マルサの女
『マルサの女』(マルサのおんな)は、1987年公開の日本映画。
マルサの女 | |
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A Taxing Woman | |
監督 | 伊丹十三 |
脚本 | 伊丹十三 |
製作 |
玉置泰 細越省吾 |
出演者 |
宮本信子 津川雅彦 山崎努 小林桂樹 大地康雄 大滝秀治 室田日出男 桜金造 マッハ文朱 志水季里子 絵沢萠子 芦田伸介 伊東四朗 佐藤B作 橋爪功 小沢栄太郎 岡田茉莉子 |
音楽 | 本多俊之 |
撮影 | 前田米造 |
編集 | 鈴木晄 |
配給 | 東宝 |
公開 |
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上映時間 | 127分 |
製作国 |
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言語 | 日本語 |
配給収入 | 12億5000万円[1] |
次作 | マルサの女2 |
国税局査察部(通称マルサ) に勤務する女性査察官と脱税者との戦いを、コミカルかつシニカルに描いたドラマ。監督・脚本は伊丹十三。
第11回日本アカデミー賞(1988年)において最優秀作品賞、主演女優賞(宮本信子)、主演男優賞(山崎努)、助演男優賞(津川雅彦)、監督賞および脚本賞(伊丹十三)を受賞し、主要部門をほぼ独占した。
また、作品の成功を受けてカプコンがファミリーコンピュータ向けにゲーム化、翌年には続編の『マルサの女2』が製作された。
ストーリー編集
港町税務署のやり手調査官・板倉亮子は、管内のパチンコ店の所得隠しを発見したり、老夫婦の経営する食品スーパーの売上計上漏れを指摘するなど、地味な仕事を続けている。そんなある日、実業家・権藤英樹の経営するラブホテルに脱税のにおいを感じ、調査を行うが、強制調査権限のない税務署の業務の限界もあり、巧妙に仕組まれた権藤の脱税を暴くことができずにいた。
そんな中、亮子は強制調査権限を持つ東京国税局査察部の査察官(通称「マルサ」)に抜擢される。着任早々に功績を挙げ、やがて仲間からの信頼も得るようになった亮子。ある日、権藤に捨てられた愛人・剣持和江からマルサに密告の電話が入る。亮子は税務署員時代から目をつけていた権藤の調査を自ら進んで引き受ける。亮子の努力が実を結び、権藤に対する本格的な内偵調査が始まる事になった。暴力団・政治家・銀行が絡んだ大型脱税との戦いが始まった。
登場人物・キャスト編集
- 板倉亮子:宮本信子
- 港町税務署員からマルサに異動。仕事一筋でプロ意識が強く、激務である東京国税局査察部査察官への異動辞令をもらって狂喜乱舞する。彼女が査察官として初めて調査対象者の愛人に臨んだ時に貸金庫の鍵の隠し方を見抜いた。「ダイちゃん」という5歳の息子をもつシングルマザー。レストランで目が合った赤ちゃんに笑いかけたり、権藤の子育ての相談にのったりするなど、やさしい一面も見せる。トレードマークはおかっぱ頭に寝癖、そばかす。愛車はスズキ・マイティボーイ。
- 権藤英樹:山崎努
- 裏社会や政界と付き合いのあるラブホテルの経営者。歩行が不自由であり、普段は杖をついて歩いている。ラブホテルでは領収書をもらう客がなく、売り上げの除外が容易であることを利用し、巨額の脱税をしている。金儲けに執着する一方で、その財産を息子に残すことを夢見る良き父親であり、亮子と同様、人間味のある人物として描かれている。亮子とは敵対する立場にあるものの奇妙な友情が芽生える。
- 花村:津川雅彦
- マルサにおける亮子の直属の上司。熱血漢。査察部統括官。
- 伊集院:大地康雄
- マルサにおける亮子の同僚。その容貌から「マルサのジャック・ニコルソン」の異名[2]がある。強制調査の際、自動車整備工場で使う安全靴を履いていたおかげで、ドアチェーンの切断に成功する。久美の部屋に踏み込み、架空名義の預金口座用の印鑑を大量に見つけ出す。
- 金子:桜金造
- マルサにおける亮子の同僚。ホームレスになりきって、権藤のラブホテルの前で張り込み中に、警視庁の警察官に職務質問され、不審者として警察署に連行され、留置場に入れられてしまう。密行調査なので国税局の身分を明かせず、花村統括官がもらい下げに行き、ようやく釈放される。
- 姫田:麻生肇
- マルサにおける亮子の同僚。ガサ入れの際に権藤の取引先の銀行に乗り込む。
- 剣持和江:志水季里子
- 権藤の特殊関係人(愛人)。権藤に捨てられた事を根に持ち、マルサへ権藤の脱税を公衆電話から密告する。
- 鳥飼久美:松居一代
- 権藤の新しい特殊関係人(愛人)。権藤のラブホテルの売り上げ計算書を細かくちぎってゴミ収集車に出しす事での隠蔽や架空口座の印鑑を保管する事や銀行員との裏取引の場所の提供するなどで脱税の片棒を担ぐ。
- 石井重吉:室田日出男
- 権藤が経営するラブホテルの社長。権藤のブレーン。マルサがガサ入れに入った途端、証拠の書類の束を抱えて経理係と一緒に客室のベッドに身を潜めていた。
- 宝くじの男:ギリヤーク尼ヶ崎
- 資金洗浄屋。宝くじの当選金は非課税なので「脱税に使える」と持ち掛け、権藤に5000万円の当たりくじを手数料を上乗せした5500万円で売りつけようとする。
- 食料品店の夫婦:柳谷寛、杉山とく子
- 亮子に申告漏れを指摘され妻が逆ギレし、夫はそれをなだめる。
- リネンサービス社長:佐藤B作
- 権藤のラブホテルにシーツを卸している。取引先として亮子の調査を受け、あからさまに迷惑がる。
- 特殊関係人:絵沢萠子
- 亮子が査察官として初めて臨んだ調査対象者の愛人。貸金庫の鍵を服の中に隠したと査察官達に疑われ、キレて下着を脱ぎ捨て全裸になり、しまいには「女はここに隠すんだ!」とM字開脚になった挙句、花村が「そこは結構です!」と遠慮した後に、亮子に貸金庫の鍵の隠し方を見抜かれ泣きじゃくる。
- 権藤太郎:山下大介
- 権藤の一人息子。父とは正反対のおとなしい性格だったが、徐々に反抗的になる。しかし、内心では父を心配する。
- 大谷銀行営業課長 染谷:橋爪功
- 権藤の取引先の銀行員。調査に訪れた亮子に大量の書類を閲覧させ辟易させる。
- パチンコ店の社長:伊東四朗
- 亮子に脱税を指摘され、最後にはウソ泣きして調査を免れようとする。
- 税理士:小沢栄太郎
- パチンコ店の顧問税理士。社長から税務署の肩を持っていると難詰され、怒る。
- 露口:大滝秀治
- 港町税務署での亮子の上司。亮子がマルサに抜擢されたことを父親のように喜ぶ。
- 秋山:マッハ文朱
- 港町税務署員。亮子の後輩。
- 山田:加藤善博
- 港町税務署員。亮子の後輩。
- 税務署長:嵯峨善兵
- 港町税務署の署長。
- 蜷川喜八郎:芦田伸介
- 暴力団関東蜷川組の組長。亮子に税務調査に入られた事を根に持ち、税務署に押しかけてメガホン(ハンドマイク)を片手に大演説をぶつ。蜷川の横暴ぶりに頭にきた亮子に、警察に突き出す口実のため、塩が混入したコーヒーに怒ってコーヒーカップを壊させようと企てられた。
- 査察部管理課長:小林桂樹
- マルサにおける亮子の上司。査察当日に関係者に足止めをさせるため、電話上で偽りの商談を持ち掛ける一芝居をする。
- 杉野光子:岡田茉莉子
- 権藤の内縁の妻。貸金庫の鍵を管理している。
その他の登場人物・キャスト編集
スタッフ編集
作品解説編集
伊丹本人は、本作制作の動機について、『お葬式』などのヒットによる収益を「税金でごっそり持って行かれ、税金や脱税について興味が湧いたため」と語っている。
当初制作側は内容が内容だけに、国税庁の協力は期待していなかったが、実際は「どうせ作るなと言っても作ってしまうだろうから、それなら納税者に誤解を与えない様、正確な内容にして欲しい」と取材に協力的であったという。実際、査察部のガサ入れシーンでは、マルサOBが監修に協力している。
「○○の女」と銘打った作品は、後に4作作られる事になり、またそれとともに主演・宮本信子を、日本を代表する演技派女優へと転進させた点で、今作は伊丹映画の路線を決定付ける記念すべき作品となった。
配役編集
主演の宮本信子演じる板倉亮子は元・小石川税務署長の斉藤和子氏がモデル[4][5]。宮本信子に「雰囲気が似ている」との理由でモデルとなり、演技指導を行い役作りに協力した。
これまでの津川雅彦の役どころは、いわゆる「モテ系」の役どころが多かったが、本作では伊丹の卓越した着眼点から「中間管理職の中年」を配役され、見事に演じきった。津川本人も自分の新しい側面が引き出せたことに非常に満足し、日本アカデミー賞を始め、あらゆる映画賞を受賞した際には、伊丹への感謝の言葉を述べている。
当初、伊集院の役は川谷拓三がキャスティングされ、他のキャストやスタッフと共に税務署見学等を行ったが、終始不機嫌な態度でふるまう川谷に手を焼いたスタッフが伊丹に報告。伊丹は「このままじゃ映画自体が上手く行かなくなる」と言って川谷を降板させた[6]。
演出編集
メイキング本『マルサの女日記』によると、「あざとい演出だから」といった理由で、全編にわたってクローズ・アップ撮影(いわゆる顔面アップ)はほとんどない。
蜷川喜八郎役の芦田伸介は、当初はよりヤクザらしく顔にキズを入れるメイクを施す予定だったが、もともと、交通事故で作った大きいキズがあったため、そのキズを生かしたメイクにした。
宝くじの男のセリフは、ギリヤーク自身の声ではない。何度もギリヤークにセリフを言わせたものの、伊丹はまったく納得がいかず、別人物の声をアテレコで入れている[7]。
受賞歴編集
- 第5回ゴールデングロス賞優秀銀賞、マネーメイキング監督賞。
ソフト編集
DVDは、2005年2月に限定版の「伊丹十三コレクション たたかうオンナBOX」に組み込まれて、ジェネオンエンタテインメントから発売、追って2005年8月にメイキングDVD「マルサの女をマルサする」(周防正行演出)と同時に、単品でリリースされている。
ゲーム化編集
その他編集
脚注編集
外部リンク編集
- 伊丹映画「マルサの女」の“原作者”…神様死去(2006年9月11日付夕刊フジ 作品考証に協力した北島孝康・元東京国税局査察部査察管理課長の訃報)。
- Yahoo!映画「マルサの女」
- マルサの女 - allcinema
- マルサの女 - KINENOTE
- マルサの女 - オールムービー(英語)
- マルサの女 - インターネット・ムービー・データベース(英語)
- “伊丹十三記念館 伊丹十三という人物→監督としての略歴 映画『マルサの女』”. 公益財団法人ITM伊丹記念財団. 2017年7月27日閲覧。