キョン
キョン(羗[5]、英名:Reeves' muntjac、学名:Muntiacus reevesi、中国名:小麂、山羌、黃麂)は、哺乳綱偶蹄目(鯨偶蹄目)シカ科ホエジカ属に分類されるシカの一種[6]。環境省指定特定外来生物。
キョン | |||||||||||||||||||||||||||
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キョン Muntiacus reevesi
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保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Muntiacus reevesi (Ogilby, 1839)[2] | |||||||||||||||||||||||||||
シノニム[3] | |||||||||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||
キョン[4] | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Chinese muntjac[3] Reeves' muntjac[2] |
学名や英語名は東インド会社の茶の鑑定人で、1812年に広東を訪れ、この種の記録を残したイギリス人ジョン・リーヴスにちなむ[7]。タイワンキョンとも呼ばれる[8]。
分布
編集中国南東部及び台湾に自然分布[1][6]。模式産地は広東省広州市[2][3]。日本(房総半島、伊豆大島)やイギリスに移入[7][9]。
日本での化石記録はないが、リュウキュウムカシキョン(Dicrocerus sp.)の化石が琉球列島で見つかっている[10]。
形態
編集体色は茶褐色で、覆面は黄色を帯び、四肢は黒褐色[6]。眼の上から頭頂部にかけて黒い線がある[6]。
体長47-70cm、体高45-50cm、体重12-17kg[6]。オスにのみ短い角(2尖の7〜8cmの角で内側に湾曲)と牙(上顎犬歯)がある[6]。目の下方に臭腺(眼下腺)の開口部があり、これがつぶった眼のように見えるため、四目鹿(ヨツメジカ)とも呼ばれる。
歯式は、0/3・1/1・3/3・3/3=34[10]。
分類
編集2亜種[6]ないし3亜種とする説もあったが[2]、IUCN (2016) では以下の4亜種に区別される[1]。分布はIUCN (2016) に[1]、亜種の命名者はGrubb (2005)・Groves & Grubb (2011) に従う[2][3]。
- Muntiacus reevesi jiangkouensis Gu and Zu, 1998
- 中国大陸
- Muntiacus reevesi reevesi (Ogilby, 1839)
- 中国大陸
- Muntiacus reevesi micrurus (Sclater, 1875)
- 台湾
- Muntiacus reevesi sinensis (Hilzheimer, 1905)
- 安徽省、浙江省
また、学名未決定の亜種としてYunnan form(雲南省東部)およびShaanxi/Gansu form(陝西省南部、甘粛省南部)の2亜種を認める説もある[1]。
生態
編集森林や藪を好んで生息し、群れは形成せず単独で生活していることが多い[6]。草食性で木の葉や果実などを食べる[6]。繁殖形態は胎生で1回に1匹の幼体を出産する(妊娠期間は209~220日、新生仔の体重は550~650g)[6]。特定の繁殖期はなく、雌は1年を通じて繁殖する[11]。周年繁殖であるが4月から7月にかけて出産が多い[6]。イヌに似た声で鳴く[6][12]。
飼育下で19年8か月生存した記録がある[6]。
外来種問題
編集イギリスなどで移入された個体が野生化しているほか、日本でも伊豆大島や千葉県の房総半島(1980年頃)で動物園等から逃げ出した個体が野生化して分布を広げている[6]。2005年に外来生物法により特定外来生物に指定されたため、許可なく日本国内に持ち込んだり国内で飼育したりすることは禁止されている[13]。千葉県と伊豆大島の両地域では、キョンによる農作物被害(イネ、トマト、カキ、ミカン、スイカなど)が発生している[14]。自然植生の食害も懸念され、ニホンジカが嫌って食べないアリドオシを採食する[14]。さらに、人家の庭にまで侵入して樹木や花を食べ漁ったりする[15]。
千葉県
編集千葉県では勝浦市にあった観光施設「行川アイランド」から逃げ出したとされ[16]、1980年代から房総半島で野生化した個体が目撃されるようになる。気候が温暖で餌となる下草に恵まれていることもあり、個体数は年を追うごとに増えていった[17]。農業被害額は年間120万円にのぼっており、ガーデニングの被害も深刻になっている[18]。
そこで千葉県は2000年に「県イノシシ・キョン管理対策基本指針」をまとめ、防除計画の策定を進めるなど駆除に取り組んだ[19]。ところがその後も個体数は増え続け2007年度の調査では3,400頭と推計された。同県は2008年度にも防除計画を策定しているが駆除が進まず、2012年度に計画の練り直しを迫られている。さらに2014年度末までの調査では推定個体数が47,000頭まで激増したため、同県は2015年度から各自治体に捕獲費の半額を上限に補助する対策強化に乗り出した。2014年度の捕獲数は約2,200頭にとどまっている。なお、鳥獣保護法ではキョンは狩猟鳥獣に指定されていないため、2015年時点では罠を使った捕獲が中心となっている[17]。
2017年に、千葉県は野生のキョンにGPS発信機を取り付けて行動を把握し、駆除を効率化させることを計画した[20]。2018年度には4000頭以上を駆除したが、2022年度には71,500頭と、2014年からさらに倍増している[21]。2021年には県境に近い同県東葛地域や、2017年5月に茨城県神栖市で発見されて以来茨城県内でも散発的に目撃されており、東京や埼玉など他の都県だけでなく本州全域への拡大も懸念されている[18][22]。
伊豆大島
編集伊豆大島では1970年の台風被害で「都立大島公園」内にある動物園の柵が壊れ、逃げ出した十数頭が天敵のない島全域で野生化したとされている[23]。1973年8月には動物園に近い都道で轢死したメスの個体が発見され、妊娠していたとの記録がある[24]。東京都では2007年度から駆除を開始した。2010年度の調査から個体数が約3,250頭と推計されたため、2012年度より毎年1,000頭のペースで捕獲し、5年後をめどに根絶する計画が立てられた。2014年度までほぼ計画どおりに捕獲が進められたが、農作物被害や市街地での目撃情報は増加の一途をたどった。これにより都が調査方法に誤りがあったとして、基礎データを増やし2014年度中に個体数を再調査したところ、島民の人口8,300人を上回る11,000頭と推計された。計算上では駆除しても毎年15%の割合で増え続けているとみられ、従来のペースの2倍から3倍ほど捕獲しても増加を食い止めるのがやっとであり、都は大幅な防除計画の見直しを迫られている。同島では特産品のアシタバを主とした農業被害が深刻さを増し、2014年度の被害総額は380万円に上っている[23]。
2017年時点では13,000頭程度へ増加していると推定され、絶滅危惧種である植物キンランへの食害や自動車との交通事故も発生している。このため東京都は2017年5月にキョン対策を本格化させると発表。地元と協力してキョン捕獲チームを結成し、チーム名を公募[25]した結果、2017年10月26日に「キョンとるず」と決定したことを発表した[26]。
その後はハンターによる駆除が行われ、東京都は、2018年末時点の推定生息数は前年同期比5%減の約1万5500頭で、減少に転じたと判断している[27]。
利用
編集脚注・参考文献
編集- ^ a b c d e Timmins, J & Chan, B. 2016. Muntiacus reevesi (errata version published in 2020). The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T42191A170905827. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-2.RLTS.T42191A170905827.en. Accessed on 21 November 2022.
- ^ a b c d e Peter Grubb, “Order Artiodactyla,” In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 637-722.
- ^ a b c d Colin Groves and Peter Grubb, “Muntiacus reevesi (Ogilby, 1839),” Ungulate Taxonomy, Johns Hopkins University Press, 2011, Pages 90.
- ^ 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
- ^ 『羗』 - コトバンク。2023年11月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n “7 小型シカ <偶蹄目、シカ科、ホエジカ属>”. 環境省. 2019年12月22日閲覧。
- ^ a b “Reeves’ Muntjac Deer” (PDF). The British Deer Society. 2015年9月27日閲覧。
- ^ 『タイワンキョン』 - コトバンク、『キョン』 - コトバンク
- ^ “Muntjac make Birmingham their home”. BBC Birmingham. 2011年6月24日閲覧。
- ^ a b S. D. Ohdachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, and T. Saitoh (2009-07). The Wild Mammals of Japan. SHOUKADOH. ISBN 978-4-87974-626-9
- ^ 阿部永、石井信夫、伊藤徹魯、金子之史、前田喜四雄、三浦慎悟、米田政明『日本の哺乳類 改訂版』東海大学出版会、2005年7月20日。ISBN 4-486-01690-4。
- ^ “キョン”. 秋田市大森山動物園. 2021年11月5日閲覧。
- ^ “<続 身近なエイリアン>鈴木欣司 キョン 房総半島大にぎわい”. 『東京新聞』. (2007年12月25日). オリジナルの2007年12月30日時点におけるアーカイブ。 2015年9月27日閲覧。
- ^ a b 村上興正・鷲谷いづみ監修、日本生態学会編著『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X。
- ^ 鈴木欣司『日本外来哺乳類フィールド図鑑』旺文社、2005年7月20日。ISBN 4-01-071867-6。
- ^ a b c 「きょん」が4万頭の大量発生 千葉県内をシカ科の外来生物が徘徊フライデーデジタル(2019年12月22日)2019年12月29日閲覧
- ^ a b “脱走した?キョン、南房総で大繁殖…駆除進まず”. 『読売新聞』. (2015年9月4日) 2015年9月5日閲覧。
- ^ a b フジテレビ (2021年11月3日). “迷惑「キョン」大量発生で被害 4万頭 千葉から東京に接近”. FNNプライムオンライン. 2021年11月4日閲覧。
- ^ 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7。
- ^ “激増キョンGPSで追え”. 『朝日新聞』朝刊(千葉県版). (2017年6月19日)
- ^ “外来種“キョン” 千葉・房総半島で大量出没 対策を一緒に考えてみた”. 日本放送協会千葉放送局 (2023年10月27日). 2024年4月7日閲覧。
- ^ “キョン出没、茨城県内警戒 繁殖阻止へ捕獲緩和(茨城新聞クロスアイ)”. Yahoo!ニュース. 2024年3月23日閲覧。
- ^ a b “大島のキョンが猛繁殖 島民より多い1万1000頭 アシタバ被害”. 『東京新聞』. (2015年9月4日) 2015年9月27日閲覧。
- ^ “東京都キョン防除実施計画” (PDF). 東京都環境局 (2015年4月). 2015年9月27日閲覧。
- ^ “大島の「キョン」を捕獲せよ!島民数の1.6倍まで繁殖…都、チーム名を公募”. 『産経新聞』朝刊. (2017年5月27日) 2019年12月29日閲覧。
- ^ キョン捕獲チーム「キョンとるず」結成式典を開催します!東京都報道発表資料(2017年10月26日)2019年12月29日閲覧
- ^ 「伊豆大島のキョン生息数、18年末5%減 都が調査」日本経済新聞ニュースサイト(2019年7月1日)2019年12月29日閲覧
- ^ “キョン ジビエいかが? 捕獲の野生動物、有効活用 食肉加工し、商品化 君津の工場 /千葉”. 毎日新聞 . (2018年3月15日) 2020年3月24日閲覧。