カボチャ
カボチャ(南瓜[注 1]、唐茄子[注 2]、英: pumpkin、米: squash)とは、ウリ科カボチャ属に属する果菜の総称である。原産は南北アメリカ大陸だが、主要生産地は中国、インド、ウクライナ、アフリカである。果実を食用とし、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類を多く含む緑黄色野菜に分類される。
カボチャ | |||||||||||||||||||||||||||
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![]() ペポカボチャとセイヨウカボチャ
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分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||||||||
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シノニム | |||||||||||||||||||||||||||
名称編集
日本語における呼称は、この果菜が国外から渡来したことに関連するものが多い。
一般にはポルトガル語由来であるとされ、通説として「カンボジア」を意味する Camboja (カンボジャ)の転訛であるとされる[注 3]。方言では「ぼうぶら」「ボーボラ」などの名を用いる地方もあり、これはやはりポルトガル語で、「カボチャ」や「ウリ類」を意味する abóbora (アボボラ)に由来するとされる。ほかに「唐茄子(とうなす)」「南京(なんきん)」などの名もある。 漢字表記「南瓜」は中国語: 南瓜 (ナングァ; nánguā)によるもの。
英名は pumpkin (パンプキン)であると理解されている場合が少なくないが、実際には、少なくとも北米では、果皮がオレンジ色の種類のみが pumpkin であり、その他のカボチャ類は全て squash (スクウォッシュ)と総称される[注 4]。したがって日本のカボチャは、kabocha squash (カボチャ・スクウォッシュ)などと呼ばれている。
植物学編集
葉は大きく突起を持ち、斑模様や裂片をつける。花色は黄色や橙色である。単性花であるため人工授粉が施されることが多い。
栽培編集
栽培されているのは、C. argyrosperma(ニホンパイカボチャ)、クロダネカボチャ、セイヨウカボチャ、ニホンカボチャ、ペポカボチャの5種とそれらの雑種である[2]。
- クロダネカボチャ C. ficifolia
- アメリカ大陸原産。強健な性質を利用して、キュウリなどの接ぎ木の台にすることも多い。
- セイヨウカボチャ C. maxima
- アンデス山脈高地の冷涼な土地で栽培化された種で、現在日本で広く栽培されているカボチャである。花梗はスポンジ状で膨れており、畝は無い。果肉は粉質で食感はホクホクとして甘みは強く、栗かぼちゃとも呼ばれる。「えびす」などの品種や打木赤皮甘栗かぼちゃ、宿儺かぼちゃがこれに含まれる。
- ニホンカボチャ C. moschata
- メソアメリカの熱帯地方で栽培化された種である。日向や小菊などの品種を始め、鹿ケ谷かぼちゃや春日ぼうぶらのような伝統野菜、バターナッツ・スクワッシュや鶴首かぼちゃなどがこれに含まれる。セイヨウカボチャより淡白で煮崩れしにくい。
- 種間雑種カボチャ C. mixta
- セイヨウカボチャとニホンカボチャを交配したカボチャ。強健で病気に強いのが特徴。栗かぼちゃの食味が好まれるようになった現代では廃れていった。ただし、新土佐(別名:鉄兜)は今でも種が販売され、食用や、強健な性質を利用してキュウリなどの接ぎ木の台に利用される。この新土佐とセイヨウカボチャをさらに交配した万次郎かぼちゃというのもある。
- ペポカボチャ C. pepo
- 北米南部の乾燥地帯で栽培化された種で、ドングリカボチャ、金糸瓜(そうめんかぼちゃ)などがこれに含まれる。果実の形や食味に風変わりなものが多い。ハロウィンで使われるオレンジ色のカボチャはこのペポ種である。なお、ズッキーニも同種である。
栽培は日本では春に播種し夏から秋にかけて果実を収穫する。野菜の中でも特に強健で、こぼれ種から発芽することもある。栽培法はいたって簡単で、無農薬栽培も可能。播種・植えつけ後は放置してもよい。ただし、都会などで花粉の媒介を行う昆虫がいない場合は人工授粉しなければならない場合がある。人工授粉は午前9時までに行う。また垣根に這わせたり、日よけ代わりに使うこともできる。施肥では窒素分過多の場合、つるぼけを起こすことがあり、結実や果実肥大しにくくなる。1a(100平方メートル)で127kgほど収穫することができる。[3]陽性植物に分類されており、1日6時間以上の直射日光の当たる場所を好み、日陰での栽培ではウドンコ病などが悪化しやすくなる。また、果実にエネルギーを奪われる果実肥大期や成熟期にもウドンコ病などが酷くなりやすい。
栽培史編集
カボチャはメソアメリカで栽培化された。ヒトがカボチャを栽培した歴史は古く、1997年には、栽培化が従来の推定よりも数千年早い、8000年から10,000年前に起きたことを示す新しい証拠が出された[4]。メソアメリカにおける他の主要な食用植物群であるトウモロコシと豆の栽培化よりも、約4000年早かったということになる[5]。21世紀の遺伝子解析による考古学的な植物調査では、北米東部の民族が各々にカボチャ、ヒマワリ、アカザを栽培化したことが示唆されている[6]。
日本への渡来については諸説あるが、ニホンカボチャは天文年間(1532年-1555年)に豊後国(現在の大分県)にポルトガル人がカンボジアから持ち込み、当時の豊後国の大名であった大友義鎮(宗麟)に献上したという説が有力である[7][8]。このカボチャは「宗麟かぼちゃ」と名づけられ大分県などで伝統的に栽培されている[9]。ペポ種は中国を経由して来たため唐茄子とも呼ばれる。
利用編集
食材編集
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 205 kJ (49 kcal) |
10.9 g | |
食物繊維 | 2.8 g |
0.1 g | |
飽和脂肪酸 | 0.01 g |
多価不飽和 | 0.03 g |
1.6 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(8%) 60 µg(6%) 700 µg |
チアミン (B1) |
(6%) 0.07 mg |
リボフラビン (B2) |
(5%) 0.06 mg |
ナイアシン (B3) |
(4%) 0.6 mg |
パントテン酸 (B5) |
(10%) 0.50 mg |
ビタミンB6 |
(9%) 0.12 mg |
葉酸 (B9) |
(20%) 80 µg |
ビタミンC |
(19%) 16 mg |
ビタミンE |
(12%) 1.8 mg |
ビタミンK |
(25%) 26 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 1 mg |
カリウム |
(9%) 400 mg |
カルシウム |
(2%) 20 mg |
マグネシウム |
(4%) 15 mg |
リン |
(6%) 42 mg |
鉄分 |
(4%) 0.5 mg |
亜鉛 |
(3%) 0.3 mg |
銅 |
(4%) 0.08 mg |
マンガン |
(5%) 0.10 mg |
他の成分 | |
水分 | 86.7 g |
水溶性食物繊維 | 0.7 g |
不溶性食物繊維 | 2.1 g |
ビオチン(B7) | 1.7 µg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[11]。別名: とうなす、ぼうぶら、なんきん 廃棄部位: わた、種子及び両端 | |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
カボチャはビタミンAを豊富に含む。皮は硬いものの、長時間煮ることで柔らかくして食べることもできる。サツマイモと同様に、カボチャにもデンプンを糖に分解する酵素が含まれているため、貯蔵によって、あるいは、低温でゆっくり加熱することによって甘味が増す。したがって、収穫直後よりも収穫後、約1か月頃が糖化のピークで食べ頃となる。保存性に優れ、常温で数ヵ月の保存が可能な数少ない野菜ではあるものの、保存がきくのは切っていない場合で、切って果肉が空気に触れると数日で腐ってしまう。また、切っていなくても、湿度の高い環境では表面の微細な傷が元で、外皮から腐る場合もある。
甘みの強い品種は菓子作りにも向いており、パンプキンパイやかぼちゃパン、南アメリカのフランや、タイの「サンカヤー・ファクトン」などのプリンなどに加工される。
フランスではスープの材料として使われることが一般だが、南部ではパイやパンに料理される。アルゼンチンでは中をくりぬいたカボチャにシチューを入れる。
種子(パンプキンシード)も食品として流通しており、ナッツとして扱われる。パンや洋菓子のトッピングとして用いられることが多い。メキシコにはカボチャの種子をすりつぶしたソースで肉や野菜を煮込んだ、ピピアン (pipián) と言う伝統料理がある。また、種子から食用油(パンプキンシードオイル)が取れる。
アメリカ合衆国ではシナモンやクローブなど、パンプキンパイに用いる香辛料とカボチャを使って醸造したビールが生産されている。日本では北海道での生産量が多い。アイヌの人々もカボチャを栽培しており、北海道での栽培の歴史は古い[12]。
同じウリ科のキュウリのように、未熟果を利用する品種もある。代表的なものにズッキーニ(ペポカボチャ系)やエホバク(ニホンカボチャ系)がある。
生薬編集
乾燥した種子は南瓜仁(ナンカニンまたはナンガニン)という生薬で条虫、回虫駆除に用いられる。
飼料編集
この節の加筆が望まれています。 (2015年11月) |
牛や豚の飼料として米国などで使われる。
大型品種のアトランティックジャイアントはペポカボチャ系で、ハロウィンにくりぬいてお化けの顔を作るのにも使われる。
生産編集
- 日本
- 日本国外
- このうちトンガでは、元々カボチャの栽培は行われていなかったが、気候がかぼちゃの生育に最適であることと、日本でカボチャの需要が多いにもかかわらず収穫の出来ない12月頃に収穫期を迎えることに目を付けた日本の商社が、1990年代にカボチャ栽培を持ち込んだ。その後、カボチャはトンガにとって、
日本や大韓民国向けの主要輸出品目になり、栽培が推進されていった[16]。 2010年に日本がトンガから輸入した産品の金額は7114万円だったが、そのうちの77.2%%カボチャが占めていた[17]とする文献もあるが、公的な資料である財務省の貿易統計によると2010年のトンガからの輸入額の総額は、6926万1千円でこのうちがぼちゃが5495万2千円で79.3%であった。なお2020年には、総額3930万5千円、うちかぼちゃは478万4千円で12.0%と金額、比率とも大幅に減少している。
日本における収穫量上位10都道府県(2016年)[18]
収穫量順位 | 都道府県 | 収穫量(t) | 作付面積(ha) |
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1 | 北海道 | 82,900 | 7,400 |
2 | 鹿児島 | 9,130 | 838 |
3 | 茨城 | 8,090 | 493 |
4 | 長野 | 6,430 | 506 |
5 | 宮崎 | 5,150 | 221 |
6 | 長崎 | 4,950 | 526 |
7 | 千葉 | 4,600 | 250 |
8 | 沖縄 | 3,600 | 441 |
9 | 神奈川 | 3,480 | 216 |
10 | 山形 | 2,900 | 297 |
― | 日本計 | 185,300 | 16,000 |
世界のカボチャ類(pumpkins, squash and gourds)の収穫量上位10か国(2012年)[19]
収穫量順位 | 国 | 収穫量(t) | 作付面積(ha) |
---|---|---|---|
1 | 中華人民共和国 | 7,000,000 | 380,000 |
2 | インド | 4,900,000 | 510,000 |
3 | ロシア | 1,080,845 | 53,400 |
4 | イラン | 965,000 | 60,000 |
5 | アメリカ合衆国 | 900,880 | 36,980 |
6 | ウクライナ | 587,800 | 26,000 |
7 | メキシコ | 564,986 | 34,001 |
8 | エジプト | 559,606 | 30,906 |
9 | イタリア | 520,000 | 19,000 |
10 | スペイン | 502,600 | 10,000 |
― | 世界計 | 24,616,114.6 | 1,788,773 |
日本の収穫量は23位で212,000 t、作付面積は18位で18,200 haである[19]。
文化編集
- 日本には冬至にカボチャを食べる風習が全国各地に残る[20][21][22]。ただし、この風習は江戸時代の記録に無く、明治時代以降の風習とされる[21]。
- 日本では女性の好きなものとして、江戸時代から「芝居・コンニャク・イモ・タコ・南瓜(なんきん)」の名が決まり文句として挙げられていた(落語『親子茶屋』など)。
- カボチャと小豆とうどんを一緒に煮て味をつけた料理に小豆ほうとうがあり、山梨県・長野県の一部で郷土食として食されている。
- アメリカなどではハロウィンが近づくと橙色のカボチャの中身をくり抜いて目鼻などをつけた観賞用のちょうちん(ジャック・オー・ランタン)を作り、中にロウソクを立てて戸口に飾る。昔はハロウィンが終わるとジャック・オー・ランタンでよくパンプキンパイを作っていたが、現在のジャック・オー・ランタン用のパンプキンの品種は観賞用に選抜されているため味があまり良くなく、腐るまで放置されることが多い。
- ハロウィンの夜に「トリック・オア・トリート」(いたずらかお菓子か)に繰り出したティーンエイジャーが他人の家のジャック・オー・ランタンを持ち去って打ち壊すのは割りとよくあるいたずらである。オルタナティブ・ロックのバンド「スマッシング・パンプキンズ」のバンド名はここから来ている。
- ブラジルでは、頭の大きい人をカボチャと呼ぶことがある。
- 朝鮮語では、容貌に優れない女性を俗に「ホバク」(カボチャの意)と呼ぶ。日本語でも、不細工な人をからかう言葉に「南瓜に目鼻」がある。
脚注編集
注釈編集
- ^ この字は一般に「カボチャ」という熟字訓が与えられるが「ナンキン」と読むこともある。またこの字を「ボウブラ」と読むことがあるがこれはポルトガル語でカボチャを意味する「アボボラ」に由来する。このほか「トウナス」と読むこともある。[要検証 ]
- ^ 「トウナス」と読むのが一般的だが「カボチャ」という熟字訓を与えることがある。[要検証 ]
- ^ なお、“ポルトガル語 Cambodia abóbora に由来する”といった説が少なくともネット上においては相当広まっているが、この表現はポルトガル語としては何重にもおかしく、何かの勘違いが事故的に広まってしまったものと思われる。「カンボジアの瓜」をポルトガル語で言うなら、abóbora de Camboja / abóbora da Camboja か、もしくは abóbora cambojana であろう。
- ^ オーストラリアなど他の英語圏ではこの限りではない。
出典編集
- ^ “Cucurbita L.”. Tropicos, Missouri Botanical Garden. 2016年12月30日閲覧。
- ^ (英語)Nee, Michael (1990). “The Domestication of Cucurbita (Cucurbitaceae)”. Economic Botany (New York: New York Botanical Gardens Press) 44 (3, Supplement: New Perspectives on the Origin and Evolution of New World Domesticated Plants): 56–68. JSTOR 4255271.
- ^ “カボチャ|基本の育て方と本格的な栽培のコツ | AGRI PICK”. 農業・ガーデニング・園芸・家庭菜園マガジン[AGRI PICK]. 2021年1月18日閲覧。
- ^ (英語)Roush, Wade (9 May 1997). “Archaeobiology: Squash Seeds Yield New View of Early American Farming”. Science (American Association For the Advancement of Science) 276 (5314): 894–895. doi:10.1126/science.276.5314.894 .
- ^ (英語)Smith, Bruce D. (9 May 1997). “The Initial Domestication of Cucurbita pepo in the Americas 10,000 Years Ago”. Science (Washington, DC) 276 (5314): 932-934. doi:10.1126/science.276.5314.932 .
- ^ (英語)Bruce D. Smith, "Eastern North America as an independent center of plant domestication", Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), Published online before print 7 August 2006, doi: 10.1073/pnas.0604335103 PNAS August 15, 2006; vol. 103, no. 33, pp.12223-12228, doi:10.1073/pnas.0604335103
- ^ “カボチャの伝来と大分県との関わりについて”. レファレンス協同データベース. 国立国会図書館. 2018年12月7日閲覧。
- ^ “大友宗麟とカボチャ渡来について知りたい。”. 大分県立図書館. 大分県立図書館. 2018年12月7日閲覧。
- ^ “いわき昔野菜図譜 其の参 かぼちゃ (PDF)”. いわき市. 2015年11月20日閲覧。
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ アイヌ民族の「食」 - ウェイバックマシン(2016年11月15日アーカイブ分)- アイヌ民族博物館
- ^ “和寒町 産業振興課 » 和寒町の農業について”. 和寒町産業振興課. 2014年11月7日閲覧。
- ^ 『中山かぼちゃ』 - コトバンク
- ^ 里川カボチャ - 常陸太田市 - ウェイバックマシン(2016年1月29日アーカイブ分)- GOOD FOOD IBARAKI
- ^ 二宮書店編集部 『Data Book of The WORLD (2012年版)』 p.464、p.465 二宮書店 2012年1月10日発行 ISBN 978-4-8176-0358-6
- ^ 二宮書店編集部 『Data Book of The WORLD (2012年版)』 p.465 二宮書店 2012年1月10日発行 ISBN 978-4-8176-0358-6
- ^ “作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 平成28年産野菜生産出荷統計 年次 2016年”. e-Stat. 政府統計の総合窓口. 2018年12月7日閲覧。
- ^ a b “FAOSTAT>DOWNLOAD DATA” (英語). FAOSTAT. FAO. 2014年11月7日閲覧。
- ^ 落合敏監修 『食べ物と健康おもしろ雑学』 p.88 梧桐書院 1991年
- ^ a b 新谷尚紀著『日本の「行事」と「食」のしきたり』青春出版社 p.74 2004年
- ^ 武光誠編著『日本のしきたり-開運の手引き』講談社 p.195 1994年
参考文献編集
- バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント編『世界の食用植物文化図鑑』(柊風舎) 196-197ページ, ISBN 978-4-903530-35-2