トランスジェンダー

生まれた時に割り当てられた性別が自身の性同一性と異なること

トランスジェンダー英語: Transgender)とは、出生時に、身体の観察の結果、医師により割り当てられ、出生証明書や出生届に記入された性別、あるいは続柄が、ある程度の成長の後、自身の性同一性またはジェンダー表現(服装や髪型など)と異なる人々を示す総称である。性同一性が生まれたときに割り当てられた性別と同じであっても、ジェンダー表現(服装や髪型など)が生まれた時に割り当てられた性別と異なる場合はトランスジェンダーである。[1][2][3][4][5]性的少数者のひとつとして挙げられる[6]

2005年10月1日パリで行われたデモに参加したトランスジェンダーの活動家

性同一性は、性自認、ジェンダー・アイデンティティとも呼ばれ、自身の性(ジェンダー)をどのように認識しているのかを指すもので、自称ではない[7]とされているが、他人の性自認を疑ったり、医師の診断書を求めること、何らかの根拠を求めることは差別とされている。トランスジェンダーを「体の性と心の性の不一致」と表現するのは不正確とされ、「元男性」「元女性」といった言い方も不適切である[8]が、自らを「元男性」「元女性」と名乗るトランスジェンダーも存在するので、本人の呼ばれたい呼称を確認することが大事である。日本では、「トランスジェンダー男性(トランス男性)」は、男性の性同一性をもち出生時に医師により女性と割り当てられた人、「トランスジェンダー女性(トランス女性)」は、女性の性同一性をもち出生時に医師により男性と割り当てられた人を指すが、海外では性同一性についての厳密さは求められてはなく、性同一性が生まれたときに医師によって割り当てられた性別と同じであっても、ジェンダー表現が生まれた時に割り当てられた性別と異なる場合はトランスジェンダーである。「FtM」や「MtF」という言葉も使われていることはあるが、「トランスジェンダー男性」や「トランスジェンダー女性」の方がより望ましい表現とされる[8]。ただし、本人が呼ばれたい呼称を使用するのが大前提であるので、本人が「FtM」や「MtF」という呼び名を希望し、「トランス男性」や「トランス女性」と呼ばれることを望まないのであれば、強要すべきではない。性同一性が男女のどちらでもない人はXジェンダーやノンバイナリーといった用語を使う場合もある。「トランスジェンダー」は形容詞であるため、通常は人を形容する言葉として、「トランスジェンダーの人」「トランスジェンダー女性(トランスジェンダー男性)」「トランス女性(トランス男性)」などと、人を指す名詞と併用して使われる[9][10]。トランスジェンダーに性同一性障害の人々も含まれるが、あくまでも「トランスジェンダー = 性同一性障害」ではない[11]。また、自分を性同一性障害者と呼ばれることを嫌ったり、「自分は性同一性障害の立場を取らない」と主張するトランスジェンダーの人もいるので、特に注意が必要である。「トランス女性は女性です」のキャッチフレーズが示しているように、トランス女性は、どんな場所であっても、どんな身体の形状であっても、手術の有無や、身体の移行条件に関わらず無条件に女性扱いされるべきであり、それを拒否することは差別である。


概要編集

厳密にトランスジェンダーとは、複数の性同一性(ジェンダー・アイデンティティ)の総称で、出生時に割り当てられた性別と対極にある性同一性(トランス女性とトランス男性)の他に、男女(性別二元制)の枠にはまらない性同一性(Xジェンダー、ノンバイナリー、ジェンダークィア、アジェンダーなど)も含む[12][13][14]。トランスジェンダーに第三の性(後述)を含む場合もある[15][16]。日本語では「性別越境者」と呼称されることがある[17]

トランスジェンダーに、性嗜好であるオートガイネフィリアは含まれない[18]。また、トランスジェンダーという用語は、クロスドレッサー(異性装もしくは女装)やドラァグクイーンとは異なるものである[19]

トランスジェンダーの人の中にはジェンダー・ディスフォリア(性別違和)を感じる人も多く、違和を解消するためにホルモン補充療法や、性別適合手術心理療法などの医学的な措置を用いる場合がある[20]。このような措置を望まない、もしくは必要としない人もいれば、金銭的、医学的、制度的な理由で選択できない場合もある[20][21]。医学的処置のうち、身体的な性別移行(トランジション)を希望した人のなかには、トランスセクシュアルという呼称を希望する人もいるが[22][23]、近年はトランジションの有無にかかわらずトランスジェンダーという呼称を希望する人が多い[24]

一般的に、ジェンダー表現はその人物の性同一性と関係していることも多いが、必ずそうであるわけではない[25][26]。特定のジェンダーを連想される、もしくは特定の性役割にならった外見、行動や態度は、必ずしもそれと一致した性同一性を持つことを意味するわけではない。

トランスジェンダーであることは、その人のセクシュアリティ(性的指向)とは独立した概念である[27][28]。すなわち、異性愛同性愛バイセクシュアルアセクシュアルなどを含む多様なセクシュアリティを持つトランスジェンダーの人がいる。また、性的指向であるLGBに恩恵をもたらす制度は必ずしもトランスジェンダーにとっても恩恵をもたらすとは限らない[27]

トランスジェンダーに対して、出生時に割り当てられた性別と性同一性が一致している人(トランスジェンダーではない人)のことをシスジェンダーと形容する[29]

歴史編集

古代編集

現在の「トランスジェンダー」という言葉が意味している「出生時に身体で割り振られた性が自身の性同一性またはジェンダー表現と異なる人々」は新しく現れたものではなく、「トランスジェンダー」という言葉が生まれてもいない頃、太古の人類の歴史から出生時の生物学的性別とは異なる性別で生きてきた人は存在したと推察されており、それを示唆する考古学的証拠は世界各地でいくつも発見されている[30][31][32]

最も初期のものだと、紀元前5000年~3000年頃、シュメール神話の女神イナンナに仕えた司祭であるガラ英語版が挙げられる[33]

また、世界中の多くの民族の間で、男女二元論に当てはまらないさまざまな性別が存在しており、先住民の中には今もその文化を継承しているものもいる[32]

性器や生殖能力に基づいて男性と女性の2つに区分されるという現在に普及している規範的考えは現代的な西洋価値観に基づいて広まったものとされるが、実際は人類は歴史のほとんどでさまざまな文化の中で男性性と女性性の流動的な概念を持って生きてきた[34]。こうした事実の発見が遅れた理由として、考古学者は、性別二元論に適合しない人が大昔にいるという証拠に定期的に出くわしても、「異常」または「曖昧」とみなして認識してこなかったことが指摘されている[34]

1800年代編集

 
フレデリック・パーク(右)とアーネスト・ボールトン(左):2人はファニーとステラという名でも知られる(1869年)

性同一性と性的指向の現代的な概念はまだ存在しておらず、混在するように扱われた。例えば、性科学の専門家で人権社会運動家でもあるカール・ハインリッヒ・ウルリッヒス英語版は、男性の精神を持っていて性的魅力を女性に感じる女性の身体の人を「Urningin」、女性の精神を持っていて性的魅力を男性に感じる男性の身体の人を「Urning」と呼ぶことを提唱した[35][36]

出生時の性別どおりの規範的な振る舞いをしないこと(同性愛や異性装を含む)は「ソドミー」と呼ばれ、1800年代ではアメリカの多くの地域ではソドミーが違法であり、異性装をしたことで逮捕された人々が大勢いた。著名な例として、アーネスト・ボールトンとフレデリック・パーク英語版[37]ジョゼフ・ロブデル英語版[38]などが挙げられる。

1900年代編集

性同一性と性的指向の現代的な概念が作られて明確に区別されるようになり始め、現在の「トランスジェンダー」という言葉が少しずつ構築されていったのが1900年代である。

1910年に「Transvestite(トランスヴェスタイト)」という単語が作られ、1949年には「Transsexual(トランスセクシュアル)」という単語が生まれ、1971年に「Transgender(トランスジェンダー)」という単語が出現した[30]

用語編集

 
2005年10月1日にパリで行われたトランスジェンダーのためのデモ
 
2005年10月1日にパリで行われたデモに参加したトランスジェンダーのカミーユ・カブラルパリ第17区・区議会議員
 
パリのゲイ・パレードに参加したNGOPASTTパフォーマンス2005年6月25日
 
パリのゲイ・パレードに参加したトランスジェンダーのアクティヴィストのチーム、2005年6月25日

非西欧社会での非伝統的な性同一性については、第三の性の節を参照のこと。

医療概念としてのトランスセクシュアル(現在の日本において性転換症と称されるものに相当)の当事者が、自らのジェンダー・アイデンティティ(性同一性)のあり方が精神疾患であるとの差別的ラベリングを忌避するために、1980年代末よりその当事者が自称として用い始めた用語である(アメリカのクロスドレッサーヴァージニア・プリンス英語版による造語とされることがあるが、それは不正確である。彼女はこの言葉の普及に大きく貢献したが、提唱者ではない)。

トランスヴェスタイトとトランスセクシュアル編集

モントリオール宣言以降、欧州連合国際連合人権問題を扱う公文書においては、ホルモン療法や手術療法を要するトランスセクシュアル(性別移行、ICD-10のF64.0en:transsexualismに相当)と、そうした治療を要しない性同一性による恒久的あるいは一時的異性装ICD-10のF64.1en:dual-role transvestismに相当)を総称して「トランスジェンダー」と称している。しかしこれらの国際機関は性別適合手術の保険適応の必要性が一連の公文書に記されていることからも、手術療法や法的性別変更を要するトランスセクシュアルと、性同一性に由来する異性装者(トランスヴェスタイトまたはクロスドレッサー)らを「トランスジェンダー」という言葉によって混同していない。

トランスセクシュアルの問題は単独では当事者の数が極めて少なく(マイノリティの中のマイノリティ)、不当な汚名を着せられ迫害を受けてきたにも拘らず人権問題として公式に取り上げにくかったため、同じような境遇にある異性装者も包括して国際的な公的機関でその人権救済が問題とされる必要性から「トランスジェンダー」という表現が用いられるようになった[要出典]LGBTという一見同性愛とトランスジェンダーを混同しているような印象を与える表現が公的に用いられるようになったのも同じ理由である[要出典]

概念の変化編集

トランスジェンダーのヘイトクライムに関する短いウェールズ政府のビデオ。CCボタンから日本語字幕を追加できます。

以前は、以下のように体の性別移行の一過程のみを説明する言葉であった。

  • 性同一性と割当てられた性別の不一致に悩んでいる状態
  • TV(=トランスヴェスタイト。異性の服装を身につけることによって性別の違和感を緩和している状態)
  • TG(=トランスジェンダー。性ホルモン剤の投与で体つきを性同一性の性別に近づけ異性装等を行う状態)
  • TS(トランスセクシュアルホルモン投与による体の変化でも悩みの解決がなされず、外科的手術により性器の外観を性同一性の性器に近づけ性同一性の性別で生活する状態)

今日では外科手術(=性別適合手術)まで望まない性別移行(性同一性障害)当事者の存在や、日本国の性別移行(性同一性障害)当事者に対する医療のインフラ整備が遅れていること等のため、このプロセス通り進まない人も大勢存在し、割り当てられた性別と異なる性同一性で生活をする場合、この人達全般を指してトランスジェンダーと呼称するに至っている。

しかしながら北欧諸国においては「トランスジェンダー」という表現は、異性装者を意味する外来語としてトランスセクシュアルを含まず否定的な意味を伴うので、スウェーデンノルウェーにおいては代わりに「トランスペルソン」(スウェーデン語ではsv:Transperson格式な法律用語としては「könsöverskridande」、ノルウェー語ではno:Transperson)という表現が用いられる。なおフィンランド語にはトランスセクシュアルと異性装を包括する概念がなくTranssexualismのフィンランド語形である「fi:Transsukupuolisuus」という表現が用いられるので注意が必要である。

ノンバイナリー(Xジェンダー)編集

トランスジェンダーの中で、性自認が男女のいずれでもない性となる者を「ノンバイナリーXジェンダー」という[39]。「Xジェンダー」は主に日本で使われる用語で、英語圏における「ノンバイナリー」とほぼ同様の意味である[40]。また、社会における男女二元論的な規範とは異なるかたちで自分を認識したり、表現したりする人の総称として「ジェンダー・ノンコンフォーミング英語版」という言葉もある[41]

これに当てはまるのは主に「両性」や「無性」や「中性」の性同一性を持つ者である。その様相は多様であり、その中には同一視する性別が変わる者や、心の部分部分で違う性に同一化する者等がいる。個人差はあるが、自分の心が男女どちらか判らず混乱を覚えたり、男女どちらかの性であることを強要される環境に対し、拠り所の無さや違和感や苦痛を覚える。ただし「Xジェンダー」のこの様相は、記憶のあるスイッチング(人格変換)を有する非典型例の解離性同一性障害の症状とも酷似しており、入れ替わる異性の心は乖離した人格であった報告例もあるため、一概に性同一性障害であると思いこむのは早計である[要出典]

これらXジェンダー者の場合、(性同一性障害当事者は男性女性のどちらかに同一性を持つと考えられがちで)医療的な性同一性障害の診断基準には適合しないとされることがあるが、実際の診療の場では、DSM5の「性別違和」の診断基準においてオールタナティブな性別のあり方を記載しているため、精神科に行けば中性や無性等もまた精神科疾患の範疇内に入る。

また、「トランス」という接頭辞が、「世間においての、「男性」「女性」という二元論的性別観を前提に一方の性別から他方の性別への完全な移行」を表すニュアンスをもつことから、例えば「Xジェンダー」のような独自の性別をもつ者や、社会的制度としてのジェンダー自体を否定する者は、ジェンダーベンダーgender bender、性別をねじ曲げる人)、ジェンダーブレンダーgender blender、性別を混合する人)、ジェンダークィアgenderqueer、既存の性別の枠組みにあてはまらない、または流動的な人)と名乗る場合もある。

第三の性編集

非西洋文化圏の一部でノンバイナリー(Xジェンダー)に近い人々が伝統的に第三の性として認知されていた。例を挙げると、ナバホ族のナドゥル、南アジアヒジュラードミニカ共和国のゲイヴドーシェあるいはマチィ・エムブラ、ザンビアのクウォル・アトゥムオル、フィリピンセブ州のバヨットあるいはラキン・オン、インドネシアのワリア、タヒチのマフ、フィリピンのバクラやバベイラン、インドネシアのバンシ、タイのカトゥーイあるいはサオプラペーッソン、ミャンマーのアコルト、マレーのアクニュアー、オマーンのハンニース、トルコのコチェック、セネガルのゴールディグーナ、モロッコのハッサスなどがある[42]

 
1908年5月16日に撮られたオスマン帝国の統治下のアルバニアの宣誓処女

アルバニアコソボ共和国モンテネグロなどバルカン半島には、女性が長老に宣誓した当日から死ぬまでずっと男性として生活する宣誓処女という、ローマカトリックやイスラム教の団体も受け入れている文化がある。宣誓処女になることを希望した女性は、長老の前で誓いを立て、短髪にして男性服を纏い、煙草を吸いながら身のこなし男性らしく見えるようになるまで練習をする。誓いを立てた後に男性名に改名する者も多く、誓い通り残りの人生を未婚で生きる[43][44]

旗・シンボル編集

LGBTの旗・シンボルとして、虹色の旗が知られるが、トランスジェンダーの旗として、「トランスジェンダー・プライド・フラッグ(Transgender Pride Flag)」が知られている[45]

 
トランスジェンダー・プライド・フラッグ

トランスジェンダー・プライド・フラッグは、アメリカのトランス女性モニカ・ヘルムズ英語版によって1999年に創られ、2000年に米国アリゾナ州フェニックスのプライドパレードで初めて発表された[46][47]

この旗は、トランスジェンダーコミュニティを表し、中央に5つの水平ストライプ(ライトブルー2つ、ピンク2つ、ホワイト1つ)から構成されている。

ヘルムズはトランスジェンダー・プライド・フラッグの意味を次のように記述している[48][49]

「上下の水平ストライプは、男の赤ちゃんの伝統的な色のライトブルーで、その隣のストライプは女の赤ちゃんの伝統的な色のピンク。中間のストライプは白で、間性、移行中、または中立的や未定義の性別を持っていると考えている人のためのものです。あなたがこの旗をどのように掲げても、それは常に正しいものであり、私たちの生活の中で正確さを見出すことを意味しています」

英国では、ブライトン・アンド・ホヴ評議会が、トランスジェンダー追悼の日にこの旗を掲揚している[50]ロンドン交通局はまた、2016年トランスジェンダー認知週間に、ロンドン地下鉄ブロードウェイ55番地英語版本部から旗を掲揚した。

2012年11月19日と20日に初めて、サンフランシスコのカストロ地区の大きな公共旗掲揚台(通常はレインボー・フラッグが掲揚される)から掲げられた[48][51][52]。トランスジェンダー追悼の日を記念したもので、旗を掲げる式典は地元のドラァグクイーンLa Monistatによって主宰された[52][53]

2014年8月19日、モニカ・ヘルムズはトランスジェンダー・プライド・フラッグ(現物)をスミソニアン国立アメリカ歴史博物館に寄贈した[54]

2016年、サンタクララ郡はトランスジェンダー・プライド・フラッグを掲げる、米国で最初の郡政府になった[55]

誤解・偏見・差別編集

トランスジェンダー当事者が現在使用していない名前を本人の同意なく使用することは「デッドネーミング」と呼ばれ、差別にあたるので注意が必要である[8]

子どもの年齢で性別移行を始める人もいるが「性別移行したことを後悔している子どもが多い」という主張も一部で広まっている[56]。しかし、イギリスのNHS(国民保健サービス)の報告書によれば、NHSを使って性別移行をした3398人に調査したところ、性別移行を後悔していたのは0.47%との結果がでており、性別移行を後悔している子どもが多いことを裏付けるようなデータはない[56]

近年では女性専用空間にトランス女性が立ち入ることについての是非が争点となり、特に一部のフェミニストや宗教団体の間で議論が起き、女性が性犯罪などの危険に晒されると主張している者もいる[57][58][59][60]。その議論の中、まるでトランスジェンダーを性犯罪者のように扱う言説がSNSなどで目立ち、事実に基づかない主張で不安を煽り、トランスジェンダー当事者を苦しめている状況がある[8]。アメリカでは、トランスジェンダー当事者の人のうち約7割がトイレのアクセスを拒否されたり、トイレで嫌がらせを受けたり、何らかの形の身体的暴行を経験したりしたという調査結果も報告されている[60]カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究によれば、トランスジェンダーの人々に性同一性に合ったトイレなどの公共施設を使用させることで一般の安全上のリスクが高まるという証拠は確認されていない[61]。すでに長年にわたって性同一性に基づく差別を禁止してきた地域がいくつもあるが、それらの地域で女性専用空間に侵入する性犯罪者が増加したという報告はなく、Equality Federation 英語版のレベッカ・アイザックスは、トランス女性の立ち入りを認めることは危険であると流布する一連の主張は「燻製ニシンの虚偽」であると語っている[62]。一部の危険主張派の人々は、男性の性犯罪者が自分はトランスジェンダーであると嘘をついて罪を逃れようとする可能性を心配するが、その人の性同一性がなんであれ、性犯罪行為をした時点で性犯罪者であることには変わりなく、犯罪を誤魔化す有効な手段にはならないとヒューマン・ライツ・キャンペーン 英語版は述べている[62]

トランスジェンダーのアスリートのスポーツ大会への参加はしばしば論争のまとになってきた。一部の人はトランスジェンダーの参加はスポーツ競技に不公平を招くと懸念の声をあげ、地域によってはトランスジェンダーのアスリートを競技から締め出す動きもある[63]。とくにトランスジェンダーのアスリートがスポーツ大会で好成績をおさめると批判的な注目が高まりやすいが、一方でトランスジェンダーであれシスジェンダーであれスポーツ選手が競技で記録的な実績をだすことは別に珍しいことではなく、トランスジェンダー特有の異常な出来事であることを示すデータはない[64]アメリカ心理学会のような研究者組織やアメリカ自由人権協会のような人権団体も、トランスジェンダーのアスリートが自分の性同一性に合ったチームでプレイすることが、スポーツや競技の公平性に影響を与えるという主張を裏付ける証拠はないとしている[65]

脚注編集

  1. ^ トランスジェンダーとトランスセクシャルって何が違うの?” (日本語). ハフポスト (2015年12月4日). 2022年1月18日閲覧。
  2. ^ 西野明樹 2018, p. 36-37.
  3. ^ Altilio, Terry; Otis-Green, Shirley (2011). Oxford Textbook of Palliative Social Work. Oxford University Press. p. 380. ISBN 978-0199838271. オリジナルのDecember 1, 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161201182734/https://books.google.com/books?id=XS3XJL_RGIgC&pg=PA380 2016年4月12日閲覧. "Transgender is an umbrella term for people whose gender identity and/or gender expression differs from the sex they were assigned at birth (Gay and Lesbian Alliance Against Defamation [GLAAD], 2007)." 
  4. ^ Forsyth, Craig J.; Copes, Heith (2014). Encyclopedia of Social Deviance. Sage Publications. p. 740. ISBN 978-1483364698. オリジナルのDecember 1, 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161201105833/https://books.google.com/books?id=NAjmBQAAQBAJ&pg=PA740 2016年4月12日閲覧. "Transgender is an umbrella term for people whose gender identities, gender expressions, and/or behaviors are different from those culturally associated with the sex to which they were assigned at birth." 
  5. ^ Berg-Weger, Marla (2016). Social Work and Social Welfare: An Invitation. Routledge. p. 229. ISBN 978-1317592020. オリジナルのDecember 1, 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161201170448/https://books.google.com/books?id=Fx7NCwAAQBAJ&pg=PA229 2016年4月12日閲覧. "Transgender: An umbrella term that describes people whose gender identity or gender expression differs from expectations associated with the sex assigned to them at birth." 
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  9. ^ German Lopez (2015年2月18日). “Why you should always use "transgender" instead of "transgendered"”. Vox. 2020年7月3日閲覧。
  10. ^ G. Balend (2019年11月1日). “Transgender is an Adjective”. Medium. 2020年7月3日閲覧。
  11. ^ 性同一性障害30人のカミングアウト:p4,針間克己, 相馬佐江子 · 2004年
  12. ^ Forsyth, Craig J.; Copes, Heith (2014). Encyclopedia of Social Deviance. Sage Publications. p. 740. ISBN 978-1483364698. オリジナルのDecember 1, 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161201105833/https://books.google.com/books?id=NAjmBQAAQBAJ&pg=PA740 2016年4月12日閲覧. "Transgender is an umbrella term for people whose gender identities, gender expressions, and/or behaviors are different from those culturally associated with the sex to which they were assigned at birth." 
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  14. ^ Bilodeau, Brent (2005). “Beyond the Gender Binary: A Case Study of Two Transgender Students at a Midwestern Research University”. Journal of Gay & Lesbian Issues in Education 3 (1): 29–44. doi:10.1300/J367v03n01_05.  "Yet Jordan and Nick represent a segment of transgender communities that have largely been overlooked in transgender and student development research – individuals who express a non-binary construction of gender[.]"
  15. ^ Susan Stryker, Stephen Whittle, The Transgender Studies Reader (1-135-39884-4), page 666: "The authors note that, increasingly, in social science literature, the term "third gender" is being replaced by or conflated with the newer term "transgender."
  16. ^ Joan C. Chrisler, Donald R. McCreary, Handbook of Gender Research in Psychology, volume 1 (2010, 1-4419-1465-X), page 486: "Transgender is a broad term characterized by a challenge of traditional gender roles and gender identity[. ...] For example, some cultures classify transgender individuals as a third gender, thereby treating this phenomenon as normative."
  17. ^ https://www.chuo-u.ac.jp/usr/kairou/programs/2006/2006_05/
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  23. ^ R Polly, J Nicole, Understanding the transsexual patient: culturally sensitive care in emergency nursing practice, in the Advanced Emergency Nursing Journal (2011): "The use of terminology by transsexual individuals to self-identify varies. As aforementioned, many transsexual individuals prefer the term transgender, or simply trans, as it is more inclusive and carries fewer stigmas. There are some transsexual individuals [,] however, who reject the term transgender; these individuals view transsexualism as a treatable congenital condition. Following medical and/or surgical transition, they live within the binary as either a man or a woman and may not disclose their transition history."
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参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集