- 2000年:「アメリカ喜劇映画ベスト100」第38位
- 2006年:「感動の映画ベスト100」第33位
- 2007年:「アメリカ映画ベスト100(10周年エディション)」第11位
- 2000年:「20世紀の映画リスト」(米『ヴィレッジ・ヴォイス』紙発表)第38位
- 2008年:「史上最高の映画100本」(仏『カイエ・デュ・シネマ』誌発表)第16位
- 2010年:「エッセンシャル100」(トロント国際映画祭発表)第29位
以下は日本でのランキング
日本での公開編集
1934年(昭和9年)1月13日、オープン直後の日本劇場で特別料金(上から5円、3円、1円50銭、1円)で封切られた。その際、活動弁士を務めたのは徳川夢声と山野一郎だった。
同年1月30日に映画を見た古川ロッパは日記にこう記している。
要するにチャップリンものとしては筋が持廻(もってまわ)りすぎてゐる。然(しか)し、チャップリンの横顔見てたら何となく涙が出さうになった。
また、2月2日に昭和天皇が香淳皇后とともに鑑賞したと『昭和天皇実録』に記述がある[要文献特定詳細情報]。
その後、1970年代のリバイバル・ブーム到来まで陽の目を見ることがなかったため、幻の名作とされていた。
日本での翻案作品編集
脚注編集
- ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)312頁
外部リンク編集
- 街の灯 - allcinema
- 街の灯 - KINENOTE
- City Lights - オールムービー(英語)
- City Lights - インターネット・ムービー・データベース(英語)